ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ 作:カイテン・マテナカータ
大きなギロチンじみた時計が揺れる。
カーブしたソファに座り込んだ、暁美・マドカスキー・ほむらがそこにいた。
そこはほむらの家だった。
そこには魔女の情報が壁一面に貼り付けられていた。
ソファに座って、組んだ腕に頭を預けている。
ほむらは微動だにしなかった。
「……間違っていた。まどかを作戦のうちに入れるべきではなかった」
どうして頼った。
彼女を頼らないと、そう自分で言ったのに。
それすら守れないほど愚かなのか。
まどかを使う。
改めてその行為を認識してしまえば、それ自体に吐き気を催す。それに何より、他人を信じてはならないとこれまでの経験でさんざ教えられてきたのだ。例えまどかが相手でも。彼女、まどかを……親友を、信じてはならない。
あの子は、聡明で、優しくて、可愛らしくて、最高の……友達。
だとしても。
何故なら、彼女が作戦において最も不確定な存在だからだ。
美樹さやか。喧嘩っ早い、つまり行動が分かりやすいということ。
巴マミも行動の読みやすさで言えば同様。であれば、問題はまどか。
「そして、佐倉杏子」
まどかの問題は、流されやすいこと。
それは最悪、できる限り目を外さなければ致命的なことには対処可能だ。
しかし、あんなことに……杏子にまどかの首を狙われるなんて、今まで一度もなかった。
もうまどかが死ぬことは避けたい。次を、私は耐え切れる自信がないから。
佐倉杏子という障害がここで大きくなるという見立てはなかった。もっと相応しいやり方はなかったか、と己の中で声が反響する。また無駄で無為な日々を過ごすのか。
完全に読みを外した。
怒りや失敗による自己嫌悪が鎌首をもたげるが、今は不要と切り捨てる。
また失敗するのか。
違う。もう失敗はできない。
佐倉杏子を始末する。
できるか。不可能ではない。まどかを襲っていたと説明すれば、美樹さやか……そして巴マミを含めれば確実に遂行できるだろう。キュゥべえには、本気になった魔法少女を止められる力などない。
異常値は壊しておくべきだ。
そこまで考えて、ほむらは思考を空回りさせた。
私は、もう諦めたのではなかったっけ?
「け、ひゅっ……!」
喉の奥が痙攣する。
不確かなものがせりあがってくる感覚を、手で押さえて無理やり嚥下する。
出ていくものなどないのも、功を奏した。
今のままでは、何かを食べようという気にさえならないから。そう。諦めた。
ふ、と短く息を吐いて、深呼吸する。目を閉じた。
もう失敗した。
佐倉杏子なんてどうでもいい。
だって、諦めたのだから。
美樹さやかも、巴マミも、佐倉杏子も。
鹿目まどかさえ。
「ふ、ふ……あ、はは」
ふぅ、ふぅと肺に住み着いた嫌な臭いを排出する。
誰もいない中で肩を揺らして笑うその姿は、少女とは思えないくらいに歪んでいた。
食べられるもの、そう……カップ麺でも食べよう。
待っている間も、目を瞑って静かに待つ。気がつくと五分も経っている。麺は伸びていた。
伸びた麺を死んだ目で啜る。
美味しい……のか?
えっと、美味しい。おそらく。
さて。今日は疲れた。
美樹さやかと一緒に魔女探しに出て。
佐倉杏子……はいい。まどかと話した。まどかは私を信頼してくれたようだった。何が良かったのか分からないが、事態が好転していくのは喜ばしい。自分の行動に意味を見出せなくても。
もう全部諦めたのに、まだ私は足を止められない。ごめんなさい。どうか、私を止めてほしい。多分、次にはいけない。大丈夫。私さえ止まれば、多分上手くいくから。
だから、どうか……もう、目を覚ましませんように。
泥になって、ほむらは眠りについた。
佐倉杏子はイラついていた。
当てもなく街を彷徨いながら、時々ゲーセンに入ってはゲームする。しかし、集中できない。ダンスゲームを視界に入れたが、気分が乗らなかった。
あの、暁美Mほむらとかいうやつ。初対面だってのに仇みたいに攻撃してきやがって。そんなにあのまどかってのが大事なのか?
