NameLessSEED's -名無しの種子達-   作:マサンナナイ

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セルの事?

大昔の炭素生物が発見した素材

工程次第でありとあらゆる性質に変化し

自己増殖までする

ホドのもの全てセルでできてるよ

ホド自体も含めて全て


・・・通貨としても利用されてたりするね
 


食べる種子達

 

「しっかし、何時見ても奇妙ですなぁ・・・このバカでけぇ電球は」

 

 そう呟くのは極端に軽装甲な機動外肢(Type13-CF-Takama)で日焼け色の脚を包む少女が駆動音を立てている大型エンジンに設置されたガラスとも金属とも言い難い材質で出来たぼんやりと光っている筒を覗き込む。

 

「確かに、見た目だけは電球に見えなくもないですね」

「異形共の尻から引っこ抜いたコイツがエレキテルになるってぇだけでも信じらんねぇってのに・・・噂じゃ同じ筒から心太(トコロテン)まで出てくるって眉唾な話まであるってんでしょう?」

 

 この世界(ホド)で足元の小石から精密機械の塊に止まらず熱や電気などのエネルギーにまで姿を変える万能物質と言っても過言ではないcell(セル)、その自己増殖と性質変化に関する一応の説明はして一応のそう言うモノだと分かってはもらえたようだけれど、それでもホド(世界)の根幹を成す不思議物質への疑問が尽きないらしい褐色肌の金髪ニンフ、サトウさんは形の良い細顎を指で撫でながら古風な思考をコネ回しているらしい。

 そうこうしている間に生身の人間とは比べ物にならない機動力と踏破性能を持つ私達の前に石壁がキレイにくり抜かれた下り通路が見え、その奥で待っていた同種がこちらへと振り返る。

 

「あの人ですよ、サトウさん行きましょう」

「へい、ところでお嬢、今回はどんな御用を仰せつかったんですかい?」

 

 この抜け道は元々、戦う力が無いと言う理由で故郷から追い出された小さな通常型ニンフが空腹で力尽きそうだった時に助けてくれた恩人のいる場所へと入る為に見つけ出した抜け道だったらしい。

 そんな健気なニンフが恩人に役立つ品物を拾い集める為の出入り口として使っていた小さな抜け穴は自他共に『大工さん(ダイクサン)』と呼ばれ慕われている赤髪のニンフとその子分たちによって、たった半年で女児が這ってやっと通れるぐらいのサイズから私とサトウさんが並んで通ってもなお余裕がある道幅まで拡張された上に騒がしいエンジンと軋むワイヤーに吊るされた手作り感のおかげで見てるだけで不安になってくるゴンドラ型エレベーターまで整備されている。

 

「少なくとも荒事ではない筈ですよ、信用もできる人からの頼み事ですし」

「ありゃぁ・・・お嬢がアジトでこんぷーた(・・・・・)とか言うゴチャゴチャした箱ん中身弄ってた時に何度か見た顔でやすな」

「だから、お嬢は止めてくださいってば」

 

 この世界の事を人間だった頃のとある記憶のせいで先入観入りで考えてしまう事が未だにある私にとって動く筈がないと思い込んでいた長く太い鉄骨をたった数人で引っこ抜き簡易クレーンにしてしまうだけに止まらず数々の建築技術を使いこなし道なき道を造り出す大工さん達の雄姿にはもう脱帽するしかない。

 

「やぁやぁ、待ってたよお二人さん♪ 乗って乗って」

 

 そうして私達の同種は本来なら機械根と呼ばれるcell系技術の集大成とも言えるオーバーテクノロジーによるテレポートでしか入れない筈の場所、【朽ちた育房】へと繋がる昇降機の操作盤の前から陽気な声を掛けてくる。

 軽くお辞儀しつつ私達を呼んだニンフの姿を改めて見ればその頭の上には一つ分の丸いお団子の様に結われた青みがかった黒髪以外に目立った部分は無く、いくら安全地帯の直ぐ近くとは言え鎧殻どころか武器の一丁すら身に着けておらず暢気な顔をしている不用心さに少しだけ呆れてしまう。

 

「どうも、サナダさん、この前は大変お世話になりました」

「そう言うのはいいってば、僕の方も色々とアイディア貰ったからむしろ得させてもらったぐらいだし、それじゃ下にまいりーます♪」

 

