ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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間違えて先の話を投稿してました
危なかった……


第二十三話 積み重ねれば強くなる

 ほむらは外に出た。

 間を置かずに、杏子が槍を地面に刺してその上に立つ。

 その形相は、信じられないものを見る目をしていて。怒りと、困惑と、憎悪と怯懦。

 言葉少なに杏子は言う。

 

「あれは、なんだよ」

 

 玄関前での、ほむらとさやかのやりとりは見ていた。

 杏子は自分の見たものを信じたくなかった。意味がわからなかったから。

 ほむらは髪を払った。

 

「巴マミを生き返らせるわ」

「……は?」

「言っておくけど、あなたに用はないわ。邪魔さえしなければ何も言うつもりはない……キュゥべえを近づけたくないの。どいていてもらえるかしら」

 

 杏子はトッと飛び上がり、手元に槍を戻す。

 自然な動作でほむらを狙った。ほむらが飛びすさり、コンクリートに穴が穿たれた。

 その威力は、魔法少女でも死ぬ勢いを隠していなかった。

 ほむらが嘆息する。

 

「どうしてなの。あなたは、そんな愚かな真似をする人間じゃないと思っていたわ」

「黙れよ。アタシの何を知ってんだよ」

「知らないわ。怯える子犬の過去なんて」

「テメェ!!」

 

 杏子は自分が何故こんなにイラついているのか、分からなかった。

 脳が弾け、記憶が引っ張り出される。父親が言っていた。なんだっけ。テレビのニュースを見ていたんだと思う。

 

「死の否定は、神への冒涜だ。病いを治すのは良い。けれど、このまま技術が進歩して……寿命が延び続けて人が死を克服したら、それはもはや人ではない何かだ。死の恐怖に溺れた醜い生き物だ────」

 

 杏子は、暴れる理由を選んだ。

 たとえそれが間違っていたとしても、少女は戦うことにした。

 そうでなければ、自分の何かが壊れる気がしたから。

 杏子が睨み、ほむらが笑った。

 

「てめえも、あいつも……ここで終わりだ。それは、人に許される領域じゃねえ」

「できるものならやればいい。あなたの言い方を借りるなら、あの場所は神域よ。誰も踏み入れさせやしない」

 

 銃弾と槍撃が交差した。

 杏子が、雷鳴の如き速度でほむらに接近する。しかしほむらの姿が一瞬で掻き消え、気配を探る間に銃弾が杏子を狙った。ただ、と杏子は思考する。あの時ほどの殺気を感じない。

 風を切る銃弾を、勘だけで回転させた槍を盾に弾いた。

 やはり、殺気が薄い。

 

 ソウルジェムが私たちの魂。

 それを飲み込んだ今だからこそ、あの時の狂気を正しく理解できた。

 狂気は鳴りを潜めているが……代わりに、皮肉げな笑みが杏子の神経を逆撫でした。瞬間移動……じゃないんだったな。時間停止ができるなら、こっちの目の前に出るのなんて無駄もいいところ。

 要は挑発だ。

 

 参考にするのは癪だが、ここで出し惜しみはできない。

 マミがやるような銃の展開を、己の得物で再現する。

 空中に浮かべ、天気は晴れのち槍が降る。降ってくる槍を避けながら、杏子は歩くほむらに肉薄した。降ってきた槍は、魔力が無駄なので刺さっているほとんどを魔力に戻した。

 ほむらは時々不自然に体勢や動きを変えるが、それにはラグがある。

 舐められているか。そうでなければ止められるまでにはなんらかの制限があるはず。

 そう思った矢先、ほむらの盾が稼働しているのが目に入った。

 

「……チッ!ちょろちょろと、うざったい!」

「逃げるのね。けれど残念、逃すつもりもないわ」

 

 槍の間合いは中距離。それには少々近すぎる。

 逃げるわけねえだろ、と思いながら、ヒットアンドアウェイの要領で杏子はバックステップする。が、ほむらはそれに飛び込んで合わせた。

「こいつ……っ」と声が漏れ、至近距離で発射される拳銃を避け、弾き、三節棍となった槍で連射を潰した。

 拳銃を早すぎる速度で撃ち終えたと思えば、次の瞬間にはアサルトライフルだかマシンガンだかが両手に握られてやがる。

 

 シンプルに、手数が違う。余裕というか、考えられる時間も違う。

 杏子はコンマ数秒で考える。

 分かっちゃいたが、時間を止められるっつーのは強すぎる。このままやったところで、やられるのはアタシだ。じゃあなぜやられてない?

