クリスマスの亡命者
そろそろクリスマスか……ニューレムリア2回目のクリスマスだな。
前回?クソ忙しかったからクリスマスツリー飾って、聖夜ミサをひっそりやっただけ。
プレゼントはみんなにまとめてゲーム機とパソコンだったし。
今年はなんか個人的にプレゼントしなきゃな、娘たちに。
「何がいい?」
「えっ、うーん……ベンジーやっぱこっちに連れてこれない……?」
「が、がんばってみる」
マツリ犬好きだな!もうすでに追加でアザラシ1匹飼ってるのにな。
今コヴナントの間ではハワイモンクアザラシが犬代わりに大人気だ。
ペンギンは鶏代わりに食用養殖はじめてるね。
しかし犬を水上の家にか……頑張ってはみるけどさあ……作るか。水上ドッグラン。
イカダと犬小屋発注かけとこ。
なんか水上部族のバジャウ族の人らも増えてきてさ。
あの人らすごいよ。20mくらい平気で潜るし10分くらい水中にいれるんだよ。
おまけに浅瀬に高床式の家を建てる生活だから家発注するとすぐ作ってくれるんだ。
金はまだまだあるんだよ。いくつか権利とか株とかもらったからな。
こうやって雇用を生み出していかないとな……
「ハナビは?」
「あるぞ!カワサキのジェットスキーウルトラ310!」
「お前水上暴走族とかやったら昇竜拳くらわすぞ」
「ハハハ」
否定してくれよ!ごまかすなよ!水上バイク、あれマジ危ないんだぞ?!
バジャウの人たちカヌーで漁業してるから水上でぶつかると死ぬからね?
「しないよな?」
「……しない」
スマホ見たらなかなかワイルドなデザインだ。高っか!310万円!?こっちだと9万リンギットくらいか。
買えなくは……ないなあ……
「ナツミなんかある?」
「銃、つくっていい……?ママ、ジャガーノートさんたちに銃渡したいって言ってたよね」
「うーん……いいよ。他人に向かって撃ったりしないってママは信じてるぞ」
「もちろん。材料は……高圧フロンガスボンベと塩ビパイプがたくさんと、N50JIS規格釘と……後で紙に書いて出すね」
圧倒的安上がり……!しかも最終的に逆に私にプレゼントだよ。
いい子だ……この陰キャな感じはジャムールに似たんだろうなあ。
この子も見た目スプラトゥーンだけど、目つきとかジャムールの面影あるよ。
「いい子だなあ~!親孝行だよ……お前自身が欲しいものでもいいんだぞ?」
「工作、すきだから……これがいい」
「そっか。ありがとうな!」
「がんばる」
おっ、いい香りしてきた。ご飯かな?
「できたわよー!熱いから気を付けてね」
リスナーがたこ足のそれぞれにカプセルホットクッカーを持ってくる。
ストロー用の穴から匂いがするね。今日はボボチャチャか。
甘いココナッツ粥なんだけど、これも復興とともによみがえったマレーシア料理だ。
「おー、いつもありがと。ジャムールは?」
「クリスマスツリーの最終点検だって」
「後で見てくるわ」
「おねがいね」
さて、みんながそれぞれカプセル型の朝食を持つ。
水中街ならではの光景だね。
外から日の光が差し込んでる。窓から見たら、今日も海がきれいだ……
外で小魚が舞ってる。海面越しの朝日がまぶしい。
すがすがしい朝だね。
「じゃあいただきまーす」
『いただきます!』
まずカプセルにデカいストローを刺しこんで飲む。
液状のものは全部海に溶けちゃうからね。
うん……ヤムイモとバナナとミルクと砂糖の味だ。甘い幸せだ……
汁を全部飲んだらカプセルを開けてふわふわ浮く具をフォークで刺して食う。
「幸せだなあ……海で朝ご飯食べれる時代だもんねえ」
「いろいろあっという間に変わったわね」
「リスナー、これでよかったのかな?色々変えちゃったけど、本当にこれでよかったのかたまに不安になるよ」
人間いなかったらずっと浜辺で魚焼いて暮らしたかった。
正直その方が良かったかもと思う時もある。
リスナーは微笑んでマツリにたずねた。
「マツリ、昔は家もこういう機械も何にもなかったの。どう思う?」
「ちょっと……想像できないかな。なかったら普通に困るよ」
リスナーは笑って私を見た。
「ね?」
「うん。これでよかったのかも」
うーん、改めてありがたいなリスナーがいてくれて……
「ハハハ!なら私はもっと街をすごくしてみせるからな!陸にも負けないくらいにだ!」
「うーん、そっか。それもいいかもね」
ハナビはそういうミーハーなところはどうかと思うけど、ハングリーさも時には必要だからね。
私はあんま都会にしてもなあ、とは思うけど。
「ん、おいしかった。お皿洗うねお母さん」
「エレナ、台所にクッカーあるからジャムールに持って行ってくれる?」
「いいよ。ツリーも見たいしね」
ホットクッカーをバッテリーから外して、外を泳いでジャムールの元に向かう。
ここは最初に家を建てたあたりの水中広場だ。
今は超でっかい緑がかったツリー型サンゴ礁がある。10mはあるもん。
「ジャムール、ご飯持ってきたよ」
「あっ、ありがとうございます。おいしいですね」
私からカプセルを受け取ると即飲むからなコイツ。
まあ、そんなこと小さな事だ……
それ以上に説明不能なヤバい問題が今までいっぱい起こったからな。
ジャムールはまだまともな方だと確信してるよ……
「出来はどうよ?」