 鎧化兵と思えないぐらいぽわぽわした雰囲気を纏っている彼女は私と協力者達が拠点として使っている場所で行っていた個々の同種を結び合わせる通信システムを確立する試みに協力してくれたサナダと名乗っている少女人形である。

 

 さらに付け加えるならニンフとして産み出される前、人間だった時には電子機器の製造や設計に携わっていたと言う技術者だったとの事・・・ちなみにその名前を名乗っているのは「いつか、こんな事もあろうかと」と言いたいからと言う少しばかりコメントに困る理由。

 

 そんなサナダさんと一緒に乗り込んだエレベーターが私とサトウさんの鎧殻二機の重みのせいかすこぶる不安を刺激するタイプのガリガリとうるさい音を立てつつ竪穴を降りていく。

 

「それで私達に手伝って欲しい事って何ですか?」

「あ~、それはまぁ、見てもらった方が早いかなぁ」

 

 サナダさんは通信システムの基地局を現在の私達が行く事が出来る範囲に設置する際に多少の無茶ぐらいは聞かなきゃ釣り合いが取れないぐらい協力してもらった恩人であるから、そんなあからさまなはぐらかし方をしなくても話を聞いただけで尻尾を巻いて逃げるなんて事はしないつもりではある。

 

 未だに詳しい要件が分からないのは不安になってくるけれども私の問いに少しだけ言葉を濁す彼女の若干困った様な表情に小首を傾げつつ三分弱の下降が終わり、柔らかく温かさを感じる光に満ちた広い地下空間へと到着して乗降り場にエレベーターが着地する。

 

 最近はもっぱら拠点で種子間の通信システム内に実装した機能が正しく動いているかの監視やバグが発生したプログラムの修正作業などで時間を食われて碌に立ち寄らなくなっていた朽ちた育房(安全地帯)は最後に訪れた時と比べると火が消えた様に静かだった。

 

 と言っても私達以外の人影が全くないわけではない、サナダさんの後に付いて行きながらあちこちと見回せば壁沿いに疎らに座り込んで居たり、おそらく大工さん達が制作したのだろう幾つかのテーブルの周りやベンチなどに集まっているグループも見える。

 

「こっちだよ、付いて来て」

 

 正確な数が分からないぐらい居た大量の同種が数えようと思えば数えられるだろうぐらいの数しかいない、逆に考えればそれだけ多くの同種達が【創造主(ネマ)】から一方的に押し付けられた義務を果たそうとホドの攻略に挑んでいるのだろう。

 阻む障害は私がニンフとして産まれる前から知っていたドールズネストよりも多く分厚く、遊び半分(ゲーム気分)で我らが主の願いを叶える事は容易くはない、そして、仮に達成できたとしても行きつく先はどう転んでも破滅しか待っていない。

 

 そんな内心複雑な想いを抱えつつ私はサナダさんが手招きに付いていく。

 

 数分後、何事も無く着いたのは私がまだ人間だった頃に見たモニター越しの朽ちた育房とは比べ物にならないぐらい広い空間の端っこ、まるで育房に満ちる光から逃れようとするかのように背の高い衝立で囲まれた一角。

 

 パッと見は一軒家ほどの広さだろうか、石壁を切り出して作られたらしい入り口へ招き入れられたと同時に私とサトウさんは目に飛び込んできた光景に身体を強張らせた。

 

「アドバイザーを連れてきましたよ~」

 

 掲示板や動画投稿などの種子同士を繋ぐネットワークを管理する立場上は自然と同種達がやり取りする話題に触れる事が多く、そう言う事をやっている者達がいると言う事も知っていたけれど何一つ心構え無く見てしまったその場の異様さに思わず呻く。

 

「それで今日お呼びしたお願いと言うのはですねぇ?」

 

 いっそこの空間では普通過ぎて違和感を感じてしまう鍋やフライパンなどの調理器具、蛇口付きのcell増殖器を横付けされた流し台、あちこちにダイヤルやコードが追加された対鎧化兵用の火炎放射器(FT T02A1 FAPL)が頭を突き出している人間だった頃に見たガスコンロに見えなくもない物体までは百歩譲って良いのだけれども。

 

「こちらの料理の事で・・・」

 

