ホロ=モダンエイジス - 真夏日、陽炎は揺らめき -   作:テラ・ぺた・エクサ

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32:心配事、沈黙の中で

「ま、まさかコレも……EMPの影響……?」

 

 突然急転した目の前の光景に六人が凍りつく中、アメリアが不意にそう呟いた。その言葉にスバルは即座に反応する。

「いや待って待って、[[rb:電磁パルス > E M P]]って機械にしか効かないんじゃないの⁉︎」

「おかしいとは思ってたのよ……機雷が発生させるEMPなんて結局のところ一瞬でしかない。そりゃ、発動させるエネルギー量を考えてみれば当たり前だけどね。でも、このテロで使われてる“ソレ”はずーっと何かおかしいわ。そもそもEMP機雷でできることは単に電気系統を壊せるってだけだもの」

「そ、それの何がおかしいの……?」

 実際に電化製品が使えない現状では何もおかしくはないのでは? アメリアの言葉にスバルは少し思考が止まりそうになる。一方のアメリアはというと、スバルのわからないポイントを瞬時に見抜いてつらつらと説明を始めた。

「OKスバル、ザザッと説明するわね。そもそもEMP機雷ってのは、強い電磁波で電子機器の回路に強い電流を発生させて内側からショートさせてブッ壊すっていうシロモノなの。わかりやすく言えば『サージ電流』ってヤツ。……学校で習ってない? なら、予習になったわね。ともかくこれでさっき言ったみたいに機械を故障させることができるんだけど、問題なのはずーっと電子機器を停止させっぱなしにする能力はないってことよ」

「えーと、つまり……?」

 今度はまつりが言葉を返した。その“ナントカ電流”についてはよく知らない(というか本当に学校で習っていないのかすらも定かではない)けど、そのEMPの説明自体はまつりの記憶と確かに一致していたハズだ。アメリアはここがポイントと言わんばかりに解説を続ける。

「どういうことかっていうと、普通のEMPは一回発動したらそれっきりだから、つまりヨソから新しい電子機器でも持ってきてもそのまま動くのよ、“普通は”ね。……でも今回の事件はそうじゃない、このあたりの地域一帯の電気系統はずっと止まったまま、ここのヤツらが持ってる生体有機コンピューターの電子回路を持ってる機械以外はずーっとスマホも車もインフラ関係すら何もかも動かせない。みんなもあのボランティアの人たちがわざわざリヤカーで物資運んできてたのは見たでしょ? あんな調子だったから外部からの支援がなかなか届かなくてこの街はずっと立ち往生してるワケ、というかこの事件の発端自体が『“高度な電算機能を持つ”電子機器のみに作用するEMP』とかいうよくわかんない仕様だったしね。ホント“高度”の基準て何だったのかしら? とにかく、今みたいな異常事態に関係あるとするなら多分これしかないんじゃないかって」

 前から思ってはいたが、やはりこういう説明をしだすとアメリアは止まらなくなるタチらしい。まくしたてられる彼女の推測に一同の脳はショート寸前になった。

「と、とにかく今回の原因が“EMPっぽい別の何か”だとするなら、もう私たちにできることって何もないのかな……?」

 そらが慌てつつも心配そうに切り出す。元々はそらと縁もゆかりもないハズのこの世界のことをそら自身がこんなに心配する理由はなんだろう、まつりの脳裏に何度目かのぼんやりとした疑問がよぎった。

 そらが以前語った並行世界がどうだとかいうあの話がもはやどこまで本当なのかもわからない。ただもし、あれを偽りのない真実の言葉とするなら、もしかすると今の彼女の感情はその出自によるものなのかも知れない。たしか『平行世界を守るためのセーフガード』だとか言っていたハズだ。どこかの漫画から抜き出してきたみたいな話だが、この話をしていたときの彼女が嘘をついているようには見えなかった。

 いやいや、とまつりは頭を振って疑念を押し退ける。今はそんなこと気にしてる場合ではない。

「それも考えなきゃいけないけど、そもそも何でまつりたちは無事なの?」

 気を取り直してまつりは当たり前の疑問を口にした。

「まさか、ウィルス……?」

「……イオフィ?」

 自分の顎に手を当てたイオフィが何かを思い出したようにボソッと呟く。まつりの問いを聞いているのかいないのかも分からないくらい考え込んでいるようだ。半分独り言のように宙を見つめながらイオフィは言う。

