歴戦プレインズウォーカーと愉快なオムナス達の為の千年戦争アイギス 作:Lifecircle
それが全てを導くのか、全てを滅ぼすのか、私達や神でさえも知り得ない」
―――光の儀式の祭司長の言葉
むかしむかし、とある世界に《オムナス/Omnath》という存在が産まれた。
此処ではない次元世界、ゼンディカーのオンドゥ大陸という場所に彼はいた。
彼はとてつもなく強大であり、人々は彼をとても、とても恐れた。
その為、「光の儀式」という封印を彼に施して、外に出られないようにしたそうだ。
「彼」と表記したが、彼は正確に言うと男ではなく、もっと言うならば血肉持つ生物ではない。
彼はエレメンタルという、膨大で純粋なマナが集まって生まれた者だ。
マナとは簡単に言うと、万物に宿る魔法の「電気」であり、物事の「魂」でもある、あらゆる世界に無くてはならないあらゆる物の基礎となっている物である。
オムナスは一言で言うならば、エレメンタルの緑の巨人だ。
ゼンディカーの荒々しい自然の全てをその身に宿している、四本腕のエレメンタルである。
四本の腕にはそれぞれ、生命を育む光、溶岩の激しい胎動、海の荒れ狂ううねり、森林の逞しさが宿っており、ゼンディカーの全てが彼に宿っていると言っても過言ではない。
彼が何故、誕生したのかを説明するには、ゼンディカーの歴史を少しばかり語らなければならないので割愛する。
重要なのは、そう、本当に今、重要な事というのは……。
(じゃあ兄弟、今からどうしてこの世界に召喚されたかを説明しようか。あれは今から三十六万……いや、一万四千年前だったかな、まあどうでもいいや。オムナスにとっては昨日の出来事だけど、兄弟にとっては―――)
「いや、ちょっと待って、一回黙って」
今、自分の眼前に緑色に淡く光るマナの巨人、オムナスが石造りの椅子に腰掛けて脳内に直接語りかけているという訳分からない事態を把握する事が、今、自分にとって一番重要だからである。
ついでに、この緑の巨人を見上げ続けていたせいで首が痛くなったので少し休みたくなったからというのもある。
(えー、なんで? せっかく兄弟の為に説明してやろうと思ったのに)
「自分の為とか、こっちがどうのこうのじゃなくて、ひとまず状況を整理する為にも黙っててよ」
(うーん、まあ、兄弟がそこまで言うなら分かったよ)
そう言ってオムナスは口を閉ざした。
頭が無いので口があるかどうか確認しようも無いのだが。
本当に黙ったのか心配だったが、腕で頭を掻くような動作をした所を見ると本当に黙ったようだ。
しかし実際にそう見えた訳ではないので、あくまでそういう動作をしたのだろうという推測である。
それにしても、と。
「なんでオムナスがここにいるんだ」
首を手でマッサージしながら自分は一人呟いた。
そう、今、自分を見降ろして語り掛けてきた存在は、間違いなくオムナスだ。
ゼンディカーという次元世界の存在であり、その四本の腕には文字通りあらゆる自然を宿している。
新ファイレクシア達の侵攻によって、「完成化」という悍ましい変化が起こったりしたらしいが、様々な人達の活躍があってオムナスは元の姿に戻り、再びオンドゥ大陸に封印されたはずなのだ。
それがどういう訳か、こんな訳分からない場所で、何故かやけにフレンドリーに接し、自分の事を『兄弟』と呼んでいる。
本来、オムナスに人らしい人格があったなんて話は聞いた事が無い。
オムナスの事は、自分の記憶が正しいとするならば、ゼンディカーという世界そのものが邪悪な侵略者に対抗する為に生み出した荒々しい混沌のエレメンタルであるはずなのだ。
普通ならば意志疎通なんて出来るはずが無い、のだが……。
(落ち着いてきたかい?)
