男らしさのない一般社会人男性がTS転移したら、学生時代に親友だった不良と再会した話   作:Sfon

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笑顔は防具

 喫茶店『スプラウト』での初仕事は、緩やかにスタートを切った。

 

 お店の簡単な説明を受けながら、ロッカーがある店の奥へと案内される。先導するカーラの背中姿をぼんやりと眺め、怜は少し不思議な感覚がした。

 

 カーラは三十代前半の落ち着いた雰囲気の男性。背は高く、スタイルもいい。深いブラウンの短髪をキレイに整え、どこかの雑誌のモデルでもできそうなくらいだ。

 

(これだけ見た目が良かったら、いろんな仕事ができるだろうに。どうして喫茶店を選んだんだろう)

 

 喫茶店『スプラウト』の建物は、石造りの建物が主流なこの街で、珍しく木で建てられて温かみがあった。内装も木材をふんだんに使っている。それが不思議に思った怜がそのまま口に出すと、店主のカーラは喜んで答えた。

 

「石ってどうしても冷たい印象があるでしょ。夏は熱気がこもっちゃうし。リラックスできるお店にしたかったから、土地を見つけて自分で建てたんだ」

「お店って、建物から建てるのが普通なんですか?」

「うーん、基本は、物件を探してそこに構えるのが多いのかな。僕の場合は、半分、家を建てるような気分だったから」

 

 カーラは店の奥へと歩きながら、あたりをぐるりと見渡した。それに連れられて怜も見渡すと、確かにただのお店じゃない、端々にいろんな思い出が詰まっているような、飾り付けがされている。

 

 節目ごとのお店の写真、外国を思わせる小物で埋まった棚、居心地のいい誰かの家に招かれたようだ。

 

「儲け目的じゃないからね。コーヒー一杯で朝から晩までいてくれたって良い。むしろ、そうさせるくらいのお店にしたいんだ」

「何か、他の仕事をされてたんですか?」

「うん。ちょっとした冒険者をね。その時に山が当たって、そこそこまとまったお金が手に入ったんだ」

「冒険者? それってやっぱり、大変なおしごとなんてすか?」

「実入りは良かったんだけどね。元々、性格的にあんまり向いてなかったし……すぐにやめて、今度は皆が笑って過ごせる場所を作ろう、って。あ、これ、秘密ね?」

 

 くすりと笑いながら、口元に指を立てる仕草。カーラのそれはなぜか、芝居がかっているわけでもなく、自然と受け取れた。

 

「なんか、アサギリさんって、聞き上手でしょ。何でも話したくなっちゃうなぁ」

「そんなこと、無いですよ。静かに聞いてるだけで」

「きっと、その雰囲気が良いんだよ」

 

 にこやかなカーラの表情は、初仕事で緊張していた怜の心を少しだけ解してくれた。

 

 ──◇──◇──◇──

 

 到着したロッカールームは、小さな個室の中にロッカーと姿見、椅子が数脚があるだけの部屋だった。清潔な石鹸の香りがして、その先を辿れば窓際に小さな棚が置いてある。そこには、女の子が好きそうな可愛らしい小物が並んでいた。

 

「あぁ、それね、もう一人のバイトの子が置いていってるんだ。たぶん、そろそろ来ると思うけど……」

 

 カーラがそう呟くとほぼ同時に、お店の玄関が開く音。カランコロンとベルが鳴り、足音が近づいてくる。やがてその音の主はロッカールームまで来て、顔をのぞかせた。

 

 怜より少し年上に見える、大学生くらいの女性。フワフワした赤毛のミディアムヘアがキレイで、ちょっと強気な目付きがかっこよかった。身長も体つきも、怜より一回り上に見える。

 

「店長、おはよ……って、その子、どうしたんですか? あ、もしかして……」

「なんだい、その視線は。この子は新しいバイトだよ。この間、そろそろ増やそうって言ってたでしょ」

「あー、確かに。ずっと私一人だったから、冗談だと思ってました」

 

