ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ 作:カイテン・マテナカータ
ドーム型の天井、地面にさまざまなお菓子が置いてある。
よく見れば、地面も綿菓子だろうか。
部屋全体が、なんだか甘い匂いがするような様相だった。
さやかを見つけ、マミとまどかは駆け寄る。キュゥべえKもいるのだった。
「お待たせ!」
「あぁ、間に合った……」
さやかが安堵と共にいう。
キュゥべえが警告した。
「気をつけて!出てくるよ!」
ドーナツの袋が蠢き、シロップと一緒になって魔女が出てくる。
飴の包み紙のような頭部の外側に、黒ベースで赤斑点の頭巾?を被っている。長い袖が地面にも触れずぷらぷらと揺れた。魔女は脚の長い椅子に座る。椅子と同じくテーブルは脚がとても長く、もう一方の椅子には飴頭のぬいぐるみが座っていた。
魔女が椅子から転げ落ちる。
マミが銃で椅子の足を折っていた。
「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせて……!」
銃で殴りつける。魔女は無抵抗のまま、壁に激突した。
「もらうわよ!」
銃弾が魔女を何度か撃ち抜く。魔女は、ぬいぐるみのようにぺちゃっと地面に落ちた。
マミがそれに近寄り、銃口を頭に添える。
ばきゅ、と鳴って煙が舞った。
魔女を撃ち抜いて地面の下にある銃弾が、糸となって魔女を拘束する。
「やったー!」
さやかが叫んだ。それを聴きながら、マミは微笑んだ。
銃にリボンを接ぎ足し、巨大化させる。
即席の砲台となったそれを手に、マミは宣言する。
「ティロ・フィナーレ!!」
魔力弾が魔女の体に風穴をあける。
魔力が変化し、リボンとなって魔女を締め付けた。魔女は口を開けた。内側から何かがこぼれる。
黒に赤斑点、そして人の顔がある蛇みたいなもの。それはにゅっとマミの目の前まで伸びた。
まどかとさやかが息を呑む。
一瞬のことに、誰もそれを止めることは出来なかった。
マミの体を、ギザギザの歯が挟んだ。
マミは左側の肩から腕にかけてがごっそり無くなっていた。
よろけ、マミは倒れる。
「あ」と間抜けな声を漏らしたのは誰だろうか。
口を開き、魔女の口内が見える。その中に、マミの左腕が残っていた。
「う、ぁあアぁっ!!」
マミが地獄の形相で右手をかざす。そこには何もない。
だが、左腕の先に銃が出現した。それも無数に。そして、順番も一斉にもなくそれらが炸裂していく。
ガガガガガガガ、と口の中を削られて魔女の本体は目を白黒させる。
そして銃をまとめて吐き出した。いまだに弾を撃ってないものもある。幾らかが暴発したが、さやかもまどかも身を隠しながらマミから目を離せなかった。
魔女にも、あまり効いた様子はない。きょとんとした顔でマミに口を近づける。
咄嗟に出したから。魔力の込め方が足りていないのだろうか。
髪を振り乱し、マミは帽子で顔を隠そうとした。今の自分の顔を、少しでもまどかに、さやかにも見られたくなかった。腕を使おうとするが、バランスが悪い。右腕だけでは難しかった。
言葉にならない声をあげながら、マミが魔力を放出する。普段の彼女であれば、絶対にやめただろう。
形のない魔力ではただのリボンにしかならない。硬いわけでもなく、壁にさえならないのだ。魔力の無駄遣いだ。
リボンをぐるぐるに巻き付け、断面からの出血を防ぐ。しかし、それだけだ。
魔力が足りない。私は、このまま死ぬ────?
「ぃ、いや……」
足がすくむ。耐えられない。死にたくない。
それでも、格好悪いところは見せられない。鹿目さんに、さんざカッコ悪いところを見せてしまったから。
絶対に死なない、鹿目さんとケーキを食べるまで。
マミは魔力を搾り尽くし、砲台を生む。鼻の先まで近づいていた魔女の本体は、それに巻き込まれていた。口の中に大きな金属が現れ、魔女は不快そうにそれを砕こうとする。
させるものか。
マミは、もう一度引き金を引いた。
「ティロ・フィナーレ…………っ!」
ボゴ、と魔女の体が膨張する。口を砲から外し、煙をあげた。
その口からにゅるりと次の魔女が現れる。
マミは、唖然とした。
暁美Mほむらの言葉がフラッシュバックする。
これまでの魔女とは訳が違う。
もうすぐ死ぬ。誰かが死ぬ。
それは、私?