 殺す気がないから。

 

 言っていた言葉を思い出せ。

「あなたに用はないわ」「邪魔さえしなければ」……つまり、こいつの目的は時間を稼ぐこと。

 突くならそこしかねーな。全力で戦っちゃいるが……アタシも、全く余裕がないわけじゃねえ。つまりここでほむらの予想を越えれば勝機はある。

 鍵はあの盾、駆動してるのを止めりゃなんかある。

 これは勘だが合ってると思う。

 

 考えろ、作り出せ。こいつが知らない何か……一度だって見せてねえもの。

 頭の奥でチリ、と記憶の炎が見える。

 マミと共闘した日々の中に置いてきた、あれ。

 いや、駄目だな。使おうとしたって使えねえもんに頼れやしない。クソ、自分の力さえ制御できねぇ。これじゃあ我を押し通せねえ。

 

 ダメだ。探せ。見つけろ。

 誰にも……アタシさえ知らない力を。時を止めるやつにも当てられるようなのを。

 考えろ、考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!!

 いつの間にか、思考にリソースを割きすぎていたらしい。

 ほむらが銃弾で杏子の槍を撃ち抜いた。

 

 槍は弾かれ、ゆっくりと宙を舞っている。

 殺気が薄いとは言ったが、それは絶対に死なないということではない。

 痛いくらいの危険信号が発される。体勢を戻せ──さもなくば。

 

 コロコロ、と丸い黒玉が転がってきた。

 ピンが抜かれている。

 目の前には、馬鹿みたいにでけぇ銃を持ったほむらがいる。

 仏頂面で、一ミリのブレもなくアタシを狙ってる。

 死ぬのか。

 待て、まだやれる。槍を握れる。アタシは、死────。

 

「さようなら」

 

 銃声がして、爆発に地面が揺れた。

 アパートや周囲には、人が立ち止まったり覗きにきている。しかし、槍や銃弾が飛び交う場に近づこうとしたり、撮影できた人間はいなかった。すぐに逃げたり、或いは映画の撮影か何かだと思う者もいた。

 正確には、ほむらが動いたために記録を破壊されていた。

 

 爆発による土煙が舞う中、ほむらは長銃の薬莢を排出する。

 胴に一発当たれば動くことは難しい。手榴弾まで使えば、死にはせずとも昏倒を狙えるはずだ。

 魔法少女に一番効くのは、ソウルジェムの破壊を除いて気絶狙いが最も効率的なのだ。

 しかし、油断するつもりはない。

 それだけの強さを、佐倉杏子は持ち合わせているのだから。

 

 土煙を裂いて、銃弾と同じかそれより速く何かが駆けた。

 ほむらは首を捻る。背側の壁に、杏子の槍が埋まっていた。

 呆れ声が飛んできた。

 

「おいおい、今のも避けんのかい?どこまでイカれてんだよ、あんたの魔法は」

「今のは単に避けただけ。あなたならやってくると思ったから」

「へっ、持ち上げたって何もないさ。意外だよ。てっきりアタシなんて歯牙にも掛けてないもんだと踏んだけど」

「そんなこと……がっ、あ?」

 

 ドッ、と何かに穿たれた。

 下を見れば、体を槍が貫いている。音もなく、ごくわずかな殺気さえなく。

 煙が晴れる。

 赤い目と紫の瞳がかち合った。

 

「それじゃあ死なないか。けど良かったよ、これで一発ずつだな?」

「ごぼ、ぐ……腕と心臓じゃ、割に合わない、わ。けぷっ……」

 

 ずるりと槍が抜け落ちる。

 心臓の位置、左胸に縦の傷が刻まれている。小さな傷から、どぼ、ごぽりと血が溢れた。背中側からはもっと溢れているだろう。

 杏子の左腕が、ぐちゃぐちゃのままだらんと垂れ下がっている。衣装がささくれ立ち、肉と骨が露出した様子すら幻視した。

 右手には何か、槍を投げたように振り下ろされている。しかし、その手の中には槍が握られていた。

 

