NameLessSEED's -名無しの種子達-   作:マサンナナイ

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中層はガーディナの勢力圏だよ

ガーディナを筆頭にずっと戦争してる

それがニンフだから・・・

強い者が勝ち、全てを得る

そして、強さとは鉄量が決める

中層はそういう単純な場所だけど

そう言う単純さがあそこの強さだね
 


誤る種子達

 

「いやぁ、獣肉なんざぁと思っちゃいやしたが、慣れてみりゃぁ、これがなかなか味わい深けぇもんですなぁお嬢」

 

 そう言いながら私の対面に座っている金髪褐色肌のニンフ(少女人形)が締まりの無い笑顔で熱された鉄板の上で白い煙を立てている肉の薄切り・・・の様な物体に箸を伸ばしてヒョイと手元の小皿に持っていく。

 

「奢られてる時ぐらいはお嬢と呼ぶのを止めてくださいって、でも・・・やっぱり私にとっては」

「ほぉ、コイツと本物ってのとそんなに違うんですかい?」

 

 ご満悦な彼女へ水を差してしまうのは悪いとは思いつつ、別の動物の赤身肉と脂身を正確にくっ付けたようなと言うか、牛の歯応えと豚の脂が同時に口の中に入ってくる風味と言うか、美味しいけれど自分の記憶の中にあるお肉と比べると微妙になんか違う物体だと私は感じてしまう。

 

「確かに良くできてるんですけどなんと言うか、コレジャナイ感がすごいです

 

 とは言え、それだってあくまでも私個人の感想でしかなく、美味しそうに舌鼓を打っている他のお客さんに聞き咎められない様に声を潜めてしまうぐらいには自分でも無理筋な文句だとは分かっている。

 

 実際、目の前のcellから合成された肉は種子の食卓事情にうどんと餅ぐらいしかバリエーションが無かった時から考えれば途轍もない進化の産物であり、現在合成肉と言うジャンルにおいてトップを独走している店の加工技術にケチをつけるつもりは欠片も無い。

 ただ、カルビっぽい合成物がこんもり盛られた胃袋の小さい人間だったら見るだけで胸やけしそうな一皿で19,800cellぽっきり、生来の余計な事を言ってしまう気質からか、それとも一皿で中古の鎧殻なら買えるだろうお値段が気になってか、つい偉そうに評論家みたいな事を言ってしまう。

 

「ケチケチしたってなぁんの得にもなりゃしやせん、稼いだ銭は後腐れなくパッと使っちまうのが粋ってぇもんでぃ」

 

 サトウさんはそう言うけれど私としては別に焼肉モドキの代金が勿体ないと言うわけでは無い、と言うか今は個人的なポケットマネーと言うべきcellを持て余し気味なぐらい抱えている状態なので断じてやるつもりは無いけれどこのお店のメニューを上から下まで注文できる。

 それは少し前に私が個人的に受けた蛇を名乗るニンフ達からの報酬、おそらくは依頼内容の口止め料を含んでいるらしいソレの処理に困って私が拠点を共にしている仲間達と山分けしようと提案したら目の前のサトウさんを筆頭に全員から関わってない仕事の報酬を受け取るのは気持ち悪いなどと言われて断られた。

 

「そう言えばcellは受け取らないのに焼肉は遠慮なく食べるんですね」

「はんっ、美味ぇもんは喰ってやらなきゃ失礼ってもんよ」

 

 銀シャリが欲しくなる味だ、と口いっぱいに合成肉を頬張っているサトウさんの太々しい笑顔と遠慮ない箸捌きに苦笑を漏らして私はテーブルの中央で熱を発している鉄板の上へ追加のお肉っぽい物体を敷く。

 

「うん、ところで私達に食中毒の心配は無いけど生で食べるのは止めた方が良いよ?」

 

 無言で私の隣に座っている灰色のショートボブ、側頭部左右のアンテナとセンサーカメラが特徴的な防弾ゴーグル型拡張頭環(LCF05v2-Tropaion-HS)で目元を隠した少女が迷いなく箸で摘まんだ赤白まだらの薄切りを大皿から直接口の中に運んでいた。