と、自分の事を慮って話しかけるぐらいの気遣いは見せてくれるようだ。
荒々しい自然に満たされた次元世界の存在であるオムナスは、途方も無く長い時を生きているだろうし、ただでさえ混乱している自分よりも冷静そうに見える。
「いや……そもそも此処は何処なんだ?」
自分は確か、久々に生まれ故郷である日本にある自宅で寝ていた筈だ。
数多の次元世界を何百年と渡り歩いてきたにも関わらず、元の世界である日本では自分がプレインズウォーカーとなったあの日から1週間しか経過していなかった事に驚いたし、家族に思いきり心配された事や、警察やら学校の先生に色々聞きだされたりした事も鮮明に覚えている。
だが、今はどういう訳か見知らぬ場所にいる。
プレインズウォーク、つまり簡単に言うなら異世界トリップを試みたのかと思ったが、自分がそれを行うには大掛かりな儀式を行わないといけないので、その線はありえない。
では誰かが誘拐して監禁したのかとも考えたが、呆れるほど平和なこの『地球』でそんな事ができる人間は存在しない。半端な暗殺者なら反射的に飛び起きて返り討ちにしている筈だし、なによりオムナスが此処に存在している時点で、此処は絶対に『地球』では無いという事が明らかである。
何度も周囲を観察してみても、伽藍洞になっている聖堂みたいな雰囲気の空間の中心に、自分が寝ていた石のベッドと、オムナスが座っている巨大な椅子があるだけだった。
もう少し詳細を知る為に、自分はそこらへんに転がっていた石片で床を叩いた。
コォーン、音が空間に広がり周囲の石壁と石柱に吸い込まれた。
もう一度叩いた。先ほどよりも強く、コォーンと大きな音が鳴った。音が消えていき、目を凝らして見ると今度は石とは材質の異なる物体である明かりとなりそうな燭台が見つかった。
最後にもう一回。音が三度広がると、自分とオムナス以外の生命反応は無しという事が分かった。
これでこの建物の構造は理解できた。その情報をまとめると、気付いた事がある。
自分は先ほど見知らぬ場所だと結論付けたが、構造を俯瞰して考えてみると、此処に来た事があるような気がしたのだ。
だけど、何故か上手く思い出すことができない。
いや、この石のベッドを見て思ったが、これはまるで棺のようであり、この場所も聖堂というよりはむしろ……
「霊廟に近い雰囲気がする」
(お。正解だよ、兄弟)
と、再びオムナスの声が脳内に響いてくる。
どうやら考えている事はお見通しのようだ。
(ここは『トーモッドの墓所』って呼ばれる場所らしいよ)
「トーモッドの墓所!? ……じゃあ、ここはドミナリアなのか?」
トーモッドの墓所というのは、次元世界ドミナリアにある(別の意味で)有名な観光地だ。
かつてはドミナリアでも数ある豪華な霊廟の一つと言われていたが、何度も墓荒らしの被害に遭って今では遺品はおろか、遺体すらも無くなっている寂れた場所だと聞かされていた場所なのだ。
実際に行ってみたら、確かに何も無いつまらない場所であったのをしっかり記憶している。
(ドミナリア? オムナスはドミナリアなんて、聞いたことないよ。兄弟は知っているの?)