 投げた方の槍は、空中にふわりと浮かんでいる。

 形勢が逆転した。

 

 肺も貫かれたため息も絶え絶えに、ほむらが尋ねる。

 

「新技、かしら……ぷっ、才覚というのは、妬ましいわね」

「時間を止められるやつに言われたかないね。今のなんて、ただの追尾弾だし?」

「……種が割れた芸じゃ、知らないことには対処できないの」

「そりゃ結構。てめぇを潰すための魔法だしな、とくと苦しんで味わえよ!!」

 

 振り向きざま、ほむらはショットガンを撃ち放つ。

 また弾かれた槍が跳び、しかし反動の如くほむらに猛追した。

 杏子は槍の真反対でほむらを挟むように動く。

 杏子の懐に入ろうとすると、右腕で薙いだ槍がこちらを狙った。

 盾が駆動する。

 

「同じ手は食わねーよ。止まってからよーく考えな」

「なぜ、あなたが知っているのかしら……言われなくともそうするわ」

 

 次の瞬間、世界は灰色に静止した。

 ほむらは一息つき、RPGを取り出した。魔力が減りつつあるために、最後のグリーフシードを使った。

 巴マミのソウルジェムがあったため、グリーフシードは盾に入れてない。穢れそうだったから。

 

 手首を守ればよかったさっきまでとは違う。

 ギリギリまで粘るが、それでも厳しければ逃げの一手だ。

 結局、自分でもなんで巴マミを生き返らせようと思ったかは分からない。佐倉杏子とぶつかればなんとなく分かるかと思ったけれど、そんな都合のいい話もない。

 

 はぁ……良くない。

 ずっと悪いことばかりだったのに、ここ最近は良いことばかり。そのせいで、つい無意識に欲張ってしまう。今の結論はそこだろう。

 段々と、少しずつだけど……報われる可能性が見えてきた。

 

 だから、巴マミを取り戻すという選択肢を得た。

 それを迷った末に選んだ。

 

 だから、怖い。

 幸運の理由は分からなくて……それに慣れつつある今が。

 欲張ったら無くなる、些細なことで無くなるとしか思えないから。

 

 盾を稼働させた。

 もう終わりだ。これ以上続けられない……ここで、勝負を決める。

 RPGを構え、至近距離で撃ち出した。

 瞬間、灰色が元に戻る。

 

 彼女からすれば、眼前に突如弾頭が現れたことになる。

 これで、倒れて。

 そう思って、ほむらは見た。

 杏子は笑っていた。

 

「最後は盛大に、でかい一発!アタシも同じようにやるねッ!!」

 

 杏子は、地面に槍を突き刺す。

 雨粒のように、動きに連動したらしい一本の槍が弾頭を貫いた。

 ほむらは見た。宙に浮いていた槍が、支える力を失くしたところを。

 最初の槍の雨ね(新技はブラフ)…………これだから、強者との戦いは嫌い。

 避けきれない。

 中途半端な位置、二人の体を爆風が襲う。

 

 後ろ側といえど、ほぼ間近で喰らって無事とはいかない。壁にぶつかり、ほむらは呻いた。そして爆発の主部分を喰らった杏子は、壁にはぶつからず着地した。しかし、破片で全身に傷を負っている。衝撃で腹がじくじくと痛んだ。

 それでも戦う。そのために二人は立った。

 

 切り札をめくりかけた刹那、円型の陣が二人に駆け上った。

 ほむらの携帯が、壊れかけの呼び出し音を鳴らす。

 そして二人は、直感した。

 

 時間切れだ。

 

 

 真円の五線譜が、魔法として形を成していく。

 さやかはこれまでの人生、そして魔法少女生で類を見ないほどに精神を研ぎ澄ませていた。

 しかし集中と裏腹に、旋律には時折ノイズが走っていた。

 感覚が鋭く鋭敏になっていく。それによって、震えればダイレクトに魔法へと影響が生まれる。

 ふと、口から言葉が溢れた。

 

「……今更、だよね」

 