「……さっき、そこの社長さんが言ってたコト覚えてる? “感染して人体を作り替えるウィルスがいる”って。それが今でもはあちゃまの中に息づいてるとも言ってた。ってコトは、その、もしかしたらなんだケド、もしかしたらはあちゃまが保菌してたそのウィルスが私たちに感染して、それで体がいつの間にか作り替えられてたっていうのもあるのかも……どれくらい影響があるか、詳細はわかってないみたいなことも言ってたし……」

 恐る恐る彼女はそう口にした。五人はもちろん提示された可能性にいくらか動揺する。しかしそれでもイオフィの口が止まることはない。

「はあちゃまの超能力の鍵になってるのがホントにウィルスなら、感染することもなくはないかも知れないじゃない? その可能性は考えるべきよ。たしかに、いま気を失ってないのがワタシだけだったら理由は宇宙人だからなのかも知れないし、未来の人造に……生命体であるそら姉さんもそう言える。でもそれなら、普通の人間であるハズのまつり・スバル・アメリアちゃん三人が社長さんみたいに倒れていないのは説明がつかない」

「ま、待ってよ! それじゃあスバルたちはもう、に、人間じゃないかも知れないってこと……?」

 動揺のあまりスバルは自分の中の恐れを思わず口にした。もしももう、自分が二度と“普通の女の子”に戻れなかったとしたら。

 しかしここでまつりは力強く言い切る。

「大丈夫、それはないよ。あのおじさんも言ってたじゃん? “ガンの原因がそういうウィルスだ”って。じゃあガンになったからって患者さんがそういう風に言われること、スバルはあると思う?」

「それは……ないと思うけど……」

「でしょ? 具体的に病気らしい症状が出るような病気でもないんだし、そんなことスバルが気にしなくてもいいんだよ」

 まつりは(つと)めて明るく振る舞った。もちろん不安がないわけではない。例えば“氷や冷気の存在を感知できる”という妙な才能に目覚めたのは十中八九はあとから渡ってきたそのウィルスとやらが原因だろう。EMP騒ぎで電化製品が軒並み使えなくなっている現状だからこそ普段通りに過ごせていたが、だとすれば平時に冷蔵庫やクーラーが使えるようになりでもしたら相当暮らしづらくなるのは想像に(かた)くない。でもそんな心配も今の彼女にはどこ吹く風だった。今まで何とかなってきたのだ、今回もきっと何とかなる。根拠なんてものはまるでなかったが、まつりはそんな気がしていた。

 

「……で、でもさぁ、そうだとしてもそうじゃなかったとしても、この状態はどうしようもなくない?」

「アタシに心当たりが……ないことない、かも」

 それでも湧き出るスバルの問いに今度はアメリアが答えた。

「まだ仮説段階だけど、聞く?」

 

 

 ………

 

 

 さて賢明なる読者諸君! 以前にこうやって語りかけたのも今や太古代(たいこだい)、口をつぐんで幾星霜(いくせいそう)、それでもめげない私立探偵のアメリア・ワトソンである。……まぁ、今それはどうでもいいか。

 そんなワケで今回も実にお久しぶりなアタシの語りであるが、さすがに今は切羽詰まっていていつもみたいにダラダラと前置きを述べているヒマはない。いまワタシは他の五名とともに病院内を走り回っている状態なのだが、そんなことをしている根拠というヤツを述べていこうと思う。

 

 さて、アタシの頭の中にあった光景はというと十数章ほど前で語った何十人もの人の隊列だった。そう、正確にいうなら数列で通路の壁の左右両脇にまっすぐ並んだ人の群れ、そしてそのそれぞれが点滴と共に電極付きのヘッドギアみたいなもので繋がれていた輪っか状の巨大な機械。未だに思い出すたび背筋に寒気が走る程度には脳裏にこびりついている。

 さっき言ってた『仮説』というのは、簡単に言ってしまえばアレこそが今回のEMPを作り出している正体じゃないかという推測だ。“ありとあらゆるエネルギーを制御できる”、警備室で倒れている社長(アイツ)はそう言っていたハズ。そしてたしか“そのエネルギーを柔軟(フレキシブル)に応用すればありとあらゆる薬が生み出せる”とも。なら詳しい原理こそ知らないが、あれこそがこの大事変の核なのではないかと思ったワケである。

