ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第二十二話 蘇生開始

 チャイムが鳴り、授業が始まる。

 他の生徒は黙々と書かれたことを板書している。さやかはソウルジェムを見て、ころころと机の上で転がしている……ほむらは、両手を組んだ上に顎を乗せている。何か考えている様子に見えなくもないが、休み時間の過ごし方を見るに……「寝てるのかな?」とまどかは人に聞こえないくらいの声量でつぶやいた。

 まどかは意を決して、ほむらにテレパシーを送ろうとした。

 

「……それじゃあ、この問題を……暁美!やってみてくれないか」

「──はい」

 

 出鼻をくじかれた。

 まどかは小さく言葉にならない呻きを漏らす。ほむらが目を開けた。

 すっと立ち上がり、それまでずっと問題について考えていたというように適切な解答を記していく。

 

「この五角形AからEを三つの三角形に直し、内側のAに繋がる二辺と並行な外辺を二本引く。その二直線とCDが交わる点を作ります。その二点の中点からAに伸ばした線です」

 

 説明としては下手もいいところだが、堂々と描かれる図形への解答は正しい。

 先生が「う、うむ……席に戻っていいぞ」と言うのを待たずして、ほむらは椅子に座り直した。何がおかしい、と雄弁に語る閉じた瞳を開けられるほど強くなかった。

 その態度は間違いなく良いとは言えないのだが、かと言って答えられる学力を持つ者が相手では教師に強く言えはしなかった。

 少しだけ苦笑して、まどかはもう一度気合いを入れ直した。

 

(あの……ほ、ほむらちゃん!)

 

 ぴくり、とほむらは反応する。しかし目を開けたりはしない。

 さやかがちらりとこっちを見る。

 

(何かしら)

(ちょっと、あたしにも聞こえてるよ。流石に盗み聞きはしたくないよ)

(大丈夫、さやかちゃんにも聞いてほしいことだから)

 

 まどかは、膝の上で両手を握り込んだ。

 

(その……ね。マミさんを……蘇生するって、ほんと?)

(ええ。最も、具体的な手段は美樹さやかに頼りきりになるのだけれど)

(ん、ちょっと待って……正直あたしも聞きたいんだよね。ほむらは分かるかもしれないけど、あたしはやったことないんだから。蘇生って、回復だけで行けるの?)

(……私もやり方は知らないわ。ただ、あなたの力なら彼女を蘇生できる……方法はあなたが一番知っているはず。私はそれまで巴マミの命を死という概念から遠ざけるだけ)

(んな、はぁ?……はぁ。無責任なのか義理堅いのか)

 

 面と向かって話すと、どうしても思いが先行して会話が難しい。

 だから、こうしてテレパシーで話すのは現状の最適解と言っても差し支えなかった。

 それを実行した少女は、どうしても言わなければならないことを思い浮かべた。

 あの、と言えば二人が聞きの姿勢に入ってくれたことを感じた。

 

(お願い。私もそれに立ち会いたい)

 

 二人の反応は端的だった。

 

(ダメよ)

(んー……!ごめん、難しそう……)

(そんな、なんで!?)

 

 さやかがぼんやりとした声で説明する。

 

(多分だけど、マミさんが魔法少女とは言え……生き返りなんて、それこそ奇跡じゃん?だからまぁ、やり方もわかんないけど、やるなら死ぬ気でやんないとダメだと思う。それで、その……うーん)

 

 さやかが言い淀んだのを汲んで、ほむらが言った。

 

(緊急手術の見学をする、それも医者の意識する場所で。その危さを理解できないとは思いたくないわ。遠くから観察しようにも、誰かに見つかるような場所で魔法を使うわけにいかない)

(あ……たし、かに)

(言いすぎねそれ。……うん、集中力はいると思うから。マジで申し訳ないんだけど……その分、起きて最初にまどかのところに行くからさ!)

 

 まどかは、悔しかった。

 何もできない自分が、荷物にしかならない自分が。

 でも感情より理性を優先しなければならない時は、どうしてもある。

 それに、ほむらの言葉は厳しいが……ずっと正しいものだ。さやかちゃんを、ソウルジェムKを投げかけた時に助けてくれた。あのままトラックに乗ってどこかに行った時、わたしは親友を殺していたんだから。

 感謝だけを渡すべきだった。

 

 さやかはおどける。

 

(大丈夫だって。絶対に……マミさんはあたしが取り戻す。またさ、みんなでパーティしよ。ふはは、今度はほむらも入れてやろ〜う)

(……別にいいわ。馴れ合うつもりはないの)

(え、嫌なの……?ほむらちゃん)

 

 ほむらが冷たく突き放すと、まどかがしゅんとした。

 声色は変わらないが、付け足すようにほむらが続けた。それを聞いてさやかはにやける。

 

(──────嫌って訳じゃない。時間が足りないから、運が良ければ可能よ)

(お、ツンデレかな?へっへっへ……素直じゃないですなぁ〜、ほむらちゃあん)

(殺すわよ)

(うぇ!?)(言葉強っ!)

