ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ 作:カイテン・マテナカータ
ファストフード店。
桃髪の少女と黒髪の少女が席に座っている。
「話ってなに?」
ほむらが切り出すと、まどかは喋り始めた。
「あのね、さやかちゃんのこと、なんだけど……」
「あの子はねっ、思い込みが激しくて、意地っ張りで、結構すぐ、人と喧嘩しちゃったり……でもね!すっごく良い子なの。優しくて勇気が合って、誰かのためと思ったら頑張りすぎちゃって……自分では大丈夫って言ってるけど、マミさんと同じことになったら、って思うと……わたしは」
「それで?」
ほむらが問うと、まどかはいっと言葉に詰まる。
これ以上何か伝えるべきことはあるだろうか。たぶん、ない。おそらく。
そう思った後、まどかはこぼした。
「大事な、友達なの……」
「────それで、助けたいと。結構なことだけれど、忠告の通りよ。魔法少女になるのは……」
「いやっ、わたしはあのお願いを断ったの!わたしには、もうできないから……お願い、ほむらちゃん!さやかちゃんを、助けてあげて……」
まどかは縋るようにほむらを見つめる。
ほむらは珈琲を飲もうとして、プラスチックの蓋を取っていないことに気が付いた。
ふう、と一つため息を吐いて黒い液体を喉に流し込む。ごくりと嚥下し、コップをトレーに置いた。
顔が少し上を向いている。前髪で表情が読みづらかった。
よく見て、前髪を伸ばしてるのかな?とまどかは思ったが、目元を抑える手で遮られて、その観察は途切れた。
「助けて、ね。本当……同じ気持ちよ、まどか」
「え?」
「なんでもない。そして……美樹さやかを助ける。端的に言えば不可能ね」
まどかが息を呑む。
ほむらは顔を戻し、正面からまどかを見つめた。
その瞳には紫色と一緒に、暗い黒が沈殿しているようで。けれど、まどかはそう思った自分を恥じた。助けてもらえないから、と他人を悪者扱いしてはいけない。
けれど、その後の言葉は嫌なものだった。
「思い込みが激しければ、声が届かない。優しいのなら、甘さが生まれる。勇気があれば進みすぎる。そして、見返りを求めれば虚無が待っている……巴マミも同じ欠点を持っていたわ。……出来もしないことが世界にはある、なんて知らないの。愚直よね。だから、命を落とした」
言葉を重ねるほむらの目は、隠しきれないくらいに冷え切っていて。
それと逆に、まどかはぐっと頭に熱が移動するのを感じた。
「そんな言い方止めてよ!!」
しかし、すぐに自制する。頭を振って、落ち着かなければならないと思った。
わたしにそんなことを言う資格は無いのだ。
暁美Mほむらはただ事実を述べるように言った。
「美樹さやかの事が心配なのね」
まどかは微かにうなずいた。
どうしようもない状況で、唯一頼れると思った相手がほむらだった。ほむらだけだった。
断られても、重ねてお願いするしかなかった。祈る気持ちさえあった。
「お願い、ほむらちゃん。さやかちゃんと仲良くしてあげて、マミさんの時みたいに喧嘩しないで。魔女をやっつける時も、みんなで協力して戦えば、ずっと安全な筈だよね?」
ほむらはもう一度珈琲に口をつける。同じようにして嚥下した。
ふー……と、深くため息を吐いた。しかし、それでまどかの滾った想いが弱まる訳では無かった。
わたしは、と小さくほむらが呟いた。
「私は嘘をつきたくないし、出来もしない約束はしない。だけど、一つだけいいかしら」
困り顔で、まどかはほむらを見つめた。
またかすかにうなずく。
「協力は取り付けたわ。あれを友好の証と見る事はできない?」
「えっ……」
まどかは虚を突かれたように停止する。
そして、勢いよく机に手を置いた。身を乗り出したためにほむらが一瞬びっくりする。