「──────ぁ」
嫌な予感はしていた。
まどかが後輩になって、魔法少女として一緒に戦ってくれるって。有頂天になって、忘れたかった。それでも忘れられなかった。
黒髪の少女が降り立つ。
魔女が爆発した。爆発物がくっついていた?
「巴マミ。随分と、見窄らしくなったわね」
首に衝撃が走る。
マミは、ゆっくりと意識を落としていった。死ぬんだ。私。
死に方としては、想像していたよりもずっと優しい。少なくとも食われるよりは。でも、あぁ。ケーキ、食べられないや。考えつかなかった。死なない方法なんて、一日じゃ見つからないわね。
そう思いながら、マミ・T・スグシヌワは死んだ。
その1日前。
「あなたはネタバレを許せる?それとも、許せないの。答えはどちらか一つよ」
「……私の友人であれば、そのくらいは許すわ。あなたはそこに入ってはいないけれど」
ほむらはその言葉を聞いて、さらに質問を重ねる。
意味も分からないし、意味があるとも思えない問いだった。ほむら自身も聞いて顔色を変えるわけでもなく、ただ淡々と質問した。
「そう。許すと。その友人は、あの二人以外にいるのかしら?」
「いるわ。まあ、物語を見るような子じゃないからネタバレなんてしないけれど」
「キュゥべえのこと?」
「だったら何かしら?」
ほむらは目を瞑る。
「あれはそんな良いものではないわ。必要なことも話さないのに、何が友……」
「──今ここで、戦うつもり?プライベートにずけずけと。だから孤立するのよ」
ほむらはマミを見つめる。眉間に皺がよっていた。
キュゥべえは私の大切な友達。それを貶すことはたとえ誰であろうと許さない。
ほむらはまだ何か言うつもりらしかった。これでまだキュゥべえについて愚痴を言うのなら彼女の長い髪のどこかを撃ち抜くくらいのことは必要かもしれない。
「……いいわ。私が何もしなくても、あなたはもう……」
ほむらは背を向けながら、言った。
拗ねたような態度に苛つきを貯めても、表に出すことはしなかった。ふと言っている言葉の不気味さに気づいたから。
「………………」
「もう、何かしら。暁美さんが手を出さないと……どうなるの?」
ほむらは振り返らず、こぼした。
「死ぬの」
「……っ!?」
「巴マミ。あなたは──────明日死ぬの」
「なに、を」
ふっ、と。
ほむらの姿が消える。
死ぬ。私が?
あり得ないとは言わなかった。体が震えている。冷や水を浴びせられたように。
家に帰っても、一人だった。食事する気力もない。そもそも、魔法少女はやろうと思えば食欲ぐらい抑えられる。
孤独が、何よりも怖かった。でもそれより怖い。
死が怖い。
布団を被り、体育座りする。
死にたくない。そのためなら、なんだってする。
そう呟いた。
けれど、その言葉は記憶の中にいる誰かに一蹴された。
「あんたの知ってる「なんでも」なんて、ほとんど死なないためになんて役に立たないことばっかりだろ」と。そんなことを、言われたことがない。だからこれは、自分なのだ。
考え続けた。
夜が明けても、朝になっても……まどかとさやかに会いにいくまで。
ずっと考え続けた。
死なないための方法を。
暁美ほむらは考えていた。
縛られている現状を抜け出すためには、あれを実行するしかない。
しかし、気付かれてはならない。
しかも鹿目まどかへの質問のせいで、縛りは前よりもはるかに強くなっている。ちょっとやそっとではビクともしないだろう。
何も上手くいかない。
気配が遠くなって、しばらくして。
逸る気持ちを抑えながら、ほむらは体をくねらせた。
外から見れば赤い繭が蠢いているようにしか見えないが、彼女は至極真面目だった。
勢いをつけて、ほとんど動かせない腕を振る。
かち、と何かが押される音がした。
バゴン、と繭の外、洞窟の天井が爆発する。爆音が連鎖した。
