ホロ=モダンエイジス - 真夏日、陽炎は揺らめき -   作:テラ・ぺた・エクサ

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34・エピローグ:一年後、再びの夏で

『……りました、皆さーんお元気ですかっ! さて時刻は午後二時、日付は八月七日・月曜日です。今週もアツい日々の始まりだぁ! オープニングは青春のさわやかさ漂うこのナンバーから……』

 夏の日差しにアスファルトがあぶられる午後、といっても場所はというと、外壁のおかげで暑さなんて全く感じない喫茶店の中。まつりのスマホのラジオアプリから軽快なポップスが流れ始める。この喫茶店は店舗がだいぶ小じんまりとしていてBGMもないのと、いまは他に客がいないというのとでこんな周囲を気にしないようなことを特別に店主直々で許可されている。まぁ、その店主というのはあのマスターで、そもそもまつり・はあと・スバル・そらの四人が集まるということで彼がこの喫茶店を貸切にしてくれたからこそこういうことができるのだが。けどまぁ、おかげさまで静かでクーラーの効いた店内はいたって快適だった。

 それと付け加えておくと今は二〇二三年、つまりこれはあの事件から一年後の夏の出来事だ。

 

 

「にしてもさー、このメンバーで集まるの何ヶ月ぶりだっけ? みんなやっぱ忙しいしさー」

 一年経って、まつりはタダの女子高生ではなくなっていた。

 “タダの女子高生でない”というのはつまり、学校にも内緒で新たにこっそり副業を始めたのだ。何を始めたかというと平たく言えばタレント業、詳細を言うなら“Vtuberプロダクション所属の配信者”というものである。このグループというのは、そらが今まで知り合ってきた何人もの少女たちの協力をあおいで、というか彼女らをメンバーとして引き入れて始めた事業で、おかげさまで最近ようやく軌道に乗り始めたというワケだ。ここにいる四人全員がメンバーとしてそれぞれ活動している他、この場にいないアメリアとイオフィもそれぞれが世界を巡って海外支部組としてのメンバーをかき集めている最中だという。……ここに彼女たちがいない現状を見てわかる通り、どうやらメンバー集めは少々難航しているようで、それで日本本部組よりは少しデビューのタイミングが遅れてはいるが。

「んーと、たぶん三、四ヶ月ぶりじゃない? デビュー出遅れてたスバルもちょっと忙しくなってきたし」

「スバルちゃん大丈夫? 私が一番デビュー早いワケだし、手伝えることあったら言ってね?」

「うん、今のところ大丈夫!」

 配信業の先輩としてそらがスバルに心配そうに尋ね、スバルの快活な声が返ってくる。

 そらはグループ内におけるデビュー筆頭だった。といっても、先輩としての経歴はスバルより数ヶ月早いというだけであるものの、今や彼女がまとっている雰囲気というかなんというか、もはや“風格”“覇気”とまで言えるそれは他の追随を許さないものになりつつある。気がする。

 またそれでいて、現時点で配信者として一番“染まって”いないのは彼女なのかもしれない、と陰ながらまつりは思っていた。自分含めて他三人はもう見る影もないレベルだし。

「というかマスターも偉くなっちゃったねー、そのぶん忙しいみたいだけどさ」

 はあとは二人の会話を聞きながらそんなことをしみじみと呟いた。そんな雰囲気に若干つられつつ、スバルも言葉を続ける。

「マスターの偉さもだけどさぁ、キャラ変わっちゃったのはここにいる全員でしょ。去年と比べたらみんな跡形なくなっちゃってるって」

「あはは、スバルちゃんのツッコミとかその最たるものじゃん。もともと凄かったけど、今じゃプロのお笑い芸人レベルだもん」

「何それぇ」

 その言葉を受けてはあとは小鳥のさえずるような笑い声をあげた。実際、それくらい場の回し方も含めスバルの配信スキルの上達っぷりは目を見張るものがあったからだ。機材や専門ソフトの扱いならばともかく、彼女のエンターテイナーやMCとしての実力自体はいまやプロダクション内でも随一というレベルに達しつつあった。

 それとマスターが“偉くなった”というのは、そもそもこの事業の提案をしたのが他ならぬ彼だったりするのが事の起こりだからである。商売人としての勘がそうさせたのだろうか。なお、彼がこの喫茶店の経営を変わらず続けているというのは先ほど述べた通り。つまり現在の彼は『喫茶店のマスター』と『プロダクション運営会社の社長』の二足のわらじを履いているという妙な状態になっていた。というより、喫茶店経営が趣味の一環みたいになりつつ状態という噂もスタッフ間には囁かれていたりする。当然それなりの苦労というものもあるのだろうが、タレント側の立場であるまつりはあまり口出ししないでいた。そんなの大きなお世話だろうし、そもそもまつりは完全に素人だし。まぁ、色々と心配なのは言わずもがなだが。

