ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第二十話 あっけない終わり

 手持ち無沙汰になって、美樹Oさやかは家を出た。

 魔女探しをしてもいいが、正直なところを言えば一人では不安だった。まどかは今日予定があるって言ってすぐ帰ったし、同じように家に帰った。

 けれど、あんな激しい戦いを見た昨日今日では家でゆっくりする気にもなれなかった。

 使い魔はあたしがどうこうする前にほむらが倒しちゃったから、またソウルジェムを持って地道に探すしかない。

 でも、今日はやめておこうかなと思った。

 

「たまにはゆっくりするのも悪くない、ってね~……」

 

 何の変哲もない広場で、鈍色のベンチに寝転がる。

 背もたれもないから座れないし、曲がっているしであんまり寝心地が良いとは言えなかった。

 意味もないのにため息が漏れる。

 

 ここのところ、神経が尖って仕方ない。

 魔法少女なんてファンタジーじみたものになったんだから、当然ではある。……マミさんが死んだのも受け入れられないまま、ほむらに協力を求められて……鬼みたいな顔を見た。

 何とどれを信じればいいかなんて、一つとして分からない。

 さやかは閉じた瞼で街灯の光を感じながら、思考を巡らせた。

 

 いや、二つだけは確かだ。

 マミさんが死んだことと、まどかが魔法少女じゃないってこと。

 どうするもなにも、ほむらに従ってマミさんを生き返らせるしかない。そうするしか、今のあたしに出来ることなんてないんだ。

 さやかの頬に、ぺちと何かが当てられた。

 

「っなに、ぎゃ!いったぁ……!」

「……アッハハハ!何やってんのさ」

 

 驚いた拍子に椅子から転げ落ち、さやかは派手に尻もちをつく。

 頬に当たった何かの正体を探ろうとそっちを見れば、見覚えのある赤髪の少女が笑っていた。

 むっとしつつもさやかは少女に声を掛けた。

 

「あんたは……昨日の。喧嘩しに来た、って訳じゃ……ないみたいね」

「ふふん、あんたとじゃあ喧嘩にもならないけど……っと、そんなことはいいんだった」

 

 赤髪の少女は一本、チョコ菓子を差し出して言う。

 さっきの感触は、棒状のチョコレートだったらしい。

 

「食うかい?」

「……いらないよ。何の用?」

「つれないねぇ。ま、その率直さに合わせて端的に行こうか……あんた、暁美Mほむらの仲間なのか?」

「っ…………。だったらどうすんの」

「簡単な事さ。あいつじゃなくて、アタシにつく気はない?」

 

 さやかは立ち上がり、キッと睨みつける。

 そんなことでは一瞬の動揺さえ見せずに、少女は飄々とした態度だった。実力では、ほむらにもこいつにも劣ってる……昨日の戦闘の肌感だけじゃなくて、キュゥべえにも言われたことだった。

 胸の中に炎が生まれたような感覚を覚えながら、さやかは吐き捨てた。

 

「あんたもそれか……ごめんけど、あたしの身体は一個しかないんだよね。急かされても困るってゆーか」

「はぁ?あのさ、アタシは善意で言ってるだけだからね。あいつが何を考えてるか知んないけど……アタシとあいつが戦って、それに巻き込まれたら死ぬよ。その前に、ここらから離れとけってはなし」

 

 またそれか。

 実力が足りない、なんてのは百も承知だっての。余計なお世話が好きだね、魔法少女っていうのは。

 それはもちろん、あたしも含めそうなんだけど。

 胸の辺りが、じりじりと上昇していく温度で焼ける。

 

「あいつは人殺しの目をしてた。ああいうやつの末路は、大体碌なもんじゃない……まどかって子のことも大切なんじゃないの?」

 

 さやかは歯をぎりりと軋ませる。

 

「まどかは今関係ないでしょ。あたしがほむらに協力するのは、マミさんのためだし」

 

 どいつもこいつも、私自身のことを見ないで他の誰かを見ながらこっちに話しかけてくる。

 元々鬱憤が溜まってたのもあって、八つ当たり気味に杏子に返事する。

 杏子はさやかが怒っている理由に心当たりがなく、困惑しながらもさやかの言葉にひっかかった。

 

「マミって、あのマミか?あいつがどうしたんだよ。死んだんじゃないの?」

「そんなすぐ割り切れやしないの、こっちは!!あたしだってよくわかんない、ほむらに聞けば!?」

 

