「いいわけねえだろバーカッ!いい加減にしてくれよ!」
朝からジャガーノートがキレてた。ごめんて。
「ごめんって。なんかそろそろ軍人さんたちが補給物資もってくるはずだからうまいもんでも食って機嫌直してくれよ~」
「もうこういうの近くですんなよ!?こう……なんだ!そうだハイリョだ!配慮してくれよ!!そういうのが好きなやつばっかりじゃねえんだよ!」
「ごめんて」
ちなみにバンダースナッチとジャムールは朝からぶん殴られてた。
まあ……そうなるわな。
おっ、無線なった。なんだろ。
『レオンだ。今そちらに着く。木材も持ってきたから少しは海上部分も増築できるだろう』
「ああ、よろしくたのむわ。まあ、そういうわけで兵隊さんのも含めて飯作るよ。ごめんね」
「まったく……気が緩みすぎだろ。これから来る人間たちとだって話し合いしなきゃいけないんだろ!?」
「まあねえ。だから飯作ってるんだよ」
ジャガーノートはぶつくさ言ってるけど放っておいて飯を作る。
キャッサバとかタロイモから作った代用小麦粉に水と塩を練り込んだ生地をさっと中華鍋に投入。
良い感じで半生に焼けたあたりで代用砂糖を卵と混ぜて輪切りにしたバナナを上に乗せる。
こいつの端っこを折りたたんで四角形にして具を閉じ込める。
まあ……いわばクレープの類だね。
お好みでミロとか山羊乳の代用練乳をかけて食べる。
「はいよお待ち!できたそばから食って!全部焼けるまで待ってたら日が暮れるんだよコレ!」
「おう、うまいじゃねえか。うん、うまい……」
これを十人分から作るんだからめんどくせえんだ。
私はもう味見の段階である程度食ったよ。
そんなんしてたらレオンたちがタグボートで資材を満載したイカダを引っ張りながらやってきた。
「やあ!いい香りをしてるな!俺たちもかまわないか?」
「そう思って人数分作ってるよ!」
レオンたちにキッチンから手を振ってついでに中華鍋を振る。
「君たちが新しくやってきたエレナの仲間か?レオン一尉だ。よろしく頼む」
「……お?おう。ジャガーノートだ。へえ、人間って間近で見るとこんな顔してるんだな……匂いも悪くねえ」
ジャガーノートがレオンに近づいて匂いを嗅いだり、顔をまじまじと見る。
「オイオイ、食べないでくれよ?」
「そういう意味じゃねえよ!まあ……思ったよりは強そうだな」
「手厳しいな。確かに、実際君たちに頼りきりだ。情けない限りだよ」
「わかってるじゃねえか!ガハハ!」
か、会話が弾んでいる……
なんか、心なしかジャガーノートに笑顔が……
なんならだいぶ距離感近いぞ!?
そういうこと!?性指向的なアレだったの!?
もうだめだ、ジャガーノートまで頭ピンクになっちまった。
名実ともに私たちはドスケベモンスターだ……
「あー、エレナサン?ボス、盛り上がってるネ。だからワタシ先仕事進めるヨ。ラジャン、いちいちここ来る、めんどくさい。だからネット通話するネ」
黒髪の中国人のこいつはリー・ホンミン。
レオンの部下でけっこう私たちとは付き合いが長い。
シュッとした狼を思わせる精悍な男だ。
しかしネット通話か……一応携帯端末でネットはあるんだよ。
あるけどママがくれたやつはスゲエ不便なんだ。
そもそもが受信専用だしね。
「たすかるよ。パソコン使ってみたかったんだ」
「
「あるよ。そこコンセント」
片手でロティ食いながらスゲエ速さでノートパソコン組み立ててるわ。
教わりながらやってみたら30分くらいで一応通話できるようになった。
「OK、ラジャンにつなぐネ」
「たのむわ」
ウインドウが出てくると、相変わらず不景気で不健康な顔したエドモンド少将が映った。
『……繋がったか。まずは礼を言っておこう。エレナ。それから新しく来た者たちにも。お前たちのおかげで島の安全は保たれている。……感謝する』
「だってさジャガーノート」
「あん!?なんだ?これが『ぱそこん』か!こいつがこの島のボス……ってわけか?」
ロティを片手に通話するな。何枚食うんだよ。
まあ今はジャムールに焼かせてるからいいけど……
『そうなる。半分はな。君たちの合流を歓迎しよう……君たちが、我々の味方である限りはだが』
「ああ、そっちが味方な限り私たちも味方するぜ」
「あー、すいませんね。気の強いやつなんすよ」
ジャガーノートが少し真面目に王様の顔を画面越しに見る。
『君たちの関係に口を差しはさむ事は今はやめておこう。それよりも、今後の方針だ。先日、インドネシア側とコンタクトがとれた。いくつかの軍事基地を拡張してそこで都市を作っているらしい。城下町というわけだな』
おっ、地図も出てくるじゃん。
『現在生き残っている『都市』は東部の工業地帯バリックパパンと北部の軍港タラカンだ。引き続き、レオンたちと共に獣型アビスの掃討を行ってほしい。そこで、現地司令と通話をつなげたい。かまわないか?』
「どうせいずれ話すんですし、いいですよ」
またウインドウ出てきた。なんか……いかついおっさんだ。
鬼軍曹って感じでガタイがいい。肩幅と顔がでけえ。筋肉がエグイ。
『タラカン軍司令ヴァイジャヤ・カシャルだ!まず感謝しておこう客人!感謝ついでにうちの小僧どもの尻拭いをしてもらう!マレーシア軍と共同してタコ野郎……失礼、『獣型』アビスどもを一掃してもらう!』
元気いいなあ~。まさに軍人さんって感じですげえハキハキしゃべるわ。
「いやまあ……それはいいんすけど……いいんすけど、その代わりインドネシア側でも人権と居住権っていうか海の開発権くださいね」
『かまわん!航路と港から外れた場所ならばな!どうせ昨日の怪獣みたいなやつらのせいで俺たちは使えん!好きに住め!』
豪快だ……この人全部が豪快な感じか~。
それはそうと、ここまで即決してくれるって、王様とあらかじめ相談してたなこれ?
