怪獣娘トロピカルアイランド開拓記   作:照喜名 是空

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『王様』

それから……宴をして、マレーシアの民謡とか日本の流行歌とか歌いまくったら、まあそこそこ受け入れられたよ。

1月くらいかな……アビス倒す、アビス焼いて食う、アビス倒す、焼いて食うって毎日を繰り返した。

リスナーちゃんは村に慣れて多少図太くなってたけど、だいぶストレスありそうだった。

そろそろ限界だな……休みを取って、海に行こうかな。

いや、港ごと取り返せばよくねえか?と思ってたある夜。

 

レオンが来た。

 

「やあ、大丈夫か?昨日も今日もアビス狩りだからな……」

「ああ、その件だよ。アビスもだいぶ減ったし、港を取り戻さない?海いきてえよ……」

 

ジャングルの夜だ。訳の分からねえ鳥やら猿やらの声がキイキイやかましい。

空気だけはきれいだし、星もきれいだけど、森に囲まれて空が狭い。

レオンは少し意外そうに驚いたのち、しばらく考えた。

 

「……そうだな、それも一つの手だ。だが俺一人では決められない。ほかの村の存在はもう話したかな?」

「あー……ここだけじゃないんだっけ。いくつあんの?」

そう、避難村はどうもここだけじゃないらしい。

ほかの村と交易してるって話をどこかで聞いた。

 

「サワラク州とサパ州でおよそ50という所らしい。多少は『増減』するからな……」

 

けっこう多くない村!?

ていうか、やっぱ時々減ってるんだ……たぶんアビスに襲われて全滅してんだな。

 

「じゃあもう一個増えてもよくない?」

「それが難しいんだ。一つの村はおよそ200人くらいにするようにしている。膨れ過ぎず、減りすぎずだ。250人を超えた場合、ほかの村にも声をかけて分村して新しい村を開拓している」

 

てことは結構増えてんだな、人間……すごくない?

このアビスだらけで農作もままならない状況ですげえ勢いで増えてない?

200人かける50でだいたい1万人か。結構生き残ってんなー。

一つの街200人か。人数のわりに町が小さくない?いや、この人数なんか聞き覚えあるぞ。

 

「……『ダンバー数』か!人間って200人以上は顔覚えられねえんだろ」

 

たしか……人間が個々人を判別できる限界の数、だったかな?

レオンは感心した様子でうなずいた。

 

「君の育て親は博識だったらしいね。そうだ、生き延びるためには村の全員が顔見知りである必要がある。『他人』を作っては団結できないんだ」

「……それってすんげえ強い統制だけど、誰かいんの、リーダー的なのが」

 

村の人数を指定するって鉄の掟じゃん……居住の自由ないじゃん。

それは相当強い統制ができる『政府』があるってことだ。

 

王様(ラジャン)の案ならみんな飲むさ」

「王族生き残ってたのかよ……でもこっちで王様ってスルタンっていうんじゃないっけ」

「本当の王族じゃないよ。将校の生き残りで、名前が(ウォン)だから、冗談でそう呼んでるだけさ。本人は……まあ、いつも困った顔してるけどね」

 

苦労してんだろうなあ……だって世界からはもう壊滅してるって見なされてる島だもの。

輸入できねえんだろ?『人口調整』いるわそりゃ。

場合によってはろくでなしを集めて開拓と称して死地に送るのもまあ必要だろ。開拓村が増減してるのってそういうことじゃない?

胃が痛くなりそう。

 

「じゃあその王様の許可がいるってわけか。いつ会える?てか伝手があんなら連絡できない?」

「それが明日来るんだ」

「そういうことはもうちょっと前に言おうよ!?」

 

うーわ、無線とかで逐一様子を連絡されてたんだろうな……

で、一か月監視して共存していけそうだと。

そう判断されたって事か……?

