人は死ぬ。死んだら生き返らなくて、でも人は死に続ける。生きていたら死ぬしかないのに死んでも生き返れない。
当たり前のことだ。だけど、とてつもなくひどいことに思ってしまう。
母さんは昔から身体弱くて、僕と双子の兄のレィルを産んでからすぐに亡くなってしまった。
父さんは三年前、原因不明の病に倒れて急死した。
レィルは母さんの身体の弱さが遺伝して歳を重ねるごとに弱っていって去年、息を引き取った。
体弱いのも、病にかかったのにも理由はない。悪いことなんてしてない。なのに、なのに。おかしい。変だ。こんなの殺されたみたいなものだ。死のうと思って死んだわけじゃないのに死んだんだから。
それに、それならなんで僕はなんで生きてるんだろう。家族はみんな死んだのに。なら僕も、殺してくれれば良かったのに。
だから僕は死のうと思った。だけどできなかった。
怖かった。手を切っただけでもあんなに痛いのに、死のうとしたらどれだけ痛いのかと想像するだけで耐えられない。それで、生きている。
でもそれでどうなるんだろ。長く生きればそれだけたくさん何かが死ぬのを見るのが増えて死にたくなるだけで、それなら死ぬのは早い方がいいんじゃないかって思う。
暮らしている街全体の営みはほとんど変わっていない。僕の生活も変わっていないことは多い。ただ抜け落ちていった。今やっていることは昔からやっていることだ。そこからレィルの看病や父さんとの仕事を見に行ったりとかそういう時間がなくなった。暇になった。特にレィルの看病は何年もの習慣になっていたからその時間になるといつも毎日思い出す。その度に苦しくなる。これまでの十二年の記憶の分だけたくさん。これはきっと生きている間ずっと消えない。
ああ、苦しい。
朝だ。誰もいない家を出て、空を見上げる。都市の外側を埋めるように空に舞う青い砂の先に朝日が上がっていた。
「よー、リィル! おはよ!」
背中に聞き慣れた声がぶつかる。振り返ると友達のデリカがいた。
「デリカ、おはよー」
この街はちっちゃいから年の近い子は少ない。だけど彼は同い年だったから昔っから双子の兄のレィルと三人でよく遊んでた。
「お前アレ見にったか? あっちのデッカイ武器!」
「なにそれ?」
「なんかすんごいヤツがこの国に向かってきてるって話、大人たちがしてたろ」
「そうだっけ」
そういえば近頃なんだかやけに騒がしかったたような気もする。····というか、すごいヤツって誰?
「そーだぜ、んでそいつ倒すために国が色々雇ってるんだって言ってた。それで来たやつが持ってきたんだよ。ほーら朝礼まで時間あるんだしちょっと見てこーぜ!」
デリカがこっちの手を掴んで走り出した。
引っ張られながら走り続けていると街の南の端っこに着いていた。その少し遠くには確かにとても大きな機械があった。僕の身長の十倍くらいありそう。
筒のついたその機械のところには知らない怖い顔の大人が二人いる。二人の顔はよく似ていた。兄弟なのかな。もしかしたら僕とレィルと同じで双子なのかも。だったらうらやましいな。
近くには大人たちが集まっていて周りを見張っていた。もっと近くには行けなそう。
「スッゲェだろ!」
とても楽しそうにそれを見ているデリカの反応に僕も少し嬉しくなった。
「うん、すごいね」
デリカはこういうのに詳しい。別の街から本とか手に入れて勉強している。夢は機械技師って言ってた。この街にはあんな機械を作れるような場所はないからこの街を出るんだって言ってたっけ。
「また来たのね、デリカ。リィルまで連れてきて。危ないから近づいちゃダメって言ったわよね」
左の方から声がした。この声はルーデのだ。僕たちより一歳年が上の人で昔からよく世話になってる面倒見のいい人だ。
「なーらルーデはどうなんだよ」
「家がすぐそこなんだからどうもなにもないでしょ」
「ぐぐっ」
デリカが歯噛みしてる。互いの家の場所ぐらいとっく知ってるし反論とかできない。それでも言い返そうとしてるみたいで口をパクパクさせてるけどなにも思いついてなさそう。
「おはよー」