 あの時にみた悪夢のようなあの部屋はたぶん、(あの言葉を信用するならば)薬品を加工する工場のラインの一部のようなものというよりは薬品を作り出すために使われるスーパーコンピューターのサーバールームみたいなものなのだろう。知らない人のために一応言っておくと、薬の調合・研究にもスパコンは使われる。薬品の構成要素となる無数の化合物の組み合わせを計算により導き出すためだ。それにさまざまなエネルギーを応用・制御するというのも考えると、ますますサーバールームとしての運用が“適当”だと思えてくる。ちょうどパソコンのOSみたいな感じだろうか。

 あ、『テキトー』じゃなくて『適当』ね? “投げやりな運用”なんじゃなくて“状況に適した正しい運用”って意味。コレ重要だから。

 

 ……っと、脱線している場合じゃなかった。とりあえず、そういうことならこの病院のサーバールームを探せばいいというワケだ。これがいまアタシたち六人が院内を駆けずり回っている理由。日本(ジャパン)の大病院ともなれば膨大なカルテやら薬品の管理やらで巨大なデータベースを管理しているワケで、その裏方には当然それなりのサーバーが必要になる。そしてサーバールームというのは案外決まり事が多い。部屋は独立してないといけないとか、近くに火気とか水道設備があってはいけないとか。これらの条件を満たせてなおかつ人目にもつきづらい場所といえば……。

 

 地下だ。

 

 

 ………

 

 

 そうやって階段を降りに降りて、たどり着いた地下のサーバールームの光景はというと、まつりの想像の五倍は不気味な空間だった。

 先ほどと同じくアメリアのピッキングで開けられた重い扉の向こう、その大学病院の地下空間は横の広さに対して天井の低い、真四角で簡素なだだっ広い部屋だ。地下だからなのかサーバールームという部屋の目的のためなのか、室内の空調設備のくぐもった駆動音がせわしなく鳴り響いている。部屋の作り自体は単純でわかりやすいものだったが、中にあるものが異様としか言いようがない、まさしく“異界”の風景を作り出している。具体的には、アメリアがかつて見たという光景とよく似ていた。

 

 まず視界に飛び込んできたのは、天井から下がる金属フレームに固定され部屋の中心に設置された直径二メートルほどのリング状の機械。そしてそのリングの中心にはガラスに入ったヒビのような亀裂が浮かんでいる。一目見たまつりは最初、リングの中心に亀裂の入ったガラスでもはめられているのかと思った。だがそうではなく、周囲にガラスの光の反射みたいなものも全くない。ただくっきりとヒビ割れだけが『ある』。それを確認したまつりが思い浮かべたのは、彼女自身聞いたこともない一文だった。すなわち、“空間そのものがヒビ割れているみたい”。なんだそりゃ、と自分でも思いはしたが、なんとなくこの表現が一番的確なような気もしていた。

 そしてそのリングからは無数のコードが伸びていて、部屋の四方の壁沿いに三、四列ほど座り込んで並んでいる人々のそれぞれの頭部のヘッドギアに大量に刺さっている。機械に繋がれている人々の表情は揃いも揃ってみな無表情で、真っ白なLEDの明かりと相まって余計に顔が無機質に見えた。

米国(ステイツ)のときより繋がれてる人数が多いわね……部屋が正方形なせいで余計に曼荼羅(マンダラ)みたい」

 ブツクサとアメリアが部屋の感想を言う。“マンダラ”とかいう何かについてまつりには聞き覚えすらなかったものの、それとは別にアメリアがどういう気持ちでそんな独り言を口走ったのかはよくわかった。『忌々しさ』だ。その点で言えば、ちょうどまつりも同じような感想を抱いていたから。

「うわぁ……わ、私、なんていうか……この部屋いたくない」

 はあともまたアメリアやまつりと似たような感想を抱いたらしい。それくらい目の前の光景は近寄りがたくて、気味が悪くて、生理的な嫌悪感をかき立てるような光景だった。

 そらが口を開く。

「うん……、間違いない。あの輪っかの中に割れ目が浮かんでるでしょ? あれが私が探してた時空のほころび。ほら、初めてイオフィちゃん連れてきたときに言ってたこと、覚えてる? “何でも吸い込んで消しちゃう”って言ってたやつ。……私が元の世界を居られなくなった原因、故郷が消えちゃっても消さなきゃいけない目的、私が作られた意味。それが、目の前のあれだよ」