 滅多に喋らない*1上に感情表現は最低限、手足の延長だとでも言う様にどんな種類の銃火器でも巧みに扱い、身の丈の倍はある剣や槍すら旋風の様に振り回す姿は感情の無い戦闘マシーンにも見える。

 そして、多くの同種達を大きく上回るその戦闘能力によって行く道に立ち塞がる異形の兵器達を数多く撃破してきた事で今では同種達からは【灰色】や【無口ちゃん】と呼ばれているちょっとした有名ニンフである。

 

 とは言え彼女自身は他人とのコミュニケーションを嫌っているとか不愛想と言うわけでもなさそうで戦場では友好的な同種と連携して戦っていたり、無言ながら頼まれ事をされれば嫌な顔一つせず手伝ったりとあちこちで協調性のある行動が目撃されている。

 

 あくまでも私の私見でしかないが、おそらく彼女は私の様に日本からこのホドと呼ばれる世界へと落とされる前はかなり幼い子供だったのだろう。

 

 そんな灰色が何故ここに居るかと言えば私とサトウさんが現在取り組んでいる調査活動に必要な情報を持っていると思われるニンフに会う為この焼肉屋に訪れた際、店の入り口で達筆な字体で【S&V】と書かれた看板を彼女はじっと見上げて立っており。

 次いで無表情だけれど初めて見るモノを不思議そう見ている子供の様な雰囲気の顔が私へと向けられ、目元を隠す中量級ヘッドセットで目は見えないけれど何故かジッと見られている気配に軽く会釈をしてから入店したら何故かこの子も付いて来て今は私の隣にいる。

 

「こうして焼いた方が味が良くなるんだよ、ほら、どうぞ」

 

 焼肉を食べた事がない、と言うか肉を調理して食べると言う概念が無いらしい心の中身がきっと幼女であろうニンフの手に焼肉のタレを入れた小皿を渡してから自分用に焼いていたお肉を数枚乗せれば、何度かゴーグルで隠れた顔を私と手元の小皿の間で往復させてから少女はおもむろに焼いた合成肉を口に入れた。

 

「今度、アジトの連中も連れてきやすか?」

「それは、確かに悪くない考えですね」

 

 それから数十分、私が鉄板に肉を乗せれば丁度良いタイミングでくすねていく金髪と灰色髪の太々しさに苦笑を浮かべつつ実に人間らしい文化的な食事を楽しみ。

 

「あれ? ここに置いてた空いたお皿はどこに?」

「ぅん? アッシは触っちゃいやせんが」

 

 盛られていた合成肉が無くなったのでテーブルの端に寄せておいた皿が無くなっている事に気付いた私はもしかして床に落としてしまったのだろうかと座っている席の下を覗き込み。

 

「ハッハッハッ、お下げしておいたのさ!」

 

 直後に真横で不意打つように弾けた笑い声のせいで驚いてテーブルの下に頭をぶつけてしまい、カチューシャ型の拡張頭環ごしにガツンと衝撃が走って目の中に一瞬ザッザッとノイズが走る。

 

「誰だってんだぁ、この赤ちょうちんっ!」

「俺は! 廃ビルの片隅で焼肉屋を切り盛りする種子、ダーマッ!」

 

 人間よりも丈夫なおかげで悶絶する程ではないけれど身体を守る自動障壁が削れた衝撃でふらつきつつ私はテーブルの下から起き上がり、頭をぶつけた原因である前足が鉄板で覆われた四本足の機動外肢の上で両腕をシャカシャカと虫っぽい動きで動かしている青地に赤い網目模様のタイツで全身を覆っている少女人形へ失笑を向ける。

 

「店長さん、驚かせないでください」

「追加の肉とお冷をお持ちした種子、ダーマッ!」

「・・・たのんでません」

 

 彼女が何を血迷ってダーマと名乗っているのかはよく分からない、何故こんな場所で焼肉屋をやっているのかもよく分からない、他の同種が言うには何か元ネタがあるらしいけれど私が人間だった頃には触れなかった類のサブカルチャーらしく申し訳ないが分からない。

 身に着けている衣裳のデザインだけなら有名アメリカンコミックのとあるキャラクターを意識しているのだと予想は出来るけれど間違ってもあの遺伝子改造蜘蛛に噛まれて超能力を手に入れたキャラクターはこんなイロモノでは無かったはず・・・そのはず。

 