「ええ、おはよう。こんな朝早くから端から端まで連れてこられて災難だったわね、リィル。嫌なら嫌って言いなさいよ?」
「僕も楽しいから大丈夫」
「そう? それなら良···くはないわね。これからは近づかないようにするのよ。あなたも」
「はーい」
そんな会話の傍らでデリカは巨大装置を見ながら唸り声を上げていた。
「ぐぉぉ、俺も家近かったらいつでも見れたってのに、というかあそこの奴らに色々聞きてー」
「危ないこと考えないの。ほら、朝礼始まるわよ」
ルーデが歩いていった。方向はこの街の真ん中にある教会の方。朝礼に遅れると怒られるので急がないと。
「デリカー、遅くなったら怒られちゃうよー」
「はいよぉ」
朝礼っていうのは街の真ん中にある教会で毎朝やることでみんなで集まって星に祈る。
教会の前に来た。僕とかみんなの家より大きい。でもみんなが集まるとちょっと狭い。
中に入るともうほとんどの人が集まっている。残りの人も続々と集まってきて、
さっきも言ったけど、この祈りは僕たちが立ってる星へのものなんだ。空の先にはずっと夜が続いている宇宙ってところに繋がってる。なんでも遠い昔にその宇宙が攻撃してきて大陸が危なくなったことがあったらしい。だから、もうそんなことにならないように星に守ってもらうためのお願いをしてる。
母さんは僕たちが生まれてすぐに亡くなったからできなかったけど父さんが倒れたときもレィルが弱っていったときも星に祈ってみたけどなにも変わらなかった。宇宙からのことなら守ってくれるのかな。想像できない。
統星暦1385年
空間安定度∶75.3%
領域区分∶警戒域
視界を満たす黒と少しの閉塞感、ここには他者の目も喧騒もない。どこまでも穏やかでどこまでも停滞している。ここは地中だった。
だが、息苦しさはない。押し潰される感触もない。周りを覆う砂々と一体になっていた。肉体も、魂さえ大地の一部として溶け合うような感覚があり、逆に安心感すら覚えてしまう。このまま沈んで朽ちていけばこの安心は永遠の安寧になるんだろう。ならば、それは絶対に選べない。やらなければならないことがある。
復讐だ。俺の故郷を滅ぼした奴らを殺す。
俺の名前はゼイリス・ストラル、賞金首を捕らえるなり貼り出された依頼をこなすなどして生計を立てている。
今はとある依頼をこなすために動いているところだ。今回の依頼は規模がデカい。依頼主はなんと国だ。水麗昌国スイルレイヴェル、この星には全てで七つの大陸があるがその内のアルヴァノイド大陸における
100年ほど前にあの異変が起こってからは一国が抜きん出た状態になったが大国は大国だ。この依頼にはとんでもない額の報酬が提示されている。
それだけの額を動かしてスイルレイヴェルが潰そうとしているのは白衣の男と呼ばれる一人の人間だ。もちろん一つの国が狙うだけあってただの人間じゃない。よく名の知れた存在だ。
白衣の男、そのやけに簡素な呼称の通り白い服を着ている野郎で他に分かっていることは屍のような顔をした男であるということ。それ以外はほぼ不明。なぜ名が知れているのかと言えばそいつが現れた街や都市は決まって騒動や災害に見舞われるからだ。その規模は大小様々だがモノによればそれが国家崩壊の発端となったケースすら存在する。
存在を認識されてもう二十年を越えているがその法則は崩れていない。追う人間もいたがヤツは突如現れ、突如消える。直接見た者ですら後を追えない。気づくと姿を見失っている。今まで誰もその尾を踏めていない。
しかし、スイルレイヴェルが撒いた依頼はその討滅。これからスイルレイヴェルへ到来する白衣の死人を殺すことを求めた。動向を掴んでいるのか、別の意図を持った企みによる釣りか。後者なら白衣の死人を超えるの適任は多いため前者の方があり得るがそんなことが可能なのか。何にせよ確かめる術はない。
だが、真偽はどうでもいい。その可能性が転がった時点で請けることを決めていた。
俺は過去に一度だけあいつをこの目で見たことがある。七年前の
