ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第十四話 なにそれは

 ぱちぱちぱち、と拍手の音が鳴る。

 それを聞いて、少なくとも美樹さやかは眉を顰め不審に思ったようだった。

 それくらいには場違いで、間の抜けた音だった。

 余裕さえできれば、こうも他者に目を向けられるものなのか。ぼんやりとそう思った。

 

「素敵ね。あなたにしか出来ない仕事よ、感服させられてしまったわ」

 

 全くそう思ってない態度で、投げやりにほむらは拍手を続けた。

 馬鹿にしているのか、さやかは怒りのままにそう言おうとした。しかし、まどかがいる手前あまり乱暴なことは言えない。そりゃあこいつは嫌な相手だが……だからといって称賛を無下にする気にはならなかった。

 

「何のつもり?思ってもないことを言ってあたし達に取り入ろうっての」

「あら。私は思ったことを口にしたのだけれど」

「……あっそ。じゃあ有り難く受け取るよ」

 

 ほむらが髪を払い、無表情のままでこちらを見た。

 ハッキリ言って、この少女のことがさやかは苦手だ。苦手を通り越して嫌いでもあるが、泡で表情が全部落ちた食器みたいで不気味だった。次に何をしてくるか分からないのも、だ。

 ほむらはまだ何か言い連ねるようだった。

 

「協力をお願いしたいの。乗るか乗らないかはあなたの自由よ」

「は?」

 

 まただ。言うことに欠いて急に協力しろ、とは。

 即蹴りしてやろうかな。

 

「そんなのお断────」

「ま、待ってさやかちゃん!」

 

 と、まどかが割って入った。

 もう、この子は。優しすぎるのも考えもんだね。まぁ、今回はまどかに免じて聞きますか。

 それをわざわざ言ってあげるつもりはないけど、まどかに目配せすればほっとした様子で胸に手を当ててた。かわいいなー、まったく。

 

「はいはい、落ち着きなー……話だけは聞いてあげる。けど今は無理。もう帰んないと」

「ええ、構わないわ。どうせ今はアレがいるし」

「あれ?」

「……聞くかしら?」

「言わなきゃ協力はしないよ」

 

 眉を険しくしながら、ほむらは頭に手を当てた。そして、右を指さす。

 そこには、キュゥべえがいた。何も言わず、そこに佇んでいる。だというのにその姿を捕捉しているほむらへの警戒を高めつつ、尋ねる。

 

「キュゥべえがどうって?」

「…………まぁ、あれがいる場所で言いたい事ではないから。どうせ勝手に聞かれると思うけど。家まで乗り込んでくるし」

「心外だなぁ。ボクもある程度は個人の自由を尊重するさ。プライバシーって言うんだろう?」

「うわ、あんたあたしたちの家までついてくるの?それはちょっとやだな……」

「分かった分かった、家にはついて行かないよ。それに、家に入れてたのはマミぐらいさ。ボクだってずっと君たちを見てはいないよ」

「けれど、私にとっては一番嫌な時に出てくる……それがこれ」

 

 ほむらがキュゥべえを見る目は、他の何よりも絶対零度と形容すべき温度をしている。

 マミに向けるより、あたしに向けるより、まどかに向けるよりも冷たい眼。正直、あんまり聞いたら駄目なのかもしれないけどここまで関係が悪化した理由は気にならないとは言えない。

 好奇心のまま、さやかはほむらに問う。

 

「なんであんたってそんなにキュゥべえが嫌いなの?」

「さ、さやかちゃん!?」

 

 まどかが声を上げたが、ほむらは特に変わった様子はない。

 あわあわしているまどかには悪いけど、聞かないままじゃこの殆ど敵みたいな奴の考えなんて分かんないじゃん。どうせなら敵の考えまで聞いてから戦いたい。意味もないんだから戦わないに越したことは無いんだけど、そんな綺麗事言っていられないし。

 

「そうね……貴方たちは、大義のために少数が犠牲になる話を知っているかしら?物語ではよくあることよね」

「……んー?『オメラスから歩み去った人々』みたいな?」

 

 さやかは、意図を読めず神妙な顔で話の例を挙げた。ほむらの言う通り、よくある話ではある。だが……それがキュゥべえとどう関係しているのだろうか?

 ほむらは眉をひそめた。

 

「何それは。知らないわ」

 

 ずこっとこけそうになった。具体名は知らないんかい。

 いつだったか忘れたけど、まどかも読んでた。ので一緒にずっこけた。苦笑しながらまどかは説明する。

 

「理想郷があって、それを維持するために一人の子供が牢屋につながれてるの。あんまり、良い話じゃなくて……その子を解放したら、理想郷が崩れる。大人になるまでに住民はそれを知らされて、でも誰も解放する人はいないの……。それで、出ていく子もいる……みたいな。じゃなかったっけ?さやかちゃん」

「だね。嫌な話」

 

 それを聞いて、ほむらは深く考え込んでいるようだった。

 表情は変わらないが、顔を下に向け顎に手を当てて考えている。

 

「……貴方たちはどうするの?」

「あたしは助けるよ」

「わ、わたしもっ!そうする、したいと思う」

 

 さやかは思う。

 誰かの犠牲が生まれる前に、もしくは生まれてしまったなら助けなければならない。だって、理想郷が崩れてもまた作り直せる。作り直すべきだと思う。それが私なりの答えだ。

 ほむらの瞳がスッと冷え込む。

 しかし、その目はすぐに横を向いていた。キュゥべえの方だった。

 

「……大義のために少数を捨てるのがアレ、とでも言えばいいのかしらね」

「ほむら・マドカスキー。君はどこでボクと出会ったんだい?」

 