 急に会話が盛り上がってどうすればいいのかと、その場で固まる怜。それに気づいたカーラが、コホンと一つ間をおいてから説明した。

 

「この子は、うちのバイトのティーナさん。アサギリさんの先輩になるね」

「レイ=アサギリです。よろしくお願いします」

「おー、レイちゃんか~! ティーナだよ。これからよろしくねー!」

 

 怜にグイっと近づき、手を取って挨拶するティーナ。その押しは今まで会ってきたどの人よりも強くて、思わず一歩引いてしまう。

 

「ほら、アサギリさんも困ってるから、ほどほどに。開店準備はこっちで始めちゃうから、諸々教えてあげてくれるかな」

「はーい。さ、レイちゃん。こっち来て」

 

 カーラは店の表へと歩き去り、狭いロッカールームにティーナと二人きり。会って間もない女の人と二人隔離されて、怜はすっかり縮こまってしまった。

 

 ただ、その仕草は今の怜の見た目に妙に似合っていた。小柄な少女がもじもじしながら、それでもバイトに挑戦しようとしている。それがティーナの庇護欲を刺激した。

 

(やば、この子……あざと可愛すぎ。でも、イヤミったらしくなくて、うわぁ、こりゃ、人気奪われちゃうかも)

 

 今まで培ってきたお客さんとの関係や、店員としてのスキルは、そう簡単に抜かされない筈。それでも脅威に思うくらいに怜が魅力的に見え、それがとてもうれしかった。こんなに見た目も中身も可愛い子が、自分の後輩になった。胸躍る気分だった。

 

「ロッカーはそれぞれ決まったところを使ってるんだけど、ここが店長ので、これが私の。レイちゃんは……これを使ってくれるかな。はい、鍵」

 

 空きロッカーの中から鍵を取り出し、怜に渡すティーナ。怜が受け取ったのを見て、ティーナは早速仕事の支度を始めた。荷物をロッカーに入れて、着ていた上着もハンガーにかけてロッカーの中へ。怜もそれを真似する。

 

「エプロンは、ここに積んである奴を適当に使ってね。毎日取り換えるから、誰のとかは無いよ。紐の縛り方は――」

 

 ティーナからエプロンを受け取り、見よう見まねで身につける。お客さんから見て汚いと思われない紐の結び方に少し苦戦したものの、これと言って詰まることもない。

 

 ただ、腰元でしっかり紐を結ぶ都合上、上半身のラインがはっきりと浮かび上がるのが、少し気恥ずかしかった。それを気にして首に掛ける紐にゆとりを持たせようとすると、ティーナから軽く注意される。

 

「ここの紐がピシッとしてるのが大事なの。お客さんが見て、だらしないなぁって思われちゃうからね」

「は、はい……すみません」

「大丈夫。最初はそんなもんだって。胸元が見えちゃってる気がしてさ~、接客中ずっとエプロン直してたよ。あとは……そうだ。髪、結構長いから、どこかでまとめてね」

 

 当たり前のように言われて、怜はまた固まった。確かに、飲食店なのだから長い髪は良くないだろう。しかし、纏めろと言われても、ヘアゴムなんて持ってなくて、方法がなかった。どうするか少しだけ悩み、そっとティーナを見上げる怜。

 

「ん? どしたの?」

 

 ふわりと笑っているティーナを見て、この人は信用できそう。頼りになりそう。そう思うことができた。

 

「その、今までまとめたことがなくて、何も持ってなくて……やり方とかも」

 

 怜の声は小さく、自信なさげにしぼんでいく。しかし、正直に打ち明けると、ティーナはにっこり笑って言った。

 

「なら、あたしがやったげるよ! えっとね、ヘアゴム、ヘアゴム……あった。こっちに背中向けてくれる?」

 

 その軽やかな言葉に、怜の心はふっと軽くなった。正直に話して良かったと安心した。

 