 

「だいたい“最たるもの”なんて言ったら誰よりもはあちゃまでしょ、『二重人格の配信者』とか聞いたことないんだけど。まさか、配信でフツーに“はあちゃま人格”と“はあとちゃん人格”出てくるとか思わないじゃん、あれ毎回ハラハラすんだけどさぁ……」

「まぁまぁ、それでもリスナーのみんなに受け入れられてるんだから良いと思うよ。それにしてもVチューバーって懐深いよねぇ、みんなただのキャラ付けって思ってるみたいだし」

 呆れたようにスバルがツッコんで、そらがそれをなだめる。そう、はあとは配信において自身の二重人格について全く隠していなかった。というかそもそも、はあとの二つの人格は一つに統合されていたハズだったが。

 というのも、まつりとほぼ同時期にデビューしたはあとは最初こそ“はあと”の性格を活かした清純なキャラクター性で活動していた。それがどういうわけか、いつの間にやらやや破天荒な“ハアト”の人格が復活して配信上で度々顔を出すようになったのである。

 配信業はストレスとの戦いでもある。そもそも“ハアト”としての人格ははあとの極限状態で現れた防御人格だったということから考えると、こうなることもまた当然の帰結だったのかもしれない。幸い、そらが言ったように現実離れした設定を使うことも多いVtuberという職業において、リスナーからはそのこともまた立派な『設定』として受け入れられていた。とはいえ一旦消えたハズの人格がこうも容易く復活したのだから、また人格が統合されて落ち着いても、さらに分裂して増殖したとしてもおかしくない。それもまた『設定』として受け入れられていくのだろう。

 

「まぁそりゃ、配信業は大変だからねー。スバルもはあとちゃんも、当然性格とか変わって来ちゃうモンでしょ。フツーフツー」

 そんなはあととスバルの掛け合いにまつりは何の気なしに声をかける。四人の最後、残るまつりはどう変わったかというと。……ちなみに、まつりは今なおはあとを“はあとちゃん”と呼び続けて頑なに変えていない。

「うーんさすが、うちの“下ネタ女王”が言うと説得力が違うなぁ」

「わーヤな言い方! スバルめ、胸揉んでやるっ!」

 スバルが笑いながら言って、即座にまつりは報復にでる。『押しも押されぬ“インターネット界の下ネタ女王”』、それが今のまつりを端的に表す言葉になりつつあった。以前ならそんなことを口走りもしなかった彼女が今や見る影もない。ある意味で、この四人中で最も変わったのがまつりなのかもしれなかった。あれほど嫌悪していたハズのあの元友人たちによって育まれた特技の一つでこれほど有名になるだなんて実に皮肉なことだとまつりは思う。もっとも、この変化にはとある意図が絡んでいるのだが。

「もー、別にいいでしょ? 悪目立ちでもまつりが注目されればプロダクション内の他の子だって注目されるし、まつりが“酷い”分だけみんなが可愛く見えるもん。それでファンが増えて事務所が大きくなるんだったらそれでいーの!」

「んな自己犠牲的なさぁ……」

「スバルー、そんなカッコいいモンじゃないって何回も言ってるじゃん。まつり、そういう『可愛さ』みたいので売り込むのって向いてないの自分で分かってるってだけだよ」

「いや、だからそれが間違いなんだって!」

「間違いでも何でも、今さらそんな風にできるわけないでしょ。ってか元からできないって」

 ……つまり、こういう理由だった。今の話こそが彼女の真意だ。早い話が、まつりは汚れ役を買ってでることにしたのである。確かにそういうポジションも必要だったのかも知れない、しかし彼女がその道を選んだのは自分自身にイマイチ自信が持てなかったからでもある。今なお、自己評価を見直そうなどとまつり自身には思えなかった。いくら周囲から卑屈だと言われようとも。

 と、ここまで言ったところでまつりは思い出す。そうだ、まつりはハアト……はあとに会って一番最初に目論んだ『あの胸を揉む』という大いなる目標を達成できていない。が。

(まぁ、やっぱ今さら気にしなくても良いや)

 まつりはそうやって、しつこいくらいに心に秘めていた野望をあっさり取り下げることにした。所詮はそういうものだ、それくらい別に執着するほどでもなかったと言えばそれまで。……でもそれくらい自分の中では、一年前のあの別れが決定的だったとも、今となっては何となく心に距離が出来てしまっていたとも言えた。しかしこれくらいの心の壁なんて、それこそ去年の騒ぎに比べればまつりにとっては何でもない。上等じゃん、なんてまつりの口の端が持ち上がりそうになるのを、勘違いされないように止めておく。

 