 しかし、そのダーマと名乗る種子が銃弾飛び交う激戦区から離れているとは言えガーディナ分裂戦争の真っ只中の中層の大森林と呼ばれるエリアで同種達から多くの人気を集める焼肉屋を時折襲い来る強盗や暴れニンフなどを撃退しながら立派に経営していると言う事だけは確かだった。

 

「・・・ノリ悪いなぁ、これはダイクサンの紹介だからサービスだよ、あとヴォーグ姐さんが会っても良いってさ、食い終わったら裏口に来な」

 

 意気揚々と持ちネタを披露しながら現れた相手の調子に合わせなかったのは私かもしれないけれど客商売でそんなあからさまに不満そうに口を尖らせるのはいかがなものか。

 ふと今も店内のあちこちから聞こえてくる「カシコマリー」とか「アラホラサッサ」なんてどこかで聞いた事がある他の店員のセリフにある考えが過る。

 まさかとは思うが彼女の様な独特な言動と個性が私以外の同種の間では受け入れられて当たり前の常識で、ネタの応酬や掛け合いが行われない方が異常だとでも言うのだろうか。

 

「すみませんでした、ありがとうございます」

 

 とは言え、知らないサブカルに対して付け焼刃の反応を返しても相手の気分を害するだけと考えてなるべく丁寧にお礼を言えば赤い蜘蛛モチーフのマスクの下から小さい笑いが聞こえ。

 

「ははっ、真面目ちゃんか・・・許せるっ! トゥッ! 他の客の注文を受けに行く種子、ダーマッ!」

 

 赤いマスクの上に装備したインカム型拡張頭環に何かしらの通信が入ったのか焼肉屋の店長は私達が座るテーブルからさっそうと四本足の機動外肢を跳ねさせ、鎧殻を装備したままでも歩き回れる様になっているとは言えそこそこ客入りのある店内を本物の蜘蛛の様に軽やかな足取りで駆けて行った。

 

「まったく、珍妙な奴もいたもんだ」

 

 怪訝そうな表情を浮かべるサトウさんに内心で同意しつつ、私は知り合いの大工さんが造ったと言う鎧殻を装備したままでも使える丈夫な丸椅子へと座り直し、イロモノな店長の出現も気に留めずペロペロと焼肉のタレが入った小皿を舐めている無口な少女の様子を見る。

 

「お行儀が悪いから止めなさい、ほら、お肉なら焼いてあげるから」

 

 どうやらまだ自分で肉を焼くと言う発想が出てこないらしい少女の灰色髪を撫でつつ、私は友人であり仕事仲間でもある大工さんのおかげで貰ったサービスの合成肉を鉄板に並べていった。

 

・・・

 

「それでお前達が聞きたい事とはなんだ?」

 

 ニンフは戦闘機械として生まれるからこそ何十年生きていようが見た目は変わらない、それでも人間の様な加齢による外見の変化はないけれど今、私の目の前にいる黒灰色のボディスーツを纏ったニンフは鎧殻も装備していないと言うのに一目見ただけで分かるぐらい濃く老獪な戦士の匂いを纏って焼肉屋のバックヤード(休憩室)の壁に背を預けている。

 

「私は今、ある仮説を確かめる為にポロッカと言うコロニーの行方を捜しています・・・だから、ギプロベルデから派生したガーディナ、その最初期に産まれた貴女ならそのコロニーが消滅した当時の話を聞けるのではないかと」

 

 そこで言葉を切り見つめた先には不機嫌そうに眉間にしわを寄せた元ガーディナの鎧化兵、ヴォーグが小さく舌打ちした。

 

「・・・貴様ら種子はどいつもこいつも人の過去にズケズケと、まったく忌々しい」

 

 他人に突然心の奥に隠していたモノを触られれば不愉快になるのは当たり前、それでも私達へと殺気を向けてくる事はせず鋭い視線だけをこちらに寄越した歴戦の猛者は数秒の思考の後に口を開く。

 

「大した事は知らん、そうだな昔・・・そんな名前のコロニーから珍しく強奪ではなく取引で輜重部隊に車両型鎧殻を採用したと言う話があったか、・・・あとは下層への侵攻部隊が鹵獲品は当たりと外れの差が激しいとか言っていたのを聞いたぐらいだ」

