ホロ=モダンエイジス - 真夏日、陽炎は揺らめき -   作:テラ・ぺた・エクサ

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31:とりま、絶交する話

 その再会も、それはそれは気まずかった。

 

 はあとが閉じ込められていたコンクリートの巨大な箱の中には小部屋が二つ。わざわざこうして急ごしらえの監禁場所がある以上は“必要だからこそ”作られたわけで、つまり、はあとがいた小部屋の隣の小部屋にも当然ながら人はいる。

「……そりゃ、アンタもいるよね」

「ま、まつりちゃん……?」

 以前、避難所の市民体育館でまつりと口喧嘩したまま喧嘩別れしたっきりのあの少女だ。ハアトと一緒に拉致された彼女もこの箱の中に押し込められていた。ハアトがもし部屋から脱出するのを諦めていなければ、すぐ隣の部屋にいた少女は無事では済まなかっただろう。あのとっさの判断は間違っていなかったのだとはあとは胸を撫で下ろす。まつりは彼女のそんな気遣いを知らなかったものの、はあとがこの部屋に閉じ込められたままだった理由が少女にあることもすぐに見抜いていた。まつりはすっかり思慮深くなったはあとをちょっと誇らしく思ったりしたが、もちろんそんなこと口には出さない。

 

 

 それはともかく。

「アンタのことは助けたげる。けどね、これは交換条件。当たり前だけど、これから先はまつりたちに関わるのも話しかけるのも禁止。まつりも話すつもりはないし、スバルにも連絡を徹底させて、『アンタのお友達』が関わってきたらその時点で報復させてもらう。いい?」

「……それだけ?」

 少女はそれだけ言うと鼻で笑って返した。そんな条件を出されたところで、こちらがそれを守らなければならない理由はどこにもない。ここで適当に嘘をついて、後々で裏切ることだってできるわけだ。甘い、それか間抜けとしか言いようがない、というのがここまでの少女の評価だった。

「何それ。もしかして、悪い感じかっこいいとか思ってるクチ? ……ダサいよ? まぁいいや。話戻すけど、もちろんそれだけじゃない。今後スバルに何かあった場合、ぜーんぶアンタがやったことだと思うことにする。風邪ひいてもアンタが毒か何か飲ませたんじゃないかって疑う。もちろん、関係ない病気でも、別の誰かが犯人でもね。というかスバルの性格でいじめにあうことなんて滅多にないだろうからそりゃ疑うじゃん? ま、嫌ならアンタとお友達ってのとでスバルの用心棒やってくれてもいいけど」

「うぇ、ヤだそんなの」

「あと忘れてるみたいだけど、これでもまつりはアンタの友達ずっと続けてきたんだよ? アンタの弱みも今までやってきたことも全部知ってる。アンタの彼氏も家庭事情も弟くんのことも。……これだけ言えばわかる?」

「っ、待っ……」

 まつりは冷ややかな視線を投げかけながら薄く笑った。『弟』と言ったときの少女のギョッとした顔がどことなく滑稽に見える。

「安心して。こっちは何もしない、“念の為”に言っとくだけだから。けどさ、人質取ろうとしたのはそっちが先じゃん? 今さら被害者ぶらないでね」

「…………」

「あ、ここ開けるからちょっと離れてて。アメちゃん、ピッキングお願い」

 まつりはそういって何もなかったかのように取引を終わらせ、いまや鍵開け要員となっているアメリアに場所を譲る。まつりは自分の今までになく冷静な思考にうすら寒さを覚えた。冷たいものを察知できるというよくわからない才能を身につけてからというもの、ずっと自分の中身が何から何まで作り替えられていくみたいなイヤな気分が頭を離れない。

「で、今まで言ってたのは“建前”のハナシ」

「はい、開いたわよ」

「ありがとアメちゃん」

 まつりは手短にそうアメリアに礼を言うと、鍵でガッチリ固定されていた鉄格子を押してみる。鉄格子は軋みもせず、予想していたよりも遥かにスムーズに通り道を空けた。そしてまつりは何事もなかったかのように話を続ける。

