ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第二十四話 重い、想い、思い

 まどかは、初めて一人で魔女の結界に入った。

 ただ、気がつけばそこにいた。

 

 お父さんにおつかいを頼まれて、ちょっと怖かったけど外に出た。なんとなく、マミさんの家辺りで何かがあるのを見た気がする。けれど、邪魔になったりわたしが怪我したら……ほむらちゃんが悲しむ。さやかちゃんだってそうだ。

 ここは、どこなんでしょうか。気づかない間に、魔女に操られてたりしたのかな。

 そんな風に思う余裕もなく、まどかはただ息を殺した。

 

 工場で一度は孤立した。けれどあの時はさやかちゃんが魔法少女になってくれて、なんとか生きて帰ってこれた。

 階段のそばで、像の首元で携帯を握りしめた。

 ここに来てかなり時間が経った。40分くらい経って、中心の像に登って……そして、魔女らしき何かに会った。

 

 下の方から、伸びてうねうねと動く影が階段を登ってくるのが見える。あれから逃げ続けるには、像に登るしかなかった。

 魔女はまどかに気づいているのか、動く様子のなかったこれまでと違いわさわさと影を伸ばしてくねらせている。

 何も出来ず、逃げることすらままならない時間はまどかの精神を削った。

 今もなお、死の匂いが間近に迫っている気がする。

 

 怖い。

 

「たすけて……」

 

 震えが止まない。

 さやかちゃんはいない。ほむらちゃんもいない。

 頼れるものは何もない。自分すら。

 下階の影が、じわりじわりと登ってくる。まどかは口を覆って、自分の存在感を全力で消し切った。

 目を閉じて口を覆い、胸の上下もできる限り弱める。鼻から吐く息は、殆ど何も出てないような有様でいた。

 目の前を気配が通る感覚に、まどかの産毛が総毛立った。

 像の頭上に、白い獣が現れる。

 

「自分で解決するしかないよ。鹿目・コトワレーヌ・まどか」

「っ!!」

 

 まどかは目を開いてしまった。

 それを感じたのか、影がいくつか立ち止まる。しかし、息を呑んで止めたからだろうか。まどかの存在を認識したわけではないようだった。

 キュゥべえは赤い目でまどかを見る。

 頭上から降りて、まどかの目の前に立った。

 この使い魔たちはボクを認識しないから、勝手に喋らせてもらうよ……とキュゥべえは言った。

 

「言っておくけど、これは善意の忠告だよ。助けは来ない。だって君の頼みの綱である、その携帯……壊れているじゃないか」

「…………」

「さっき壊されたところも見ていたよ。不憫ではあるけど、ボクにとっては好都合だ。君を魔法少女にさえできれば、他のことなんてどうでもいいからね。さあ、また目を瞑るかい。けど、少しでも揺らぎがあれば見つかるよ。息も苦しいのか。本当に、人間という生き物はどうしてこんなに弱いのかな」

 

 キュゥべえの姿がぼやける。

 空気が残っていない。喉が、苦しい。

 

「さ、契約を結ぼう。君も死ぬのは嫌だろ?」

「っ、ひ、いやあああああああああ!」

 

 まどかは叫びながら、携帯を押した。

 携帯を投げる。空中でけたたましい音を立て落下していく携帯に、大量の影が群がった。

 まどかは転びそうになりながら、半狂乱で影から逃げる。影の半分がまどかを追った。

 走って、もがいて、坂を駆け上る。

 ふと目の前を見ると、そこには両手を組んだ少女の影があった。

 

「ぁぇ」

 

 その背から影が伸び、まどかの足を掴む。

 無造作に放り投げられ、まどかは空を飛んだ。

 魔法少女でもなければそれで終わりだ。落ちて死ねば、誰も見つけられない。

 キュゥべえが、自ら飛び降りてまどかに近づいた。

 

「まどか。断らないでよ。このままでは死んでしまう、早く契約してよ!」

「いやだ……わたしは、ならない……」

 

 キュゥべえ・クロマークの口車に乗りたくない。契約しない。

 魔法少女にはならないって……ほむらちゃんに、約束したから。

 でも、あぁ……ごめん。ごめんねほむらちゃん……普通の生き方をって約束、守れそうにないや。

 

 目を閉じて、来るはずの衝撃を待った。

 しかし、まどかを受け止めたのは柔らかい感触だった。

 ふわ、と何かに受け止められる。目を開けると、ずっと忘れられなかった声が聞こえた。

 

「大丈夫?美樹さんがあの魔女と戦っているから、心配しなくていいわ。あとは私も……」

「ま」

「はい?」

「マミ、さんっ!!」

「わ、ちょっと……きゃっ!?」

 

 まどかはマミを抱きしめた。

 変わってない。五体満足で、ちゃんとそこにいる。まどかは喉から溢れる嗚咽を、流れ続ける涙を拭えなかった。

 マミの胸に顔を埋め、しゃくりあげるまどか。

 その尋常ではない様子に、マミは困惑しながらも少し力を返した。

 