「…………」

 それを聞いて彼女以外の五人は黙りこくる。不思議なもので、数秒前まではそんな話を聞いたことも忘れていたのに、今のそらの問いかけでその場にいる全員の脳裏にあのときの寂しそうなそらの顔が思い出されていた。考えてみれば、彼女には真の意味でもう帰る家なんてどこにも残されてはいない。そんな状態で流浪ともいえるような果てしない旅を続けていられる理由はなんだろう。なんだっけ、たしか“自分はこのために作られた存在だから、他の生き方を選べない”だとか言っていた気がする。まつりには最初そんなことすら自分で選べないのが奇妙に映った。が、すぐに考えを改めた。考えてみればまつり自身、そうやって自分で考えて何かを選ぼうとすらしていなかったということに気づいたから。……たぶん自分は、その段階にすらいない。

 

「……イヤ、ちょっと待って。あそこのヒビがそらちゃんとイオフィの探してたホコロビってのだったらさぁ、たしかずっとアレ探してこの街に来たんだよね? もしかしてこのEMP騒動って最初から……」

 スバルが何かに気づいて声を上げる。

「うん、多分そう。そもそもこの部屋の感じから見ても、事前に相当準備してないとこんなこと出来るなんて思えない。あれが事件の原因なら、この部屋はもっと前から存在してたんだと思う。というかサーバールームなのにコンピューターが一切置かれてないってことは、この病院が出来てからずっとこの人たちはここにいて、ずっと意識のないままコンピューターの代わりをさせられてたのかも……」

 それに続いてそらは恐ろしい予測を口にした。一同はその恐ろしさに気づいて顔面蒼白になる。もしそうだとするなら、ここはまさしく牢獄であり墓場だ。

「…………」

「はあちゃま⁉︎」

 そんな中、行動を起こしたのははあとだった。まつりの制止を聞きもせず、無言のはあとは弾かれたように駆け出して座り込んでいる一人に飛びつくと、頭の電極付きヘッドギアを外そうとコードの束を掴んだのだ。しかし、そこまで動いたところで急に振り返って彼女はまつりの顔を見つめた。

「い、いま、まつりちゃんがまた『はあちゃま』って呼んでくれた……?」

「そんなこと言ってる場合じゃない! いま無理やり頭のヤツ外したらこの人たちがどうなるかも分からないでしょ⁉︎ 落ち着いて!」

「いや、待って‼︎」

 まつりがはあとを叱りつけようとしたところで今度はアメリアが鋭く叫んで止めに入る。五人の視線が一点に集中した。それを確認したアメリアはひと呼吸して気を落ち着かせてから静かに言う。

「普通に考えて、ここの人たちが病気か何かで“座っていられなくなった”らどうなると思う? ……倒れるハズよ。つまり、そういうときのためにヘッドギアが外れても大丈夫になってると思うの。極端な話、頭に直接電極(プラグ)を突き刺してないってことは、そもそも“電極(プラグ)が外れるようにする必要があった”ってことなんじゃないかしら」

 言われてみれば確かにそうなのかも知れない。まつりは思った。スバルの表情を見ても、わずかに希望を持ったような明るい表情に見える。でも、もし大丈夫だったとしても、そんなウカツにヘッドギアに触るワケには……。

「すごーい! アメリアちゃんのいう通り大丈夫みたいだよ‼︎」

 ありゃ。

 結局、コード束に手をかけていたはあとによりヘッドギアは引き抜かれていた。そうだ、『はあちゃま』はこういう向こう見ずなこともやっちゃうような性格で……。まつりは突然そんなことを思い出しそうになる。しかしすぐに別のことに気を取られて、その気づきはすぐに意識の波に消えた。……座り込んでいた男性が目を覚まさない。

「だ、大丈夫じゃないじゃん……」

「ううん、違う! ちゃんと息してるよ!」

 イオフィが男性に駆け寄って呼吸を確認する。どうやら生きてはいるらしい。

「ってことは、ヘッドギアがなければ警備室で倒れてる部隊長とかと同じってこと……?」

「みんな! ここにいる人たちのコード全部外そう‼︎ 外しても大丈夫なんだったら、とりあえず真ん中の機械を止めることを考えて、出来そうなことは全部やろう‼︎ 機械が止まればみんな起きるかも!」

 独り言のように呟いたスバルに応えるようにそらは叫ぶ。

 