 

 曰く、その後間もなくガーディナコロニーの親株と言えるギプロベルデコロニーとの本格的な戦争に突入してヴォーグ本人は主に敵地で破壊工作を行っていた為に自軍本拠地に戻る事すら珍しく。

 ポロッカどころか他のコロニーに関してほとんど情報が手に入らず、下層のコロニーが異形の大量発生によって全滅した事を知ったのも戦争が終わった後からしばらく経ってからとの事。

 

「あの頃は戦いに明け暮れ、巣を守ろうと決死の突撃を行う敵を罠に誘い込み殺し、戦いから逃げ出した逃亡者や窟を売らんとした裏切り者を闇に追い詰め殺し、散々この手を汚してきた・・・だが、あれが・・・私にとってあれこそが」

 

 そう言いながら遠い目をして天井を見上げたヴォーグがまるで痛みを堪えるように自分の腕を抱き、不意に歴戦の古強者の裏側から傷病兵の顔が滲み出る。

 そして、私の不躾な問いで思い出したくもなかっただろう忌まわしい記憶を掘り起こしてしまった疲れ果てた鎧化兵は「少し昔話に付き合え」と呻く様に呟いた。

 

 語られるのは敬愛する女王(母親)から与えられた命令に従ってガーディナで最も強くなった特殊戦闘員の物語。

 

 彼女は生まれてからその身に課せられた数々の過酷な任務に忠実であり続け。

 

 ある日、限界が来たのだと自嘲する。

 

「我が一撃にてギプロベルデの女王を葬った日・・・敵主力と交戦中だった友軍大隊が消し飛んだ、噂自体は前からあった連中の奥の手、ギプロベルデの秘宝・・・の力だ」

 

 勝利を目前にして受けた大損害のせいで統率を失ったガーディナ軍(子供達)の多くが敵の生き残りを皆殺しにするよりも女王(母親)の守りを固めるために(に縋りつくために)自分達の()へ戻る事を優先してしまった。

 

「中層のニンフを皆殺しにして余りある威力を持った兵器だと言われていたそれが見せつけた大破壊を前にして、勇猛なガーディナ兵の誰もが怯えた」

 

 そして、支配者はそんな部下達を惰弱と見下して、その命令を下した。

 

「ガーディナの戦士に相応しくない弱者は処刑せよと・・・瀕死のギプロベルデが苦し紛れに流した虚偽に騙される馬鹿は我が娘に非ずとな・・・あのホドの終末を告げるかの様な鳴動は王宮の最奥に座していようと聞こえていいただろうに」

 

 女王を殺され激怒し追い縋ってくるギプロベルデ残党の追撃を交わし、命からがら敵基地から脱出する際に見た階層の天井どころか中層全て呑み込んで広がる黒々とした爆発煙の帳、まるで巨人が暴れているかのような地響きと遠くで雪崩落ちていく高層建築物とその谷間で大蛇の様にうねる高架道路の破片が雨の様に降り注ぐ光景。

 

「それの正体だと? 知らぬさ・・・知ったところで最早意味など無い」

 

 アレに怯えずにいられるニンフがいるものか、百の敵に囲まれても怯みさえしなかった恐れ知らずの自分ですら未熟な幼精(子供)の様にガーディナ(母樹)の名を祈る様に呼ぶ程であったのだから、と。

 

 当時の恐怖を思い出して震える腕を両の手で抱いてヴォーグは吐き捨てる。

 

「残るは我が身に刻まれた忌まわしい記憶、兵隊が減ったなら産み増やせば良いだけと、宝珠を、武器を、奴隷を奪ってこれば良いと喚く母樹の姿・・・そして」

 

 数え切れない程の戦友の犠牲と引き換えにただ一人、敵女王の殺害を成功させて故郷へ戻ってきた彼女を待っていた次の任務は本来なら謂れなき罪であると言うのに容赦なく処刑台に並べられ命乞いする妹達へ刑を執行する役目だった。

 

「物覚えが悪く銃把の持ち方から教えた子がいた、任務にて窮地を救ってくれた友もいた、全員が他ならぬ女王から育てよと命じられ我が戦技を与えた愛しい妹達だった・・・だから、もう、何もかもが嫌になった」

 

