ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第十七話 狂ったように

 大きな家屋の自動ドアが開く。

 そこからさやかが、夜の藍に沈む闇へと足を踏み出す。

 人の気配がして、さやかは右を見た。

 

「……っ、転校生!?」

「美樹さやか。これからパトロールかしら?」

「いや、なんであんたがここに……」

 

 後ろ髪を撫でつけ、ほむらは言う。

 

「鹿目まどかに教えてもらったの。それで、協力の件についてなんだけど……」

「ちょっ、ちょい待ち。歩きながらお願いしていい?」

 

 さやかが言うと、ほむらは静かになる。

 相変わらず、ほむらのことはよく分からない。分からないが、話に付き合ってもらう分にはありがたかった。ずっと一人でどうしようかと考え込んでいたものの、このくらいのことで動揺してしまっている辺り、本当に心細かったんだと自分のことながらやっと確認した。

 さやかが歩き始めると、ほむらはそれに続いた。

 

「それで……どんなことに協力して欲しいわけ?」

 

 魔女退治の手伝いとかだろうか。

 さやかはほむらの目を見つめ、何が正しいのかを見定める。

 

「巴マミを蘇生するわ」

「っ!?」

 

 さやかは思わず振り返った。

 そこには、仏頂面のほむらが佇んでいた。あり得ないとか、言葉はいくらでも出そうだったけど……なぜか、何も言葉にはできなかった。

 その目が、何よりも真剣に見えたから。

 

「本当に、できるの?」

「あなたであれば可能よ。けれど、その場に私はいられないわ。生半可な準備では不可能。その瞬間、あなたは必ず一人にならなきゃいけない。それでもやると言うのなら──」

「やるよ。絶対に」

 

 さやかの言葉に、ほむらは顔を伏せる。

 強い意志のこもった視線を受けて、ほむらはぽつりとこぼした。

 

「……私は、巴マミを殺したわ。だから信用に値しないことはわかる。信用しなくてもいいから、これだけは手伝ってほしい」

「ん、だからやるってば。マミさんが死んだのは……嫌だったよ。助けられるって言うんなら、やらないわけない」

「あなたを利用しているわ。代償もある。成功すれば、あなた自身に良くないことが起こる。それに……蘇生すると言ったけど、完全に同じ巴マミが帰ってくるとは限らない」

 

 それを聞いて、さやかは怯んだ。わざとぼやかしたような言い方だが、どうなるかは言っている。

 でも、ようやく分かった。ほむらは悪いやつじゃない。良くないことが起こるなら、普通は隠しておくべきなのだ。

 マミさんが別の人になるのも嫌だ。だけど……死んだまま何もできないのは、もっと嫌だ。

 さやかは怯えを隠し、静かに問うた。

 

「あたし、死ぬ?」

「……いいえ、死にはしないわ」

 

 ふう、とさやかはため息をついた。

 体の中に渦巻いている、恐怖とか逃げたい気持ちを捨てた。あとに残るのは、燃え盛る熱だけだ。

 高らかに宣言する。

 

「じゃあやるよ。死にたくはないけど、助けられる人を助けないまま生きるのはもっとやだ。それで苦しむことになったって構わない。それが、バカなあたしにできる最善」

 

 その言葉を聞いて、ほむらは何も言わない。

 ただ俯いて、服の裾をぎゅっと握りしめていた。なーんだ。案外人間らしいやつだったのね。

 さやかはほむらの背に回り込み、猫背を思い切りはたく。

 ほむらはびっくりした様子で、こちらを睨みつけた。

 さやかはべーっと舌を出す。

 

「うじうじしてるなんて、らしくないわね!皮肉の一つも返してみなさいよ!」

「……ふん。私は、あなたのこと嫌いだわ」

「そうね、あたしもあんたのことは嫌い。でも、マミさんを戻すまでは……友達でしょ!」

 

 そう言って、さやかは朗らかに笑った。

 ほむらは拗ねたように顔を背けたが、その頬には赤みが差していた。

 歩きながら言い合いながら、彼女たちは歩いていた。途中までさやかが先導していたものの、ほむらが心当たりがあると言い出してからさっさと歩き始めた。

 その足取りは確かなものだ。

 路地に入ると、確かに魔女のようなものがいた。

 

「これは使い魔ね」

「そうなんだ……ま、まだあたしは初心者だしそっちの方が助かるよ」

「油断していないかしら」

「してないよ、先輩がいると言っても怖いしね」

「それは使い魔が?それとも私が?」

「どっちもだよ」

 

 ふん、とほむらが鼻を鳴らした。

 さやかは同じような気持ちを込めてあっかんべーした。

 ほむらは何も言わず変身し、さやかを待たずに使い魔を仕留めにかかる。

 あ、と慌ててさやかがソウルジェムをかざして変身する頃には、拳銃の音が響いて使い魔はぶちっと潰されていた。

 ぽかんとさやかは呆気に取られている。

 

「早くない……?」

「今日はゆっくりしていられないの。話が終わったら、すぐに────」

 

 使い魔の結界が溶けて無くなっていく。

 それに合わせて、きゃああああ!と女の子の悲鳴が二人の耳に届いた。

 それも、聞いたことのある声だ。

 

「まど」

「ま、まどかっ!!」

 