「そ、そうだったよね!じゃ、じゃあ……!」
「────けど、確約はできないわ。善処するけれど、人とのコミュニケーションは得意ではないの。むしろ苦手よ」
「それでもだよっ!ありがとう、ほむらちゃん……!」
まだ珈琲から離れて中空にあった手を取り、まどかは全身で喜びを表現する。
どうしても、お願いしたとしても失敗する未来しか思い浮かべられなかった。協力してもらうという話が頭から抜けるくらいには、まどかは不安と心配で苦しんでいた。
ほむらは、複雑な表情を浮かべた。
ただ、空気はそれまでより圧倒的に軽くなった。ほむらは未だ、動く様子を見せない。
まどかが何か言いたい、けど思いつかない……!という焦りのなかであたふたしている。
「えっと、ごめんね本当に。急に呼び出して、お願いして、怒ったりもして……なのに、その」
「気にする必要は無いわ。出来る限り、あなたの願いは尊重したいもの」
「すごいよ、てへへっ、ほむらちゃんは……わたしには全く真似できないや。それに、ずっとクールで格好いいし!」
ほむらが一口、珈琲を飲む。ごく、ごくり。
空になった珈琲を置いて、ほむらは微笑んだ。
「そう?それこそ、私には違うように思えるけど。あなただって分かっている筈よね」
周囲が全て止まったように見えなくなる。
ほむらはまどかを凝視した。
笑っているのに、少しも楽しそうには見えない。ほむらは言う。
「私が、全部諦めてるって」
まどかは、どきりとした。
「…………なにが、そんな」
「私の使命と、戦いよ」
使命を諦める。
それはつまり、ほむらちゃんは戦いたくないってことなのだろう。
けどそれなら、どうしてあの子を……。
鹿目Kまどかは、ほむらが全部を諦めているという言葉に共感してしまった。いや、むしろ先刻のお願いが失敗したら納得していたくらいだった。
ほむらはただ薄気味悪い笑みを浮かべ、静かにまどかを見つめた。
彼女の目はそれくらい淀んで、怖気が走る笑みを形作っていた。諦めていると、その見立ては間違っていないと相手から肯定されてしまった。
それは、戦士の目ではない。もっと、その先にあると思しき何か。
ふふ、とほむらは笑みを深めた。
「鹿目まどか……あなたは、あなたが思っているよりずっと素晴らしいわ」
「えっ?ほ、ほむらちゃん、急にどうしたの……?」
「聡明で、優しくて、決めたことは曲げられない……真っ直ぐないい子」
から、と珈琲の空カップが倒れる。
ほむらがすと立ち上がり、手を伸ばした。その手が、まどかのほほを通って髪を梳いた。
まどかは、態度が急変したほむらを前に顔を赤くすればいいやら青ざめればいいやらわからない。何も出来ないまま、慌てふためいていた。
その指が、名残惜しそうにまどかから離れた。
二人の内どちらかが「ぁ」とか細い声をもらす。
次の瞬間には、ほむらは元に戻っていた。
「さ、もうそろそろ帰らないと。美樹さやかとの親睦を深めるためには、あなたの協力が必要不可欠」
ほむらの顔が、一瞬だけ俯いた。
それは瞬きの間に元通り、仏頂面へ直っていた。
「一つだけ、頼らせてもらうわ」
ほむらの言葉に、まどかは惚ける。
やがて、実感が湧いた。頼られた。ほむらちゃんが、頼ってくれた。それがとてもうれしかった。
声色が浮つくのを抑えられないまま、まどかは言う。
「え、あ、う、うんっ!てへへ……任せて、ほむらちゃん!…………うぇひ、えへへ。……嬉しいなぁ。何でも言って!」
「それじゃあ────」
作戦のあらましを聞きながら、まどかは考える。
時々不思議なことになるけど、ほむらちゃんはすっごく頼れる人です。
それは今までも、これからも変わらないと思います。
様々なことを教えてもらい、まどかは顔を明るくさせて帰路についた。
その背を見送り、見えなくなるまでほむらはテーブル席から離れようとはしなかった。