ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第二十一話 正しく矛盾する

 寝転がり、ソウルジェムを弄ぶ。

 ただの宝石だと思っていた。そうでなかったとしても、ただの魔力タンクとか……そんな物だと思っていた。

 あれから解散して、キュゥべえは行方を眩ませた。グリーフシードの孵化を防ぐためにはあれに会うしかないが、わざわざ探す気になれなかった。それに、用がある時なら呼べば来るはずだ。

 魔女が新しく生まれるのは、あいつだって嫌なはずだ。

 嫌、だよね?

 

「はぁあ、もおおおお!」

 

 聞く相手のいない愚痴は、言ったところで落ち込むだけだ。

 たまにだ。たまには、誰かに愚痴を聞いてもらいたくなる。それが魔法少女になって、濃度が格段に増してしまっただけなのだ。

 ぼんやりと、ベッドに寝転がって考える。誰かに当たりたい気分も、正直なところまやかしだ。

 

 ほむらがあたしを殺した。

 すごく嫌だった。けど……生き返らせる、という言葉がなぜ吐けたかも同時に理解した。

 あの時の言い方は、最悪だったけど……実際、あの手は最善だったと思う。あのままソウルジェムがどこかに行くのが最悪で、でもほむらがあれを拾ってこっちに戻したとして……あたしは止まらなかった。次点に来るくらいには悪い未来だろう。

 

 あれから、不思議な気分というか……ふわふわと浮いているような感覚だった。

 頭は鋭すぎるくらいに冴える。

 ほむらの盾に入れられたからか、それとも死んだからか。

 

 ゾンビみたいな体になったことは、関係ないんだろう。そうじゃなければ、なんでこんな体になって感情だけまともに残ってる。さやかは自嘲するように笑った。

 何故と問うても何一つ分からないが、やるべきことはずっと定まってた。それがなかったら、とっくにおかしくなっていたかもしれない。

 さやかは前髪をくしゃりと掴み、そのまま梳いていった手で顔を覆った。

 マミさんを、生き返らせよう。

 

 

 起立、礼。

 

 まどかは、恐る恐る左前の席を見た。

 そして、こちらを見ていたさやかと目が合った。驚きや焦り、色々な感情が溢れてまどかは咄嗟に下を向いた。

 さやかはまどかを安心させるように、少し困った顔で笑った。

 机の上には、ソウルジェムだけが無造作に置かれていた。

 

 授業が終わり、まどかはさやかを誘って屋上に行こうと持ちかけた。

 さやかは笑って、明らかに無理してる顔で笑った。

 

「えっと、今日はちょっと用事があるからさ!ごめん、いやほんとに!そんな顔しないでよ、まどかはかわいいのう〜!」

「さやか、ちゃん……」

「……本当に、大丈夫だからさ。そっちも大事な話でしょ?」

 

 さやかはそう言って、ほむらの方を見る。

 さっきから、まどかは何度もほむらへ視線を向けていた。昨日の話をするんだろう。

 どうしても、同席する気にはなれなかった。目の前で真実を明かされるのが、怖かった。

 まどかは、心細げにさやかを見て……意を決したように、両手を胸の前で握った。

 

 ほむらはただ、頭を机につけて眠っていた。

 

 屋上。

 ほむらに声をかけ、まどかは階段を上った。

 昼休みも、いつもここには人がいない。さやかちゃんと見つけた穴場だった。

 

「ほむらちゃんは、知ってたの」

 

 全てに対しての、問いだった。

 ソウルジェムKは魂そのもの。魔法少女になることは、すなわち石に魂を詰められることだと。

 キュゥべえが騙してることも。

 ほむらは静かに頷いた。

 

「どうして、教えてくれなかったの」

 

 責めるつもりが、ないとは言えない。まどかの声は硬い。

 どうしても気になった。責めるより、理由を教えて欲しかった。

 教えなければ……さやかちゃんが契約するから?

 

「前もって話しても、信じてくれた人は今まで一人もいなかった」

「キュゥべえは、どうしてこんな酷いことをするの」

「あいつは酷いとさえ思っていない。人間の価値観が通用しない生き物だから」

 

 まどかは瞠目する。

 

「何もかも奇跡の正当な対価だと、そう言い張るだけよ」

 

 衣擦れの音がした。

 こ、とローファーが半歩動いた。

 

「全然釣り合ってないよ!!あんな体にされちゃうなんて、さやかちゃんはただ好きな人の怪我を治したかっただけなのに……」

 

 きつく目を瞑り、まどかは苦しげな顔をする。

 抑えようのない嗚咽が漏れた。

 

「奇跡であることに変わりはないわ。不可能を可能にしたんだから」

 

「美樹さやかが一生を費やして介護しても、あの少年が再び演奏できるようになる日は来なかった……奇跡はね。本当なら、人の命でさえ贖えるものじゃないの。それを売って歩いているのがあいつ」