 壁沿い設置された大きな棚に所狭しと並べられた瓶詰めの中身、さらにまるで私達を迎える様に整えられた長テーブルに並べられた湯気の立ち上るお椀の中や皿の上に存在する物体による精神的な衝撃に否応なく身体が強張った。

 

「あ、アッシとした事が野暮用を忘れてやした! ここいらでチョイとお(いとま)させていただきやす!」

 

 直後、聞こえたサトウさんの悲鳴の様な声にハッとなって振り返れば呼び止める暇も無く衝立の向こうへと脱兎の如く逃げていく金髪の後ろ頭が小さくなっていき、自分よりも危機管理能力が優れている友人の背中に向かって「待って私も」の言葉が出る前にトンと肩を叩かれて逃げるタイミングを失う。

 

「そない慌てんでもええやろ・・・まぁ、靴脱いで座りぃ」

 

 目の前に広がっていたあまりにもな光景に狼狽えで気付かなかったけれど私のすぐ近く、それこそ手を伸ばせば触れる位置に居た片方の側頭部を剃り上げもう一方をハーフアップに結っている赤い髪のニンフの凄味のある関西弁と肩を掴んで離してくれない手に私は口元を引き攣らせて震える様に小さく首を横に振ってみた。

 

 嗚呼それでも無情な事にあれよあれよと言う間に大工さんに私は鎧殻を脱がされ、目を塞ぎたい衝動に駆られる前衛的芸術が犇めいているテーブルを囲む椅子の一つに座らされる。

 

 そこからの小一時間はあらゆる意味で筆舌に尽くし難く。

 

 必死に苦難の時間を乗り越えた私は毒性こそないものの食べ物だとは認めたくない物質を取り込んでしまった事に対して激しい抗議の声を上げる胃袋を慮る様にお腹を押さえ。

 今更に脳裏に過るのは通信システム上に組み立てたばかりの掲示板の中で何度か【料理部】と言うカテゴリが付けられた話題(スレッド)が立てられ、その全てにおいて料理部のメンバーにゲテモノ料理・・・と言うのも憚られる代物を食べさせられたと言う被害報告を脳内でスクロールさせる。

 

「なんなんですか・・・ホントになんなんですか・・・いろいろと、ぅっぷ」

「なんやぁ大袈裟にぃ、見た目キモイけど不味くはあらへんかったやろ」

 

 この前はもっとヤバかったんやぞ、とまるで武勇伝を語る様に不敵な顔をして爪楊枝で歯の隙間を掃除している胸元にサラシを巻いたニンフの堂々とした態度を見て、私と同じ物を食べたのに全くと言っていいぐらいに堪えていない様子だけは素面か演技かは分からないけれど尊敬してしまいそうになる。

 

「分かってはいたんです・・・事情を知らない方にこんなものを出してどう思われるかなんてっ」

「あーっ、いやいや、そんな思い詰めんでな? な、大将! ここまでのモンが作れる様なったんやから次はもっとええもんになるって!」

 

 こうしてホドに生息している奇々怪々な生態と姿を持つ(むし)を調理した物体を食べさせられる直前、隣から肩を組みながら脅してくる大工さんと懇願する様に手を合わせて頭をペコペコ下げるサナダさん、山ほどの借りと恩がある二人に頼まれた上に今目の前で肩を窄めている四人のニンフ達から事情を聴いては同情心や良心の呵責も相まって精神的な拷問を避ける事は出来ず。

 

「正直に言うと、料理長さん、貴女の理念は分からなくはないですけれど流石にこれは・・・」

 

 少なくともニンフが摂取しても直ちに害があるわけではないが、そもそもこのドールズネストにおいて手に入る【小虫】の類は毒物などの致命傷に繋がりかねない状態異常を治療する効果を持った薬剤の類として利用されている。

 しかし、どの小虫も知れば知る程に正常な神経の持ち主なら嫌悪感を感じずにはいられない生態の持ち主、はっきり言って肉体を蝕む障害と天秤に掛けてもなお小虫による治療を拒否するニンフがいると言う話があるのも仕方ないと思えてしまうぐらい悍ましい存在である。

 

 けれど料理部の代表、料理長と呼ばれているニンフが悔しそうに両手を握り締めて言い募った言葉に彼女らの行為を全て否定してしまう事は私には出来そうもない。

 

「アナタもここに来るまでにご覧になったはずです、少し前までは混乱と共にですが確かにあった活気が失われた同種達の姿を」

 