 杏子が当たり前みたいに死んだと言って、さやかは受け入れないように声を荒げる。

 まだあれから3日も経ってない。

 誰もマミさんのことを知らないし、死んだことを知らない。私達はあの人の日常も、学校でどうしてたかさえ知らない。

 帰ってくるなんてありえないと思ってたのに、可能性を掲げられてしまった。あるかもわからない希望から、目を逸らせない。

 

 ふぅ、と落ち着くために深呼吸した。

 生き返らせるなんて大それたことを言ったんだ、勝算はあるはず。

 具体的なことはまだなんも分かんないし、キュゥべえの言葉をそのまま受け取るならあたしが頑張るしかないっぽいけど。

 杏子は肩をすくめる。

 

「…………けっ、あいつが話を聞くかよ?」

「んー……どうだろね。案外、本当に話したいと思ってれば話ぐらいは聞いてくれると思う」

 

 まどかを攻撃しなければだけど、と付け加えた。

 じゃあ無理じゃねーか、とげんなりした顔で首の後ろで腕を組んだ。その辺りはあたしに聞かれてもしょうがない。

 

 時間を見ると、そろそろ恭介に面会する時間だった。

 腕を治す直前の、恭介とのやり取りがほんの少しだけ頭をちらついた。

 通いつめていたせいで生まれるストレスもあったんだろうと、今になって思う。でも、そうしたかったんだから辞める気はない。

 もう本人の気持ちも、治らない場所さえ治ったし。

 

「それじゃ、あたしは用事があるから。穏便に済むならそれがいいね。やっぱり」

「アタシはそうでもないけどね。戦うのも、慣れちゃえば楽しく思えてくるさ」

「そ」

 

 さやかがそっけなく歩き始めた。

 何故か杏子はついてきた。なにこいつ。

 胡乱げにさやかが横目で見れば、皮肉げに満面の笑みでポッキーを差し出した。

 

「食うかい?」

「いらないって」

 

 ただ、さやかはふと思う。

 今日で3日、あの魔女に殺されて3日が経つ。

 蘇生して、奇跡的に息を吹き返したとして……それはあたしの知るマミさんなのか。

 ほむらには、聞きたいことが山ほどあった。

 

 日が落ちかけている。

 ちょくちょく杏子がかけてくるちょっかいを鬱陶しげに退かしつつ、さやかは病院についた。

 流石にそこの分別はしているようで、病室までついてくる訳ではなかった。これでついてきたら、普通にケツを思いっきり蹴ってたとこだ。

 

 けれど、恭介は病室にはいなかった。

 嫌な気分になる。だって、恭介は家にいると教えてもらった。

 こっちの用事が済まなきゃ、あいつは帰らないだろう。

 恭介の家を知られるのは、かなり嫌だった。……が、言い訳も思いつかない。仕方なく、さやかは待合室まで戻った。

 

「はぁ〜……」

「お、どうしたんだよ。お探しの相手がいなくて悲しくなっちゃったか?」

「うるさ。別に悲しくなるとかないから、それよりあんたはまだついてくるわけ?」

「……ま、帰ってもいいんだけどさ。なんつーか、ここまで来て途中で帰ったらモヤモヤすんじゃん。それにさ……」

「なによ」

 

 杏子は病院にいるのも気にせず、棒付きの丸い飴を噛んでいる。

 首を曲げ、不敵に笑う。

 

「あんたといた方が、あのほむらってやつと会う気がするからな」

「……そ。理由は?」

「勘だよ」

 

 勘かよ、とさやかはジト目で杏子を見やった。

 これのことはいけ好かないが、その気持ちはほむらが強すぎるくらいに代弁してくれてる。だから、さやかは逆に冷静なままでいた。

 焼き付くような熱は、体の奥底と胸中に存在する。

 しかし、それが爆発する切掛けがないのも事実だった。

 

 

 杏子を無視したまま、さやかは恭介の家にやってきた。

 インターホンを鳴らそうとした瞬間、恭介のバイオリンが聞こえる。

 耳を澄ます。この音を聞いている間は、どんな苦しみにも耐えられる。そんな気がした。

 やがて、その演奏が終わるのを待たずさやかが一歩下がる。

 杏子は尋ねる。

 

「会いもしないで帰るのかい?今日一日追っかけ回したってのにさ」

「……別に。あんたには関係ない」

「そうだよ。関係ないからね」

 