「んー、どうしよっかなー。髪長いのにすっごくキレイだから、ちょっと迷っちゃうね。ね、どんなのが良いとかある?」

「えっと、何にもわからなくて……おまかせします」

「おっけー。それじゃあ……」

 

 背後のティーナはどこか楽しそうで、怜まで気持ちが上向くほど。他人の髪をまとめるのが、そんなに面白いことなのだろうかと、怜は少し不思議だった。

 

 ティーナがポケットから取り出した髪留めで、怜の髪を器用にまとめていく。指先が軽く頭皮に触れるたび、くくすぐったくて、でも心臓が早くなるような不思議な感覚だった。

 

 自分の髪に誰かの手が触れている。その柔らかさが、自分が女の子だという実感を持たせた。まとめ終わると、ティーナの手が怜の肩を軽くポンと叩く。

 

「よし、完成っ。……ふふっ、可愛いなぁ。なんか、妹ができたみたい」

「え、あの……ほんとに……? なんか、その……変じゃないですか……?」

「ぜんっぜん。むしろ、めっちゃ可愛い。鏡見てごらんよ?」

 

 ティーナに背中を押され、そのまま鏡の前へ。鏡の中には、髪を後ろで一つにまとめた、緑のエプロン姿の自分がいた。

 

(まだ、ちょっとだけ違和感があるけど……昨日よりは、ずっと自分だって分かる)

 

 アジサイ色の髪をまとめた、可愛らしい女の子。髪をまとめるだけで、ずっと女の子らしさが増して、怜は頬を軽く染めた。自分に慣れた理由は少し恥ずかしいけれど、それでも、してよかったと思えた。

 

「……なんか、すごく『女の子』って感じで……変な感じです」

「なーに言ってんの。女の子にしか見えないよ」

「で、でも……こういうの、まだ慣れてなくて……。その、髪も、こんなにまとめたの初めてだし……エプロンも、なんか体のラインとか出てて……」

 

 どうしても、身体が縮こまってしまう怜。それを解そうとして、ティーナは怜の肩を軽く揉んであげた。

 

「そりゃあ最初はみんな照れるって。あたしだって、初めて着た時はソワソワしたもん。でも大丈夫。レイちゃん、めっちゃ清楚で好印象。お客さんにも絶対ウケるって!」

「ウケる、って……なんか照れますね……」

「ふふっ、そういうとこも可愛い~。明日もやってあげよっか」

 

 満面の笑みで言われると、怜は断りづらかった。それに、ティーナに髪を結ってもらうのは、何となく、良かった。具体的にどうしてとかは分からないのに、何度でもして欲しいと思った。それを、怜は変に遠回りせず、まっすぐに伝える。

 

「えっと、じゃあ、はい、お願いします」

「かしこまり~。明日はどんな髪型にしよっかなぁ」

「あはは……お手柔らかにお願いします」

 

 幸せそうな表情を浮かべるティーナを眼前にして、『あなたの方がずっと可愛い』と、怜は自然にそう思った。

 

 ──◇──◇──◇──

 

 フロアに戻ったティーナは、怜に接客の基本を教えていく。トレイの持ち方、笑顔の作り方、メニューの覚え方――。最初はおっかなびっくりだったが、怜は少しずつ慣れていった。

 

 ずっと気がかりだった自分の声にも、接客練習で沢山声を出したおかげで、ようやく慣れ始めてきた。少女然とした、透き通った声。裏声にすらしていないのに、そんな可愛い声が自分の喉から出てくる。それがずっと違和感になっていたけれど、数をこなすうちに少しずつ、耳に慣れてきた。

 

 のどに触れれば、慣れ親しんだ喉仏のない、滑らかな喉。むしろ折れてしまいそうなくらいに首が細くて、良くこれで頭と長い髪を支えられているなと思えた。

 

「い、いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ~」

「はーい」

 

