怪獣娘トロピカルアイランド開拓記   作:照喜名 是空

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伸ばす手はどこへ

そういうわけで洗礼式と叙任と分派を兼ねた式だよ。

なんとかでっかい白い布を購入して、それを切って帯にして全員で首に巻く感じで正装とした。

マティアスとフィリップは演説や公演用に浮かべたでかい舞台用イカダでばっちり牧師服に聖書を持った姿で威厳をもって立っている。

そんでもって洗礼は頭に水かけるか水に浸からなきゃなので、全員海から首だけ出して舞台イカダに向いている状態だ。

 

一応録画されてるし、少なくともボルネオのまだ生きてる動画配信サイトには生中継されているんだこれ。

全世界に対しての人間宣言ってわけだ。

マティアスがそれっぽい説教をしてる。それだけで厳かな雰囲気が出て子供たちも神妙に聴いてるよ。

 

「……と、長々と話しましたが、要は2つです。この2つを守ってください。他人を傷つけない事。この世界には創造主がいて、その方を信じうやまう事。できますね?」

『はーい!』

 

子供たちが元気よく返事した。

マティアスのやつこの3日くらいでコミュニティに溶け込んでやがる……

サイコ野郎は外面がいいって本当だね。

 

「では、ロフ・ジャムール……あなたを牧師に任命します。その後、分派を宣言してください」

「あっ、はい……任命を受けます。えっと、それで私はカリマンタン福音教会から分派を宣言し……?海の恵み教会を設立します?」

 

手首にカンニングペーパーを巻いておいたからね。

いや私も不安だけどさ、ジャムールくらいしか司祭役できそうなやつがな……

私?いや一応股間に棒がないと牧師はね?

それに、リスナーちゃんはそのへんのややこしい交渉をさせていいかっつったらさ……

子守の仕事もあるしね。ジャムールも製薬の仕事はあるんだけどさ。

 

「よろしい。認めます。フィリップ牧師?」

「ああ、ボルネオ福音教会とカリマンタン福音教会の合同の推薦により、海の恵み教会を承認する……そんじゃあ、エレナ。代表者として信仰告白をしろ」

 

私は軽く息を吸いこんで心を込めて宣言する。

 

「私たちは、天地の創造主がいることを信じる。偉大なる預言者たちを信じる。

聖霊と聖なる教会を聖徒の交わり、罪の赦しと、永遠の命を信じる。

彼のほかに創造主はない。

キリストは彼の子であり、ムハンマドは彼の使徒であると信じる。

私たちは啓典の民となることを誓う」

 

かなり危うい宣言ではあるんだよね。創造主がいるってことは信じてるけど、信仰するとは一言も言ってねえし、ムハンマドを預言者と認めてる割りにキリストを神の子にしてるからな。すんごい八方美人な宣言なんだこれ。

 

「なるほど、いいでしょう。では、洗礼を行います。力を抜いて……」

 

マティアスはイカダの上からしゃがんで、私の肩を両手でつかんで沈めていく。

 

「では、エレナ。あなたに洗礼名を……リーヴェルと。あなたはアビスの『解放者』となりなさい。祖先の罪を禊ぐのであれば、キリストはあなたがたを赦されるでしょう」

 

マティアスが私の身体から手を放し、私は海面に顔を出す。

 

「……拝命するよ。共存のためにな」

「よろしい。では聖体の拝領を」

 

フィリップのおっさんがイヤそうにマティアスに薄いビスケットみたいなやつの束と、ワインボトルを投げ渡す。

マティアスは受け取ると、金ぴかの盃にワインを入れ、私にビスケットみたいなやつ……聖餅を渡した。

 

「イエスはパンを取り、賛美の祈りを唱えて、それを裂き、弟子たちに与えて言われた。『取りなさい。これはわたしの体である』」

 

受け取り、食べる。空気が重々しいなあ。厳粛といえばいいんだけど。

 

「また、杯を取り、感謝の祈りを唱えて、彼らにお渡しになった。彼らは皆その杯から飲んだ。 そして、イエスは言われた。『これは、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である』」

