ジョーは床を見て何を話そうか迷ったようにして、こう切り出した。
「……明神カズマを知っているか?」
聞き覚えあるな。ママが言ってた気がする。
えーっと……ああ、なんか日本のアビス対策の第一人者とか。
「アビス対策技術の第一人者の?」
「そうだ。あいつはその技術で政権の中枢に入り込んで……今や、日本はあいつの独裁体制だ」
「日本そんなんなってんだ」
半鎖国状態だからね。よくわかんないんだよ。
ママからうっすら聞いてはいたけど、ママ自身も末端だし軍から逃げた身だからね。
あんま詳しい事は解んなかったらしいんだ。
「……まるで悪夢だ。地方はほぼ見捨てられ、怪しげな軍閥が割拠してる。主要都市部は万里の長城みたいな防壁でおおわれて丸ごとシェルターにされた。都市の中だって、地下の富裕層は何をしているやら……一つだけいいことは、景気が上向きになったくらいだ」
「今の世界情勢ならそう悪くないんじゃないのそれ」
ほとんどの国が壊滅状態で北斗の拳みたいになってるらしいし。
日本も地方はそうだろうけど、都市だけでも守り抜いただけマシじゃん?
「中間層が増えて、みんなその豊かさの中で呆けているが……それでも、ディストピアだ。政権に批判的なものがもう数えきれないくらい消えている……政治犯収容所からでてきたやつはいない」
「そう言われてもさあ……私たちにどうにもできないよ。よその国だから」
まあ大変なんだろうけど……独裁国家になってお気の毒ですねとしか言えないよ。
「……明神は、そうするためにアビス細胞を作ったとしても?」
「ん?どういうこと?」
「アビス細胞は明神が世界に復讐するために作った」
「ハァ!?」
オイオイオイ本当なら大スキャンダルっていうか、確かにそれは私に言うしかないわ。
こいつが頭おかしい陰謀論者の可能性もあるけど。
「本当にめんどくせえ事聞かせてくれたね……なんか証拠あるの?」
「ある。あいつを内偵していた刑事の手帳と録音だ」
これはICレコーダーだね。手帳はだいぶくたびれてるけどまあ読めそうだわ。
「聞いてみるわ。こう?」
「ああ、そうだ」
サー……というノイズと共に声が鳴り始めた。
『ねぇ、ユウト。僕らの世界、全然ダメだったね。空飛ぶ車は?スペースコロニーは?人間は進歩どころか、疲弊して、衰えて、何も夢を見なくなった。何が氷河期だ』
どこか幼さを感じさせる青年の声がする。これが明神カズマか。
相手はユウト?誰だろ。
『それとあのクソみたいな実験がどうかかわるんだ』
重々しい怒りに満ちた別の青年の声。
『僕はね、『特撮』を思い出したんだよ。ドカーンと壊して、ジャーンと登場して、最後はヒーローが勝つ。あれが見たかった未来だろ!?だから僕が怪獣になる。全部ぶっ壊して、スッキリさせるんだ』
壁か何かを殴る音。
『お前はアレを使ってテロでもする気なのか!?あんなもので!?もう何人も死人が出てるんだぞ!これはアニメじゃないんだ!』
『……僕たちの未来を売って老後を生きようとするクソみたいな金持ちを粛清しなきゃ、僕らが殺されるんだよユウト。世界規模で姥捨てをしなきゃ、世界は滅ぶか、百年単位の衰退が待ってるんだ』
沈黙、金属音。
『明神カズマ。お前を逮捕する。妄想はそこまでだ。……カズマ、お前は『怪獣』じゃない。ただの犯罪者だ。俺はもう、お前のヒーローじゃない。刑事として殺人犯のお前を逮捕する』
『違うだろ……君はヒーローだ。僕が悪だ。……そんな目で見るなよ!ちがう、こうじゃない!』
『カズマ!』
銃声。
テープが終わる。
うーわっ、これが声優を使って作ったフェイクじゃなきゃマジっぽいね。
うーわ……どうすんだよこれ。今更そんなん言われてもさあ……
正直困るんだよね。
「手帳も見てくれ。カズマ……いや、明神の作ったアビス細胞に関する資料もある」
「えー……うわマジだ。これアビス細胞だ」
資料を見たらこっそりコピーしたらしき書類がある。確かにアビス細胞を作ってるよコイツ。
マジかよ~!どうすんだよ今更そんなん言われても!困るよ~!
「とりあえず軍にこの資料共有はするけどさあ……見なかったことにしたいなあ……」
「……明神は、あいつは平成ライダーが嫌いだった。オルフェノクとかロイミュードとかな」
「お、おう」
なんか巻き込みに来てやがるコイツ……!嫌な流れだよ~!
「あいつが作りたかったのはあくまで怪獣だ。つまり、あんたらはあいつにとって『解釈違い』だ。あいつはあんたらを始末しようとするかもしれん」
「ハァ!?」
ふざけんなよ!?私たちはその変なおっさんのオモチャじゃねえんだよ!
生きてるの!生き物なんだよ。製造目的とか知ったことじゃねえんだ。
カスみてえな理由で生み出しやがって……挙句思ったのと違うから殺すってお前。
マジふざけんなよ……勝手に生み出しといて……本当に気持ち悪いよクソ野郎が。
世界でこれほど悪い奴そうはいねえよ。
「それに……あいつは人間ももっと殺す気だ。団塊世代、ブーマー世代の人口ボリュームゾーンをすべて粛清して、人口調整をする気だ。まだあきらめていない」
「マジかよ~……それであんたは誰なの、ユウトさんとか言う人なの」
ジョーは窓の外を見て哀し気な目をした。
「秘密基地って、わかるか?」
「ブッシュクラフトみたいな家作る遊び?」
「まあな……昔、日本で流行った遊びで……空き地とか裏山で空き倉庫とか、そのへんの山を掘ったりして大人に内緒のたまり場を作る遊びがあった……」
「まあ楽しいよねアレ」
ジョーはうなずいて続きを話す。
「ずっと昔……俺たちが小学生のころ……ユウトとカズマ、それから何人かで秘密基地ごっこをしていた。俺も、そこにいた……カズマは天才児で周りから浮いてたからな。ユウトがグループに引き入れたんだ。秘密基地ごっこをするのははぐれ者が多いから……」
なるほどそういう関係性か。友達だったんだ。要するに。
「幼馴染ってやつ?」
「そうだ。カズマはよく怪獣とかウルトラマンの役をしてたよ……こんなことになるなんてな」
「いやうん……わかった。とりあえずわかった。アンタが言うにはその明神って奴はもっとテロする気だし、なんなら私たちも対象って事だろ」
「そうだ」
「それで最終的にはどうしたいの……?」
「日本でクーデターを起こし、明神を暗殺する。最悪、クーデターは無理でも……あいつの始末は、俺がやらなきゃいけないんだ」
マジかよ~!ガッツリ内政干渉になるじゃん?勘弁してくれよ~!
なんで好き好んで他国の事情に首を突っ込まなきゃいけないんだよ!
いやまあ、そのクソ野郎はブチ殺してやりたいなとは思うけど。思うけどさあ……
「まあ……まあわかったよ……わかった……でも今日明日すぐにどうこうは無理なのはわかるよね!?」
「ああ」
「とりあえず一旦かくまうからさ……軍に渡りをつけたら後はそこでなんとかしてね」
「恩に着る」
ジョーは深々と頭を下げた。
うーわっ……マジか~!特大の厄種が向こうから来やがった。
どうしようかな……
どこまで書こう?
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このまま一気に行こうぜ!
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もうちっとだけ続くんじゃ