壁に目立たないよう設置されていた爆弾が爆発する。いくら魔力が込められているといえど、リボンでは爆弾を防げない。ぼとりとほむらを包んだ繭が地面に転がった。
ちぎれたことで魔力の揺らぎは確かにマミに届いた。届いたのだが、既に彼女は魔女との戦闘を開始していた。
気にしている場合ではなかった。
ただ、錠はついたままだ。ほむらは仕方なく、もう片方のポケットに手を入れた。縛るための地盤がなくなり、少しだけリボンが緩んでいた。
これしかない。このくらいならば、被害は少ない。
ピンを抜き、程なくしてポケットの手榴弾が爆発した。
衝撃が走り、錠にヒビが入った。リボンが解ける。
自由になり、ほむらは解放されたように髪を払った。
ソウルジェムを使い、ほむらは変身する。しかしその冷たい色の顔が苦痛に歪んだ。当然だ。自分ごと巻き込んで繭を破壊するため、手榴弾にまともに晒されたのだから。腕を掴み、一瞬だけ壁に寄りかかる。
体に大きな怪我は見られなかった。
次の瞬間、マミの目の前に出現していた。
「ぁ」
「随分と、見窄らしくなったわね」
それでも生きていた。
立派に死ぬよりは、みすぼらしくとも生きていて欲しかった。もう、助けることもできないけれど。
ほむらは思う。
マミの髪を梳く。そして、目の前にいる魔女を見やった。
このままこの魔女を倒したとして、マミが生き残ったとしてもどこかで呪いが動き出す。どうして、上手く行かないのだろう。どうして上手くいってしまったのだろう。
このままマミを殺すしかなかった。そうしなければならない。もうとっくに、暁美ほむらは彼女を諦めたのだから。
そこに間違いがあってはならないと、そう決めたのだから。
マミの体を貪る魔女を横目に、ほむらは何かを拾った。
それは、巴マミの左腕だった。
逡巡を切り捨てる。無駄だと嘲る声を無視する。
魔女を死角にして、まどかには見えないようにした。
そこには何も残っていない。魔女の本体だけがきょろきょろと周りを見回し、美樹さやかと鹿目まどかを見つけた。
「二人とも、今すぐボクと契約を!!」
「させないわ」
まどかたちに向かっていこうとする魔女の目の前に、ほむらが立つ。
「こいつを倒すのは、私」
中心のテーブルと同じくらい脚の長い丸テーブルがいくつかある。
優先すべき獲物を見つけ、魔女はほむらに目をつけた。齧り付く。がしかし、ほむらはそれをどうやってか避けた。一発も当たらない。
代わりに、その舌に遠隔操作の爆弾がくっついていた。一発を契機に、どんどんと爆弾が炸裂していく。
その威力は凄まじく、死んだ魔女の口から次々に新しい魔女の体が出てくる。
しかし、ほむらは爆撃を止めない。中心の椅子、魔女の前に置かれたぬいぐるみをほむらが踏み潰す。
赤い光が一際強く瞬いた瞬間、魔女は完全に爆散した。
周囲を鋭く睨む。さやかとまどかに向かって歩いた。
「命拾いしたわね。あなたたち」
ほむらは二人から目を逸らさず、正面から見つめた。
「死んだわ。巴マミは、ここで。魔法少女になるって、そういうことよ」
ほむらは静かに言った。
さやかの表情が歪む。まどかは、何も理解ができないという顔をしていた。
結界が崩れ、元の場所に戻った。
彼女たちのそばには、一つのグリーフシードが降りてきた。ほむらはそれを拾い上げた。
「返せよ」
低く静かな怒声だった。さやかがほむらを睨む。
その目には、涙が滲んでいた。
ほむらが歩いていく。どこかへと。
「返せよ……それは、それは……マミさんのものだ!返せって言ってるだろ、マミさんに……マミさんをっ!!」
「そう。これは魔法少女のためのもの。あなたたちにも、死者にも関係のないことよ。彼女は帰ってこない」
「…………どうして?」
ほむらは黙ってどこかへと消えた。
まどかの言葉に、返ってくる言葉はない。
ひた、ひたとまどかの目から涙が溢れる。さやかは嗚咽し、ぐしぐしと涙を拭っている。拭うそばから涙が、怒りがこぼれ落ちた。