 踵を返し、ほむらは去って行った。

 あの少女は不可解なことが多すぎる。しかし、簡単に敵だと言い切るのにも分からないことが多すぎた。敵か、味方か。この白い獣が、大義のために動いているという言葉も気になる。

 無機質な瞳は、ほむらから移動してこちらを見ていた。

 じっと、見つめていた。

 

 

 チャイムの音が鳴る。

 志筑N仁美が口に手を当て、上品にあくびをする。しかしそれでも本人は恥ずかしいようで、口に当てていた手で顔を扇いだ。

 あぁはしたない、ごめんあそばせ……と言えばさやかがそれに乗る。

 

「どうしたの仁美ぃ~、寝不足?」

「ええ、夕べは病院やら警察やらで夜遅くまで……」

「えぇーっ!?何かあったの?」

「なんだか私、夢遊病っていうのかそれも同じような症状の方が大勢いて、気が付いたらみんなで同じ場所に倒れていたんですの……」

 

 さやかがオーバーに反応し、仁美はぽやぽやとその時の状況を説明する。

 当然だが、話している二人が同じ場所にいたなんてことを仁美は欠片も考えていない様子だった。

 

「はー、なにそれ?」

「お医者様は集団幻覚だとかなんとか、今日も放課後に精密検査にいかなくてはなりませんの。もう平気ですのに、はぁ」

「そんなことなら、学校休んじゃえばいいのにー」

「だめですわ!それではまるで本当に病気みたいで、家の者がますます心配してしまいますもの」

「さっすが優等生ー。偉いわ~」

 

 二人の談笑には混ざらず、まどかは静かに話を聞いていた。

 ほむらは顔を伏せて机に突っ伏していた。

 

 学校を出て、川べり。

 近くにある風力発電の羽根が無数に回っていた。

 さやかが寝転がって伸びをする。隣にはまどかが座っていた。

 伸びをする左手の中指には、マミがつけていたのと同じ指輪があった。

 

「久々に気分がいいわー、爽快爽快!」

「さやかちゃんはさ、怖くはないの?」

「んー、そりゃちょっとは怖いけど……昨日のやつにはあっさり勝てたし」

 

 目を閉じたまま、さやかは続けた。

 

「もしかしたらまどかと仁美、友達二人を同時に無くしてたかもしれないって……そっちの方が怖かったかな」

 

 だからっ、と言ってさやかは反動で起き上がる。座り直して、ソウルジェムをまどかに見せる。その手は胸元に戻り、ぎゅっと強く握りしめられた。

「自信?安心感……ちょっと自分を誉めちゃいたい気分つーかね」と顔をほころばせながらさやかは言い連ねる。

 

 自分に誰かを守る力がある。これがあれば、友達を助けることが出来る。

 それがどんなに嬉しいことか、それだけはさやかにとって絶対の解だった。

 つまるところ。

 

「まぁ……舞い上がっちゃってますね、あたし!」

 

 例え死ぬことがあっても。

 自分の理想を叶えるために、あるいは叶えてからなら……構わない、なんて。

 さやかは自分が調子に乗っていることを分かった上で、そのままに思った。

 

「これからもミタキハラ・アブナイ市の平和は、この魔法少女さやかちゃんが!ガンガン守りまくっちゃいますからねー!」

 

 まどかがうつむき、一つ尋ねる。

 

「後悔とか、全然ないの?」

 

 さやかはまどかの方を向き、少しだけおどける。

 

「昨日の転校生が行ってた話?は、ちょっと気になるよ。でも一番は」

 

 目を閉じた。

 さやかは強く、気高い山吹色の少女の姿を思い浮かべる。

 

「迷っていたことが、後悔かな」

 

 私が居たら絶対に勝てた、なんてことは言えない。

 けれど、思わずにはいられない。自分がもっと早く決断していれば。

 

「どうせだったら、もうちょっと早く心を決めるべきだったなって」

 

 そうすれば彼女を助けられたかもしれないのに、と。

 考えずにはいられなかった。

 

「あの時の魔女、あたしと二人がかりで戦ってたらマミさんも死なずに済んだかもしれない……」

 

 さやかの言葉は、まどかの傷も抉った。

 あの時、マミさんに求められていたことは間違いありません。共に魔法少女になろう、って。苦しんでいたのに、わたしは一歩踏み出せませんでした。

 それは今も。結果論で、なるべきじゃないと嫌になってしまっています。

 

 まどかは更にうつむいてしまう。

 

 そのほほにさやかの指が触れた。

 咄嗟の事に反応できず、まどかはびっくりしてしまう。

 

「さーてーは、なんか変なこと考えてるなー?」

「わたし、わたしだって……」

「なっちゃった後だから言えるの、こーいうのは。どうせならってのがミソなのよ。あたしはさ、なるべくして魔法少女になったわけ」

「さやかちゃん……」

 

 川の流れる音がする。

 

「願い事、見つけたんだもの。命がけで戦う羽目になったって構わないって、そう思えるだけの理由があったの。そう気づくのが遅すぎたっていうのが、ちょっと悔しいだけでさ……」

 

 さやかがまどかを見る。

 まどかは、その視線に変化を感じた。

 友達ではあるものの、もうさやかちゃんにとって私は守られるべき相手で……さやかちゃんは守る人になっちゃったんだ、と思いました。

 それは確かに、さやかちゃんが誇らしく思うのも当たり前です。

 

「だから引け目なんて感じなくていいんだよ。まどかは魔法少女にならずにすんだ、っていうただそれだけのことなんだから」

「うん……」

 

 さやかは立ち上がり、もう一度伸びをする。

 

「さて、と。じゃあそろそろあたしは行かないとー」

「何か、用事があるの?」

 

「ま、ちょっとね」

 

 美樹・オーゲン・カー・さやかは病院に足を運んだ。

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