「……げほっ、ごべんなざ……。ひっく、えぐっ……ずーっ……ひく。お帰りなさい。マミさん……てへへ、うぅ……」

「そう、ね。…………落ち着いた?」

「……はい!さやかちゃんを……よろしくお願いします!」

「ええ、任せて」

 

 像の上で、さやかとマミが合流する。

 二人の影を、まどかは泣きながら見つめた。魔力が溢れ、水色と黄色の奔流がまどかの網膜に届いた。

 さやかは笑ってマミに声をかける。

 

「マミさん、技を撃つ時は叫ぶじゃないですか。あたしもあれやりたいんですよー!一緒にやりません!?」

「えっ……いいの!?じゃあ少し……いえ、もう大丈夫。思いついたわ」

「さっすがぁ!それで、どんなのなんですか?」

「それはね……ごにょごにょ……」

 

 マミとさやかは、打ち合わせを終えて影の魔女に向き直る。

 背中を合わせ、ここに見滝原唯一の魔法少女コンビが結成した。

 

 さやかが周囲から現れる影を切り裂き、マミは巨大な大砲を用意する。

 その姿さえ、まどかとさやかには懐かしかった。あれから一週間も経ってないと言われても、信じられないくらいだ。

 マミとさやかは目を合わせ、頷いた。

 一人は引き金を引き、一人は剣を投げ飛ばした。

 

 

 

「 「ティロ・プレスト!」 」

 

 

 

 ドン!!と砲声が響いた。

 光った魔力が、さやかの投げたサーベルに吸われて細く、収束していく。

 剣と魔力が爆発的に加速し、魔女を穿った。それでは止まらず、赤いオブジェを貫いて結界の壁に刺さりようやく動きを止めた。

 それはまどかが思い描き、憧れた魔法少女そのものだった。 少し荒っぽいけど、強くて優しい。

 

 魔女が動きを止める。

 

 まどかの周りに残っていた影が、逃げるように溶けていく。しかし、そのうちの一つがしぶとくまどかを襲った。

 ぱん、と乾いた銃声が響いた。

 

「ごめんなさい。遅れてしまったわ」

「あ!そんな、謝らないで……こっちこそごめんね、また助けてもらっちゃった」

「構わないわ。それに、あの電話はあなたでしょう?おかげでこの魔女のことを見つけられたのだから、あなたの手柄よ。感謝するわ。ありがとう」

「……随分仲良しだな、てめー。態度が違いすぎだろ」

「守る相手と戦う相手なのだから、当然の違いでしょう」

 

 憮然とした様子で、杏子が槍を構えていた。

 槍先はほむらではなく、使い魔に向いている。ほむらの銃口もまた、周囲の使い魔に向いていた。

 そんな二人の姿を目視して、まどかは顔に笑顔の花を咲かせた。

 

「杏子ちゃん!仲直りできたの?良かったぁ、てへへっ」

 

 まどかの満面の笑みを見て、ほむらと杏子は目を合わせる。

 赤は肩をすくめ、黒はため息をついた。

 少なくとも、この笑顔がある間はお互いに手を出さないようにしよう。と目で示し合わせた。

 

 結界が歪み、元の場所に戻る。

 いつだかとはまた違う工場地帯にいた。残りの二人もやってきた。

 見滝原の魔法少女が、ここに全て揃った。

 口火を切ったのは、やはりというべきか美樹Oさやかだった。

 

「いやー……揃ったね。なんか壮観っていうか、感慨深いような?」

「感想が浅いよさやかちゃん……」

「しょうがないじゃん!あたしの語彙力は感動の再会なんてののためには鍛われてないのー!」

 

「……佐倉さん。あまり顔色が良くないわ。最近はしっかり休めているの?」

「関係ねぇだろ……いや、違うね。あんたがいるからだっつーの。……あ、別に顔も見たくねーとかじゃないから!とにかく、この状況を作り出した本人に聞いてくんない!?」

「それは……彼女のことかしら」

「他にはいねーよ」

 

 マミの視線が黒髪の少女に向く。

 それに合わせて、自然と他の面々の顔も彼女を見つめた。

 腕を組んで、少女は欄干に背を預けた。

 マミが恐る恐るという様子で尋ねる。

 

「あなたが、私を生き返らせたの?」

「その質問なら、私ではなく美樹さやかにすべきね。……まぁ、計画したのは私。だけど完全に成功したとは言えないんじゃないかしら」

「……あー、あたしも同意見。早めに言っとこ、マミさん。みんな、それくらいじゃいなくならないから」

「…………そう、なの?」

 

 杏子とまどかは、具体的なことは何もしらない。

 マミの状態がどうなっているかは聞きたい気持ちであっても、迂闊に聞いていいものか躊躇われた。

 マミは少し目を伏せて、言った。

 

「記憶が、ないの」

 

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