星の海が示すは天の音   作:レオ2

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第一歌 第一節 導くは路上の歌

 日本の首都にして中心,東京。

 国内では常に最先端の技術と流行が集まるこの場所は,よくも悪くも騒がしい場所である。

 もちろん例外も存在するが,彼,彼女が住む場所は典型的な”うるさい場所”だった。

 

 車の排気ガス,コンクリートから上りくる熱気。

 人の波によって生まれる摩擦は,海星を辟易とさせるには十分な鬱陶しさだった。

 

「クソ…相変わらず人間が多すぎる。なんでどいつもこいつも東京に集まってきやがる」

 

 人の波を抜け出し,バイクを止めてある駐輪場へ歩を進めながら罰当たりに毒づいた。

 

「やっぱりスクーリングはオンラインに限る。次からはそうしよう」

 

 独り言のように呟く海星の言葉に答えるものは…いた。

 海星が身に着けているイヤホンから,ケラケラと笑いながら答えた声があった。

 

『アハハ!昨日も同じ事言ってたじゃないか!』

 

 声の主の姿は見えない…が,海星は苛立つように返答する。

 

「うるっせえ,昨日はまだマシだと思ったんだよ。最近の気温は低くて雨続き。実際昨日までは雨予報だったのに朝いきなり晴れたのが悪い」 

 

 もう少しで秋,雨続き,おまけに世間一般では休日ともなればお出かけしようと思う人間は少ないだろという海星の完璧(笑)な読みは,天気予報が外れたことで見事に外れた。

 

『予報は予報だからね~。僕ならもっと正確に予報を出来たけど』

「そこまで高性能にした覚えはない。あとお前1週間以内のデータしかまだ分析出来ねえだろ」

『酷いなあ。それが親の言う事かー!』

 

 どこでそんな語彙を覚えたのかと海星は頭痛にあったようにこめかみを抑える。

 自分は知らないが,どっかのアニメの台詞をパクるのが最近のコレの流行らしい。

 因みに昨日は母から部屋を整理するように言われ,嘘をついて片付けたと言ったのにコレにチクられて怒られた。

 その際コレは

 

『あ,これが”ブルータス,お前もか”なんだね?!』

 

 1回リセットした方が良いかもしれないと,本気で思った。

 怒られてる横でそんな事を言うものが悪い。

 

『あ,でも安心しなよ。帰りの道は空いてる』

 

 面白そうにしながらも,海星の思考を呼んだように彼が気にしている事を報告した。

 海星は顔をしかめた。図星を指摘される時間程無駄な物はない

 それは合理主義で生きている彼からすれば,背中を取られたような不快感だったからだ。

 

「ナチュラルに心読むな。あとそんなのは最近の交通量をみりゃあ分かる」

『さっきは予想外した癖に』

「俺お前の親だよな?」

『ふっふっ,子が親を○す。これがサイヤ人の定めか…』

 

 流石に某アニメは海星も知っているが,誰の台詞か全くわからなかった。

 あと純粋にツッコむのに疲れた。

 だから今は

 

「帰ったら初期化するか」

『ええ!やめてよお父さーん!』

「誰がお父さんだ」

 

 ただでさえ今日はスクーリング――通信制高校で単位や受験資格を得るために必要な面接授業--で疲れているのに,コレの変な学習成果に付き合うのは疲れる以外のなにものでもない。

 本当はオンラインでも受けられるはずだったのだが,母親に「たまには外に行け!」と放り出されてしまいこの始末。

 コレのからかいの材料が増えただけかもしれない。

 

 けど…海星にとってこれは唯一の友達と言っても良い存在。

 数字,データで生きる彼にしては珍しく甘くなる。

 もちろん自分が()()()から愛着もある…筈だ。

 こうやってやいややいやと気楽に言い合える存在は,海星にとっても有益だった。

 

『あ,このまま歩いてもなっがい信号に捕まるから駅通った方が早いよ』

「だから心読むな。…じゃあそうするか」

 

 彼らがいる場所は通信制高校の最寄り駅。その駐輪場に海星のバイクが止まっている訳だが,そこに至る信号は少々待ち時間が長い。

 であるならば,駅の地下を通って向こう側に行った方が早いとコレは忠告した訳だ。

 …これが本来のコレの使い方だよな?と海星は思いながら駅を通り過ぎようとした所,不意に脳を掠め取った不協和音が鼓膜に響いた。

 

 無駄な時間…ではあるのだろう。

 なぜ自分でも足を止めたのかは分からなかった。

 目の前にいる女性も,足を止めてその不協和音がなる先を見たからだろうか?