 ほむらは盾を動かした。その瞬間、ほむらの姿が掻き消える。

 さやかはまた驚いたものの、その動揺を抑えて声の方へと跳躍した。

 

 ほむらが全力で駆け、まどかの元に辿り着く。

 まどかの首元に、槍が伸びている。そこには佐倉杏子がいた。

 燃えるような赤髪は変わらずそこにある。こちらの姿を認め、杏子は獰猛に微笑んだ。

 

「ほ、ほむらちゃん!わたし……」

「見つけたよ。あんたが噂の、あけ──」

「離せ」

 

 ばばば、と銃弾が飛ぶ。仰け反った杏子の胸元スレスレを飛んでいった。

 アサルトライフルを構え、鋭く冷え切った目でほむらは杏子を睨んだ。

 

「まどかを離せ。離しなさい。でないと」

「おい、ちょっと話を────」

「離せって言っているのが、分からないの!!」

 

 ひ、とまどかの喉から引き攣った音がする。

 杏子がそこを退こうとした瞬間、ほむらの姿が消えた。かと思えば、肌と肌が触れ合うほど間近に出現し、拳銃を押し付けようとしてくる。

 チッと舌打ちし、杏子は槍をまどかに向ける素振りを見せる。ほむらは動かない。

 仕方ない。そう思いながら、杏子はまどかを魔法で拘束した。

 

「ほむら、ちゃん……」

「まどかっ!……ちょっと、ほむら!」

 

 ほむらが大量の火器を撃っては投げ捨て、それを杏子が回避する。

 まどかを拘束した瞬間だけ、ほむらの意識が大きくこちらから離れた。これ幸いと杏子はその場を離れようとしたが、目をぎらつかせたほむらに阻まれていた。

 そんな折、さやかが合流しほむらに呼びかける。まどかに駆け寄って、必死にほむらへと呼びかけた。

 ほむらはぎりり、と歯を食いしばり、一本の大火器を取り出した。

 

 RPGだ。

 

 背を向けた杏子へ、即座に引き金を引く。

 空中で杏子を捉え、弾頭が爆発した。爆風で水道管が割れ、水が噴き出す。爆煙と水のカーテンは、杏子の逃走を助けた。

 くるりと踵を返してこちらにやってくるほむらが、さやかには鬼神に見えた。

 手でほむらを小さく制しながら、さやかは尋ねる。

 

「……あんた」

「──────見苦しいところを見せたわね。それで、何かしら」

 

 ほむらが微笑む。

 一番嫌いな笑みだった。他の何よりもずっと悍ましい、何か。

 さやかはそう思いながらも、おどけた。

 

「……いーや?あたしじゃこれを壊せなさそうだからさ、あんたならなんとかできるかなーって!」

「さ、さやかちゃん!?」

「難しいわね。私には近接攻撃の手段がないもの」

 

 まどかはさっきの光景が、未だに瞼にこびりついている。

 爆発なんて食らえば、とてもじゃないが助かる気がしない。そんな気持ちを込めて抗議したが、ほむらも自分の武器の危険性は理解しているようだった。さやかも同じくで、そっか、へへへ……なんて笑っている。

 生きた心地がしないけど、ほむらはまどかを守ろうとして動いてることは分かった。

 だから、まどかは困ったように笑った。

 

「ほむら・A・マドカスキー。話も聞かずに杏子を追い払ってしまうなんて、少しひどいんじゃないかな?」

「……チッ」

 

 杏子が敷いていたまどかの拘束陣が、しゅわっと溶けて消える。

 

 路地裏から、キュゥべえKが現れた。

 明らかにタイミングのいいそれに、ほむらだけでなくさやかも意地の悪さのような、何かを感じた。

 空気が悪い。ほむら、さやか……そして、まどかでさえキュゥべえに向ける視線は厳しかった。

 

「……ねえ、キュゥべえ」

「どうしたんだい、まどか?」

「ごめんね」

「構わないよ。でも、今後同じことをするのはやめてほしいかな。ボクも暇じゃないからね」

「あんた、随分とまどかとほむらにご執心じゃん。あたしなんて眼中に無し、か。ここまで露骨だと分かりやすいわ!」

 

 さやかが言えば、キュゥべえは黙り込んだ。

 耳を垂らし、しおらしい態度をとってみている。しかしそれを相手にする者もいなかった。

 やがてキュゥべえはしおらしい態度をやめ、無機質な瞳で三人を見つめた。

 

「おかしいなあ。全然計画通りにいかないや。ボクはただ、魔法少女を増やしたいだけなんだけど……」

「それが駄目だと言っているの。キュゥべえ・クロマーク。魔女を生み出す黒幕」

「勘違いしないで欲しいんだけど、ボクは黒幕じゃない。魔女もボクが作り出すなんて真似はしてない」

「利用しているわ。あなたがいなければ、そもそも魔女は生まれない」

「君たちは不合理だよ」

 

 舌戦が繰り広げられる。

 しかし、それも長くは続かない。キュゥべえが首を振り、大路へと歩いていく。

 耳心地のいい言葉を並べるのは、捨て台詞まで変わらなかった。

 

「気をつけてね」

 

 計画通りに行っていない。

 それは、暁美ほむらが初めて手に入れた希望の言葉だった。

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