「お前の生まれたゼンディカーとは異なる次元世界の一つだよ」
自分がそう教えると、オムナスは下側の双腕で腕組みをし、上側の腕で頬に手を当てるかのようなポーズをとった。
オムナスは頭が無いにも拘らず、妙に人間らしい仕草を取っている。
その事に自分は奇妙さを覚えた。
(……へぇ、じゃあやっぱり、『あの女神』の言った通り、ゼンディカーとは違う世界なんだ。此処は)
「待って、まって、マテ! 『あの女神』ってどういう事!? オムナス、お前の知っている事を全部話して!!」
ただでさえ混乱しているのに矢継ぎ早に新しい情報を放ったオムナスの言葉に、思わず自分は怒号を発した。
仮にもゼンディカーという次元世界の神とも言っても過言ではない強大な存在に対して無礼を承知での行動なのだが、そんな事は今のこの現状を説明する為ならば致し方ない事である。
しかし、そんな自分の剣幕に驚いたのか、オムナスは少したじろいでから口を開いた。
口は無いけど。
(お、おう……分かったよ兄弟。そんなムカ着火ファイヤーしないでくれよ。じゃあまず最初に、兄弟がどうして此処に召喚されたかを説明するよ―――)
と、オムナスは、自分が召喚された理由を話し始めようとした。
その時―――
ガゴォォォォォーーー……ン
大きな音が聞こえた。
遠くに見える大きな鉄製の扉が、太陽の光を携えて開かれようとしていた。
「……オムナス、説明は一旦後にしてくれ。侵入者だ」
(はあ、何だか初日から災難だなぁ、兄弟)
自分は身の危険を感じた。
どうして自分が『トーモッドの墓所』にいるのか、どうしてオムナスが自分のことを兄弟などと言って親しそうにしているのか、何もかも分からない中で色々と聞きたい事があったが、最も重要な事は、自分の身の安全を確保する事だ。
幸いにもオムナスが自分を襲ってくる心配はなさそうなので、今は扉を開けて入ってきた侵入者の問題に集中する事にした。
(兄弟。オムナスの考えが正しいなら、そこまで危険を感じる必要は無いと思うよ)
「それは自分の目と耳で判断するよ」
(んー、信じてくれないか、オムナス悲しくなるよ……)
「いや、そういう訳じゃないんだが」
流石に悲しませるのは自分の本意では無かったのか、自分の心の中で服についたシミのようにじわじわと罪悪感が広がっていくのを自分は俯瞰していた。
「心配してくれるのは嬉しいよ。いざとなったらお前を頼る」
(お、良いねえ。任された。それじゃあ自分は消灯モードに入っているよ)
「え、なに? 消灯モードって何……???」
また思考が疑問符で埋め尽くされる。
オムナスがそう言うと、オムナスの身体に流れるマナから光が消えていく。
光が失われていくと、オムナスから放たれていた重圧が感じられなくなり、まるでテコでも動かない巨大な硝子像となっていった。
それと同時に、静寂と暗闇がこの部屋全体を覆った。
(あ、それとオムナスの声は兄弟にしか聞こえないから、なにかアドバイスが欲しかったら言ってね。あ、心の中で念じるだけで良いからね、兄弟)
「あ、ああ、分かった。(……心で念じるって、こんな感じで良いのか?)」
(お、いいね。流石、兄弟は飲み込みが早いなあ)
「(うるさい。じゃあ自分が何か言うまで黙っててよ)」
自分にしか分からない念話の中で茶化しているオムナスを黙らせつつ、自分は石のベッドの陰に隠れた。
(さて、どんな奴が来るか……)
そんな事を呟いて自分は、腰に付けていた白い正十二面体を手に持った。
自分が《ライブラリーダイス》、長いので『ダイス』と呼んでいるそれは、自分がプレインズウォーカーとなった時からずっと傍にあった物である。
これが無ければ自分はとうの昔に野垂れ死んでいただろう。そういう意味でも命の次に、命と同じくらい大切な代物と言ってよかった。
「すー、はー、……よし」
深呼吸をする。
自分ははたしてこの知らない場所で何をするのだろうか、侵入者は私を殺しに来たのだろうか、もし殺しにきたのなら、殺さなければいけないし、話が通じるなら、穏便にやり過ごしたい。
どう転ぶにせよ、覚悟を決めておかなければならない。
自分は、決意を抱いてダイスを握りしめた。
刹那、自分の服装が家に居た時の身軽なそれではなくなり、冒険用の道具一式が入った小さな魔法の鞄を下げ、腰と背中に愛用の剣を1本ずつ携え、赤を基調としたエンバレスの鎧に包まれた状態となった。
自分が身につけている鎧には多少のアレンジが施されており、数々の次元世界を渡り歩いた事を証明する品々がそこかしこにあった。ゼンディカーで手に入れた《秘宝の護符/Relic Amulet》、カルドハイムで見つけた《複製する指輪/Replicating Ring》、その他にもイクサランやアルケヴィオスで手に入れた物が色々とあるが、それらを少しの間眺めていると、自分の中にあった不安などが薄れ、浮き立つ思いが泉のように湧き出てくるのを感じられた。
そうして着替えが終わった事を認識し、自分はダイスを腰のベルトの窪みにはめ込んだ。
「――。――……。」
「――…―。」
足音が聞こえ、声が聞こえる。
その音はそれぞれ靴の材質が異なる音をしており、およそ5人ほど。
石のベッドの陰から覗き見ると、確かに5人の人影が見えた。
自分の予想は的中していた。
向こうは自分の存在を確認できていないようだが、こちらも向こうの侵入者がどういう人物なのか、どういう装備なのか、どういうパーティー構成なのか、それはこの暗がりの中では上手く確認できない。
普段の自分なら、偵察用の《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》などを使って情報収集しようとするだろうが、自分はこうやってうだうだと考えを巡らしたり、予想外の事態に振り回されているこの状況に、そろそろウンザリしてきた。
よって、自分は一つの結論を出した。
「(プランBで行く事にした。)」
(あ、喋っていいの? じゃあプランBで行こうか。……それで、プランBって何?)