あの件の原因を探っても死者が多すぎて情報が少ない。首謀者とされる男も騒動の内に死に失せた。白衣の男は何かを知っているかもしれない。実際に関わっていた可能性すらある。知っているなら吐かせる。関係しているなら殺す。関係者は皆殺しだ。
あの日、あの場所で見た存在である以上、必ず一度は会っておかなければならなかった。
そして、見つけた。スイルレイヴェル南方の青い砂漠を歩いているのを発見した。情報は確かだったらしい。こうも簡単に事が運ぶとは思わなかったが確かにあの日に見た姿と一致している。間違いない。
ならば、逃げられる訳にはいかない。気付かれないよう近づかなければならない。そして今の俺の身体はそれを可能としている。
それが大地との同化。さっきから行なっているアレだ。
この身体は人の形こそしているが中身はかなり変わっている。見てくれもミイラのようになっていて四肢も枯れ木のようなっている。顔には元の顔の面影すらない。肉体のほとんどは変わってしまった。しかし、これでも受けた傷を思えばよく残っている方ではある。
故郷が滅びた日の騒動で故郷の人々と共に死にかけた。手足は千切れ飛んで胴は裂けて血みどろになってよく生き延びたと思う。拾い上げた奴が違えば死んでいる傷だった。それで色々あってこうなった訳だ。
今の身体を動かすのは星樹の砂という星の底から祝福を大量に吸った物質で生命活動に必要なエネルギーは交換こそ要るが長時間それだけで賄える。
呼吸も要らず潜り続けられる。これは不意打ちにとても役立つ。今までも何度か使ってきたが破られたことはない。
これを使って接近して行動不能にして持って帰ればいい。気づかれていない今、不意を打てば達成できる。依頼の殺しは情報を吸い上げてから行えば完了だ。
もう少し近づけば·····
砂の僅かな振動から空間を把握し、白衣の男の真下につけようする寸前で大地が揺れた。
振動が加速度的に大きくなる。巨大物体が高速接近しているようなそんな現象、その原因は明白だった。
オーシュデザか。なぜ今····
この一帯の地底に生息する生物種だ。異常発達した頭蓋骨とそれを覆う装甲のように分厚い表皮で砂の中を泳ぐように渡る平均全長が8メートルに及ぶ巨大魚。超高音波による空間把握で動く物体を見つけては喰らいにかかる。なんの対策せずにここらで歩いていれば起こることではあるがそれにしたって間が悪い。
同化状態にあればオーシュデザが俺に気づくことはない。目的は上の白衣の男だろう。取り敢えず距離を取るか。同化していてもぶつかるものはぶつかる。それに白衣の男もオーシュデザを潰すために何かするはずだ。巻き込まれたくはない。
そうして離れている間にもう二者間の距離はかなり縮まっていた。だというのに白衣の男は動かない。その気配すらない。
どういう方法で対処するつもりだ?
そして、一際大きい衝撃が来た。ヤツが行動を起こさないままにオーシュデザは地表に到達した。
勢いのまま空へ打ち上がったオーシュデザが地面へ戻って来る。何も変わった様子はない。変わりなく動いている。地表を泳いで、また地底へと潜るための加速を行なっているのが揺れでわかる。まるで既に目的を果たしたかのような動向だった。
まさか、いやそんな····
白衣の男の足音がない。
食われた、のか? いや、あり得ない。あんなのに食われるはずがない。その程度ならとっく死んでいる。何かしらの手は打っている、はずだ。
喰われたにしろ、喰われていないにしろ聞こえない以上は肉眼で状態を把握するしかない。
恐る恐る砂面から顔を出す。時間帯は昼で天気は晴れ。雲一つない青空が広がっていた。風が吹き付け砂漠の青い砂々が巻き上げられているものの見間違いようがないほど景色は見えている。だというのにいない。どこを見ても視界に人間の姿は映らなかった。辺りを過ぎるオーシュデザがいるだけで———
パス、と空気が抜けたような音と同時に赤い何かが飛び散るのを視界の端で捉えた。音がしたのはあの巨大魚の方向で、よく見ると体表に刺突されたような痕ができている。
その痕の周辺を舞っていた砂が消えた。
なんだ?