(失礼。本音が漏れてしまったわ)

(ナイフが尖りすぎだよほむらちゃん……冗談、だよね?)

(そうね。まどかが言うならそうしましょうか)

(まどか次第で殺されるのあたし!?)

 

 物騒すぎる流れもあったものの、和気藹々とした会話がしばらく続いた。

 まどかは仁美が魔女に襲われた時のことを思い出し、ほむらの携帯の番号を聞いた。

 その場は、何もなければ放課後まで続きそうなくらいの盛り上がりだったが……最後の授業でさやかが当てられたため、一度お開きになるのだった。

 

 そして、放課後。

 まどかと別れ、さやかは路地を通りながら変身する。強化された脚力では、あっという間にマミの家まで着いてしまった。

 ほむらもどこかに行っていたが、程なくしてマミの部屋の前までやってきた。

 

 ほむらがぽつりとこぼす。

 

「最初は、蘇生する気なんてなかったの」

 

 さやかは振り向いて、ほむらを見る。

 

「は?」

 

 ほむらはソウルジェムを取り出した。否、それはソウルジェムが嵌められた髪飾り。

 山吹色の宝石だった。

 俯き、ほむらはさやかにそれを差し出した。

 

「巴マミは、どうやっても死ぬ……私が何を言っても意味がない。だから、何も言わないつもりだったし……死んだって、何も残ってないなら生き返らせることもなかった」

「……それじゃあ、今更辞めたいとか言うつもり?」

「いいえ。ただ……目を背けないであげてほしい。彼女は、後輩を欲しがっていたから……」

 

 さやかは思う。目を背けたりなんてしない。

 それがあたしにとっての罰で、役に立たない後悔と罪を雪ぐための最後の機会だから。それはきっと、あたしだけが求めるものじゃない。

 ほむらは、そっと何かを取り出した。

 それは腕だ。

 

 巴Sマミの左腕。

 

 その内側には、血はなかった。

 ただ、詰め込まれたリボンが中身の振りをしていた。

 反射的に背けかけた顔を、頬を叩いて戻した。

 ほむらは、諦めたような顔で笑った。

 

「殺してしまったの。私は彼女に、嫌われていると思うから。後輩二人で元気付けて」

「……もしかして、あんたってバカ?」

 

 さやかはマミの腕を握って、しっかりと離さない。

 ほむらは急な罵倒にほんの少しだけ不快感を露わにしていた。じゃあはっきり言ってやらなきゃね。

 

「そういうのは本人に言ってよね。もう帰ってくるんだから仲違いしたままにするわけないでしょーが」

「……はぁ」

「あ、逃げるつもり?ダメダメ、まどかに仲介してもらってでも絶対に仲直りしてもらうからね。パーティも強制参加でーす」

 

 ほむらは面倒くさげに目を細めた。しかし、特に何も言わない。

 最後に、と言ってほむらはグリーフシードを両手一杯に差し出した。

 五個。これを集めるのにどれだけの時間が経ったのか、とさやかは隠れてドン引きした。

 そして、学校でずっと寝てたのはこれかと納得もした。

 

 さやかがにやっと笑うと、ほむらは眉間に皺を寄せた。

 

「ふん……この後私は周囲を警戒する。佐倉杏子とキュゥべえは近づけさせない。絶対に」

 

 ほむらが淡々と、しかし決意を滲ませて告げた。

 さやかは感動する。敵の時は何考えてるか分かんないし神出鬼没だしで警戒しっぱなしだったけど、これが味方になると思うとよほどのことでなければ勝てそう。心強い……というか、末恐ろしい?

 さやかがマミの部屋に入り、ほむらが踵を返す。

 

 奇跡を手に入れるための、運命への反逆が始まった。

 

 さやかはリビングに立ち、ソファに腕とソウルジェムを置いた。

 急がなきゃ。魂が宝石になったとはいえ……石のままでまともに生命を維持できるとは思えない。

 時間と、どれくらい自分の力を信じられるかの勝負だった。

 さやかは目を閉じ、手にとっていたサーベルを掲げる。

 

 やり方。

 蘇生、回復、癒しの力。

 魔法少女になって、まだ一度も行使してはいなかった。けれど、どうすればいいかは体が知っている。

 床に円形の旋律が生まれた。

 

 まずは、第一段階クリア……かな。多分。

 外から銃撃音と甲高い金属音が聞こえた。来たらしい。

 さやかは目を瞑ったまま、ゆっくりと微笑んだ。

 

「頼んだよ、戦友」

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