「(盛大な花火を打ち上げるんだよ。)」
ダイスに人差し指と中指を突っ込むと、指はキューブの中に潜り込んだ。
水の中に指を入れたかのような感触が伝わり、一つのカードを掬い上げる。
そのカードの中心には、『燃え滾る溶岩が弾丸となって空飛ぶドレイク達を撃ち落とそうとしている絵が描かれており、その絵の周辺には次元世界イコリアの文字が書かれていた』
自分はカードに自分の持つマナを少し注ぎ、自分の狙うべき目標を定め、唱えた。
そのカードの名前を―――。
「焼き尽くせ、《猛火の斉射/Blazing Volley》」
その墓所の中で、赤白い光が弾けた。
――――――――――
視点変更。
墓所の中に入った5人は驚愕した。
暗闇の中、奥深くまでいっても何も無さそうだと思っていた次の瞬間、暗闇の奥で突然の閃光が放たれた。正確には光はそれぞれ、しっちゃかめっちゃかな軌道を描いて室内のあちこちにぶつかっていたのだが、そのうちの一つがまるで猪のように真っ直ぐこちらに向かってきていた。
5人の内、この光が魔法的な物である事を瞬時に理解した1人の男が、咄嗟に前へ出る。
全員を守る為に、目の前の攻撃を防ぐ為に。
「ロイ!」
「ろ、ロイさん!?」
「全員、ワタシの傍を離れないように!」
ロイと呼ばれた赤いローブを纏った魔術師の男は、杖を前に掲げる。
僅かな詠唱を行い、目の前に半透明で丈夫そうな青い膜が彼らの目の前に広がった。
力場の障壁を生み出す防御の魔法、それが今起きている現象の正体であった。
そして5人全員は、光の発生源の正体を知る。
それは燃え盛る溶岩の塊であった。その塊は小石ほどの大きさの代物であったが、かなりの高熱で燃え盛っており、かなりの速度で障壁に激突した。幸いにも障壁にぶつかった溶岩はそれだけで、残りの溶岩は障壁を無視して墓所のあちこちにぶつかり散乱していった。
そしてしばらくすると、鋭い光の花火は終わりを迎え、墓所は静寂で満たされた。
ロイが障壁を消滅させると、周囲の惨上が明らかとなった。
いつのまにか墓所に点在していた篝火や燭台に火が灯されており、床の模様や理路整然と並んだ柱の姿、そして奥に鎮座している石棺と、頭の無い奇妙な巨人の座っている玉座が5人の目の前に姿を現した。
「わ、私じゃ全然反応できなかったのに……凄いでしゅ、す、すごいですロイさん」
「ああ。おっさん、結構すごい魔術師なんだな」
「はっはっは、モーティマ殿、シンディ殿、褒めても何も出ませんが、魔法の力は侮れないという事は分かっていただけましたかな?」
「俺達を守ってくれてありがとう、ロイ。……しかし、今のは一体何だったんだ」
前髪で目が隠れたどことなく気品さを感じる青年は、頭をかきながら周囲の惨状を観察していた。
先程の魔法による影響か、周囲の石床の部分にところどころ高熱を帯びた溶岩が転がっている。
これを見て5人は息を呑んだ。
仮に、今の魔法を直接受けていたらどうなっていたか……。
そんな風に5人が想像した瞬間――
「興味深い魔法だ」
5人の目の前、石棺のある場所から一人の男の声が聞こえた。
石棺の陰から勢いよく何かの影が空を飛び、5人の目の前に着地した。
5人はその影の正体を見た。一人の男だ、鎧をまとった男が一人そこに立っていた。
それは何処かの国に属する騎士のようであり、放浪を繰り返してきた冒険者のようにも見え、熟練の魔術師のようにも見えた。
その男の放つ威圧感はこの場にいる誰よりも大きく、鎧は赤を基調とした独特のデザインをしており、腰には小さな鞄と1本の剣が、背中には大きな両手剣を背負っていた。