 

盃に入ったワインを渡される。この時、ふと最初に飲んだジュースはブドウ味だったなと思い返した。多くの人のために流される血、契約の血、かあ……

いいだろう、飲んでやる。私たちの存在が罪だというなら、その贖罪がこれしかないというのなら。私がそれを背負う。

 

「……よろしい。契約は果たされました。私は牧師として提案します、みなさんの種族名を人型アビスではなくコヴナントとするのはどうでしょう?契約者という意味です。つまり、あなた方は獣ではなく人のルールに従う存在であると示すのです……どうですか?」

 

これも、打ち合わせにはあった。けどいざ宣言するとなると重いな~!

種族の未来を変える選択を行ってるからな。

 

「ああ、受けるよ。私たちの種族の名はコヴナントだ。私たちは人間と共にあると契約する」

「……信じます」

 

ここでマティアスがカメラを持つレオンの方に向き直り、視聴者に語り掛けた。

 

「ご覧になられましたか?彼女たちアビスはこのように啓典の民、コヴナントとなりました!神と人の勝利です。信仰の勝利です。この偉大なる日を共に祝いましょう。我々は平和のために大きな一歩を踏み出したのです!」

 

すんげえ嫌だけど拍手してやったよ。周りもまあ……拍手してくれた。

でも子供たち意味わかってねえだろうな~!いいのかなこれで……

とんでもねえカルト宗教つくっちまったんじゃねえか?

わかんねえよ……たすけてくれママ~!




「海の恵みの教会」教義

■ロゴマーク:

【挿絵表示】

■戒律:

・同胞を殺してはならない。ただし、相手が殺しにかかってきたときと、戦争のときは許される。
※この場合の同胞とはコミュニケーションが可能なものであり、人間やそのペットも含まれる。
同胞ではない食べるための獣は感謝して食べるように。

・盗んではならない、奪ってはならない。対価を差し出し、合意をえるように。

・他人の財産を破壊してはならない。不本意に壊してしまった場合は謝罪と共に賠償をするように。

・嘘をついたり、騙してはならない。
※ただし、真実を使えることが相手を傷つける場合は例外とすることもある。

・独占してはならない。富は分け与えよ。

・性愛については、合意の元であれば禁止しない

・侮辱してはならない。ただし、侮辱された場合は抗議すること。

■信仰:
創造主とは世界で最初に存在した「生まれなき者」であり、この宇宙そのものが神の肉体である。
神はすべてのものをいちいち創造したわけではないが、世界に何かの設計意図をもって干渉することもある。
ただし、神の意思が完璧で間違いがないものかどうかは我々にはわからない。
間違うこともあるかもしれない。

■預言者について:預言はあるかもしれないが、自分自身の声かもしれないし、そもそも神だって間違うことがあるかもしれない。だから自分が預言を受けた場合、まずその預言がまともなものかどうか相談してみよう。

■異教の神について:宇宙か神の肉体である以上、常の生物ではない精霊的な存在はいて当たり前。多神教の神々は創造主の白血球のようなものであり、つまりすべて天使である。
なお、異教にて創造主とされるものは結局は同じ創造主の解釈の違いとする。

■聖印:うずまき十字とうずまき文様。

■礼拝:合掌して黙祷。

■祭祀:春分・夏至・秋分・冬至に合わせて行う。
それぞれ「イースター」「ミッドサマー」「ハロウィン」「クリスマス」。
歌と踊り、焚火などで祝い、神に祈り、共鳴するというテイで行う。
水中での舞いと、陸上での焚火を囲んだ盆踊りめいた踊りが予定されている。

■葬礼:遺体もしくは遺灰か遺髪を海や川に流すまたは燃やす。
死者への祈りは、歌詞のない歌や黙祷で行う。
墓石については共同の慰霊碑を建てる。

■司祭階級について:
牧師から任命された導師(イマーム)が祈祷の指導や説教を行う。
導師の中から選挙で牧師になるべき学士(ウラマー)が選出される。

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