 そうして私をここへと招いた料理部の代表であると言う彼女が語る。

 

 私達を機械人形と一言で纏める事は出来ても皆が皆、創造主から与えられた使命に従う為に朽ちた育房から旅立った者達ばかりではない。

 最初こそは広大なホドへと挑んだとしても数多の敵対者と困難な障害に阻まれ、何度も死と復活を繰り返して気力を失い挫けてしまった者ならまだマシな方。

 ゲーム感覚で同種と競い合いと言って一方的な戦闘欲求を押し付けてくる者、他者を騙して相手を蔑ろにする事で得られる昏い充足感に飢えた者、異形の自動機械から浴びる銃弾あるいは汚染された領域に身を投げて蝕まれていく苦痛に自らの生を見出して溺れる者まで出てきてしまっている。

 

「このままでは彼女らは、いえっ! 私達ですらいつか諦めの果てに()でなくなってしまう! 何かそれを食い止める、何かが無ければ!」

 

 肉体は既に戦闘機械の一種と化している事など彼女らも承知している事であり、ホドに変革をもたらす種子にして戦闘型ニンフとして産み出された時点で私達の根底には他者と争い奪う本能にも似た意識が刻み込まれている。

 

「何度も生き返れたとしても、身体が無事でも・・・いつかは心は死んでしまうっ!」

 

 料理長の無念を喉から絞り出すような震える声、彼女が身の内に抱える人間として生きた記憶が零れるかの様に涙が少女の頬を伝ってひび割れだらけの床に落ちた。

 その涙の理由、いつか人間としての理性と記憶を投げ捨てて終わらない悪夢の中で異形の自動機械どころか同種とも共食いをする怪物と化すかもしれない現実味を帯びた予感への恐怖は私自身も抱いている事だった。

 

「死んで生き返れば空腹も無くなるからなんて、エネルギー補給の為だけの無味乾燥な代物なんて! 許せるわけがない! 私には、私達には料理人としてのプライドがある!」

 

 隣で最初期に困っている同種達へと真っ先に手を差し伸べていた赤い髪のニンフが料理長の奮う矜持へ共感する様に深く頷いているのが横目に見え、私は残り汁が少しだけ残った小虫料理が盛られていた器を見下ろす。

 ついさっきとは言えあまり思い出したくないけれどどの料理も直視を躊躇うレベルのヒドイ見た目はともかくとして、大工さんが言ったように不味いと言う感想は出てこなかったのだから素人目からでも料理長達の調理技術の高さを窺い知れる。

 今この場で彼女達の手にあった材料さえマトモな物だったならさぞかし絶品の美味が楽しめたのだろう。

 

 しかし、そう言った私達の常識(人類の文化)とあらゆる意味で遠い場所である此処には調味料の一粒すら存在しない。

 

「まぁ、とりあえず一息つこうか、料理長も落ち着いてねぇ」

「サナダさんが私を呼んだのは、この他の食材の情報を知っているかもしれないと思ったからですか?」

「あー、いや、一応は知識持ちの子達に一通り聞き取りはしてたんだ、料理部の皆もそう」

 

 サナダさんから差し出されたコップを受け取り、柔らかな湯気が立つ白湯を口に含めば舌の上に僅かに残っていた虫の味が洗われていく。

 

 ホッと一息吐き、何気なく目を閉じればふと少し前に通信システムの構築を行っていた私達の拠点を襲撃してきた七人の強盗ニンフ達を思い出す、もしかしたら彼女らも日本と比べれば天と地ほどにも違う異常な状況から逃避する為に強盗行為と言う刺激こそを求めていたのかもしれない。

 これを放置していればいつかは同じ人間から機械人形へと変えられてしまった同胞であるからと言う一線を踏み越えて最低限の秩序すら崩壊を迎えるだろう。

 

「はぁぁ・・・あったかいもんが有り難いわぁ」

 

 ナスの切り身っぽい見た目だからと言って【暗い小虫】の皿に箸を付けていた大工さんが少し血の気の引いた手の平を温める様に白湯の入った湯呑を両手で包んで飲んでいる妙にカワイイ姿に和んでしまう。

 

 それにしてもここまで透明なお湯なんて飲んだのは何時ぶりだろう。

 

