ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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ここからは原作との乖離が進みます
随分……長かったようだな……


第十二話 キュゥべえK

 ふと目の前を見ると、自動ドアを抜けた先に人が待っていた。

 ほむらが立っていた。

 まどかは慌てて、目元に残る涙の跡を拭った。

 ほむらが歩いてこちらに来る。すこしだけ怯えた。

 

 ほむらが言う。

 

「あなたは自分を責めすぎている」

「あなたを責められる人なんていない。いたら、私は許さない」

 

 微妙に鋭くなった眼差しに、まどかは声にならない息を吐いた。

 遠回しだけど、慰めてくれてる……?のかな。

 

「忠告、受け入れてくれたのね」

 

 そう言ってほむらは小さく笑みを浮かべた。

 まどかはただ、なんとなく頷いた。

 正直、元々あまりなりたくなかっただけ。マミさんがいたらなっていたかもしれない。けど、もうなる気になれない。

 

 戦うのは、怖いから。

 

 橙色に染まった街を、まどかとほむらは歩いている。

 工業地帯は影だけを見ると奇怪で、不安になるような造形をしていた。しかしそれら一つ一つは奇怪だとしても、そうなったのには何らかの理由があるものだ。

 

「わたしがもっと早くに、ほむらちゃんの言うことを聞いてたら……」

「それで、巴マミの運命は変わらないわ。でも、あなたがあそこで死ぬのは回避できたわ。一人がすくわれただけでも、私は……」

 

 ほむらは語尾を弱めた。

 まどかはそれまでとは違った態度に体調が悪いのかな、と思った。

 もしくは……わたし達と同じように、マミさんの死を悼んでいるのかもしれない。

 

「ほ……ほむらちゃんはさ、なんだかマミさんとは別の意味で、ベテランって感じだよね」

「そうかもね。否定はしない」

「……昨日みたいに、誰かが死ぬところを何度も見てきたの?」

「そうよ」

 

 歩く音と、車が通る音がいやに大きい。

 

「何人、くらい?」

「……数えるのを諦めるほどに」

 

 まどかは俯く。

 

「あの部屋、ずっとあのままなのかな」

「巴マミには、遠い親戚しか身寄りがいないわ。失踪届が出るのは、まだ当分先でしょうね」

「誰も、マミさんが死んだこと、気付かないの?」

「仕方ないわ。向こう側で死ねば、死体だって残らない。こちらの世界では、彼女は永遠に行方不明者のまま……魔法少女の最期なんて、そういうものよ」

 

 言葉に刺され、まどかの目じりに涙が浮かぶ。

 でも、と不安と受け入れたくない一心でまどかは反論した。

 

「わたしもさやかちゃんも、マミさんが……う、腕を食べられるところは見たよ。ほむらちゃんは死んだって言ってたけど、でも…………ぅ。本当に……死んじゃったの?」

「……えぇ。巴マミは死んだ。それも、正しい言い方をするなら────」

 

 ほむらは目を閉じ、まどかに背を向けた。

 

「私が殺した、とも言えるわね」

 

 まどかが息を呑む。

 血相を変えてほむらに問いかけた。

 

「そんなっ、ほむらちゃんが!?違うよ、だって……」

「いいえ。私は彼女を選ばなかった。意思を持って、見殺しにしたの。それを殺したと言わずなんというのかしら」

 

 ほむらの声は震えていた。

 まどかは手を伸ばす。

 しかし、ほむらまでは届かずに、伸びた手は自分の胸にぎゅっと押し付けられる。

 ほむらちゃんも苦しんでいた。だけど、わたしに出来ることはない。魔法少女になったら、守れるかもしれないけど……ほむらちゃんはどうしても嫌そうだから。

 何より、私自身ができないと思ってしまっていた。わたしは弱いこです。

 

 思わず、涙があふれた。

 

「ほむらちゃんは、悪くないよ。だって、魔女がいるからみんな戦わなきゃいけないんだよね……?」

「……そうね」

「ひどいよ……みんなのためにずっと一人で戦ってきた人なのに、誰にも気づいてもらえないで……戦っても、忘れられちゃう。そんなの、寂しすぎるよ……」

「そういう契約で、私たちはこの力を手に入れたの。誰のためでもない、自分自身の祈りのために戦うのよ」

 

 ほむらは目を伏せながら、言った。

 

「誰にも気づかれなくても、忘れ去られても……それは仕方のないこと」

「わたしは覚えてる……」

 

 まどかは決意のこもった表情で、きっと前を向く。

 

「マミさんのこと、忘れない!絶対に……!」

「そう」

 

 ほむらは視線を逸らす。

 

「そう言って貰えるだけ、巴マミは幸せよ」

 