 

「じゃあ、あたしらは『合格』ってことでいいのか?その事を私に話すってことはさ」

「ああ、前向きに交渉できそうらしい。楽しみにしててくれ」

 

王様か……どんな人だろうな。

 

 

王様はジープに乗ってやってきた。古くて頑丈そうな軍用車だ。

護衛もけっこういたね。M4だけじゃなく、アビスから作った大剣とか持ってた。

 

私はレオンたち軍人の生き残りと村の入り口で待ってる。

念のため、ジャムールとリスナーちゃんは村の奥で待機してもらっている。

お偉いさんに会うの気を使うだろうしね。

 

「エドモンド陸軍小将に、敬礼!」

「……ご苦労。楽にしなさい」

「イエッサー!」

 

レオンたちは敬礼してる。私はあえて頭を下げるだけにしておいた。

軍人じゃないからね、協力者だからね?

そんで車から出てきたのは……だいぶ苦労してそうな爺さんだった。

眼帯に杖、鋭く重い目つき。鍛え上げられて筋肉が出つつも、痩せた体。

頬がこけて、顔色がマジで悪い。白髪オールバックの軍服姿だ。

苦労してそうだなあ~!

 

「……君が例の客人か。人型アビス……確かに、その通りのようだ」

 

まあ肌の色コンクリ色だし……サメみたいな尻尾生えてるしな。

今日の恰好?ロングスカートに半袖Yシャツだよ。アンおばさんが貸してくれた。

娘の遺品の制服だって。重いよ~!精神的に!

ていうかなんだかんだで世話焼いてくれてるよなあの人……

 

「そうすよ。あー、初めまして。あなたが王様って呼ばれてる将軍の人ですか?」

 

エドモンド少将は困ったような顔で微笑んだ。うーん、よそ行きスマイルだな……

 

「初めましてになるな……エドモンド・ウォンだ。残念ながら『王様』などと不相応なあだ名で呼ばれている老人だ」

 

すっと手を差し出されたので、さっと握手をしておく。

うーん、外交に慣れてるなあ、この爺さん。動作がよどみねえ。

 

「あー、エレナです。よろしくお願いします」

「では、少将……積もる話は食堂で行いましょう。ご案内を」

「よろしく頼む、レオン一尉」

 

うーん、食堂に行くまで村の人にメチャクチャ見られるな……

 

「すっげー!王様だ!」

「エレナ緊張してるー!」

「王様ー!王様なんかちょうだい!」

「こら!すいません王様(ラジャン)、うちの子が……どうぞ気にせず。何もない村ですが……」

 

支持率が高い……!まあこの村なんだかんだで食うに困らずなんとかなってるからな。

少将は営業スマイルで軽く手をあげたりしてうまく対処してる。

 

「ああ……ようこそ、王様」

「短い間だが、世話になる村長(ビッグマン)

「わしはいいよ。村は今はうまくやってる。この客人のおかげでな。話があるのはそっちだろう?」

「……そうか」

 

食堂では村長がすでに飯食ってた。

今日は飯が豪華だねえ~。鶏肉骨茶(チキンパクテー)のスープだ!北京ダックまであるじゃん!

デザートには…… 豆花(トウファ)じゃん!豆乳寒天だよこれ。すんごい手間かかるんじゃないのこれ。

なんならすでにほかのおかずの鍋と皿代わりの葉っぱが用意されてる。

王様の支持率すんげえ~!

 

「もてなしに感謝する。……皆、いただこう。もちろんエレナ、君もだ」

「あ、どうも……いただきます」

「ご相伴にあずかります少将!」

『ごちそうになります!』

 

護衛の軍人さんもゾロゾロ入ってきて座ってみんなで飯を食うことになった。

贅沢な飯だけど、緊張して味が頭から飛んでくなこれ……

うーん、飯がうめえ。空気が重い。

 

「正直に言おう。私はこの島を守れていない……国際社会は、ここを死地とみなした。生き残った者たちがどれほど踏ん張っていようと、通信は戻らず、補給は絶えた。このままでは、この島はなかったことにされる」

 

王様が目を伏せ、拳を握る。

なんか無茶ぶりの前振りみたいになってない?