 ホドに存在している水源と言えば遥か上層にある宗教国家群アルカンドが支配する浄水層か最大組織ガーディナと無数の小コロニーが抗争を繰り返している中層に点在するヘドロが沈殿した沼池ぐらいの筈だったけれど探せばホドの最下層にもあるらしい。

 

「ダメ元で何かヒントとか思いつかないかなぁ? ホラ、発想力って言うか君って他の同種が考えもしなかった原作知識と日本での経験を組み合わせてとんでもない事やったニンフなんだし」

「下手な鉄砲がたまたま一発大当たりしただけですよ、皆さんの手助けが無ければ大失敗してたって事も分かってます」

「それでも縋りたいぐらいに正直なところもうお手上げなんだ、修復剤と補給剤は何とか異形から取り出したcellタンクを利用して生産できるようになりそうなんだけど、それはお世辞でも料理だなんて言えないでしょ?」

「いや、スゴイこと普通に言っちゃいますね・・・出来るんですか回復アイテムの生産」

 

 口元を引き攣らせた私に肩を竦めてサナダさんはお湯の入ったコップを持った手を調理場へと向け、その先には洗い場に横付けされたうっすらと内部のcellが増殖と共に発生させる光を漏らす横長の電球に見えなくもない装置があった。

 

「ヨヨちゃんが仕入れ先に使ってるまだ辛うじて生きてる自動工場に連れてってもらってね、どれもこれも壊れかけだったけどニコイチ、サンコイチすれば直せるぐらいのパーツは揃ってたし、完動品の見本があればそれを真似すれば良いだけ・・・とは言え今のところはDPやBPへの変換率も悪い劣化版しか出来てないし、おまけにデリケートなもんだからちょっと調子に乗って設定弄っただけで分子構造がばらけてそこにある様なお水製造機になっちゃうわけ」

 

 なんかこのニンフ、さらっとすごい事言ってる。

 

「cellさえ補充すればいくらでも出せるけどさぁ、水なんて味もへったくれもないでしょ? 恥ずかしながら作ろうとしてたエナジーバー(補給剤)製造器としては失敗作だねぇ」

「そんな事ありませんよ、あれのおかげで食材の下処理が格段に良くなったんですから」

「そうですよ、サナダさん本当に何から何までお世話になって」

 

 あくまでも小虫を食材として扱うつもりらしい料理部の面々に褒め称えられて満更でもない様子で大きなお団子が乗っかった頭を掻き「僕は美味しい料理が食べたいだけですからぁ」と謙遜するサナダさんの姿にふと私は小首を傾げ、何かが喉に突っかかっている様な感覚の答えを探して何気なく大工さんの横顔を窺い見る。

 

「なんや、ワシの顔になんか付いとるんか?」

 

 飲み終わった湯のみをテーブルに置いた大工さん、重機どころかまともな工具の一つすら無くても代用品(・・・)その場で作り出す、それだけでなく大洞穴の壁からすら石材を切り出し建材に変えて私の依頼に完璧に応えて見せた驚異的な建築職人からの問いかけに何でもないと首を横に振る。

 

「ドールズネストは全てcellで出来ている・・・壁も、床も、自動機械ですら石や金属に酷似した構造へとcellが結晶した産物・・・模倣と再現、現にこうして水ですら作り出せている」

 

 頭の奥から湧いてきた自分の考えを反芻して纏める為に呟いた私の声が空の器と皿だけが残るテーブルの上に落ち、周りからの視線を感じつつ手に持っているコップの中身を見つめる。

 厳密に言えば私が人間だった頃に当たり前に飲んでいた水とは組成どころか原子レベルで別物、紛い物の液体の表面が揺れた。

 

「サナダさん、その性質変換の対応できるサイズってどこまでなんですか?」

「へっ、サイズって?」

補給剤(個体)を作ろうとした失敗が違和感を感じないレベルの水になると言うなら少なくともミリよりは小さい単位、素人考えですがマイクロやナノの電子顕微鏡が必要な領域へ干渉できるわけですよね?」

 

 我ながら要領の得ない問いかけに戸惑いつつも難しくはあるけど時間と材料があれば可能であると答えて首を縦に振るサナダさんへと改めて顔を上げて向かい合う。

 