 杏子は思う。

 ずっとイラついていた。ほむらだけじゃない。美樹Oさやか……こいつの甘ったれたところにも、神経を逆撫でされて仕方なかった。

 こいつらはどうしようもない馬鹿。自分たちが正しいって信じきって、誰かのためだなんて綺麗事を……。

 ムカつくんだよ。

 

「あれがあんたの契約した理由……くだらねえな。ああほんと、ぐちゃぐちゃに潰してやりてえぐらいには些細な奇跡だ」

「お前に何が……」

「うるせーよ。簡単な話さ」

 

 杏子は両手を広げ、一方にソウルジェムを置いた。

 もう一方には、何の仕掛けもないチュロスが握られている。

 

「アタシとあんたじゃ、全く反りが合わないってね。そっちだって思ってただろ?鬱陶しい相手だって。お互い様だって話だよ」

「だったら、戦うしかない」

「おう、そこんところは分かってんだな。利口なのに馬鹿、っつーのはこれだからタチが悪い……なんで他人に願いを使ったんだか。碌なことにゃならねえんだよ、人のための願いってのは」

 

 杏子は笑みを消し去り、怒気と呆れを持ってさやかを嘲った。

 

「そんなことも教えてないのかよ、巴Sマミは」

「うるさい……あんたに、マミさんを語る資格があるわけ!?」

 

 眉間の皺を深めて、杏子は吐き捨てる。

 

「死んだやつのことをどう言ったって、アタシの勝手だろ。会えずじまいだったのはちったぁ残念だが……それでアタシの意見は変わらねえよ」

 

 それよりさ、と杏子は恭介の部屋を指差す。

 

「あんたができないなら、アタシがあれをお前だけのものにしてやろっか。いや、それがいいね。何せあんたは甘ちゃんだ、両手両足を切れって言ったところで無理だろ?ほら、頼めば一瞬だ。お安くしとくよ?アハハ!」

「黙れ……黙れ黙れぇ!あんたは……お前だけは許さない……!」

「へ、分かってんじゃん。力で従わせろよ、気に入らないんなら」

 

 場所を変えようか、と杏子が言う。

 ここじゃ人目についちまう、と八重歯を覗かせながら。

 

 まどかが自室で宿題をこなしている。

 静かに考えていると、脳内で響く声があった。キュゥべえKからだ。

 さやかが、危ない。

 

 歩道橋の上で、二人の少女が対峙する。

 長い赤髪と、短い水色の髪が暗い風に揺れる。

 言葉は未だに喉を出かかって、すんでのところで戻っていく。胸中の炎にくべられる薪にしかならなかった。相手もそうなのだろう、とさやかは思う。

 この猛った血は、誰かとぶつからないままで鎮まりはしない。

 

「いっちょ派手に行こうか!」

 

 中指に嵌めた指輪から、杏子の赤いソウルジェムが飛び出した。

 魔力を纏い、赤銅色のブーツ、衣装が現れる。

 胸元に赤い宝石が現れ、たった数秒で杏子の変身は完了した。

 槍を構え、戦闘態勢をとる。

 

 同じように、さやかは目の前にソウルジェムをかざした。

 

「待って、さやかちゃん!!」

 

 まどかの声が聞こえた。

 何をしにきたのか、いや助けに来たんだろう。魔法少女でもないのに、だ。

 来るべきじゃない。今のあたしを、見られたくない。その一心でさやかは吠えた。

 

「まどか……!?っ、邪魔しないで!そもそもまどかは関係ないんだから!」

「駄目だよこんなの、絶対おかしいよ!杏子ちゃん、どうして!?」

「……悪ぃな。アタシもこいつも、譲れねえもんがある。……邪魔すんなら、今度こそ容赦しねーぞ」

 

 言葉少なに、杏子はまどかを拒絶した。

 さやかも、この戦いに首を突っ込まれるのは嫌だった。まどかは親友だが、だからこそ譲れない。要は、こいつ……杏子とあたしは似てる。ただ、どうしようもない考え方の違いがあって……それを守るために、或いは相手を否定する気で、戦わなくちゃいけないんだ。

 咥えていたポッキーを杏子は噛み砕く。

 

「かかってこいよ、トーシロー。先手は譲ってやる」

「っ、舐めるんじゃないわよ!」

 

 さやかがソウルジェムを掲げた。

 まどかが駆け出す。彼女は戦いの部外者だった。

 だからこそ、それに反応できるものはいなかった。

 

「さやかちゃん、ごめん!」

 

 ソウルジェムを取り上げ、車道に放る。

 影が飛び出した。

 

「それには及ばないわ」

 

