ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第二十五話 大正解!

「記憶が、ないの」

 

「……なるほどな」

 

 杏子がぼそりと言った。

 まどかは声にならないくらいの驚きと悲しみの篭もった声を漏らした。

 

「杏子のことは分かるってさ。けどあたし達の方は……今は厳しそうかな」

「えぇ、美樹さんと……その、暁美さん、鹿目さんのことは分からない。……ごめんなさいね」

「私は構わないわ」

「……わ、わたしも大丈夫、です。だって、これからまた話せばいいですし!もっとたくさん、話したいことがあったから……」

 

 まどかはそう言って笑った。

 さやかはニヤッとしてマミに近づく。

 

「ね、まどかは最強にいい子なんですって。安心してください」

「……ありがとう。こんな、頼もしい子がいるなんてね……私は幸せだわ」

 

 空気が柔らかくなっていく。

 そこに淡々とした声が届いた。

 

「連続で悪いけれど、あなた達に忠告があるわ。ワルプルギスの夜がもうすぐ、この見滝原市にやってくる」

「……ほぉ」「なんですって!?」

 

 つまんなさげだった杏子が興味を示し、照れて所在なさげだったマミが血相を変える。

 ワルプルギスの夜?とまどかは頭の上に疑問符を浮かべた。

 さやかも同じような状態だ。

 

「ワルプルギスの夜という、極めて強力な魔女がいるの。巴マミを蘇生したのは、そのためよ」

「……なるほどね。戦力として私を……けれど、私は既に負けたのでしょう?」

「一度負けたところで、見滝原で最も強い魔法少女の座は変わらない」

「ちょ、あたしは!?」

「まだ雛だろ」

「くそー!」

「あはは……」

 

 さやかが悔しそうに顔をしかめ、まどかが笑った。

 その話、と杏子はどこからか取り出した飴を齧りながら提案した。

 

「アタシも一枚噛ませてよ。杏子・S・ミカータはマミ・T・スグシヌワにも負けねー戦力だろ?」

 

 ほむらは虚を突かれたように杏子の方を向き、少し半目になった。

 じとっとした視線を向けられる意味がわからず、杏子は強気に言い返す。

 

「んだよ、アタシが協力すんのがそんなおかしいか?魔女より魔法少女を優先するほどやべーやつじゃないよアタシ」

「……いえ、あなたがどうという訳ではないの。説明が難しいから、ワルプルギスさえ倒したらゆっくり説明してあげるわ」

「んん……?ま、いいか。分かったよ」

 

 軽く流し、続きを話し始める。

 

 ワルプルギスの夜を倒すためには、戦力だけあればいい訳ではない。

 何より足りなくなるのは、グリーフシードや魔力といった資源。

 仮に共闘するなら、ワルプルギス戦ではこちらの集めたグリーフシードは共有する。協力の内容として、互いのグリーフシードを一つの共有物にしないかというのがほむらの提案だった。

 

 それくらいならまぁ、と他三人の魔法少女は一旦受け入れる。

 

「私は生き返らせてもらったのだし、そのくらいの協力はね」

 

 そう言って、マミは微笑む。

 杏子とマミはその脅威を正しく理解しているし、さやかはさやかでベテラン二人が異論ないなら反論しないでいいかと思うのだった。

 それとこれは、と言ってほむらは言う。

 

「鹿目まどかに手を出して、怪我を負わせたら。どんな理由であれ下手人は始末する」

「こわっ。あんたはまどかの忠臣かなんか?」

「アタシもひどい目に遭ったよ。今だって別に停戦してるだけだしな」

「えっ?佐倉さん、鹿目さんを……?どうして」

 

 マミが言うと、杏子は慌てたように声を上げた。

 

「待て待て、ちゃんと聞けよな今度こそ。あんときはキュゥべえも知らねーっていう魔法少女がいるって聞いて、何するか分かんねえから人質になってもらったのさ。顔見知りだっつーから、大人しく聞いてくれると思ったが……結果はさっきの話通り」

「そうなのね……」

「……今であれば、質問によっては答えるわ」

 