それに、攻撃方法は奇妙で他で見たことのないもの。
魔法で作った武器を使うでもなく、実銃を持ってこちらを害しにきていた。
……銃ね。
巴マミの武器を思い出す。あれは確か、彼女がいうにはマスケット銃だったか。
年代が大きく違う。
何より、恐ろしかったのはあの精度だ。距離はそこまで離れていなかったとはいえ、ほぼ全てが致命傷を狙ってきていた。特に最初のあれ。
右手に持ったたい焼きを怒りながら喰み、左手で髪留めに触れる。
魔法少女になっている間、ソウルジェムは胸元のブローチへと変化する。
その後の攻撃よりも、三発の弾丸に籠もった殺意がビリビリと杏子の背を震わせた。自分が恐れを抱いている、という事実をたい焼きごと食って胃の中に詰め込む。
結局後から来ていた新人も試せないし、ほむらに尋ねるはずだった質問も発される前に留まっている。
はぁ……ムカつくなァ。
アーケードのSTGで、大ボスが現れた。すばしっこい。
時々ブレるように移動するために、中盤で画面全体に拡散するような武器を取れていると対処が簡単だ。追尾型の弾も同じように有効だろう。
次も同じようだったら、どうしようか。
いっそのこと、邪魔をするなら消そう。会話しても効果は薄そうだし。
攻撃する気がなかったから、あんな不意打ちの形で不利な状況を背負って戦ったが、本気で戦えばそうはならないだろう。
一番の脅威は、あの大量に出てきた武器……ではない。
瞬間移動じみた、コマ送りの出現だ。
恐らくあれがほむらの使う魔法なのだろう。瞬間移動以外では……何が考えられるだろうか。
ぴょこ、と杏子の背に影が近づいた。
「時間操作、だろうね」
「……どっから出てきやがった」
もちろん下から登ってきたよ、などとキュゥべえは言った。
階段でも使ったのだろうか。そんなら中々シュールな絵面だ。
杏子は警戒しながら、それでも有用な情報を得るためにキュゥべえKと対峙することにした。わざわざ情報を伝えに来るなんて、殊勝なことこの上ない。ついにアタシの魔法はそんなとこまで成長したのかね。使いもしてないってのに。
別に振り返ったりはしなかった。
「なるほどな、時間か。つまり、あいつは時でも止めてから動いてると。だから瞬間移動に見える……」
「そうだね。まだ隠し玉もありそうだけど……時間を止められるのは確定と言ってもいいね」
「……お前さぁ、なんでアタシにそれを言うわけ?」
どう考えてもこっちに有利に働くような動き。
色々知った上で言えることだが、こいつは絶対に不必要なことを説明しようとはしない。必要なことも言わない。契約した後でなんだが、普通に詐欺師とかの類だ。
その詐欺師様がこちらを出し抜くどころか、協力的になるとは。それだけ手強い相手ってことかね。
詐欺師様は尻尾をふわりと動かした。
「あれはボクにとってもイレギュラーでね、はっきりと言えば障害なんだ。君が倒してくれるなら万々歳さ。佐倉・ミカータ・杏子」
「ふーん……悪いけど、メリットがないね。負け戦をやるつもりは無いし、このままカザミノに帰るかな」
「暁美MほむらはFグリーフシードを貯め込んでいる」
「!」
なるほど。
……ちょっとばかし気になってたところだ。ここんとこ、風見野にも言えることだが……全然魔女がいやがらねぇ。狩った分と取っといた分があるから、致命的なことにはなりゃしないが……そろそろ焦らなきゃいけないタイミングだった。
元凶があいつか。
交渉して貰う?有り得ねーな。恵んでもらうつもりは無い。
同情で命を救ってもらうなんて、アタシはごめんだ。
殺してでも奪い取る。……実際にやるかはともかく、そのくらいの覚悟でいるのは悪くねぇ。なんせあっちがバチバチ殺る気なんだ、張り合わなきゃこっちがやられる。
杏子は気分をよくし、ついでとばかりにキュゥべえに尋ねる。
「じゃあさ、教えてよ。あいつ、仲間っている?あの新人……トーシローは使える感じ?」
「ふむ、美樹さやかだね。あまり戦力に数えられはしないかな……癒しの願いを持っているから、あの子はどちらかというと後方支援の方が向いてるよ。本人にそのつもりは無いみたいだけどね」
「ちゃっちぃ刀持ってたもんね。あんなんじゃあアタシの防御陣さえ切れないだろ……じゃ、せっかくだしちょっかいかけるか」
「手を出すのかい?それこそ暁美Mほむらの地雷を踏みそうだけど……」
「そん時はそん時さ。それに、あれを見てビビってるあたり案外隙はあいつらにあるかもよ?」
ひひっ、とイタズラっぽく杏子が笑う。
たい焼きの尻尾を食いちぎり、笑みはもっと凶暴な高揚で塗り替えられていった。
「ぶっ潰す。アタシは、やられたらやり返すのさ」
ようやく体力を削り切って、大ボスは爆散した。