とりあえず……とりあえずまあチェシャと情報共有する。
「……ってわけなんだけどさあ」
「いやあ……困りましたね。日本に敵視されていると私に言われても。とにかく、急いで軍と情報共有しましょう。コヴナント内でこの情報を共有するのは危険です。皆に動揺が走るかもしれません」
「だよねえ。でも全員に知らせないわけにもいかないしさ。ジャガーノートとロビーには言うよ。証人のジョーはこっちで確保しとく」
チェシャはしばらく考え、切り出した。
「……それから、プラウダ派にもこの情報を知らせるのは拙速だと思います。まずこの会議で我が国の方向性を確かめてからでも遅くはないかと」
それもあるよね……プラウダの存在は出来るだけ伏せておきたい札でもある。
とはいえ、ここまで私たちがブルネイで基盤が築けたのなら明かすべきは今だ。
そして伏せておいたからこそ、慎重に明かす必要がある。
「……わかった。けどもうこうなった以上段階的にブルネイの人間には明かしていくよ」
「はぁ……とりあえず今夜緊急でネット会議してからですね。まったくまた残業です。厄介な問題を持ち込んできた客人ですよね」
「まあね、大変だろ責任者って」
チェシャはアイスコーヒーを飲むとキリッとした顔で私を見た。
「それでも、責任はある程度分散しなければいけません。誰かが、ではなく皆が少しづつ政治を行わなければ」
「まあ、潰れない程度に頼むわ……」
「はい」
えー、はい。そういうわけでネット会議。
船上の私の家からアクセスしてウインドウにいつもの面子がいる。
チェシャがざっくり事情を説明して会議開始だ。
「アビスが日本製、か……そうか、やはりな。
『王様』がぐったりした顔でつぶやいた。
あっ、そういうことか……それでこんなにすんなり受け入れられたのね……
嫌な答え合わせだな~!
「まずはすまない。こちらにも思惑があったことを詫びよう。だが、それでも、だからこそ我々は一蓮托生だ。そうありたいと思う」
そうなると私たちが答える番だな。
「私はむしろ理由があってホッとしましたが、ですが現段階で大国と戦争となると時期尚早かと思います。代表は?」
「うーん、私も別に責めるつもりはないです。ただ、この情報の取り扱いでブルネイ内の人間と揉め事は起こしたくないです」
鬼司令は鬼瓦みたいな顔で黙り込んでいる。まあ絶句しちゃうよね。
瞑目していた鬼司令が目を開く。
「それでお前たちはどうしたい!?その事実を聞いてどうする気だ?世界に公表するか?報復でもするか?俺個人の意見で言えばヤツを肥溜めにぶち込んで余りある怒りはある!だが……知らなければ戦争しなくてもいい事だ。ヤツがこちらに喧嘩を売る気があるかどうかはまだわからんからな!」
ブチ切れ早口じゃん……まあ、軍人としてはね。アビス災害の元凶って言われればね。
王様が続ける。
「……その通りだ。知らなければ戦争をせずに済む。これ以上の戦いを国民に強いるのは、俺は望まん。だが……あちらが敵意を持っているならば備えねばならん」
おっ、みんな私を見てるな。私の番か。
また選択と決断だな~。まあそれが私の仕事だから。
「私としては今更そんなん言われても困るって感じですね。この事実を今公表してもコヴナントと人間でぎくしゃくしたりしても嫌だし、戦争やるぞってのも無理だしで……でも明神はシンプルにムカつくし、なかったことにするのもなんか違う気がするしで……今はまだ、保留したいです」
まあムカつくけど、今から戦争しようぜ!っていうアレじゃないよ。
むしろ巻き込まれたくねえんだ。これから豊かになるってときに戦争とか困るし。
プラウダの存在は今日中に言うけどさあ……
「……ニューレムリア市長としても、代表の意見に賛成です。我が国の復興状況で戦争をするのは現実的ではありません。私個人としても、生まれる前に起こったことを言われても困惑しかありませんし。人間たちとの間で動揺が走る事にも意味があるとは思えません。黙殺しましょう」
わりとあっさりしてる……まあ平和なボルネオしか知らねえ世代だからね。
恨みとか怒りとか言われても困るのはわかる。
その後もほかの幹部がいろいろ言うが基本『超ムカつくけど今戦争してもな』って感じだ。あとは『その情報はどこまで真実なんだ?』とかね。明神がコヴナントを敵視してるって推測でしかないし。なんなら私たちとぶつけ合うための嘘かもだし。
「意見は、出そろったようだな……その上で私はこう思う。今はただ『備える時』だ。あちらがどうあれ、いずれ軍備はせねばならん」
ここで言葉を区切る。戦争については今はそれが結論だというように。
「真実については……記録は残す。だがそれが公表されるのはそれが『どうでもよくなった時』であるべきだ。ケネディ暗殺のように、人々の関心が未来に向いた時でいい……それが指導者の務めだ。今を壊さず、真実を腐らせない。時間は我々に味方する」
王様がそうまとめる。おっ、投票ボタン出てきたな。
えっと選択肢は『公表と開戦準備』『公表は後世に残し今は備える』『黙殺』か。