「例えばcellによって塩の結晶構造を再現できたなら? 構成物質が天然素材の欠片も無い別物だったとしても・・・炭水化物やタンパク質を、食物繊維をその形だけでも模倣できるなら、何故か限りなく人間に近く造られている私達(ニンフ)(味覚)さえ騙せたなら、それはつまり・・・料理と言えませんか?」

 

 理論的に技術的に可能か不可能か、進むべき道筋が存在しているかどうかすら考えず、それが出来たら良いなと言う無責任な思考を取り留めも無く口に出していく。

 

「だって、今の私達にとって重要なのはホドの何処かにあるかもしれない未知の食材を探す事じゃなく、栄養素だとかエネルギー効率とかでもなくて、口に入れた物の()だけなんですから」

 

 そして、私はその荒唐無稽な思い付きを言い終わったと同時に料理部が占有している朽ちた育房の一画に身動ぎの音すら聞こえない耳が痛くなるぐらいの沈黙で満ちた。

 

・・・

 

【緊急告知】重要な情報を動画で配信します【掲示板管理人より】

Time-Record=345,601/minutes

 

1:管理人

 ライブ動画のリンクを貼ります

 出来るだけ多くの種子への情報拡散への協力をお願いします

 

 movie

 

2:名無しの種子

 2ゲット

 

3:名無しの種子

 なんか始まった

 

4:名無しの種子

 開幕、ザトウ1サン…なんか管理人にヘコヘコしてるけど弱みでも握られたか?

 

5:名無しの種子

 「へへっ、アッシだって逃げたのは悪かったとは思ってるんでやすがねぇ」って

 

 この黒ギャル、めっちゃ媚び売るやん

 

6:名無しの種子

 www

 

7:名無しの種子

 二人が向かってる場所は朽ちた育房かな

 

8:名無しの種子

 今の育房ってヘタレのたまり場になってるよな

 

9:名無しの種子

 ヘタレ言うな、アタイはウノの止め時が分からなくなってるだけだ!

 

10:名無しの種子

 無駄に廃墟彷徨ってるよりオセロで白黒つける方が有意義な時間の使い方なのは自明の理

 

11:名無しの種子

 重要ってなんだよ、暇つぶしに掲示板でだべってる以外のなんかなんてもうないだろこの世界

 

12:名無しの種子

 みんぁ、降積地帯きもちぃよ

 おいでおいで♪

 

 

50:名無しの種子

 流石に管理人の名前が付いてるとスレの進行が早いな

 

51:名無しの種子

 あ、ここ知ってる

 

52:名無しの種子

 うっわw 料理部じゃん

 

53:名無しの種子

 はー、無駄な時間使ったわ

 

54:名無しの種子

 はいはい、ブラウザバック ブラウザバック

 

55:名無しの種子

 ザトウ1サンの顔が真っ青になってるのカワイイ

 

56:名無しの種子

 俺はもうちょっと見てくわ

 

57:名無しの種子

 金髪ギャルが小虫食い罰ゲーム受けると聞いてきますた

 

 

103:名無しの種子

 料理部張り切ってんな

 

104:名無しの種子

 管理人に頼んでまで昆虫食の宣伝とか必死過ぎだろw

 

105:名無しの種子

 お揃いのエプロンとコック帽は良いね

 手芸部に転職かな(笑

 

106:名無しの種子

 なお食材

 

107:名無しの種子

 涙目のザトウ1サン、ついに処刑台に座らされる

 

108:名無しの種子

 なんていうか、その…下品なんですが…フフ……下品なんでやめときますね…

 

109:名無しの種子

 さて、どんぶり登場

 

110:名無しの種子

 どんなゲテモノが飛び出すか

 

111:名無しの種子

 ???

 

112:名無しの種子

 なにアレ?

 

113:名無しの種子

 え? どう言う事?

 え? どうなってんの?

 

114:名無しの種子

 いやいや、流石に食品サンプルみたいな食えないヤツだろ?

 

 

180:名無しの種子

 食ってる!?

 

181:名無しの種子

 本物って事? 嘘でしょ!?

 

182:名無しの種子

 見た目は完全に・・・うどんだよな?

