ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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1.スタート地点
第一話 鹿目まどかは断れない


 鹿目まどかは、魔法少女になった。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 白と黒でマス分けされた世界を、一人の少女が走っている。

 無秩序に浮かぶ形はしかし、どれも色という存在を忘れたモノクロだった。空間ごと裂いて行くように、少女は走っていく。息遣いだけが響き、ピンク色のツインテールが走るリズムに合わせて揺れた。

 少女が立ち止まる。緑色の非常灯が目に入った。ゆっくりと、されど迷いなくその非常口へと少女は足を進めた。

 格子のような模様の扉を開ける。

 そこは異世界だった。

 

「……はぁっ!」

 

 少女が息を呑む。扉の先では、見たこと無いほど異様な光景が広がっていた。

 大きな捩子、いや歯車から垂れ下がる何か……おかしなもの。立ち並ぶビルは窓が割れるどころか、その身が割れて空中に浮いている。空は雲、それも暗雲というべきものが重く広がっていた。

 少女の人生では、どれも一度とて目視することはなかった。

 異世界にでも迷い込んだとしか、思えない。

 出てきた場所も、大きな木が伸びている。それは空に浮くへんなものよりも大きいくらいで、少女が乗っていることなど知りもしないようにただ在った。

 

 遠くのビルの屋上に人影がある。

 少女がそう認識した瞬間、その人影は跳んだ。おかしな、ドレスを着た異形に向けて。すると飛んでいたビルは人影に向かって落ちる。地上のビルとぶつかり、砂ぼこりとコンクリートと……とにかく色々なものが混ざって飛びちった。

 人影は煙から飛び出し、異形からの攻撃を避ける。よく見ると人影は、見守っている彼女と同じくらいの少女のようだった。

 手元にある小さな盾が、彼女を攻撃から守る。しかし、大きさが違いすぎる。どちらが優勢かなど、見ずとも一目瞭然だった。

 

「ひどい……!」

「仕方ないよ。彼女一人では荷が重すぎた」

 

「でも、彼女も覚悟の上だろう」

 

 ピンク髪の少女が隣を見ると、小さな白いぬいぐるみ?が喋っている姿があった。

 黒髪の少女が耐えきれず、異形の攻撃で吹き飛んだ。

 痛みで声が漏れていた。

 

「そんな……あんまりだよ!こんなのってないよ!」

 

 黒髪の少女は、動けない。白い獣と少女を見つけたようで、何か叫んでいたものの……それが届く距離ではなかった。

 やがて、下を向いて落ちていく。

 

「諦めたらそれまでだ」

 

 赤い目が少女を見る。少女は、その言葉にはっとした。

 

「でも、君なら運命を変えられる」

 

 しっぽがふわふわと揺れる。

 地上で赤い電灯が明滅した。

 

「避けようのない滅びも、嘆きも、全て君が覆せばいい。そのための力が、君には備わっているんだから」

「……ほんと、なの」

 

 ゆらと、少女の足が一歩前に出た。

 黒髪の女の子が、地に落ちていった。

 

「私なんかでも、ほんとに何かできるの。こんな結末を変えられるの……!?」

「もちろんさ!だからボクと契約して────」

 

「魔法少女になってよ!」

 

 少女は不安げだ。顔を落とし、もう一度上げる。

 その時には、覚悟を決めた表情をしていた。

 次の瞬間、彼女は引っ張られたような感覚に陥っていく。

 

 眩い朝日が網膜を刺激する。寝ぼけているようだ。

 抱きかかえていたピンク色のぬいぐるみをもっと抱きしめ、はぁと気を抜く。

 何か言う前に終わったら、返答できない。

 

 私は、その言葉を断ろうと思ったのに。

 

「夢オチぃ……?」

 

 

 明け方と朝をまたぐくらいの時間帯。

 小鳥のさえずりが聞こえる庭園に、一人もくもくと作業する人間がいた。ぱち、ぱちとはさみでミニトマトを切る音が鳴る。そこにピンク髪の少女がやってきた。パジャマ姿で、髪はぼさぼさだ。起き抜けらしい。

 

「おはようー、パパ」

「おはよう、まどか」

「ママは?」

「タツヤが行ってる。手伝ってやって」

「はーい」

 

 たったっと歩いていく姿を見ながら、パパと呼ばれた男は柔らかく微笑むのだった。

 おきてー、あさー、ままー、ままーと呼ぶ声が廊下まで届く。その声はまだ幼い。まどかは気合を入れた。

 ガチャンと勢いよく扉を開ける。

 カーテンを開ける。

 一向に起きないママの掛け布団を、取る────!