「……これでもさ、一応アンタには情は残ってるんだ。中学まではフツーの良い友達だったし。ホントなんで高校デビューなんてしちゃったんだか……ねぇ? だからアンタには元に戻って欲しいけど、でもそんなこと言うのって元友達としても出しゃばりすぎじゃん? だからこそアンタとはもう縁を切る。これ以上は絶対ケンカするもん」

「…………」

 淡々と続けられる言葉に少女は終始黙ったまま。ただただ仏頂面でまつりの顔を睨みつけるだけだ。

 そんな状況ををまつりの友人である少女たちは心配そうに見つめ、逆に周りの兵士たちは少し気まずそうな顔で辺りを見回している。まつり自身はその様子にちょっと申し訳なさを覚えないこともなかったが、だからと言って今さら喋るのをやめるつもりもない。

「ま、そんなワケだから、これからはお互いいないものとして扱おう? もう必要なことは警告したし、これからアンタはついて来ないで避難所に帰ってもいい。というより、これからはどうなるか分かんないから帰った“方が”いいかもね。で、いまこの会話が終わり次第、アンタとまつりはもう二度と喋らないってことで。……お互い平和的にいこうよ、んじゃね」

 二人の関係の終わりはそんなあっけらかんとした言葉だった。

 

 

 ………

 

 

 男はこれまで築いてきた自らの地位が揺らぐのを感じていた。

 薄明るい放送室の中、大型モニターの液晶が放つまばゆい光が院内放送用のマイクを照らしている。監視カメラ越しの青白い画面を食い入るように見つめるその男は製薬企業カドゥケウス社の代表取締役社長(C E O)である。

「……Damn it, Watson……(くそっ、ワトソンめ……)」

 地の底から響くような低い声で彼はうめいた。あの小娘が先ほど医科大学校舎と附属病院本舎をつなぐ渡り廊下にいたことはハッキリしている。モニターで監視カメラ越しに彼女を見つけたときはいよいよ来たかと思った。そして、その攻防云々すら無理やり押し退けられたような顛末(てんまつ)に唖然としていた。

 

 崩壊の危機の気配を感じたのはほんの数週間前。ずっと身柄を押さえていたと思っていたワトソンが姿を消したところだった。北米支社の長からグループ全体のトップにまで上り詰めた彼にしてみればCEOの椅子というものは座り心地の良いものだったが、そんな高みにいてもなお、最近になって急に漂い始めた暗雲の存在感は重くのしかかる。むしろ高いところにいたからこそ、近くなった空の動きやグラつく足場が目立ったのかもしれない。

 何にせよ三年前に家族を人質を取るという形で出し抜いてからというもの、彼女はずっと自分直属の優秀な手足だった。当初はその優秀さを喜びもしていたが、今ではその優秀さを憎々しげに思っている。抵抗できないように課していた過大な量の仕事すらも涼しい顔で片付け、ついには人質に取っていたハズの両親をどこかに逃亡させることに成功させたのだ。今となっては彼らが米国国内か国外にいるのかすらも分からない。彼女が自分の下に置いておくには手に余る人材だったと見せつけられている気分だ。

 何の本だったか、『獣が一番油断するのは“獲物を捕食する瞬間”』だとする一節をどこかで聞いたことはあったが、ここまでその言葉の通りの展開になるなど男は思ってもいなかった。要は自分はあの一文の教訓とすることもなく、単なるそれっぽい“知識”として覚えていただけだったのだ。でなければこんな失敗するはずはない。彼にとってこの街でのテロはまさに自らの躍進のためにありつくご馳走だったのだ。それが、こんなところで……。

 

 不意に背後の扉が乱暴に突き破られた。いや、正確にいうと爆竹みたいな音と一緒に弾け飛んだ。割れて小さくなった扉の残骸は男の頭上を飛び越えて空中に薄い煙で尾を引いて、部屋の奥の大型モニターに派手に突き刺さる。

「うわぁーあーあー、また派手に……」

「イヤもうこれ部屋の中のモンまで吹っ飛ばしてんじゃんさぁ‼︎‼︎‼︎ あんな大型モニター、弁償どころの騒ぎじゃねーって⁉︎⁉︎⁉︎」

 破られた扉と共に室内に雪崩れ込んできたのは、少女のものらしいため息やら怒声にも似たツッコミだった。というかツッコミの方はもはや音量が大きすぎて声の持ち主の性別すらもよく分からないほどだったが、そんなことはどうでもいい。とうとう万事休すだ。