 ガーディナとして最後の任務(・・・・・)を終えたヴォーグはその耳の奥から処刑した姉妹達の死に際の声がこびり付いて消えなくなった事に耐え切れず、ギプロベルデの最終兵器がまき散らした混乱が治まっていない隙をついて生まれ故郷から逃げ出し、かつて自分が処分してきた逃亡兵と同じ運命を辿る事を覚悟した。

 

 その後は身体に染みついた戦士としての本能と能力でかつての教え子達の襲撃から逃げ回り、姉妹殺しの苦しみを妹達に背負わせない為と自らが過去にやってきた事を棚に上げた言い訳を何度も頭の中で唱え、何度も額に銃口を押し付けては引き金を引けない自らの意気地の無さを嘆き。

 

 だから、彼女は思い返すのも億劫になる程に長い長い逃亡生活の末に治療も補給もままならぬ死を待つばかりの状態に陥った自らを良しとし、廃墟の片隅で錆び付き朽ち果てるに身を任せたのだ、と言う。

 

「だが、あの道化共はこちらの都合などお構いなしにやって来た」

 

 ヴォーグが一時の隠れ家に使っていた場所に前触れなく現れた種子達は傷ついた彼女の身体が必要としていた生体部品をどこかから調達して施し、さらには武装と命を狙ってくる外敵から老兵を守り、そして、奇妙な味や形をした携行食を押し付けて来ては感想と改善案をせがむ。

 そんなふうに毎日の様に騒がしく自分の周りを跳ね回る道化達の姿はまるでかつて育てた手のかかる妹達に重なって見え。

 

 喋る度に喧しく名乗りを繰り返す奇妙なニンフを筆頭に馴れ馴れしい種子達に付き纏われ続けた元ガーディナ最強の戦士は気付けば彼女達と共に焼肉屋の調理室で合成肉を作っていた。

 

「錆び付き朽ちる事は最早出来ぬ、あの子達の今際の声はまだ耳に残っている・・・だが、我が自らの死を求める日々に戻る事はもう無い」

 

 そして、不意に彼女自身の身体を抱きしめていた腕がほどけ。

 

「そう、我が戦場に戻る事はもう二度と無い、今の我はS&Vの精肉担当なのでな・・・そもそもが下層で異形に飲まれたコロニーの事など我を焚き付けんとする口実なのだろう?」

 

 かける言葉が見つからず黙っていた私にヴォーグは肩を竦めて見せる。

 

「初めから我を器にするつもりは無さそうではあったが、より大きな戦が巻き起これば自分が女王にするにふさわしい猛者を見つけ出せると言うわけか?」

 

 最後の焼肉屋を始めた辺りからは穏やかな表情を浮かべて過去を語り終えたかと思えばヴォーグは凄まじい私に対する誤解に満ちた事を言い出し。

 

「今の中層はどこもかしこも争い事に事欠かん、ガーディナ残党だけでなく新たに生まれた三つのコロニーにとっても元霧の脱走兵は良い餌になるとでも考えたと言う事だな?」

 

 ついには寄らば斬ると言わんばかりの剣呑な威圧感をその身体から噴き出させ、真正面からそれを受けてしまった私は愛用の鎧殻も武器も身に着けていると言うのに非武装のニンフに気圧されてワタワタと首と両手を横に振って誤解であると弁明する。

 

「古来より種子はニンフを惑わすと言う、現に我はあの馴れ馴れしく纏わりつく阿呆共に惑わされ気付けば焼肉屋などやっている、ならばあれらよりも小賢しそうな貴様の言を誰が聞くものか」

 

 けれど、私の言葉は苦し紛れな言い訳どころか信じるに値しない戯言の類にしか聞こえないらしく。

 

「だが・・・まぁ、貴様らは死臭に魅せられた気狂いや腐臭を纏った野盗とも違うらしい、今後、食事を楽しむだけの客として来るならば歓迎もしよう・・・我らが供した料理をこれじゃない(・・・・・・・)などと言われたままでは癪だからな」

 

 あのスパ〇ダーマンモドキに私の失言が聞かれていたらしいと気付いたと同時、私達を店の裏口から追い出す事を決めてしまったヴォーグに抵抗など出来るわけも無く。

 