消失は止まらない。砂塵を消して生まれた空洞は真っ直ぐこちらに進んで、
「ッッ!!」
仰向けに倒れ込む。頭上を過ぎる空洞、何かが空を切るのが聞こえた。
空洞は維持されている。間近で見ると舞う砂が弾かれているのが分かった。消えたのではなく押し出されていたのだ。おそらく透明な物体によって。
さらに透明が動く。
しかしその方向は地面と水平だった。透明が視界から遠ざかる。オーシュデザの内側のどこかを起点に減衰なく輪を描くように回った。
そして再び頭上に戻って来る。だが直後に空洞に砂が混じり始めて消えた。
視線が透明の始点へ向かう。オーシュデザの肉体には中心から横一直線に斬られたような痕があった。
時間と共に地面に接する下半部と空に面する上半部が少しずつズレていく。上は前に、下は後ろに。完全に両断されていた。剥き出しになりつつある断面から噴き出す血が地面を濡らす。
残っている慣性で未だ止まらない死体の上部が不自然に蠢く。何かの起こりを警戒して同化を段階的に解除しながら全身を引き上げた。
思考を持たない物質に近づこうとする同化では動作がかなり遅くなる。相手に気付かれている可能性が高い今の状態で使える手ではない。
蠢きは増し、外皮が内圧が爆発的に上がったように膨らんで上へと弾け飛んだ。
「!!」
そして晒された下半部の断面から何かが飛び出す。血を撒き散らしながら出てきたそれは臓物に塗れた、砂の塊だった。
ゆらり、ゆらりと向かってくる。進む度に砂は落ちて、中身が顕になる。白を通り越して青い肌、身を包む白衣。目的の男がそこにはいた。右手には大型の箱形の装置、左手には短剣を手にしている。
「この程度の余興しか用意できなくてすまないね。襲撃者君」
背後の死体を流し見ながらそんなことを宣う男。その右手の箱には覚えがあった。
「趣向を凝らしたかったのだがね、生憎今は手持ちがないんだ」
ならば左手の短剣はオーシュデザを両断した透明の源である可能性が高い。あのような小さな構造から出る威力じゃないが思い当たる可能性はあった。
対する俺の武器は剣一振り。同化の際は複雑な構造の物体は持ち運べない。昔は全裸でなければ使えなかったことを考慮すれば薄手で無地とはいえ服を着れて武器を持てるのは感動的だが心許ない。
「遊んでるつもりか?」
「勿論。見え透いた尾行と強襲、私がこれを地面に突き立てるだけで君の未来は尽きていた。遊びでもせねば続けられんよ。生きている時間に可能性は生まれるものだ。殺して終わりではつまらんだろう」
左手の掌の上で短剣を転がせながら言う。
やはり、認識されていた。しかも潜伏の段階で。あいつはいつでも殺せた上で見逃していて、そのことに俺は気づきもしなかった。だがそれだと····
「オーシュデザから飛んできたアレは頭を狙っていたぞ」
直撃すれば死んでいた。
「君の性能で避けられないはずがないだろう」
当たり前を説くような声色で言った。
俺の底を知っているような口振りだ。武器の面から見ても圧倒的に不利で相手の底は知れぬまま。だが、勝たなければならない。
そして、戦う前に訊いておくことがある。俺の目的は知って殺すこと。白衣の男は言葉に応じた。ならばヒルムベリアスの真相について聞いておくのが先だ。答えるとも思えないが。
「そうかよ。まあいい、一つ質問だ。ヒルムベリアスを覚えているか」
「ほう、懐かしい名前だ。覚えているとも」
「あの国が滅びた要因について知っているか」
「そうかそうか、君はアレの生き残りか。あの災禍からよく命を拾ったものだ。その枯れ木のような身からして無事とは行かなかったようだが」
顔や服から出た手を見て、愉しげにしている白衣の男は質問に答えない。
「知っているのか、話せ」
「故郷でも焼かれたのだろう。命からがら生き延びて、今は復讐を遂げるための矛先を探している、といったところかな」
もう一度促すがまた無視。
「だから」
「知っている。全てな」
「····! ならば」
「教えんぞ。種明かしは最後にするから価値がある」
教えろ、と紡ぐより先に否定が遮った。理由はくだらない拘り。
「どうでもいい。早く吐け」
吐き捨てると男は呆れた様子で首を振った。