だいぶお膳立てしてくれている……ありがてえ……
「ただまあ……仲間の手前、もうちょっとオネダリいいっすか……?」
『言ってみろ!』
「そうすね……砂糖とか調味料とかの嗜好品。それから水中で作動する発電機とか機械とか……水の中に街作るんでね」
『いいだろう!まだ10人分だ!今月分はすぐに渡す!だがいつまでもタダ飯が食えるとは思うな!機械は許可はくれてやるが、交渉はそちらでしろ!食料を多めに積んでやる!それで買うことだ!……まだ何か欲しがってる顔だな?言ってみろ!』
するどいな~!そして気前がいい……
これ言うのわりとアレなんだけど。
「APS水中アサルトライフルって……まだあったりします?」
ロシア製水中銃ってたしかあるんだよね。そんでもってインドネシアは確かロシア側からも武器を買ってたはずだ。
ほぼほぼAK-47を水中仕様にしたような奴だったはず。
『知らん!……が、あるのならば譲ってやるのはやぶさかではない。だが理由を聞かせろ!』
「抑止力です。それ以上の意味はないです。ていうか、素手でぶん殴んった方が早いんで、本当に儀仗銃でしかないですね」
いやあ、やっぱさあ……丸腰で外交はさすがにまずいって……見た目だけでも銃持ってますよ感は出したいじゃん?
『……いいだろう。あれば持っていけ!だが、貴様はもう少し根回しや腹芸を学べ!いずれ我が軍のボンクラ共から少しは頭が切れるやつを呼んでやる!それから、それだけ要求するからにはこちらからも要求させてもらう!』
まあそうなるよな~……こわいな~。
『議会と宗教を作れ!何も我らがイスラームに入れとは言わん!だが国として認められたいからには法と宗教くらい作っておけ!あと服も着ろ!わかったな!』
「あー、ご指導痛み入ります……やりますよ。重ね重ね、ありがとうございます」
『よかろう!では進軍予定表を送っておく!よく目を通して返信を返せ!』
『……ということだ。そろそろ、本格的に動いてもらう。よろしく頼む』
うーん、気遣われている……要求って言うかアドバイスじゃん。
このくらいはやっとかないとあとで困るぞって。
やっぱ私はまだ小娘だわ……
「……要は飯が食いたきゃ、私たちにアビスを倒せってことか?」
ジャガーノートが聞いてくる。
「そうだよ。あと、これからはみんなで相談しろって。あと日程はこれだから……明後日くらいには
「……しょうがねえなあ!行ってやるよ!次からは私にも話をしろよ」
「……うん、わかってる」
たしかにジャムールに勝手するなって言う割にはあんまり相談してなかったわ。
これからは風通しのいい村にしよう……
でも宗教か~!ややこしいな……
「……しかし、強そうなやつらだったな。良い目をしてやがる」
「だろ~?正直あのおっさんたちと交渉すんの荷が重いよ……なんだったらだいぶ向こうに気を使ってもらってるよ」
「じゃあ強くなれ。お前が私たちの王なんだろ」
「まあ、そうだね」
気が重いな~!
「じゃあここではいいけど、人間の前では服着てくれる?」
「ふくってなんだ?」
ほらこうなるじゃん!でもまあ……やるか。王様。
つくろう!法と宗教と議会!
人物図鑑
■リー・ホンミン
人類解放軍ボルネオ方面軍二尉。25歳。
中華系インド人。ボルネオ生まれボルネオ育ち。
複数言語を習得しており、通訳やガイド、ビジネスマンを進路として考えていた。
アビスの侵攻により、彼は軍隊に行かざるを得なくなった。
意外とドライで達観した性格。
夢のために学んだ言語が、思わぬところで役立っている。
人生、何が起こるかわからないものだ。
■ヴァイジャヤ・カシャル
インドネシア国軍海軍大佐。52歳。
ジャワ系マレー人。
豪放磊落な鬼軍曹として海賊と戦いソマリアの英雄と言われた。
しかし、アビス戦争においては彼の指揮下の特殊部隊も、潜水艦も歯が立たなかった。
それ以来、彼はほんの少し丸くなったと周囲は感じている。
Vチューバーをしていた娘と、自動車屋ディーラーをしていた息子がいた。
それでも、彼は豪快な英雄として立ち続ける。
誰かが立ち続けなければ、この島はあっという間に滅んでしまうからだ。
どこまで書こう?
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このまま一気に行こうぜ!
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もうちっとだけ続くんじゃ