 否,それはあまり関係ないだろう。

 

 足を止めたのはつまるところ,数字やデータ的に何かを感じたからだろうと海星は思った。

 じゃないと自分の足が,思考が止まった理由にはなりえないと考えたからだ。

 彼が見た先には,若い男性2人がそれぞれアコースティックギターとマイクを持って路上ライブをしていた所だった。

 1人は茶髪,ボーカルは黒髪の爽やかな青年だった。

 

「~~♪」

 

 アコギの特徴である柔らかい音が,都会の喧騒とぶつかり調和していく。

 そのアコギに載せられるような歌声が,この駅を通る人達に注がれる。

 だけど,その音が,その声が人々に届いているのかは別だった。

 

 

(…無駄なことを)

 

 

 海星は,彼らの前を通り過ぎる幾千の人間を見ながらライブをしている2人にそう毒づいた。

 彼らが何のためにライブをしているのか,それは海星のあずかり知らぬところだ。

 だけど,プロになりたいと思っての路上ライブなら…無駄だというしかないと海星は思った。

 上手い下手は分からないが,こんな路上なんかでライブしたって成功する確率なんて0に等しい。

 努力の仕方が間違っているようにしか海星には思えなかったのだ。

 ()()には。

 

 ふと聴こえたのは隣の女性,どっかの高校の制服を身に包んだ彼女の声はやけに海星の耳にこだました

 

 

「すごいなぁ」

 

 

 その言葉に,ギョッとしたように海星は彼女を見て――理由も分からず息を飲んだ。

 別に特別彼女が美人だったからとかそんなのではない。

 というか,海星にとって美人と言うのは顔の黄金律やパーツが偶々うまい具合にハマっただけだろという考えなだけだ。

 

 だから,なぜ彼女を見て――どこにでもいそうな,綺麗な長い髪の眼鏡の女性——息を飲んだのか…彼には分からなかった。

 

 それが”動揺している”という事に,海星は気がつかないままに路上ライブは終わりを告げていた。

 観ていた僅か5人(海星は除く)のまばらな拍手と共に,彼女もまた踵を返そうとして――周りを見ていなかったのか,海星の肩に顔をぶつけた。

 

「ご,ごめんなさい!」

 

 名も知らぬ彼女は慌てて謝罪する。

 それは反射的に…まるで殴られることを想定したかのように身体を強張らせていた。

 

 一方海星は海星で自分の中にあるこのデータが何なのかが分からないでいたため,彼女の謝罪を気にした素振りも無く首を振った。

 

 「別に。あと周りの目がヤバいから謝るな。」

 

 嘘だとコレは思った。

 海星が周りの目を気にする?

 そんなのはあり得ない。

 じゃあなんでそんな事を言ったのか…学習データが足りなくてコレにも分からなかった。

 

「ごめんなさい!」

 

 そして結局震えながら謝ってしまう彼女に,海星は鬱陶しそうに頭を掻いて無視して駅の中へ入って行ったのだった。

 海星は気がついていないだろうが,彼のスマホを通して視ていたコレには分かっていた。

 彼女の心拍数や呼吸が諸々早くなっていた事を。

 その理由がなんなのかは分からないけれど,彼の為に言っておいた。

 

『いくらぼくでもさっきのはないって事は分かるよ』

 

 だけど,その言葉が海星に届く事は無かった。

 信じられないものを感じたように,彼は黙って駐輪場へと向かってしまうのだった。

 

 

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