「それでは風情がないだろう。もう明かさんよ。どうしても情報が欲しいというのなら、私を倒して吐かせる他ないな。さて、質問は終わりかな?」
「ああ」
その情報が得られないのなら他のものはどうでもいい。あとは勝つだけ。勝たなければ何も始まらない。
言葉が空に溶けるより前には既に一歩踏み込んでいた。振りかぶる、前に進む。そして思い切り左に避ける。真正面からの分かりやすい攻撃に対応しないはずがない。
「ふふ」
直後、男の足元の周辺が爆発した。そして雨のように砂が降る。
「良いぞ、よく避けた」
今のは青砂操舵機による事象だろうな。青の砂粒たちを地から空へ弾丸並みの速度で打ち上げて、それが爆発に見えた。
この大地でのあの装置は言うなれば無反動かつ残弾無限の火器だ。身体強度が大きく上がっている今の肉体でもまとも当たれば死ぬ。しかし、大きさから見て機能も大して多くない、作用範囲も狭いはず。どこかに必ず隙はある。
だが、あの青い砂の動きをまるで知覚できなかった。起こりを見て避けるのは不可能か···
星樹の砂から引き出される莫大な力を脚へと集めて地を蹴る。視界が高速で流れる。瞬く間に背後に付いてから、さらに二歩で男の左から正面へ回り込む。こちらの動きを見るために流れたヤツの視線はこの速度にまるで追いついていない。
剣で青砂操舵機目掛けて突きを繰り出した。
周囲の砂を打ち上げる攻撃は方向こそ全方位だが範囲はやはり狭く、剣の刀身の長さで足りる。今から起こしても距離的に破壊はできる。剣が砕けても問題ない。あの透明はオーシュデザを両断した。あれだけの威力をこの剣では発揮できない。かち合ってもどのみち折れる。
そして、直進する刀身は操舵機をすり抜けた。
「な!?」
「壊させる訳にはいかないな。君が干渉するには過ぎた代物だ」
急いで距離を取りつつ、的を絞らせないように動き続ける。
何だ今のは、何が起こった。まさか——
「幻覚ではないぞ。私は確かにここにいる。この機器もな」
こちらの疑問を予期してか、男は言った。
「ならば何故——!?」
男の短剣の刀身に沿って直線上に舞う砂が消えていく。生成されているであろう透明の刀身が景色の先まで伸びていった。それをまるで重さを感じさせない軽やかさで横薙ぎに振るう。
空に刻まれる軌跡を頼りにその下を潜り避ける。
「自らの頭を使って考えよ。過去には何人か暴いた者もいたが君はどうかな?」
さらに振るわれる短剣とその動きに応じる透明をさらに三度避ける。
「クソッ」
「それにしても鈍いな。君の身体の限界はその程度ではないだろうにこの速さの剣撃に窮するとは、身体と頭に絶望的な性能差があるらしい。とはいえ、その肉体もかなり雑な造りだがね」
透明を避けながら前へと踏み込み、瞬間的に引き出せるエネルギーの最大量を集約させて透明の噴出点である短剣目掛けて一閃する。
当たらない。
「残念、速さではないよ。ふむ、ここまでかな」
「何が」
「無論、この遊びが。底が割れたのだから、長引かせる必要もないだろう?」
瞬間、音がした。空間に染み渡るような深い音だった。薄っすらと視界が青みがかる。周りの砂とは違う、宇宙のような黒さを覗かせる青色が景色を濡らす。
そして、大地が揺れる。オーシュデザの接近とは様子が違った。
「!??」
足元に違和感がする。下を見ると足が地中に沈んでいた。同化はしていない。地面がひとりでに泥のように変化していた。
「何をした!?」
足が沈んでいく。同化が利かない。脚を引き抜こうとしても鋼鉄に全身を固められているかのように動かない。沈む事は出来ても、上がれない。
男はそんな大地で変わりなく立っていた。
「ではね。また会うときはもう少し研鑽を積んでおくように」
言うと背を向けて歩いていく。
「待て!!」
遠ざかる姿に向かって叫ぶが振り返りもしない。
沈めば、それだけ身体を動かせなくなっていく。星樹の砂から引き摺り出した大量のエネルギーを叩き込んで蹴りを放とうとするがびくともしない。そして、身動きが取れないまま全身が完全に底へと沈んだ。
空間安定度∶75.1%
領域区分∶警戒域
僕の身長よりもはるかに大きい四角い箱が目の前にある。