今は備えるに投票しておこう。
投票の義務を果たしたな……これをするための仕事まである。
「いずれにせよ、時間が必要だ!奴らが拳を振り上げるというならばそれもいい!こちらはその時までに勝つ準備をするまでだ!向こうがその気がないなら、業腹だが聞かなかったことにしてやってもいい!いずれにせよ、こちらができるのは早期復興になる!」
鬼司令も悔しそうだが納得してくれてよかったよ……
チェシャが私を見た。口パクでプラウダは?と聞いてる。
そうだな、今開戦はしたくない。でも、今言うべきだ。
「一つだけ……一つだけ私たちからも言わなきゃいけない隠してた事があります」
うーむ緊張する。いやなドキドキだ……
「実は、人間と共存したくないって言うか……交流したくない派閥のコヴナント集団がいます。この国のできる前からコンタクトを取っていました」
どよめきの中で、王様は静かに私を見ていた。むしろ納得したって顔だ。
「例の『共鳴』という伝達手段でか?」
「はい。うまくぶつければ、こちらの懐を傷めずに明神を倒せるかも……とはいえ、あちらは人間との共存を望んでいません。ハッキリ言って危険です」
「潜在的な敵、か……理解した。確かに、敵同士をぶつけ合い共倒れを狙うというのはアイデアとしては検討に値する。どう思う」
鬼司令が鼻で笑った。
「潜在敵の双方の詳細を知らずにぶつけ合う?フン、アイデアの無謀さを伝えるにはいい表現だ!それで『代表』!こうなったからにはお前は人間側、いやブルネイ側として動くと見ていいんだな!?」
重大な選択だ。でも、もうここで引くわけにはいかない。
「
「そうか!ならばキリキリ吐いてもらうぞ!対日との選択にも関わる!あちらの数と場所は?」
悪いな、プラウダ……
「あちらも潜在的にこちらを敵だと思ってるのでハッキリしたことは伝えられてません。でもおそらく百以上はいます」
画像でそんくらいいたからな。
「場所は南米の深海平原と言っていましたが、たぶん本拠地は南米から南極海の辺りだと思います。ティエラ・デル・フエゴ島かフォークランド諸島かと」
「南米に百以上、しかも第三勢力か……」
王様が困り果てたようにつぶやいた。
「どうしたい!?南米の果てにいるいつこちらに銃口を向けてくるかわからん集団を、敵意を持っているか解りもしない相手にぶつけるか!?」
「そうなんですよ……私も日本側がハッキリしないし、仮にぶつけるとしても手順がすごいややこしくなると思います。そんなの小娘の私にはやり方わからないんですよ」
皆が黙りこみ、それぞれがチャット欄で激論を交わし始める。
日本は本当に敵なのか?いやそれを置いといてもアビス生みの親はブチ殺したい。コヴナント的それはOKなの?とか。
別にあいつ死んでもコヴナント的にはどうでもいいです、むしろプラウダなら積極的に殺したい相手でしょうねとか。
どうプラウダに情報開示すれば日本を倒してくれるのか?いや、とりあえずプラウダにコンタクト取るべきでは?とか。
「……時間が必要だ。真相を確かめ、証拠を握る時間が。そして、戦争に備える時間がだ……」
王様のこの言葉には正直賛成だ。日本と戦争するにしてもプラウダと戦うにしてもまだ全然準備できてないし、二方面作戦も無茶だ。
何より、明神によってアビスが作られたという情報の扱いで国内で差別とか生まれても困るし。
「コヴナントの代表として言いますけど、本当にお願いします。明神を恨む気持ちはわかります。でもそれでコヴナントが差別されるのはごめんこうむります。お願いします」
かつて王様がやったように深~く頭を下げておく。
私だって明神かばいたくはねえよ。
そうじゃないんだ。シンプルに揉め事を持ち込みたくねえんだ。
とはいえ、いずれにしても日本かプラウダの火種は放置はできねえ。
「……私もその意見に賛成だ。脅威に備えねばならんからこそ、今は内部に軋轢を生むべきではない……内部で団結し、各国に恩を売るべき時だ。味方を増やしてこそ、勝ち目が出てくる」
「証拠固めも必要になるな!対外的には味方を増やし、アホ共が喧嘩を売った時に大手を振って叩き潰す!」
うーん、軍人勢のやる気が過ぎる~!まあ世界滅ぼされてるからな。
あっ、投票結果出た。
「……備えよう。それが現段階の結論だ。思うところがあるのはわかる。だがゴールもなく戦いを挑むのは愚か者の所業だ。今日の所はここまでにしよう……各自、責任ある行動を頼む」
なんか、戦争を前提とした復興になりそうで嫌だな~!
私が持ち込んだ火種だけど。
でも、こんな重たい事実わたし一人で抱えきれねえよ……
これも選択、か……せめて責任持たなきゃな。
どこまで書こう?
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このまま一気に行こうぜ!
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もうちっとだけ続くんじゃ