ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第十五話 上条恭介は一途

 さやかは、病院に足を運んだ。

 

 奇しくも昨日と同じ道のりを歩いている。

 昨日、恭介に会いに行って、キュゥべえがいて……あたしはそうして、魔法少女になったんだ。

 

「本当に、どんな願いでも叶うんだね?」

「大丈夫。君の祈りは間違いなく遂げられる」

 

 キュゥべえとさやかが対峙する。

 マミの件もあり、その場は物々しい雰囲気が漂っていた。

 

「じゃあ、いいんだね。美樹・オーゲン・さやか」

「だからオーゲン・カーだってば……うん、やって」

 

 短い応答があり、キュゥべえの目が無機質に瞬く。耳のような大きな何かが、音もなく横に広がる。

 さやかの身体にじわりと変化が訪れる。

 伸びた耳がさやかの胸に行き、そこが淡く光り出した。

 

 苦しそうにさやかがあえぐ。

 キュゥべえの耳らしき何かが離れると、光が固まって形になった。

 美しく水色に輝いて、光はソウルジェムを形どる。

 さやかは倒れかけるが、謎の力で浮いていた。降ってきたソウルジェムを抱え、ゆっくりと地面に下りたのだった。

 

 思い返せば、自分はついに魔法少女になったと、守れる者になったと言い切れた。

 

 しかし、それで本当に良かったのか。

 

 今になって、後悔が無いと言い切れない自分に悔しくなる。キュゥベえが怪しい、なんて考えたことも無かった。

 もう後戻りはできないというのに、今更気にしている。

 そんな弱い人間だったか。まぁ、そうなのだろう。

 

 しかし同時に、ずっと敵だと思っていたほむらが分からなくなったのも事実だった。そのせいで悩んでいるのも。明確に敵ではないことが分かっただけ、あの邂逅には意味があったと言えた。

 

 煮え切らない態度はあまり好ましくないが、ぶっきらぼうにされるよりはマシだ。

 出来ることなら戦いたくない。喧嘩だってしたくない。それなのに、マミさんやまどかに近づいて、あたしにも取り入ろうとしてた。

 明らかに心がこもっていない言葉くらい、あたしにも分かるって。

 はぁ、なんなんだろ。分っかんないな。

 

 さやかは、ほむらへの対応をどうするかだけ、決めかねているのだった。

 

 病室にはもう着いて、しばらく恭介と話していた。

 恭介に聞けば、退院の話もかなり進んでいるらしい。足のリハビリが済んでいないから、ちゃんと歩けるようになってからでないと、とのことだった。

 手が治った理由は、恭介どころか医者にも分からない。当然だ。

 魔法の力で、奇跡を起こしたんだから。

 精密検査がいるらしい。そんなのいるかな、治ったのにと思ってしまった。

 

 考えるばかりで、相槌を忘れていたことにさやかは気付く。慌てて話を振った。

 自分の言葉で聞いてみないと、と思っていることについてだった。

 

「あ、恭介自身はどうなの?どっか身体におかしなとこ、ある?」

「いや、無さすぎて怖いっていうか。事故に遭ったのさえ、悪い夢だったみたいに思えてくる。なんで僕、こんなベッドに寝てるのかなって……さやかが言った通り、奇跡だよね。これ」

 

 恭介は顔を伏せる。

 さやかがそれを見逃す筈もなかった。

 

「ん、どうしたの?」

「さやかには、ひどいこと言っちゃったよね……いくら気がめいってたとはいえ……」

「変なこと思い出さなくていーの!今の恭介は大喜びして当然なんだから、そんな顔しちゃだめだよ」

「うん……なんだか実感なくてさ」

「まぁ、無理もないよね」

 

 さやかは時計を確認した。時間だ。

 

「そろそろかな。恭介、ちょっと外の空気吸いに行こっ」

 

 さやかはエレベーターの画面をスワイプした。

 行き先は屋上だ。行く理由が分からず恭介が「屋上なんかに何の用?」と尋ねるが、さやかは笑ってごまかした。

 車椅子の持ち手を取れば、恭介が振り向く。さやかは笑顔を返した。

 屋上につくと、花畑の前に医者やナースが並んでいた。

 どれも恭介についていた人たちだった。恭介の両親も揃っている。

 恭介を温かく拍手で迎えた。

 