 

「おーきろー!!」

「どぅえあぁーーーーーーー!……あれ?」

 

 

 ずごごごご、と水が排水口に流れていく音と。小気味良い歯ブラシの音が重なる。

 一面ガラス張り。その上からガラスが張られている珍しいデザインの洗面所だ。一つだけ気温や湿度の予測をするモニターがあり、仲間のいない姿は少し心細そうだった。

 

「最近、どんなよ」

 

 まどかの母が掠れた声で尋ねた。彼女の髪はまだ寝ぐせでぼさぼさだ。服もよれている。

 

「仁美ちゃんにまたラブレターが届いたよ。今月になってもう二通目!」

「フン、直に告るだけの根性もねえ男はダメだ」

 

 がらがらがらら、ぺっぺぇっ!と二つ分のうがい音。

 歯ブラシが置かれ、からんと鳴る。

 

「和子はどう?」

「先生はまだ続いてるみたい。ホームルームで惚気まくりだよ~。今週で三カ月目だから記録更新だよね」

「さあ、どうだか」

 

 まどかの母はドライヤーとくしを持って髪の仕上げにかかる。

 まどかは顔を水で洗った。

 水が排水口に流れ落ちていく。

 

「今が危なっかしい頃合いだよ~」

「そうなの……?」

 

 ドライヤーのスイッチを切る。

 洗ったものの目を開けられないまどか。タオルを探してさまよう手に、タオルを寄せた。

 タオルを受け取り、まどかは顔を拭く。ママは化粧に入っていた。

 

「本物じゃなかったらこの辺でボロが出るもんさ。まぁ乗り切ったら一年はもつだろうけど」

「ふ~ん」

 

 口紅を塗る。メイクブラシでほほを彩った。

 化粧品をポーチにまとめ、閉じる。

 いつの間にか彼女はスーツに着替え、その姿はキャリアウーマンそのものになっていた。

 

「完成!」

 

 まどかは赤と黄色のリボンを手に取り、悩む。

 

「リボン、どっちかな?」

 

 赤が指された。

 

「えぇ~、派手すぎない?」

「それくらいでいいのさ、女は外見で舐められたら終わりだよ?」

 

 言われた通り、まどかは赤のリボンを髪に結んだ。

 ツインテールのピンク色に、赤い差し色が映えている。

 こちらも服装は制服といった様子で、胸元のリボンとチェックのスカートは良く似合っている。

 ぽやっとした表情も実に彼女らしい。

 

「いいじゃーん。これならまどかの隠れファンもメロメロだ」

「いないよそんなの~」

「いると思っておくんだよ。それが~美人の秘訣っ」

 

 タツヤが子供用のフォークでミニトマトを狙う。が、弾力のあるトマトは彼の手を逃れ、地面への逃走を開始し────。

 そして、ああっと声を上げたママにあえなく捕獲された。右手に持ったパンで。

 左手にある新聞がくしゃりと鳴る。

 残さないで食べてねー、あいー!という家族の何気ない会話でミニトマトの冒険譚は締めくくられることになった。

 

「珈琲、おかわりは?」

 

 まどかの父が尋ねる。時間は七時四十四分。

 通勤する時間に丁度いいタイミングだった。それを確認した母は、軽く断ったあとタツヤと父にいってきますのキスを交わす。

 まどかとハイタッチして、彼女は元気に社会へと歩いていった。

 

「いってらっしゃーい。さ、まどかも急がないと」

「えっ……あ、うん!」

 

 時計をちらっと見たまどかは、パンを咥え咀嚼する。

 弟と父の声を背に受けながら、たったと通学路へと進む。もう一枚咥えたパンをささっと食べ終わり、可憐な笑顔が咲いた。

 ここはミタキハラ・アブナイ市。

 そして彼女は、ごく普通の中学2年生だった。

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