やめてくれよ~申し訳なさそうにするなよ~何言うんだよ。

 

「……だから、君に頼みたい。エレナ。君たちが『獣型』アビスを追い払ってくれれば、この島は『生きている』と国際社会に証明できる。これは、共存のためのお願い……いや、取引だ。私個人のわがままでもある」

 

ウワーッ!DOGEZAだ!頭上げてくれよ~!

アンおばさんが死ぬほど睨んできてるんだけどたすけて。

 

「……それだけが、この島のために死んでいった者たちに残せる意味だと信じている。頼む、取引を受けてくれ」

 

いやまあ……アビスぶっ殺しますよってのは当初からの話だし……

あとで条件いっぱいつくんだろうな~。

今の時点では受けないわけにいかないだろこれ……

 

「頭下げないでくださいよ~!ずるいでしょそれは……」

「……軍人の交渉とは、そういうものだ」

 

頭上げてくれ~!アンおばさんが舌打ちしてるよ~!

 

「……けど、いい取引だ。受けるよ。アビスぶっ殺すから、見返りに市民権くれ。あと港に村作りたいし、税金はちょっと交渉させてほしいかな……」

 

スッと頭を上げてしれっとした顔で続けやがるよこの爺さん。

 

「無論、最低限それだけはなんとしても勝ち取ってみせる。永住権もつけよう。港は……そうだな、君たちが取り返すのはかまわない。後で入植者を送ることになるが」

「村に来る人員は監視役ってところか?」

「そう思ってくれてかまわない」

 

私もわりとポーカーフェイスでしれっとしてるけど、けっこう緊張してる。

王様はさすが軍人だけあってピクリともしねえ。

 

「……いいね、命令でもお願いでもなく取引。理性的だ」

「軍人として理性だけは最後まで捨ててはならん……私にはもうそれしかすがれるものがない。書面を作ろう。よく読んでサインをしてくれ」

 

この爺さん……マジだ。本当に理性しかすがれるものがない人だ。

なんなら書類がもう用意してある……!

さっと副官ぽいのが書類を出してきて、今まさにペンで修正してる……!

ちゃんと私用と向こう用の2通あるんだよ。

ガチだ……ガチの契約って初めてなんだよね私。

生まれて初めての契約が軍事同盟ってどうなってんだよ!?

 

「さすが王様(ラージャン)だ。私も信じたい気になってきた」

 

書類読むと村作るのは良いよ、でも人員送るよってもう書いてあるんだこれが。

そこにリアルタイムで修正されて港の事も書いてある。

仕事が早い!早すぎる!

 

「そう思うならば、もう少し慎重になることだ。君こそアビスの『王』だろう」

「……」

 

私が『言いだしっぺ』だと見抜かれてる……コワ~。

 

「ならば、この『警句』を忘れるな。『国家同士に友人はいない』……王という役割を背負えば背負うほど、個人の情ではどうにもならん判断をすることになる」

 

実感がこもったスゲエ重い言い方するじゃん……

この人は殺れる側、殺れない側じゃなく『殺ったことある側』だよ!

そう私の勘が告げている。

コッワ~……正直この人と交渉するの小娘の私じゃ荷が重いって!

 

「……肝に銘じておくよ」

 

まあ……とりあえず。取り戻そうかな、港……

なるだけ早めに……




人物図鑑。

■エドモンド・ウォン
マレーシア陸軍少将。58歳。
地方から出てきた苦学生であり、家族のために軍学校に入る。現場たたき上げの将校。
軍が存続していた時代から『責任が服を着て歩いている』と言われるほどの真面目な男。
部下に対しても気遣いを忘れず、世話焼きである。
その誠実な姿勢から彼に心酔する者も多い。
彼より上のマレーシア陸軍将校は全員死んだため、彼がまとめ役をすることになった。
死んだ部下の名前を書いたメモを懐に入れている。
時折、彼はそれに祈っている。贖罪のように。

ところで、ボルネオ島はマレーシア軍の基地の所在は公にされていない。

どこまで書こう?

  • このまま一気に行こうぜ!
  • もうちっとだけ続くんじゃ
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