「フヒ、あとは照明エビを放して、雪の代わりに砂をまぶせば……今日中にはできますよ」
ジャムールは少しづつ分散して七色のエビをツリーに配置している。
もう半分くらい終わってるのか、勝手にぴかぴか光ってる。
「これかあ……すんごいね」
「すごいでしょ……フヒヒ」
毒を注入して作ったらしい七色に光るエビが緑色のサンゴ礁を動き回り、本当にクリスマスツリーみたいなんだよ。
いやあ……文明を感じるね……ちょっと感動してしまう。
まあ、ちょっと生命倫理的にどうなのかなとも思うが。
「あなたは今日はどうするんですか……?」
「娘たちにプレゼント買いにいくよ」
「そうですか……お金足りなかったら言ってくださいね……?」
こいつアビス細胞治療薬とか各種薬の代金でけっこう金持ってるんだよ。
「ハナビの水上バイクが超高いけどまあなんとかなるよ」
「あの子にはよく言っておきます……」
「たのむわ」
海底を蹴って、歩くように泳いで海面を目指す。
ビーチでちょっと体を振れば、もう服からだいたい水が落ちる。
うーん、さすがアンおばさんの勧めてくれた生地だ。
水はけが半端ない。すぐ乾く。
「おはよー」
「おはようございます代表。チェシャ市長が後でまた聞きたいことがあると」
オフィスに入って人間の事務員さんに挨拶だ。
いやー、役所もでかくなったね。もう2階建てのリゾートログハウスだ。
まあ、これもイメージ戦略だね。南の島の美女種族っていうさ。
「ああうん、後で行くわ。そーだ、ボルタモーターの人呼んで。娘にプレゼント買うんだ」
「バイクか何かですか?羽振りがいいですね」
「去年クリスマスあんま出れなかったからね……」
『代表室』に入ってデカい椅子をリクライニングにして冷蔵庫からコーラを飲む。
サングラスなんかかけちゃって、ラジカセからレゲエ流して。
復興の味だ……今日も日差しは温かく、波の音がする。どこかでカモメが鳴いてるよ……
ボルネオは冬でも30度くらいあるからな。常夏の南の島だよ。
代表になってから仕事はマジで楽になった。気分はもうリゾートだね。
今日も太陽がいっぱいだ……
おっと誰か来た。
「ヘイこにちわ!今日も何か買ってくれますね?」
「おーフランク。いきなり呼んでゴメンね。いやー娘のクリスマスプレゼントでさあ」
こいつはフランク・ウー。行きつけのバイク屋だ。
儲かってから入り込んできた御用商人の一人だ。
丸グラサンにヒゲで見るからに怪しい中華系なんだけどね。
あれ?なんかもう一人いる。日系?新人さんかな。
「水上スキーが欲しいって言うんだよね。カワサキの一番でかいやつ」
「出物あるね。でもご安心。中古だからもう一台つけて定価。ローン相談OK。どうね?」
「もう一台かあ……」
「レブルあるよ?娘さんといっしょにどうか?」
手印刷のカタログ見るとあるね。レブル1100。
でも私の目に留まったのは車コーナーだ。ワゴン車か……
レトロで気品があるデザインで、何より太陽みたいに明るいオレンジ色だ。
「いや、レブルはいいや。これワーゲンバス?デザイン最高だけど古いのが心配だなあ」
「オー!代表もファミリーカー買うね?いやー親心ね。ノープロブレム!これハイエースのガワにレトロパーツつけただけね」
そっか。バイクは、いいや。家族のために車買おう。それがいいだろ?ママ……
「これつけて9万リンギットいける?4分割ローンくらいで……」
「オフコース!でも、一つだけ条件ある。彼のたのみ、聞くだけ聞いてほしい」
うへえ、これ絶対面倒なお願いだよ?嫌だなあ……でも割引なしだと厳しいしな。
まあ蓋開けたら営業だったってことも割とあるし。
「あー、聞くだけね?断る可能性もあるよ?」
「かまわないね。じゃ、ちょっとだけ席外しますね。じゃ、頑張ってね日本人」
やっぱ日本人なんだ。でも今ボルネオと日中米露は断交状態なんだよね。
うん、私たちのせいなんだけど。大国はコヴナントの力なしで何とかなる。
日本はなんかそのへんの技術が異様に発達してる。
だから反コヴナント的なんだよ。それでブルネイ連邦としては仲良くないわけ。
「あー、それで。どちら様……?」
「……ジョーとでも呼んでくれ。もう、本名を呼んでくれる奴はだれもいない」
なんか雲行き怪しくなってきたよ。
よく見たら相当ハードボイルドなタフガイな感じだ。
サンタみてえなヒゲだし。
超マッチョが無理やり背広着てる。
「亡命がしたい。それがかなわないなら、これから話す情報をエドモンド小将とヴァイジャヤ大佐に伝えてほしい」
「……めんどくさい話だよね?」
「ああ、長い話だ」
なんか巻き込まれそうだよ国際情勢ってやつに。
人物図鑑
■フランク・ウー
華僑。43歳。
うさんくさい貿易商であり、後ろ暗い密輸ルートにもくわしい。
だが彼のような灰色の人物とのルートがあるからこそ、手に入る情報もある。
アビス災害が起こっても人はしたたかなものだ。
どこまで書こう?
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このまま一気に行こうぜ!
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もうちっとだけ続くんじゃ