 

 それから十数分、六名によるヘッドギア外しの作業は続いた。人数が多いのは確かにそうだったが、やることといえばヘッドギアを外して床に捨てるだけ。一人につき数秒もかからない。あっという間にコードで繋がれていた全員分のヘッドギアが床に転がった。しかし。

「ど、どうしよう……あのリングからの音は止まんないし誰も目ぇ覚まさない……」

 スバルの不安げな言葉が宙に浮かぶ。それを聞いてまつりは叫んだ。

「ねぇ、そらちゃん! 時空のほころびって今までずっと対処してきてたんだよね? 閉じるにはどうすればいいの⁉︎」

「き、決まった方法なんてないの! 私の故郷でも未解明の部分が多かったから……でも、あのヒビを塞ぐには開いた時と同じくらいのエネルギーを作り出さなきゃいけない、それは確かだよ‼︎」

 まつりの焦りにつられてか、そらも叫び声で返す。叫ばなくたって他には誰も喋る人間はいないのに、と考えるとまつりには少々滑稽と思えなくもなかったが、いずれにせよまつり自身にだってそんなことを気にする余裕があるはずはなかった。

「そら姉さん、見て! ヒビが大きくなってる……それだけじゃない、ワタシも、たぶんみんなもフラついてきてるんじゃない……? い、急がないとみんな倒れちゃう‼︎」

「あの男……社長が言ってた“意志のエネルギー”ってヤツが吸い取られてるのかもね……。そういえば、電気エネルギーと関係があるっぽいことも言ってたし……それでEMPっぽい挙動になってたのかしら……」

 イオフィもアメリアももはやフラフラだった。このままではみんなあのヒビに意志を吸い取られて倒れるかも知れない。まつりの脳裏にそんな考えがよぎったとき、同時にまた別の考えも浮かんできた。それこそ馬鹿みたいな、行き当たりばったりなアイディア。

「ねぇ、そらちゃん……あのヒビを塞ぐためには同じくらいのエネルギーが必要なんだよね?」

「そうだけど……でも、そんなエネルギーを具体的にどうすれば良いのかも判明してないの。今まで私がやってきたのは、あの『ほころび』の作り出した原因を消すって方法で全部なんとか消してこれた。でもここにいる六人だけであんな機械を、しかも素手で壊せるワケないよ……」

 まつりの問いかけにそらは悲しそうな顔で答えた。しかしまつりは不敵な笑みを浮かべながら言う。

「じゃあ最後の悪あがきにさ……まつりたちみんなであのヘッドギアかぶってみない?」

「……へ?」

「まつりたちはこの状況でも気を失わずに……こうやって、行動できてるワケでしょ? どうせ諦めるなら、私たちの変化した脳だったら……六人だけでも、ひょっとしたらあのリングを動かして『ほころび』消せるかも知んないじゃん……?」

 まつり自身、そんな都合良くいくハズがないと思った。しかしそれでいいとも思えた。どうせダメで元々なのだ。それに、自分(まつり)に立てていないところに立っていた憧れ(そら)すらも諦めかけている状況で、他ならぬ自分の提案で皆が力を合わせるのだ。こんなにもやりがいがあることが他にあるだろうか。

 それに、この騒動の中でまつりは確かに感じ取っていた。自分の立つべき場所は、結局のところ自分で切り拓くしかない。

「みんな立てる? たぶんどれでも良い、ヘッドギアを一つ持ってかぶってみようよ。なんにしても……これしか方法思いつかないなら、やった方が諦めもつくでしょ?」

「はは、まつりちゃんさぁ……昔っからおもろいこと思いつくよねぇ……‼︎」

 フラつきながら、スバルが再び立ち上がる。

「そういえば、まだ聞いてないみんなのオススメタイトル聞かなきゃね」

 軽くおどけながら、イオフィは不意に思い出す。

「そうだよね、ずっと一人でやってきたことを今日はみんなでやれるんだもんね」

 決意を新たにしながら、そらは快活さを取り戻す。

「頭を使うんなら任せなさい、なんたってアタシは大アタリの私立探偵よ?」

 胸を張りながら、アメリアは自分を信じる。

「私もやるよ。私だって、やれるよ」

 まつりを見つめながら、はあとは優しく微笑む。

 

 そうして六人はそれぞれヘッドギアをかぶった。

 

 

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