その男は5人を値踏みするような目で見ていたが、5人もまた男をまじまじと見ていたのであった。
「今の魔法は象形織りのそれか……? いや、秘術の防壁といった方がいいな。見た目のわりに『青系統の魔法』を扱えるとは、熟練の魔術師なのだな」
目の前の男はブツブツと独り言を呟いている。
主に前髪で目が隠れた青年に視線を向けて。
「随分とバランスの良さそうなパーティー構成だな。だが冒険者にしては鎧やローブの意匠が細かい、何処の国のそれとも違うな。ベナリアではないな確実に、ではドミナリアという線は無い、と。エルドレインのそれとも違うし、水晶の装飾も無いからイコリアでもない。強いて言うならウォーター・ディープ製の物か、だとしたら此処はフォーゴトンレルムなのか……?」
そんな中、5人のうちの1人の男が、この状況を変える為に口火を切った。
「誰だ、テメェは!!」
5人の中で最も年老いている、白い髪に白い髭をたっぷりたくわえた野性的な男が叫ぶと、背中に背負っていた大斧を構えた。
白い髭はライオンのタテガミのように広く、彼が歴戦の勇士である事を証明するかのようでもあった。
「も、モーティマさん!? 武器をしまってください! 私達は争いに来たんじゃないんですよ!」
「うるせぇシンディ! いきなりこっちを攻撃してきた奴の事なんて信用できるか!」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
シンディと呼ばれた金色の髪の少女は、モーティマという白髭の男の放つ威圧感に当てられて二の句が継げなかった。
「モーティマさん、私からもお願いいたします。おそらくこの人こそ、女神アイギス様のおっしゃられていた方で間違いないと思いますので」
「モーティマ、俺からも頼むよ。武器をしまってはくれないか?」
そんな一瞬の沈黙を察したかのように、白い髪の女性とその隣に居た前髪で目が隠れた青年が口を開いた。
モーティマはぐぬぬ、と唸りを上げると、その手に持っていた大斧を背中に背負い直した。
「……まぁ、雇い主のおめぇさん達の意見は聞き入れねぇとな」
「ああ、ありがとうモーティマ、堪えてくれて」
「ありがとうございます! モーティマさん」
「ふん!」
モーティマがそっぽを向くと、シンディはホッとため息をついた。
山賊のような男が武器をしまい、全員がこの場の空気が少しだけ緩んだのを感じた。
「どうやら、戦う必要は無い。……と見ていいのだろうか?」
謎めいた赤い鎧の男が、口を開く。
――――――――――
視点変更。
多少のゴタゴタがあったが、何とか目の前にいる5人との戦闘にならずにすんで良かった。
自分の唱えた魔法は、この部屋を明るくするために燭台などに狙いを定めた筈だったのに、その一部がこの集団目掛けて飛んできた時は「あ、やっべ」と思った。
だが、赤いローブの魔術師おじさんが咄嗟に防御してくれて事なきを得たのは、幸運であった。
カッとなってやったが、反省はしていない。そもそもこんな所にずけずけと侵入するのが悪いのだから、自分は悪くない。
……などと心の中で言い訳をしていると、先ほど自分が発した言葉の返答が帰ってきた。
「ああ、俺達に戦闘の意思は無い。まず最初に、勝手にあなたの墓所に許可無く入って申し訳ない、トーモッド殿」
前髪で目が隠れた青年は、自分の見立てではこの集団の中で異彩を放っていると言ってよかった。
装備している鎧や、腰に差している剣の装飾を見てもそれは明らかだろう。
(トーモッド? 兄弟はそんな名前じゃあなかったよね。……はっ、改名したのか? 自力で改名を? トーモッド!)