 後悔しても、もう決めたんだ。

 昼休み、屋上に行く前……仁美に呼ばれた。

 ほむらとまどかの話を聞くために、そこでは一度断ったけど……恭介に関する話だって言われた。放課後に話せないか、と提案されたけど……仁美がここまで粘るのは珍しくて、嫌な感じがした。

 

 どうしても、マミさんの方を優先したかった。

 けど、多分違う。あたしは単に、仁美から言われる内容が怖かったんだ。

 今日は恭介も学校に来てて。仁美はそっちを気にしてた。勉強したくなくて掃除をし始めたのに、そっちでさえねばねばした落とすのが大変な汚れを見つけた気分だ。

 つまり最悪。考えたくない。

 

 それだけじゃない。

 自分がゾンビになって。好きな人に合わせる顔がなくなって。

 先輩が死んで。生き返らせるなんて、自分でも信じられないことをやってるって分かっていて。

 頼れる相手がいなくて。今の行いが正しいかもわからなくて。

 最期には、魔女になるって。

 それら全て……さやかの抱える不協和音の全てだった。

 

 さやかは、自分の手の中にあるサーベルを固く握る。

 迷いはとっくに捨てたつもりだった。甘かった。杏子の言う通りだ。弱いって言った、キュゥべえは正しい。

 けれど、私の思う理想だけは……正義だけは、捨てられないんだ。

 五つのグリーフシードから、一斉に魔力が溢れ出す。色がなかった力は、旋律に染められ透き通る水の色へと変わった。

 

 まだ足りない。

 直感的に、このままでは戻せないことを理解した。

 

 焦った。

 旋律が乱れる。

 キュゥべえは言っていた。

 報い。それはマミが帰ってこないことか。魔女になることか。本当にそうなるのなら、確かにひどい報いだ。一人で抱え込んだあたしは、報いを受けるんだろう。

 

 でも、ほむらはあたしにならできると言ってた。それも信じるどころか……当然とでも言いたげな様子で。

 まどかは願ってた。マミさんが帰ってくることを。

 その気持ちを裏切るくらいなら、報いなんてどうでもいい。

 取り返せ。マミさんを連れ戻せ。運命なんて、捻じ曲げてしまえ。

 

 さやかは、ぐっちゃぐちゃになった旋律をそのまま手放した。

 それどころか、全てを覆い尽くすように旋律を広げた。部屋中に、濃密な魔力が満ちる。壁には、飛び回る音符と休符、重なり合うようにのたうち回る五線譜があった。その中に一瞬、影絵のように指揮者となったさやかの姿が見えた。

 サーベルを振り下ろし、影が消える。

 五線譜が、音符が、記号が球体となって凝縮する。

 マミの腕にふわりと落ちていき、触れた瞬間にそれは光となって部屋を満たした。

 

 歌うように、さやかは叫んだ。

 

「う、────りゃああああああああああ!!!」

 

 あたしはバカだ。

 生き返ったマミさんが、同じ人か。正直なところわかんない。でも、止まれない。止まりたくない。

 魔力を焚べた。力を込めた。

 

 それでも足りないなら……あたし自身を差し出すよ。

 熱も、想いも、この不協和音すら……全部集めて、一つの青い炎にする。マミさんが迷わないように。

 さやかの瞳に、黄色の光が明滅する。

 ノイズを全て消し去った。

 

「戻って、こおおおおおおおおい!!!!」

 

 リビングを満たしていた光が、人の形に収束した。

 さやかは、力が抜けて膝をつく。

 サーベルを杖にして、ぼろぼろの老人のようにソファに近づいた。

 

 髪飾りを手に取った。

 金色の髪に指を止め、髪留めを差す。

 それで精魂尽き果て、さやかは床に倒れ伏した。

 

 

 暗闇の中にいた。

 ずっと、何も見えない海中に沈んでいた。

 光が見えた。それに向かって、手を伸ばした。

 マミは目を開く。

 体を起こして、ふと横を見れば少女が倒れていた。驚いて、咄嗟に声をかけた。

 しかし、喉が張り付いたようにうまく声が出なかった。

 

「あ、あの……だいじょうぶ?」

 

 青髪の少女は、目を見開いて声を震わせた。

 目尻に涙を浮かべながら、少女は笑った。

 

「うん……おかえりなさい、マミさん」

 

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