 

 カドゥケウス社の長はズボンのポケットから何かを引っ掴むと大人しく手を上げる。左手に握られているのは白いハンカチ一枚。男はそれをわざわざヒラヒラと振って殊更(ことさら)にアピールしてみせた。

 

 

 ………

 

 

「で、おじさんはどれくらいのこと知ってんの?」

 まつりが社長である男に向かって切り出したのはそこからだった。この事件を一介の女子高生が全て理解するにはそれこそ何から何まで説明してもらう必要がある。そして事件に最初から関わり通しだった彼女にはその権利があった。

 一方、男はちょっと(あざけ)るように呟く。

「どれくらい、ねぇ……相手の規模感も分からないままここまで出てきたワケか?」

「うん、まぁ、そうだね。そんな相手に出し抜かれたのはおじさんの方だけど」

 まつりは特に逆上することはなかったものの、代わりとばかりに嫌味でちくりと刺した。

「あぁ失敬、今のは自嘲(じちょう)みたいなものだ。そんな相手に負けたのか、というね」

 男もムキになったみたいに負けじと言葉を返す。どうも、こんなザマになっても男には負けん気が(わず)かばかりか残っているらしい。けっきょくアメリアが、

「ちょっと、お互い挑発しないで。話が進まないわ」

 と咄嗟(とっさ)に止めに入らなければ、二人は日が暮れるまで煽り合いを続けていただろう。

「じ、じゃあ早速聞くけど……はあちゃま、はあとちゃんは何者なの?」

 まつりは部隊長の注意を受けてようやく本題に入る。

「……あれは赤ん坊だ。半年ちょっと前に目を覚ました」

「はぁ? あの見た目と体型で赤ちゃん?」

「氷の大陸・南極の偶然が生んだ唯一の人間、とでも言えば詩的すぎるか? まぁ、いい。どうせ警察にでも突き出されるんだろう? 私はこう見えて喋るのが好きでね。息が詰まる取り調べで自由に喋れなくなる前に喋れることは吐き出しておくさ」

 疑うまつりに対して男はまた自嘲的に吐き捨てる。半分ヤケクソというやつなのかな、なんてまつりは男の態度を見てぼんやりと思った。

 

 

 

 さて、解説する前に別の説明がある。世の中にはレトロウィルスという種類のウィルスあってね。まぁ、簡単に言えば、そのウィルスは自分の遺伝情報を感染した生物の遺伝情報に“上書き”できる性質を持っている。つまりゾンビ映画なんかで出てくる“感染した相手の体を『作り替える』ウィルス”というものは実在しているのさ。さすがに人体を死体にするウィルスというものはないが、それらは身近にある……がんやエイズの原因とでも言えばわかりやすいかな。

 

 ここまで言えばわかるだろう? アカイハアトの内側に眠っているのがそれだ。と言っても普通のレトロウィルスじゃない。太古の世界からもたらされた福音みたいなものだ。彼女を見ればわかるように、そのウィルスは人類に『異能』を授けることができる……大脳を作り替えるとか、色々あるらしいがそれはウチの研究者連中にでも聞いてくれ。

 “それら”が眠っていたのは南極大陸の氷河のはるか下、氷河の下の暗い湖。ちょうど氷河がタイムカプセルの役割を果たしていたのさ。それでそのウィルスは現代まで絶滅せず、コールドスリープ状態で生き残ってきたというワケだよ。

 では何故そんなものをアカイハアトは保持しているのか? これの理由も簡単、事故だ。

 ある南極隊員の女がいた。アメリカ人の南極調査隊員だったらしい。姓は『ハートマン』だそうだ。ある時その女は氷河の裂け目(クレバス)に転落してそのまま帰らぬ人となった……“書類上では”、だが。三、四ヶ月ほど前に彼女の遺留品の一部が氷河の奥底で見つかってね。驚くべき変化が起きていた、と聞いている。いくら南極とはいえ、遺体は熱源を持った有機物の塊だ。そんなものがさっきのウィルスたちの眠る湖まで落ちたと言えばわかるだろう? 彼女の死がウィルスを目覚めさせた。そんなところだ。