「あー、そうだ。そらちゃんに聞きたいことあったんだった。そらちゃんって平行世界とか渡ることできるんだったよね?」

 スバルの出したこの話題をまた一方的に打ち切って、まつりは突然そらに切り出した。あまりに唐突な話題転換にそらも目を白黒させている。

「え、うん、まぁ……そうだよ?」

「じゃあさぁ、ストレートに、まつりたちの平行存在……っていうの? いわゆる別の世界のまつりたちみたいな、そういうヤツっているの?」

「まぁ、いるんじゃないかって言われてたと思う。少なくとも、私の生まれ故郷の世界の科学ではそういうことになってたよ。……急にどうして?」

 その回答に満足そうな様子だったまつりにそらは質問を返した。確かにちょっと不可解な質問だ。

 まつりは答える。

「うん、まつりたちってあんな体験して、どういうわけか友達になって、それで今は同じところで仲間として活動してるワケじゃん? 偶然とはいえ、なんかまつりたちは“引き寄せられる”みたいに集まったように思えてさ。もしかしたら、どこかの世界で平行存在のまつりたちがたまたま集まって、そのおかげでこの世界のまつりたちも集まったのかなぁ、とかふと思って」

 まつりには並行世界がどうとか多世界解釈がどうとかいうような知識は当然ない。そんな中でも、彼女は手にした情報をもとにそんなことを考えたのだった。もちろんその発想が正しいのかは誰にも分からない、そらにだって分からなかった。でもだからこそ、そらは言う。

「それはあるかも。もしかしたら、私たちのいるプロダクションと同じものが私の知らない世界にもあって、そこにはもう一人の私・まつりちゃん・スバルちゃん・はあとちゃんもいるかも知れない、そこにはイオフィやアメリアちゃんだって。そう思うと……そう、ロマンあるよね」

「ははっ、ロマンかぁ……あ、きた」

 そうやってまつりは短く笑って、向こうから歩いてくるマスターに気がついた。

「皆さん、ご注文のおやつと飲み物、それぞれお持ちしました」

「おおーうまそう!」

「スバル、どっかの野球部員みたいな反応するじゃん」

「い、いいじゃん分かりやすくて!」

 運ばれて来たパフェやケーキを見て感嘆の声を上げたスバルに、まつりがツッコんでテーブルは笑いに包まれる。いつもはツッコむ側のスバルはやや恥ずかしそうだ。そしてそれを誤魔化すみたいに、彼女は一息吸い込んでからテーブルの上に向かって手を合わせた。

「せーのっ」

「いただきまーす!」

 

                               - 完 -

 






《あとがき》


こんにちは・こんばんは、作者のテラ・ぺた・エクサです
以上を持ちまして『ホロ=モダンエイジス 真夏日、陽炎は揺らめき』は完結とさせていただきます
本作の執筆の前に行ったことはホロライブ非公式Wikiのおさらいからでした
大変お世話になりました、改めまして謝辞を掲載しておきます、ありがとうございました
(非公式が一番詳しいといういつもの謎現象に関してはノーコメント)


実を言いますと、本作で書きたいホロメンは最初から決まっていました
ズバリ主人公の夏色まつりさん、他「ちゃんと人間キャラ」のホロメンたちです
彼女らはホロライブ・オルタナティブのPVでもちゃんと登場してたのに、作品化されるのはファンタジーっぽい世界観のホロメンばっかりで全く音沙汰の無いイメージだったのがきっかけでした
「ファンタジー方面ばっかり作られるんなら、逆に現代SFものの青春群像劇っぽく仕上げたらオリジナリティあるんじゃね?」
とかいう浅ましい逆張りと打算の結果です、ええ


で、現在のホロライブ(のパラレルワールド)をゴール地点に色々仕込んだりしてましたね
お気づきかと思いますが喫茶店マスターの正体はパラレルのYAGOOという想定です
彼を始め男性オリキャラを複数登場させるのはホロライブ二次創作においてどうなのかとも思ったのですが、そもそも裏方スタッフさんに男性がいないワケがないし、「というか群像劇という時点でそういう方面の人は本作を読まない!」と信じて執筆に踏み切りました
一応、読者選別の一環としてプロローグをTV番組ディレクターのおっさん視点にしたりとか……

最後に、拙作でありながらもここまで本作を読んでくださった貴方に最大の謝辞を
ありがとうございました




※ここで宣伝を入れてしまい大変恐縮なのですが、現在カクヨムにてオリジナルの小説も書き始めています
こちらはSF作品(しかも火星舞台のハードSF系)なのですが、こちらも自信のある作品です
ファンタジー作品ばかり流行ってSF作品が読めないことが不満の読者さま、いらっしゃいましたら宜しければこちらを読んでみるのも一興かも知れません


・マーズブルー・キャノンボール・ブルース 〜1兆の借金を抱えつつ火星で借金取りのヤクザと共にサバイバルして一獲千金を目指す俺の未来について〜
【目次ページ】
https://kakuyomu.jp/works/16818622176091340892
【1話から】
https://kakuyomu.jp/works/16818622176091340892/episodes/16818622176091510027
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