世話焼き生徒会長、ヒロインの心まで焼き尽くしてしまう 作:古野ジョン
我が
もっとも、本部と言っても立派なものではなく……大きめのテーブルにパイプ椅子がいくつかあるだけなんだけど。あとは備品やら過去の記録やらが詰まった段ボールが大量に積まれてるって感じ。
俺はテーブルの端っこ――いわゆる「お誕生日席」――に座り、仲間たちがパソコンに向かって仕事をしている様子をぼーっと眺めている。
「あー、コイツ嫌い!」
「
「ワードが言うこと聞かないんですー! 会長の言うことは聞くのにー!」
「別に俺の飼い犬じゃないんだけど」
「ちゃんとしつけしてくださいよー! もー!」
訳の分からぬ文句を垂れて頬を膨らませているのが、俺の右前に座る
彩音の髪型はハーフアップで、ふわふわと触り心地の良さそうな見た目。顔も整っているし、スタイルもすらっとしていて、全身で「後輩女子」の空気を醸し出している。
……なんて言うと雑な説明だけど、そういう女子ってよくいるだろ? なーんかオーラがあるというか。何が言いたいのかと言うと、俺は彩音が何かと騒ぐ様を可愛いなあと思って眺めているってことだ。
「
「そうかな?」
「そうですよー!」
左前に座って同じく事務作業をしていた
榊は彩音と対照的な感じで、一言で言えば「堅物」。うちの高校で一番堅い人間だと言ってもいいかもしれない。
背は彩音よりちょっと高くて、めちゃくちゃ綺麗な黒髪が目立つ。眼鏡をかけているけど、それもよく似合っていると思う。彩音が可愛い系だとすると、榊は美人系って言えばいいのかな。
「別に大丈夫だよ。パソコンなんて使っているうちに覚えるもんだからさ」
「あのねえ、瀬名くん。もう星野さんが入って二週間は経つのよ?」
「えー! 光陰矢の如し、月日に関守なし、会長に彼女なしって感じですねー!」
「そんな諺はない!」
「そうね、諺にするまでもない事実だもの」
「そういうことじゃないの!!」
一応! 俺は! 生徒会長なんだけど! ……まあ、部下と上司の距離が近い組織は風通しが良いということにしておこう。それより彩音のパソコンの話か。
「とにかく! ここは彩音に頑張ってもらおうよ」
「瀬名くんは呑気すぎるのよ……。これじゃいつまでたっても仕事を任せられないわ」
榊はため息をついた。彩音が生徒会に入ってからよく見るようになった光景だ。新人なんだし、そんなにガミガミ言うことないと思うんだけどな。貴重な人材だし、大事にしないとね。
「それで星野さん、仕事は進んでいるの?」
「安心してくださいよー! 後は文章書くだけなんですからー!」
随分と自信満々に答えたなあ。たしかコイツには生徒会だよりの作成を任せたんだったな。一か月に一回発行しているプリントで、生徒会の近況やら生徒総会の概要やらが主な内容だ。
一見すると難しそうな仕事だけど、テンプレートに従って文章や画像を入れるだけなので意外と簡単。生徒会ではどちらかというと新入りの仕事なのだ。だから一番下っ端である彩音に任せてみたというわけ。
最終的には俺がチェックしないと印刷に回らないし、多少は変なことを書いても問題はない。……とは言っても、こういう文書作成をするのは初めてだろうしな。ちょっと見てみるか。
「彩音、途中まででいいから見せてくれない?」
「そんなっ……せっかちなんだから……」
「お昼に主婦が観るドラマみたいなこと言わないでくれる?」
「瀬名くん、今どきの主婦はスイッチに夢中なのよ」
「会長ってときどきおじさんみたいですよね~」
「いいから早く見せろっての!」
「あーん」
やかましい二人を無視して、彩音の持っているパソコンを取り上げた。お、どうやら本当に仕事をしていたみたいだな。今月号のタイトルは……「春風麗しき生徒会」?
「……なんだか随分と風流なタイトルだね」
「えっ、そうですか? 私の生まれ持つセンスが爆発しちゃった?」
「褒めてないけど」
「とにかく、自信作ですっ! 読んでみたら分かります!」
「ふーん……」
別に文学的要素を求めているわけじゃないんだけど、まあいいか。とにかく中身を見ないことには分からないし、どれどれ……。
『春。それは出会いと別れの季節。咲き乱れる桜は、まるで生命を歓ぶ祝祭の如く賑やかでありながら、散りゆく花びらは、儚い夢の断片のよう。地べたを這って運命を嘆く花びらを憐れみながら、私は足を校門に向けて――』
「直木賞でも目指してるのかよ!?」
「いえ、芥川賞ですっ!」
彩音はふふんと胸を張っている。たしかに良い文章だけど……そういうのは同人誌でやってくれないかな! ビッグサイトに持って行けば売れるかもしれないし! 黒字だったら生徒会予算の足しにしてくれ!
「駄目、やり直し! もっと普通の文章にして!」
「えーっ、私の大作があ……!」
「大作どころかまだ三百字だろ!?」
「これから百万字にするんですー!」
「フォント極小にしないとA4に収まらないから! みんな老眼になるわ!」
「分かりました、消しますよー……」
おいおい彩音、そんなにBackspaceを連打したら壊れるだろうが。それにしても、テンプレートの体裁が崩れる……くらいのミスは想定していたんだけど、まさか純文学になるとは思わなかったな。
「あーっ!」
「ん、どうかした?」
顔を上げると、彩音が画面を前にしてわなわなと震えていた。顔面蒼白というか……本当に見ていて飽きない奴だな。
「あの、文章だけ消すつもりがテンプレまで消えちゃったんですっ!」
「なんだ、そういうことか……」
「どこ行ったの~!?」
「パソコンの裏にはひっついてないと思うよ」
「なんでそんなに冷静なんですかっ!」
川の石じゃあるまいし、端末の裏を見たところで虫もテンプレも存在しないのだ。テンプレートのファイルは別のところに保存してあるはずだから、それをコピーしてやり直せば何の問題もないのに。
「仕方ないわね、貸してみなさい。戻してあげるから」
「あっ、さすが凛花先輩! 頼りになります!」
「まったく、だから最初からちゃんと教えて……えっ?」
「さ、榊!?」
あ、あぶねえ! 榊が彩音から受け取ったパソコンを落としそうになったので、慌てて手を差し伸べる俺。急にどうしたんだ?
「気をつけてくれよ、生徒会も予算はあんまり――」
「無い」
「えっ?」
「無いのよ、生徒会だよりのテンプレートが……!」
ちょっ、それは話が別だ! 榊は必死にパソコンのフォルダを探し回っているみたいだけど、どこにもないらしい。
「ちょっと、あれが無くなったら困るのに……!」
「あ、あの~……」
「……星野さん?」
「ひゃいっ!?」
「テンプレート、どこにやったの?」
「えーと、その……」
うわっ、すげえ冷たい声。副会長の本領発揮って感じだな。彩音の方は……たじろぐばかりで視線が行ったり来たりしている。漫画だったら吹き出る汗が描きこまれていそうだ。
「どこにやったの、星野さん?」
ひー怖い。彩音、あんまり榊を怒らせないでくれよ。結構頑固な奴なんだから、宥めるのに時間が――
「て、テンプレのファイルに直接書き込んでましたあ……!」
榊の背後に真っ赤な炎の幻影が見えたのを、俺はたぶん忘れないだろう。