 ほむらがトラックに着地し、ソウルジェムを盾の中に入れた。

 一瞬でほむらの姿が消える。

 

「まどか!?あんた、何して……」

 

 さやかが声を荒げる。

 まどかは返事をしようとして、さやかがふっと力を抜いて寄りかかった。

 咄嗟に支えるが、さやかに呼びかけても返事がない。

 

「さやかちゃん……?さやかちゃん!!」

 

 杏子がずかずかとまどかに向かい、さやかを持ち上げるのと。

 ほむらが歩きながら、彼女たちの背後についてさやかのソウルジェムを取り出すのは同時だった。

 杏子が首に手を添えた。脈がない。

 ぼそりと聞こえた言葉は、極寒の冷たさを持っていた。

 

「まどかを、人殺しにはさせないわ」

「っは。か、っひ……っ!ゲホ、離し、ゴホッッ!」

 

 それを契機としたように、さやかの目が光を取り戻す。

 持ち上げられた体を、苦しげにばたつかせた。杏子を蹴りつけるが、その肉体には一切ダメージが入らなかった。

 考え込みながら、杏子はさやかの体を地面に下ろした。

 さやかが首を抑え、涙目で杏子を睨む。しかし、杏子の様子を見て異常に気付いた。

 

「何……?何なの?」

「仮死状態、とでも言っておく。あなたの頭は、熱くなると死ぬまで冷めなさそうだったから。恨むなら、恨めばいいんじゃないかしら」

「どういう、ことだ……?」

 

 杏子が言い、まどかが名前を呼んだ。

 しかし、ほむらは何も言わない。ソウルジェムをさやかに投げかけた。

 

「そこにいるわ。全てを知ってる黒幕が」

「全ては君の掌の上って訳か。暁美ほむら」

「キュゥべ、え。何があったの、あたしは……どうなったの!?」

 

 キュゥ、とため息のような声をこぼして、キュゥべえは言った。

 

「ソウルジェムは、君の魂そのものだ。それが異空間に行ってたんだから……どうなるかは、分からないかな」

「異空、間?んだよ、それっ!」

「暁美ほむら」

「……私の盾の中は、無機物なら大量に物を入れられる。ソウルジェムも、例外ではないわ」

 

 ほむらに、三人分の視線が集まる。

 

「じゃあ……殺したの?」

「そうよ。殺したわ」

 

 さやかとまどかは、呆然としている。

 淡々と言葉を紡ぐほむらが、同じ人間だと思えなかった。

 杏子が胸ぐらを掴んだ。

 

「ふざけてんのか!?てめぇ、それでもこいつの仲間かよ!」

「私は、さやかに協力を持ちかけただけ。美樹さやかを仲間だなんて、思ってないわ」

「待っ、てよ」

 

 さやかが底冷えする声で杏子を止める。

 或いはほむらにも向けられていたかもしれないが……杏子は、舌打ちの後ほむらを解放した。

 ふぅー……と、肺に溜まった空気全てを取り替えるようにさやかは深呼吸した。

 

「……ソウルジェムを、投げるのって。どういうことなの?キュゥべえ」

「だから、言ってるだろう。君の魂を……」

「なんであの石ころが!あたしの魂になってるのかって聞いてるの!!」

「君が契約したからじゃないか」

 

 さやかはキュゥべえを睨む。

 杏子のことはいけ好かない。ほむらのことは苦手だ。

 けれど、キュゥべえの邪悪さを見逃すほどさやかの目は曇っていない。

 

「……言ってなかったよね。なんでよ」

「聞かれなかったからさ。ボクの役目は君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変えることだ」

「じゃあ、この体は?」

「ただの器だよ。君たちの魂を使って動かすから元の体よりも便利だし、心臓を破られても体の血を全部抜かれたって魔力があれば死んだりしない。それの何が嫌だっていうんだい?」

 

 そんなの、と杏子が言う。

 ほむらは黙ったまま、行き交う車を無感情に見つめている。

 ゾンビと同じじゃねぇか、という声は。か細く消えかかっていたというのに……全員の耳に、いやに反響した。

 

「ひどいよ……こんなの、うぅ、うぁあ……」

「……はっ、饒舌だね。聞いてもないことをベラベラベラベラ……ふざけてる」

「ふざけてなんかないよ。ボクは……」

「もういいよ。どっかいって。じゃなきゃ……今すぐ、殺してやる」

 

 キュゥべえは嘆息する。

 わけがわからないよ、と言って闇に消えた。

 静かだった。

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