 十数分後、私達は最寄りの機械根へ向かう帰り道にあり、灰色髪の鎧化兵が別れの言葉も無く遠目に傾いたビルの群れが森の木々に見えるぐらい密集した方向へとスラスターの燐光を吹かして駆けていく後姿を見送る。

 

「しっかし、なんの収穫もありやせんでしたな」

 

 まるで気分屋な野良猫を見るような気分で灰色の後ろ姿が去って行った廃墟を眺めていればすぐ隣でサトウさんが腕と背筋を伸ばすストレッチをしながら呟く。

 

「まぁ、切った張ったをやってた奴がカタギに成ったってんなら血生臭いのと縁切りすんのは世の常ってもんよ、仕方あるめぇさ」

 

 言外に今回は縁がなかっただけでそんなに落ち込まず次に行こうと励ましてくれているらしいサトウさんを横目に私は立ち止まり、ついさっきまで居た焼肉屋のある古びたビルがあるだろう方向へと振り返る。

 

「いいえ、彼女からは大きなヒントをもらえました」

 

 私がそう言えば強がりにでも聞こえたのかサトウさんが怪訝そうに肩眉を上げる。

 

「彼女が言っていたギプロベルデの奥の手の事です」

「あ~・・・よもや、そのギプなんたらとか言う連中がぶっぱなしたとか言う、どデカい爆弾を探すつもりですかい?」

「いえ、探したところでギプロベルデの秘宝など見つかりはしないでしょう」

「あん?」

 

 ガーディナの古強者が語った昔話の一部を口にしてから信じがたい事だと顔を顰めるサトウさんへと私はおもむろに首を横に振って見せた。

 

 

「あくまでも私の記憶通りならですが・・・そんなモノ(・・・・・)はドールズネストに存在しない(・・・・・)んですよ」

 

 

・・・

 

【お仕事】なんか良い稼ぎになるクエストない?【募集中】

 Time-Record=1,780,423/minutes

1:名無しの種子

 タイトルの通り

 妾になんぞ割りの良い仕事紹介してくりゃれ

 

2:名無しの種子

 そんなもん俺が紹介してほしいわ

 

3:名無しの種子

 世知辛いのじゃ、補給剤は不味いのじゃ

 

4:名無しの種子

 うどん食え!

 

5:名無しの種子

 修復剤より高ぇんだよ、素うどんですらっ・・・

 

 

340:名無しの種子

 なんか、アルカンド行くやつ意外に多いのな

 

341:名無しの種子

 可哀想だからが原動力ってある意味スゴイ独善なのにな

 

342:名無しの種子

 正義感とかじゃなくて解放後の市場狙いで参加してるヤツ結構いるぞ?

 

343:名無しの種子

 なんなら今リーダーやってるお嬢様口調の種子なんか教会ぶんどった後の利権が目的だろ

 

344:名無しの種子

 今も昔も、生臭坊主に碌な者はおらん

 じゃから妾はあの手の者どもには関わらん事にしとる

 

345:名無しの種子

 他になんか良い稼ぎ場ねぇの?

 

346:名無しの種子

 ≫343 いや、あの子、利権とか関係なく煽りパンのせいで引くに引けなくなっただけだぞ

 

347:名無しの種子

 外見はお嬢様ぶってるけど中身は見栄っ張り&煽り耐性0のキッズだぞ

 ちょっと煽られただけで顔まっかっかよ

 

348:名無しの種子

 ≫343 パン屋との値下げ合戦で金貸し種子に手出しかけるぐらいには計画性皆無やぞアイツ

 

349:名無しの種子

 もうすぐ浄水層でドンパチやるみたいだし便乗で儲けられるかと思ってたけど

 リーダーがそんなんだったらちょっと今回は様子見するか

 

350:名無しの種子

 さっきから聞いていれば、cell、cell、cell! 種子として恥ずかしくないのか!

 

351:名無しの種子

 ↑ならば今すぐオレに大金を授けてみせろ!

 

352:名無しの種子

 ↑金欠以外の発言は認めない!!