 ティーナを練習台に、習ったことを一つずつ身に沁み込ませていく。耳に入る、自分の可愛らしい声。今はむしろ、それに勇気づけられている。今の自分は可愛い女の子。胸を張っていれば、変に思われることなんてない。

 

「こちらがメニューです。お決まりになりましたらお声がけください」

「あ、じゃあ、このアイスコーヒーと……あとガトーショコラで」

「アイスコーヒーと、ガトーショコラですね。砂糖とミルクはどうされますか?」

「両方お願いしま~す」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 メニュー表を下げ、ぺこりとお辞儀をしてから厨房へ。歩いている途中で、座っているティーナから声がかかる。

 

「おっけ~。いいじゃんいいじゃん! 飲み込み早いよ。いままで接客仕事とかしたことあるの?」

「いえ、これが初めてです」

「へぇ、すごいなぁ。なんというか、店員を演じるのに慣れてる感じするね。初めてだと、照れちゃって声が小さいとか、あるあるだと思うし」

 

 それは、ティーナが心の底から褒めてくれたはずのセリフ。言葉の裏なんて無いはずなのに、怜はその言葉を気持ちよく受け止められなかった。

 

(演じるのに慣れている、ね。そりゃ、そうだよ。……ずっと演じてたんだから)

 

 気に入ってもらうために、相手の様子をうかがって、それに合わせる。前の世界で、怜がずっとやってきたことだ。求められる言葉を探し、空気を読んで笑い、自分の居場所を確保してきた。それにこだわって、倒れてしまうくらいに。

 

 この世界ではいつの間にか自分を取り繕うことが減っていたけれど、元々の怜の在り方はそっちが普通だったことを、ふと思い出した。この世界でも、結局、そうやって生きていかないといけないのか。胸が締まる思いだった。

 

 少しだけ、怜の表情が曇る。ティーナはそれを見逃さず、見なかったことにせず、受け止めた。

 

「おしごとってさ、『求められることをしなきゃいけない!』って張り切ると、案外うまくいかなかったりするんだよ。だから、例えば……『今日の私は可愛い喫茶店の店員さん!』ってお芝居をするみたいな、そのくらいの気分でいいんじゃないかな」

「そんなノリで、良いんですか? だって、お金を貰ってやるわけですし……」

「良いの良いの。ガチガチに固まってる店員さんを見たら、お客さんだって緊張しちゃうよ。このお店はもっとこう、お家みたいな感じだから。教えたことは守って欲しいけど、後は気楽にやろう?」

 

 そこまで一気にいうと、ティーナは時計を見て、席を立った。

 

「そろそろ開店時刻だよ。最初は私がやって見せるから、ちゃんと見ててね」

「……はい、分かりました」

 

 その返事の言葉が少しだけ暗いトーンになってしまい、怜はすぐに気を取り直した。これからお客さんを迎えるのだ。暗い顔で居ては、店内の雰囲気が悪くなる。それは自分だけの問題じゃない。お店の評判にもかかわる。

 

(ちゃんと、しないと)

 

 怜はギュッと唇を結んでから、さっき習った笑顔を思い出して、表情を作った。ティーナが怜に笑顔を教えた時の言葉。

 

『笑顔っていうのはね、女の子が持ってる防具なの』

 

 その言葉を聞いたとき、怜はすぐに意味を理解できなかった。

 

『ニコってするだけで、お客さんは安心するし、こっちの緊張もちょっとは楽になるでしょ。笑顔を浮かべている相手に怒りたい人って、あんまりいないと思うんだ。あたしも、最初は嘘ついてるみたいでいやだったけど……慣れてくると、結構悪くないんだよ?』

『えっと……』

『つまり、笑顔ってさ――私は大丈夫だよって伝える方法なの。怖かったら、ちょっとだけでも口角を上げてみて。案外、それだけで守られることもあるんだから』

 

 その言葉に、『作り物は悪じゃない』と、背中を押された。

 

 ──◇──◇──◇──

 