「(自分はトーモッドではない。というか自力で改名ってどういう意味なの)」
そしてそんな彼は、自分の事をトーモッドと思っているようだ。
これは早々に誤解を解かないと後で困る。
「いや、自分は、ああ違う、俺はトーモッドではない。……何故、俺がトーモッドだと思ったんだ?」
「えっ、違うのか?」
「ああ、違う」
この青年がトーモッドだと勘違いしているのは、この墓所の入り口付近に『トーモッドの墓所』みたいな表札のような物があるからなのではないかと、自分は推測してみた。
「ですが、この建物の傍に掲げられていた銘板には、たしかに『トーモッドの墓所』と書かれていましたよ? そうでしたよね、王子?」
「ああ、アンナ。見たことのない大きな建物だったから、よく覚えている」
青年、「王子」と呼ばれた男のすぐ隣にいた白い髪の女性、アンナという名前らしい人物はそう答え、自分の推測が当たっていた事が分かり安心した。
此処は間違いなく、『トーモッドの墓所』のようだ。
『トーモッドの墓所』ではあるが、目の前の集団からはドミナリアの人間らしさを感じない、あまりにも奇妙である。
「ああ、あと変な立て札があったな」
「変な立て札?」
よく分からない追加情報が山賊みたいな白髭の男の口から飛んできた。確か、モーティマと呼ばれていた。変な立て札とは一体何の事だろうか? 自分がかつてドミナリアに居た時に墓所を訪れた事はあったが、そこまで変なものは無かった筈だ。
「確か、木の板が乱雑に打ち付けられてて、そこに『墓荒らしお断り!』とか『盗むなよ、絶対盗むなよ!?』とか『盗むなっつってんだろ野郎オブクラッシャァァァ!!!』とか書かれてましたな」
「うん、……うん???」
(なんか何処かで聞いた事のある台詞だね、兄弟)
「ろ、ロイさん。そ、そんな真顔であの立て札に書かれてた事を言うのはちょっと、プッ、フフ……」
どうやらローブのおじさんはロイという名前らしい。
真顔で変な台詞を言ったのがツボに入ったのか、金色の髪の少女、たしかシンディと呼ばれていたその少女が必死に笑いをこらえている。
「……何でそんな妙ちきりんな物があるんだ? 何なんだ一体、外はどうなっているんだ?」
思わず頭を抱えてしまう、自分はもう何がなんだか分からなくなってしまっていた。
目が覚めたら『トーモッドの墓所』にいるし、オムナスが気楽に話しかけてくるし、正体不明の集団がやってくるし、外は何か変な事になっている。
まるでギャグ時空の次元世界にいつの間にかプレインズウォークしてしまったかのような経験をしているかのようであった。
そんな世界にいままで行った事は無いけれど。
「と、とりあえずお互い自己紹介と情報交換をしてみませんか? そうすれば、きっと何か分かるかもしれませんよ?」
「ああ、そうだな。頼む」
《猛火の斉射/Blazing Volley》によって消費したマナが再び体に充填されていくのを感じながら、自分はそう答えた。
(兄弟、大丈夫? オムナスのからだでも揉む?)
「はぁ……(おまえちょっと黙れ……)」
そんなに体を動かしていないのに、自分は妙な気疲れが体中にのしかかっている現状に溜息をついた。
(やぁ! 後書き担当のオムナスだよ。
まずは最後まで見てくれてありがとう。兄弟や作者もきっと涙を流して喜んでいるに違いないよ。……いや、作者はともかく兄弟は流石にデッ●●ールみたいに第四の壁を突破できないから、兄弟は喜べないかもね。そこはオムナス、少し悲しいなあ。あ、面白かったらお気に入り登録とかしてくれると嬉しいな。それじゃあ短いけれど、またね!)