 

 まどかは震えながら息を吐いた。

 

「さやかちゃんは、元の暮らしには戻れないの」

「……前にも言ったわよね。美樹さやかを助けろ、と言われても私では力が足りない……魔法少女を辞めるなんてことはできないわ」

「さやかちゃんは私を助けてくれたの……!さやかちゃんが魔法少女じゃなかったら、私も仁美ちゃんも死んでたの……」

 

 ほむらは鉄柵に背を預ける。

 

「なら、受けた恩を忘れずに生きなさい。力には責任が伴うの。奇跡を受け取って嫌だから捨てるなんて、それを許せるのなら、魔女は……魔法少女なんてこの世にいなくなるわ」

 

 ほむらは目を瞑り、青い空を見上げた。

 光が網膜を刺激する。

 

「あなたは、あなただけは誰かを救おうとなんてしないで。身の丈に合わない背伸びをして……全部抱えてしまえるの。あなたは、巴マミと同じくらいに強いのだから」

「え?どういうこと……?」

「自分を犠牲に全て上手く行くのなら、あなたはそうするわ。そうでしょう、鹿目まどか…………!」

 

 紫暗色の瞳には、焔が熾きていた。

 思わず、まどかは一歩後ずさる。

 ゆるゆると首を振り、ほむらは目を閉じた。また開いた後には、いつもの冷徹な色だけがあった。

 は、と息を吐いてほむらは続ける。

 

「最後に、一つだけ伝えておくわ。私はあなたのやり方を否定する。条件は平等。私とあの黒幕だけ知っていることがあってはいけないから……いいかしら」

「……そう、なんだね。うん……うん、分かった。教えて」

 

 ほむらは言った。

 

「魔女は、魔法少女が成り果てた最期の姿。グリーフシードを失くして、ソウルジェムが穢れを溜めきってしまったら……絶望したら、魔女になる。黒幕はそれを利用してる」

「はぇ…………ぇ、あ?どういう……なんで?」

 

 それは、まどかの思考を止めるには十分な言葉だった。

 だから、とほむらが言った。

 

「鹿目まどか。あなたのことは頼らない。あなたを守って────ワルプルギスの夜を、倒すわ」

「……待ってよ、ほむら」

 

 聞き覚えのある声が、どこかから聞こえた。

 それは屋上の出入り口に佇んでいる。下を向いた青髪が、ぬるい風に揺れた。

 まどかが血相を変えて、その名前を呼んだ。

 

「さ、さやかちゃん!」

「……魔法少女は、魔女になる?それは、おかしいでしょ。じゃあ、マミさんはなんで?」

「巴マミは、魔女になる前に眠りについた。この盾の中では時間が経過しないし、劣化も起こらない」

「じゃあ、起こした後は?」

「……もし、魔女になったら私が殺す。けれど、できないかもしれないわね……ふっ」

 

 ほむらは笑う。

 

「何、笑ってんの……!」

「──あら。失礼したわ。ふと、思ったの。こんなことに意味はあるのかって」

「ほむらちゃん……?」

 

 赤い三日月がほむらの口元に浮かぶ。

 美樹さやかは気づいている。自分の容態も、そうなった理由も。でなければここまで踏み込めない。何も掴めない、あの時の私のように。

 だからこそ、これを聞ける。

 

「────死者が生き返ったとして、それは本当に元と同じもの?」

「っ」「!?」

「私には答えが見つからなかった。それでも、巴マミの蘇生は行うわ。あなたも異論ないでしょう?」

「………………やっぱりあたし、あんたのこと苦手だわ」

「私もよ。頑固なところが特に」

「あんたも相当だけどね。……ま、なんとなく感じてたし……魔女に……いや、させないよ。あたしが魔女に、させない」

 

 さやかは静かに、だがしっかりとほむらを見据えた。

 ほむらは皮肉げな笑みを浮かべながら二人の横を通り過ぎた。「ごきげんよう」と上品なお辞儀を残して。

 まどかは、もう何が何だかわからなくて……涙すら忘れて、呆然としていた。

 

 さやかは、何も言わずに座り込んだ。

 座ったというより、寝転ぶのに近かった。空を見上げながら、からからと笑った。

 乾ききってひび割れた笑いだった。

 

「なんなんだろうね。あいつって」

「……分かんないよ。マミさんを、生き返らせるの?」

 

 あたしも分かんないや。

 さやかの言葉は空に溶けて消えゆく。

 

 話が進んでいくにつれ、まどかの顔色は反比例するように表出しなくなる。

 まどかはその言葉に受けた衝撃で、もう他の何かを受け止めるキャパシティが残っていなかった。

 空は、明るい青色にまばらな白が乗っていた。

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