 怜が担当した初めてのお客さんは、中年の女性だった。お昼前にやってきたその女性はカフェに入ると、怜の姿を見て僅かに目を細めた。

 

 カランコロンとベルが鳴り、机を掃除していた怜はパッと顔をあげ、笑顔を作って入り口に向きなおる。背後からはティーナの視線。不意をつかれたタイミングだったが、それがむしろ練習の成果の見せ所だ。

 

「……いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」

 

 少しだけ言葉に詰まったが、こっそり素早く深呼吸をして、習った通りにご挨拶。席へ案内し、メニューを渡し、オーダーをとる。育ちが良いのだろう。話し方も、仕草も、上品な女性だった。

 

 にこやかに一礼し、慌ただしくなく、しかしだらしなく見えないように歩き、厨房に戻る。店長にオーダーを伝えると、フロアから見えないところでホッと一息ついた。

 

「良い感じだったよ、レイちゃん」

 

 小声でティーナが褒め、店長もニッコリと笑顔を向けた。今になって、怜の胸はトクントクンと高鳴っていた。思わず胸に手を当て、気持ちを落ち着ける。

 

(良かった……。僕にも、ちゃんとできた)

 

 安心したのもつかの間、注文された飲み物と軽食をトレイに載せて、お客さんの元へ。丁寧な手つきで、音を立てずにテーブルの上へ渡す。

 

「ごゆっくりお過ごしください」

「はい、どうもありがとう」

 

 にこやかに挨拶を返してくれて、怜は心の底から嬉しくなった。喫茶店の店員として受け入れられたような気分だった。それは、決して怜の思い込みではないと、すぐに分かる。そんな怜に、お客さんから声がかかる。

 

「お嬢さん、今日からここで働き始めたのかしら?」

「は、はい。そうです。……あの、すみません、何か粗相を……?」

「いいえ。私、このお店が大好きなの。毎日通ってるから、新しい店員さんだってすぐに分かったわ」

「そうなんですね。えっと、いつもありがとうございます」

「ふふっ、初々しくていいわね。なんか、元気貰っちゃったわ」

 

 その言葉には偽りがないと、誰が見ても分かった。自分の接客で、お客さんが喜んでくれる。しかも、何かその裏に隠されているようなこともない、まっすぐな言葉で。

 

(僕にも、ちゃんとできること、あったんだ)

 

 怜はトレイをギュッと握りこみ、こっそり喜びを噛み締めた。

 

 怜とお客さんが話しているのを聞きつけて、ティーナもフロアにやってきた。パタパタと小走りで、何となく子犬のようなかわいらしさがあった。

 

「アンドレアさん、おはようございます! いつもより早いですね」

「ティーナちゃん、おはよう。今日は主人が朝早くから仕事でね、いつもより一時間も速く起こされちゃったのよ。自分でご飯作ってくれればいいのに、『お前の作った朝ごはんを食べないとやる気が出ない』ってね、ふふっ」

「えぇ~、良いじゃないですか。愛されてる証拠ですよ」

「そんなんじゃないわよ。そうだ、昨日息子から聞いたんだけど――」

 

 お客さんと店員、その関係のはずなのに、目の前の二人はまるで親戚のように見えた。久しぶりの集まりで話に花を咲かせる、女性の集まり。怜にはそう映った。

 

 トレイを戻しに厨房へ戻ると、店長のカーラが怜を迎えた。

 

「どう、うちのお店の雰囲気、何となくわかった?」

「はい。その……あったかくて、良いお店ですね」

 

 怜が頬を緩ませて答えると、カーラは自信を持った笑みで答えた。

 

 エプロン姿の自分が、この店に受け入れられた。その実感が、ゆっくりと胸の内に広がった。

 

(働くって、自分をすり減らすことだと思ってたけど……)

 

 この仕事なら、自分を嫌いにならずに済むかもしれない。怜がカーラに返した笑みは、それまでよりも少しだけ、自然なものになっていた。

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