これが僕の仕事道具だ。初めて触ったのは九歳のとき、四角いの中には操作盤があってそれ動かせば下の青い砂を操れる。だけどその操作盤には気が遠くなるくらいにはボタンとかたっくさんあってその時は使える気しなかった。
でももう僕は十二歳、三年もあれば結構使えるようになった。これで下を泳いでるオーシュデザを砂をガチって固めて動けなくして捕まえたり、僕たちを食べよーと上がってくるオーシュデザを追い返したりする。そして、捕まえたオーシュデザは食べる。オーシュデザはこの街で一番得やすい食料だったりする。
仕事もこれだけじゃなくって教会での仕事だったり、他の街との交流担当とかもある。それにこーいう装置を使うにしても街に砂が降ってこないように弾く方の管理とかもあったりする。あれがなかったら街が砂まみれになるからね。
たくさんあるけど、そんな中からこれを選んだのは父さんがやっていたから。父さんが倒れたのは就いてすぐだったから教わるってことはあんまりなかったけど選ぶって言ったときは喜んでくれて嬉しかったなぁ。その頃はまだレィルもちょっと元気だったし。懐かしい。
今は深夜だし仕事をしに来たわけじゃないんだけど、なんか目が覚めて夜風を浴びに外へ出たらいつの間にかここまで来てた。教会とここには毎日通ってるしなにも考えてないと体が勝手に向かうように覚えているのかな。
やっぱり———
耳をつんざくような音がした。
「え?」
生まれて初めて聞くぐらいに大きな音で、呆気にとられる。多分これってデリカに聞いたことがあるなにかが爆発する音ってヤツだ。
ゆっくりとその方を見ると赤いなにかが立ち昇っていた。確かあそこは朝にデリカと見た機械があった方。
「火だ」
そう、あの赤いのって火だ。あんなに高くまで昇ってるの見たことない。
ぼんやりとその火に向かって歩き出した。
逃げた方がいい。家に戻った方がいい。そうも思ったけどなんだかとても惹かれた。あれだけ大きな火があればなにができるんだろう、と。黒を赤が直線に立ち昇ってる幻想的な景色のせいか、まだ寝ぼけてるからかなんだかいつもより恐怖が薄い。これなら····
ついた。やっぱり燃えてるのはあの大きい機械だった。怖い顔の二人は倒れてる。血が流れていた。火の近くにいるから姿はよく見える。やっぱりよく似た顔をしていた。火元へ向かう足が止まる。
「クソッ、クソぉ····なんで通らねえんだ···」
倒れた片方にはまだ意識があるみたいでゆっくりと顔を持ち上げると喋った。
「いやはや、なんとも無駄の多い武器だ。大きければいいというものではないのだが·····ん?」
「なんで、こんなとこに····!」
その視線の先には一人、知らない人がいた。白い服を着てる。その人と目が合った。倒れてる二人とは違った怖い顔をしていた。火に照らされて見える肌の色は青っぽくって少し痩せている。血の気の引いたその感じがレィルや父さんの死体を思い出させる。死んでるみたいなのに生きている。その不自然な在り方に少しだけ腹が立った。
その感情に突き動かされて白い服の人と二人の間に割って入る。
「なにやっ、てんだ···離れろ!」
困惑の混じる片割れの声。逃げるように言っている。
「お前がこの人たちをこんなにしたの?誰だか知らないけどどっか行ってよ」
でも、どけない。いつもだったら逃げてたと思うけど今ならちょっと怖くない。兄弟みたいな二人を放って帰るとかできない。だから、どかない。
「君はこの街の人間だね。ふむ」
「····」
答えずにジッと目を見つめてくる。 死体のような顔をしているが瞳はギラギラと輝いていた。気味悪い。
「ほほう、丁度いいな。ほら」
「えっ」
白い服の人が突然なにかを僕に投げた。とっさに受け取って見てみると大きな箱だった。よく見るとボタンが付いていてなんだか見覚えがあるような····
「これからそれは君の武器だ。そして、私と来てもらう」
「? いきなりどういう——!?」
いつの間にか白い服の人が目の前にいた。さっきはもっと距離があったのに。前後の流れが繋がらない。過程が抜けているような不自然な挙動に見えた。
「それでは少し調整を施そう」
頭の上に空いた右掌が置かれていた。
「っ———」
すると、途端に意識が遠のいていく。強く保とうとしてもできない。景色が暗く———