 

353:名無しの種子

 ホドを攻略するにも先立つモノは必要なんだ、仕方ないんだ

 

354:名無しの種子

 良いもん食べたいなら食費は嵩むし、稼ぐ為に外に出りゃ鎧殻と武器の整備に手持ちが吹っ飛んでく無情

 

355:名無しの種子

 ↓なんか珍しい依頼が育房のクエストテーブルに出てるんだけど

 photo

 

356:名無しの種子

 あれ? 依頼主、管理人じゃん

 

357:名無しの種子

 マジ? 基本身内か直接面接した相手に仕事頼むだけで不特定多数に依頼出すタイプじゃないだろアイツ

 

358:名無しの種子

 報酬w ウッソだろお前っwww

 

359:名無しの種子

 前払いで十万cellって正気か?

 

360:名無しの種子

 これ絶対「騙して悪いが」案件だろ

 

361:名無しの種子

 中層大風穴調査依頼・・・もしかして中央大洞穴の誤字か?

 

362:名無しの種子

 誰かカンリニンサンに問い合わせしてクレメンス

 ワイは条件次第でトッモと参加する

 

363:名無しの種子

 ≫360 確かにやりそう

 

364:名無しの種子

 ≫360 何なら前科持ちだからな

 

365:名無しの種子

 死屍累々・・・自律警備車両、うっ・・・頭が

 

366:名無しの種子

 オレこの前、通信システム基地局の修理手伝ったから伝手あるゾ

 ちょっと聞いてくる ダッシュ!≡≡≡ヘ(*--)ノ

 

367:名無しの種子

 cell、cell、cell! こんな高額依頼逃す手はないぞ!!

 

368:名無しの種子

 621、仕事の時間だ

 

555:名無しの種子

 みんな集まれ! 新エリアの解放だ!!

 

556:名無しの種子

 のりこめー^^

 

557:名無しの種子

 ホントに十万cellポンとくれたぜ!

 

558:名無しの種子

 わぁい^^

 

559:名無しの種子

 乗るしかないこのビッグウェーブに

 

560:名無しの種子

 依頼中に動画記録さえしてれば探索中に発見したアイテム類は貰っていいとか、至れり尽くせりが過ぎる

 

561:名無しの種子

 やっぱり怪しいってぇ、絶対裏があるってぇ

 

562:名無しの種子

 臆病者はついて来なくて良い!

 

 

800:名無しの種子

 ( 'ω')アアアアアッッッッ!!!!!

 

801:名無しの種子

 腹黒三つ編み「今から貴女達にはあそこに突っ込んでもらいます」

 

802:名無しの種子

 クソが、案の定だよ!!

 

803:名無しの種子

 死んじゃう、死んじゃう…死んじゃう弾幕……!

 

805:名無しの種子

 昔、なんやかんや(?)あってバカでかい大穴が出来た←へー、そうなんだ

 その後にガーディナがその穴を一生懸命塞いだ←そりゃそうする、誰だってそうする

 その地面の下にある大風穴の入り口を見つけたので中を調べて欲しい←なるほどね、完全に理解した

 

 ちなみにそこは中層の全勢力が現在進行形で奪い合ってる大型輸送機の飛行場です←!?!?  

 

805:名無しの種子

 カンリニンサン「私達は先に風穴に向かいますので陽動お願いしますね、成果によっては追加報酬も考えますから」

 

 ・・・やってやろうじゃねえかよ!この野郎っ!!!

 

806:名無しの種子

 嫌じゃ、ハチの巣なんぞになりとうない!

 

807:名無しの種子

 これで新エリアの情報が嘘だったら脳天に風穴あけてやるかんな!!

 

808:名無しの種子

 あはは、おっきいなぁ、B2かなぁ? いや違うB2はもっとバーッて動くもんな

 

809:名無しの種子

 誰でも良いからあの戦車と爆弾抱えたヤツの離陸を止めろぉ!!!

 

*1
驚くべき事に本当に極まれにだけれど喋る事があるらしい




 
あ、今回、ネタばれと捏造情報に注意っス

個人的にギリー・ベル=サンがギプロベルデの秘宝の存在を信じる根拠が妹の嘘だけじゃなく、他にあったらいいなと思って蛇足(動詞)した

あと、ヴォーグ姐さんの重苦しい過去はなんぼあってもええモンですからね

今回も反省はしてるけど後悔はない

本作を読む前にドールズネストをプレイしておくとより楽しめる事うけあいなのでぜひ購入を御一考していただきたく

よしなに(地道な宣伝)

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