「みんな!」

「本当は退院してからなんだけど、足より先に手が治っちゃったしね」

「そ、それは……」

 

 恭介の父は隣のナースから箱を受け取った。

 恭介は中身に心当たりがあるようだった。

 

「お前からは処分してくれと言われていたが、どうしても捨てられなかったんだ……わたしは」

 

 ケースが開き、バイオリンがそこにある。

 恭介は、静かに車椅子を転がした。

 バイオリンを受け取った。

 

「さあ、試してごらん」

 

 さやかは観衆の側に回る。

 恭介はバイオリンを構えた。

 

 その演奏は、それまでのブランクを感じさせない精度のもので。

 いつか聞いたあの音色に勝るとも劣らないのは、きっと……恭介が救われて、どうしようもないところから抜け出せたから。

 さやかは、聞くだけで胸がいっぱいになった。

 マミさん……あたしの願い、叶ったよ。後悔なんてあるわけない。あたし、いま、最高に幸せだよ。

 10人に満たない拍手は、明朗に響いていた。

 

 病院の屋上はかなり高くにあるため、それを見ようとすると自然と同じ高さの場所が必要になる。

 そのために、お誂え向きの場所がこの塔だった。観光場所としても人気が多いタワーの望遠階に、赤毛の少女がいた。

 備え付けの双眼鏡は、カラフルな玉で彩られている。駄菓子屋にあるような、ドーナツ型の円盤に色とりどりのチョコが入っているあれだ。

 ふーん、と腰に手を当てて少女は唸った。

 

「あれがこの街の新しい魔法少女ねぇ」

 

 手に持ったワッフルをさくりとかじる。

 後ろにはキュゥべえが立っていた。

 

「本当に彼女と事を構えるつもりかい?」

「だってチョロそうじゃん。瞬殺っしょ、あんなやつ。それともなに?」

 

 双眼鏡から光が飛び出し、元の姿であろう黒色へと戻った。

 光は渦巻き、少女もとい佐倉杏子の手元に着地した。

 

「文句あるってんの?あんた」

「全て上手くいくとは限らないよ。この街にはもう一人、魔法少女がいるからね」

「へー。何者なの、そいつ」

「ボクにもよく分からない」

「はあ!?どういうことさ、そいつだってあんたと契約して魔法少女になったんでしょ?」

「そうとも言えるし、違うとも言える」

 

 興味を惹かれたらしく、杏子は表情を真剣なものへと変えた。

 

「あの子は極めつけのイレギュラーだ。どういう行動を起こすかはボクにも分からない」

「フン、上等じゃないの。退屈すぎても何だしさぁ」

 

 杏子は何処かへと歩き出す。ワッフルを口に入れ、ざくざくと食い進めていく。

 そういえば、と杏子が立ち止まった。

 

「あんたさぁ、ずっとアタシらのこと監視してるんだろ?」

「基本的にはそうだね。それがどうしたんだい?」

 

 杏子は興味本位で尋ねた。

 単に気が向いただけで、答えが得られなかったらそれはそれで構わない。そのくらいのことだ。

 

「監視中は声も聞こえてんのかい?どうでもいいけど、盗撮と盗聴は別モンだからね。どっちにしろやってるんなら最悪だし」

「嫌ならやめるけど、それじゃあグリーフシードの位置を知らせたり回収もできなくなるよ」

「別にあんたの行動にケチをつける気はないよ。それで?」

「無理だね。呼びかけてきたりボクの拾える範囲では拾うけど、全ての会話が聞こえてる訳じゃない。それに、物理的な制限もある。例えば……そうだな」

「例えば、なに?」

「ボクの耳が正常じゃなくなったり、小さな声で会話されているとかだね」

 

 ふーん、と興味を無くしたように杏子は鼻を鳴らす。

 もっとてっきり、魔法の力がどうたら~とか言うのかと思ったらそんなのも聞こえないんだ。案外しょうもないもんだね。

 

(これでも君たちには配慮してるつもりだけど)

(じゃ、アタシの前からはさっさと消えることだね)

 

 杏子は半眼でキュゥべえを見つめた。

 キュゥべえは何も語らない。赤い無機質な瞳で、杏子を見つめている。

 菓子の空箱を懐から取り出して、杏子はQBKに投げつけた。避けられたため回収しつつ、悠々とエレベーターに乗ったのだった。

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