 

183:名無しの種子

 ザトウ1サンが麺すする音がたまんなくなってきたっ

 

184:名無しの種子

 「うめぇ、こんなに素うどんが、うめぇって思ったのは初めてだ!!」

 

 やばい、動画なのに涎出てきた

 

185:名無しの種子

 育房にいる種子すぐに行って確かめろよ、やらせだったら悪質にも程があるだろ

 

186:名無しの種子

 今、カンリニンサンの近くにいるんだけど・・・すっごくカツオ出汁の香りがくる

 

187:名無しの種子

 私にももらえないかなっ、見てるだけなんてやだ、泣きそうっ

 

188:名無しの種子

 料理部の事ゲテモノ屋って言ったの謝るから! ちょっとだけでいいから!

 

189:名無しの種子

 もしかして・・・マジなのか・・・?

 

190:名無しの種子

 いや、騙されるな、流石にないだろ・・・ドールズネストにうどん(・・・)なんか

 

 

240:名無しの種子

 カンリニンサン! 「この前試食したお餅と砂糖が出てくると思ってました」ってなに!?

 

 砂糖あるの!? どこにあったの!?

 

241:名無しの種子

 やばいやばいやばい、自動機械と遊んでる場合じゃないよ!

 

242:名無しの種子

 うどん作れるって小麦粉あるって事か!?

 

243:名無しの種子

 フェイク動画だって、やらせに決まってるって

 

244:名無しの種子

 うどん屋さんプレオープンするってマジ?

 

245:名無しの種子

 一時間後に屋台設営して開店

 

246:名無しの種子

 今回だけ材料費のみ価格、5000cellは高いか、いや、ホントなら払って損はないけど

 

247:名無しの種子

 今、育房に戻った 良い匂いがホントにしてる!!

 

 

 

501:名無しの種子

 さっきまでフェイクフェイク言ってたヤツ、列に横入りしようとして大工さん達に捕まってる、ざまぁw

 

502:名無しの種子

 料理部のプライドと執念、ちょっと侮ってた

 

503:名無しの種子

 勝利の味ぃ

 

504:名無しの種子

 すごい行列になってるけど売り切れとかないよね!? ねぇっ!

 

505:名無しの種子

 本当に料理部、ありがとう、もうそれしか言う言葉が思いつかない

 

506:名無しの種子

 

 美味しい、すごく美味しい…

 

・・・

 

「ねぇっ、これって本当!?」

「“ユメ”じゃねえよな…!?」

 

 逆さ森と同種達が呼ぶ領域に青い光の雨の様に追尾弾をまき散らす頭の長いニ脚を撃ち抜いた灰色髪は背後から聞こえてきた騒がしい声に振り向く。

 

 それら(・・・)は自分と同じ主の下に産まれながら与えられた使命の遂行に不要な感情(バグ)を山ほど抱えた者達。

 

 けれど、それら(・・・)は創造主から与えられた命令以外は戦う事しか知らない自分と違って遥かに多くの知識を持ってこの世界を上手に歩き回り、自分が気付かなかった場所に隠れた武装や物資を見つけ出し、行き止まりにすら抜け穴を作り出してしまう。

 

「俺達の食い物が戻って来た!」

「うどんだって!!!」

「すぐに“帰還”する」

 

 一対一でも油断すれば致命傷を受けかねない自動機械が群れを成して阻む高層建造物の谷間から踵を返して機械根の方角へと走っていく同種達の背中を見ていた灰色髪の鎧化兵は考える。

 

 弱点を狙おうとしても執拗に追いすがる誘導弾のダメージの厄介さ、それだけでなくほぼ全ての敵機の熱塵耐性と機動力が高く単独での突破は消耗を強いられる。

 しかも多数の敵からの攻撃を分散させるだけでなく連携もできる同種がこの場から一人もいなくなれば使命を果たす労力は何倍にもなると想像するぐらいは彼女にも推測出来た。

 

 そして、自分よりも知識のある同種達が慌てて育房に戻らなければならないナニか重要な事が発生しているらしい、そう言う場合には群れに混じっていた方が自らにも何かしらの恩恵があると彼女は過去の経験から学習していた。

 

 カツンッと硬い音を立てて機動外肢の向いていた方向を180度反転させ、灰色の髪は同種達の背中を追う様に逆さ森からの一時的な撤退を始める。

 

 




 
分かるよ、支離滅裂な文章な上にドールズネストの設定的にも無理があるって事は

でもッ、こいつ(無口ちゃん)にうどんを食わしてやりたいんですよ!

かまいませんよね!!(ヤケクソ)
 
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