「羨ましいほどだわ」

「ほむらちゃんだって!ほむらちゃんのことだって、私は忘れないもん!昨日助けてくれたこと、絶対忘れたりしないもん!」

 

 ほむらは唇を震わせる。

 拳を握り、小さくうめく声が聞こえた。

 

「ほむら、ちゃん……?」

「あなたは、優しすぎる……いいかしら。覚えておいてほしいことがあるわ。他のことは、全て忘れてくれて構わない……」

 

 ほむらは車道の方を向きながら、まどかに言った。

 

「うん……なに?」

 

「あなたにとって、嘘のような奇跡が起こったとして……絶対にその先を望んではダメ。……死んだ人間は生き返らないの。どうあっても、決して」

 

 まどかを、見た。

 振り向いて言ったほむらの顔は、仏頂面の下に無力感が滲んでいた。

 ほむらは言いたい事を言い終えたようで、橋の下へと降りて行った。まどかはその背中を見つめて、声をかけることはできなかった。

 言葉を返すよりも先に、心に刻み込むべきだと思った。

 

 

 橋を降り、点検用通路のような場所。

 暁美Mほむらはそこで柵に寄りかかって項垂れていた。白い影がちょろちょろと視界の近くをうろつく。

 車通りはあっても、こんな場所を使う人間がいないことは既に知っている。鹿目まどかももう家への帰路を歩いている頃だろう。

 あぁ、気分が悪い。

 あれがいるのも要因の一つではあるが、潰すための手段を知られる方が面倒だ。

 何より今は、そんな些事に気を取られたくない。

 

「マミ・T・スグシヌワも言っていたけれど、君は不可解な存在だね。ボクとしては興味深いよ」

「そう。私はあなたに興味は無いの。消えてちょうだい」

「随分と嫌われたものだ。自己紹介でもしておくかい?ほむら・A・マドカスキー。あるいは……暁美Mほむらと呼んだ方がいいかい?」

「そこに何の違いがあるのかしら。あなたは呼び方が変われば別の存在になるの?」

 

 白い獣は首をかしげる。

 

「ボクの名前はキュゥべえKさ。どういうことだい?」

「黙ってほしいわね。黙らないのなら、Kを読み直しなさい。クで始まってクで終わる、あなたたちの総称」

 

「キュゥべえ・クロマーク。それがボクの名前さ」

 

 ほむらは目を閉じる。

 マミにも聞かれて答えたが、知っていることは多い。名前の予想は外れていなかった。

 キュゥべえ・クロマークは無機質な瞳でほむらを見つめた。ほむらは目を開け、冷たい眼でキュゥべえKを見た。

 

「どうしてそんなことを知っているんだい?」

「貴方にそっくり瓜二つの別物を見たと言って信じるかしら。無いわよね、ここにそんなものはいないから」

「……教えてくれ、暁美ほむら。何を以てそんな話を?」

 

ふん、と鼻で笑ってほむらは無視する。

代わりの言葉を言い連ねた。

 

「全ての魔法少女を生み出し、この見滝原市で起こる争いを生み出した張本人。それがあなた。黒幕なのでしょう?」

「まさか。このキュゥべえ・クロマークが黒幕だということはありえないよ」

「そう」

 

 この小狐もどきを蹴り飛ばしたくなる衝動に駆られた。

 何度聞いたって同じ答えを言ってくる。うざったいことこの上ない。がしかし、今だけはそれを選べない。イラつきを隠し、ほむらは尋ねた。

 キュゥべえという存在は嘘を吐かない。その筈、だった。

 

「嘘をつけるようになったのかしら?」

「なんのことだい?ボクは嘘をつかない。君たちの言葉で言うなら、すごく誠実に向き合っているつもりなんだけど」

「……チッ。厄介ね」

 

 それで、と舌打ちなどまるで意に介さずにキュゥべえKは続けた。

 

「色々とボクたちとしてもイレギュラーなことが多いんだけど……君はその中でもひときわ異質だ。突如現れたかと思えばマミを見殺しにして、まどかにだけは優しい。やはり人間の感情と言うのは、理解しがたいね。それにさっきの話はとても興味深いよ」

「…………あなたでは何も見つけられないわ。それと、私はあなたが嫌いなの。嫌いというより……ただ単に、いなくなってほしいわ。嫌いとすら思えない。もう関わりたくもない」

「無関心か。そう言う割には、ボクたちを狙っているけれど」

 

 気分が悪かったのは、少し落ち着いたようだった。

 話を続けようとするキュゥべえを無視し、ほむらは歩き出した。

 キュゥべえの方も、深追いするとまた潰されかねないと考えたのか彼女の後ろ姿を見つめるだけだった。

 

「君はどんな魔女になるんだろうね。暁美・M・ほむら」

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