 それともう一つ重要なことがある。どうも彼女は南極で妊娠していたらしい。南極に来る以前に妊娠していたのでは調査隊員に任命されることもないだろう、父親候補としては同僚の日本人の男と親密だったことまでは突き止めている。

 ともかく母体がそのウィルスに侵され、胎児にまで感染し、そしてその中で胎児と母親を“作り替えて”一人の人間を形作らせた。そうしてそこの『超人』は誕生してきたのさ。ハートマンの持っていた“記憶”までも養分として取り込んで、南極点の氷河を盛大に突き破ってね。ま、どこまで実態に沿っているかは知らないが、ともかく仮説としてはこんなところか。

 

 

 

「……私が知ってることはこれぐらいだな。アカイハアトの正体はそんなところだ」

 男は淡々と語り終える。そういえば以前、前の“はあちゃま”は自分の母親を探したいと言っていた。今は赤井はあととして性格が変わったように思えたが、それでも彼女は幾分か悲しむのではないか。まつりはそんな期待にも似た危機感を一瞬覚える。しかし。

「ふーん、そうなのね」

 はあとの反応はそっけなかった。……あぁ、やっぱり。得心がいったような、落胆したような心地さえする。しかし、いくら騒いだところで時間は戻らない。まつりは気を取り直して男に尋ねた。

「要するに、はあとちゃんってその何たらウィルスの影響で生まれて? それが原因でなんか超能力使えるようになったって……なんだそれ、マンガじゃん」

「フン、仮説を立てた研究者連中にそういう趣味の輩がいるのかも知れんがそれこそ知らんよ。文句は南極大陸にでも言ってくれ」

 男は面倒そうに呟く。

「なんにしても、どう思おうとこれがアカイハアトが出自だそうだ。……どうも、そこの本人は興味なさそうだが」

「私? うん、前は確かに興味あったけど今はもういいの。実はお母さんじゃないけど、お母さん“みたいな人”には会えたから」

「へ、だ、誰それ……?」

「いいの、秘密!」

 まつりからの問いかけをはあとはピシャリと跳ね除けた。まただ。何となく、まつりが先ほどハアトからはあとへと確かに何かが変わったように感じてからというもの、はあとの呼び名を『はあとちゃん』に改めたのと同じように、向こうからもまた初対面の人のように振る舞われている感覚がどうしても拭えなかった。以前のハアトなら多分隠さなかったのではないか。

「じ、じゃあスバ……あたしからも質問あるんだけど」

 次はスバルが切り出す。

「はあちゃまの超能力って『熱』じゃん? 爆発とかを起こすのも見てきた。でもなんかよくよく考えたらさぁ、はあちゃまって多分それだけじゃない気がしてさぁ? だって、はあちゃまいるときって皆なんかおかしくなるっていうか、言動が変になるっていうか……。結局はあちゃまの力ってなんなの? 『熱の操作する力』と『精神を操る力』ってメチャクチャ過ぎない?」

「人の『心』も立派なエネルギーだからだよ、お嬢さん。『自由意志』とは要するにエネルギーに他ならない。本来起こるはずのない現象を引き起こす“きっかけ”を作り出す力、物理法則には引き起こせない力……世界を作り替えようとする力さ」

 突然のスバルの疑問から思いがけず、アメリアにとっては聞き覚えのある話題に転がった。

「ふぅん、ずいぶん“懐かしい”話ね? どこぞのセミナーの紹介ってんなら結構よ」

「え? は? え……? 何の話か分かんないんだけど……」

 そしてこれも当たり前であるが、話の全貌が見えているアメリア以外の人間には何の話かカケラも見えていない。尋ねたスバルも困惑している。

「……まぁ、理解が追いつかないか。例えばここに一個のリンゴがあったとしよう。人間でも動物でも、とにかく“誰か”がいなければ、このリンゴがあるとき急に消えるなんてことはない。しかし、反対に誰かが“ここにいたとしたら”? もちろん、その誰かはリンゴを食べて消費することができる。掴んで放り投げることだったできるし皮を剥いて皿に並べることだってできる。自由意志の下では”どんなことだって起こりうる”。考えようによっては世界を変える強大なエネルギーだ」

 そんな例え話も講義にスバルはピンとこないようだった。というかまつりもイマイチ何を言っているのか理解できなかった。なんだか下に見られているということだけはなんとなくわかる。

「待ちなさい。その自由意志の力とやらが『熱』っていう物理的なエネルギーに変換されてるっていう根本的な部分の説明になってないわよ。質問を煙に巻こうとしてない?」

 すかさずアメリアがツッコむ。対する男はその言葉にやれやれとでも言いたげだが。

「まだ説明は終わってないよ。そうやってせっかちになるのは若者の悪い癖だ。……ヒトが脳で物を考えるのに電気信号を使っているのはさすがに知ってるだろう? 脳の中の神経を駆け巡る電気信号。なんてことはない、これも立派な物理的エネルギーさ。アカイハアトの能力は身の回りで発生するエネルギーを“いくらか”激しくする能力。君らも覚えがあるだろう、アカイハアトがいる場面でいつもより感情的になったハズだ。アカイハアトの場合は、たまたまそれが熱エネルギーとして特に発現しやすかったらしいがね」

 ここまで言われて、まつりはようやく思い当たった。確かに、はあとと出会ってからというもの自分の頭の回転が良くなっているという感覚は確かにあった、“期末テストの前にでも出会っていればよかったのに”などと思うくらいには。やはりあれは気のせいなどではなかったのだ。

「……あと別のことで。アタシにだってまだ聞きたいことがある。なんで“此処”なの? 本社のあるイタリアでも、あなたの出身であるアメリカ(ステイツ)でもない、なんで極東の島国に来てまでこんなことをしたのか教えてもらえるかしら」

 その一方で、アメリアは追求の手を緩めない。そして問い詰められた男は不遜に鼻を鳴らして応じる。

「フン、若者には思いもよらないかな? 『地政学』という考え方さ。日本の立地は素晴らしい、イタリア本社からもアメリカからも遠く、技術・文化・治安のレベルもそこらの先進国より高く、さらに隣国らも巻き込んだビジネスチャンスがある……。今やアジアはフロンティアさ、生体有機コンピューターの話くらい君なら聞いてるんだろう? 私はここに王国を創るつもりだったんだよ」

 なるほど、いかにもビジネスマンらしい動機だった。尊大で、分かりやすくて、それでいてどこか“みみっちい”気もする考え方。具体的な足がかりを用意しているあたりがそう思わせるんだろうか? 何にしても利益やら利権やらしか考えていないのは明白だ。こんな……こんなヤツに、まつりたちの街は。

 まつりは内心とは裏腹に、無感情な表情で見下ろしながら冷淡に告げる。

「おじさん、分かってるよね? そんなのが失敗した以上、今さら自分が追い返される覚悟も無いとか言わないでね。この先、一生ブタ箱っての?」

「こらこら、お嬢さん。勝ったと思って使い慣れてない言葉を無理に使うのはやめておくんだ。大体、私を裁くのは司法であって君じゃないだろう。そういうのだって相手にはよく伝、わ…………」

 

 と、ここまで喋った男は突然黙り、ガクリとうなだれた。……気を失っている。

「ちょ……おじさん?」

 まつりは急いで駆け寄った。あまりにも急に黙りこくるから、まつりは最初、男がふざけているのかと思ったほどだ。しかし、そうではないらしい。

ドサッ

 次は背後で誰かが倒れる音がした。振り返ると、部隊長がライフルを手放して床に突っ伏している。

「……ぐっ、力がは、いら……っ」

 歯を食いしばりつつそれだけ呟いて、部隊長もまた何も言わなくなった。

 その後ろの隊員達も言わずもがな。マスターも、イオフィの近衛隊も、爺やも、カデュケウスの兵達も。みんな急に糸が切れて力が抜けたように倒れ、そのまま動かなくなった。

 倒れず立っているのはまつり・はあと・スバル・そら・アメリア・イオフィの六名だけだ。

「な、何がどうなって……?」

「そんな、何だよこれェ……」

 まつりとスバルはまるで溢れ出た水でもこぼすみたいに、脳裏の苦い絶望感を吐き出す。

 あたりは不気味なほど音のしない、静止した世界へと変わった。セミの声も鳥たちの声もしない、不気味な午後のひと時だった。

 

 

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