 すると、槍は向けないものの闘気をじわりと上らせ、杏子は口を開いた。

 白い顔が上から降ってくる。

 

「あんたは──────このミタキハラで、何をするつもりだ?」

 

 杏子が言い、返事をほむらがしようとした瞬間。

 視界に白い綿が映り、咄嗟に銃を取り出した。

 ほむらの凶行に驚く者もいれば、その視線の先を振り向いた者もいた。ほどなくして白い獣が言葉を発する。

 マミが顔色を明るくした。

 

「大丈夫かい?みんな」

「あ、キュゥべえ!無事だったのね!」

「……おい、マミ。言っとくが、そいつは駄目だ。ずっとアタシたちに隠し事してたんだ。とりあえず、こっちにいろ」

 

 杏子は記憶喪失の厄介さを痛感した。

 というか、マミはさっきまで死んでたんだ。持つ情報の多さは、明確に白い獣への対応を分けることになる。

 

 マミは、その言葉に少なからず衝撃を受けていた。

 しかし、それまでの態度とは明確に違う心からの真剣さが滲んだ忠告は、記憶を失ってなお信じられる優しさがあった。

 キュゥべえはため息を吐く。

 

「ボクはただ、そろそろグリーフシードが孵化しそうだから回収しようと思っただけだよ。複数体の魔女が現れれば、いくら君たちでも消耗は免れないからね。ワルプルギスの夜を前にして、無駄な消耗は避けたいんじゃないか?」

「……受け取ったらさっさと立ち去りなさい」

「これじゃあ何を言っても聞く耳を持ってくれなさそうだ。どうして、こうまで嫌われてしまったのかな」

「無駄話は不要よ」

 

 汚くなったグリーフシードを投げて寄越し、杏子とほむらはまたキュゥべえKを睨んだ。

 まどかは、ふいにマミを見つめた。

 マミさんは今さっき起きたばかりで、持ち物はソウルジェムだけ。話に付いていけないかもしれない。だから、さやかちゃんが隣で色々教えてて────。

 

 隣でサーベルがからんと音を立てた。

 とさっと体が崩れ落ちる。

 それは、人形がこてんと倒れたような。

 

 まどかは息を吐いた。吸えない。

 キュゥべえが何か言っている声が聞こえた。

 

「キュ……奇跡には代償が伴う。契約を軽視すれば、君たちは簡単にこうなってしまう」

「──ぁ、さやかちゃん!!」

「………………」

 

 金縛りを解かれたみたいに、まどかはさやかに駆け寄った。

 必死に声をかけ、さやかに縋る。

 キュゥべえは追い打ちをかけるように問いかけた。

 

「ボクは忠告したよ。無視したのは君たちさ。魔法少女が失くした肉体を、破片から元の状態へと治す。それに加えて、繋がりを失ったソウルジェムとのパスを再構築した……自身に対してならともかく、他者にそれを施してなんの代償も無いはずないよ」

「……さっきから聞いてりゃ、好き勝手言ってんじゃねえぞ!」

「ボクより彼女を優先した方がいい」

 

 槍を投げる。

 白い頭が撃ち抜かれる寸前、フェンスを飛び降りてQBは逃走した。

 チッと舌打ちして、杏子はさやかに目を向けた。

 

 結局、さやかを病院に送り届けた後にその場は解散した。

 上手くいっている筈なのに……どこか危険な匂いがする様で。

 ある者は苦しみ、ある者は悩み、ある者は怒り、ある者は戸惑う。整理するだけの時間は、誰も持っていなかった。

 月明かりの下、高く積み上がった工場の煙突の先にキュゥべえが佇んでいる。

 青白い光を浴びたままで。

 

 

 目が覚める。

 いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。

 ほむら・A・マドカスキーはその背を起こしてみた。左腕の中指に嵌められた指輪が、ピキリと輝いた。部屋の前の表札を見た。最近はずっと見たくないと思いながらも、惰性と猜疑に絞られ続けている。暁美・M(マドカスキー)・ほむらとある。

 

 呪いだと思った。

 少なくとも名前として書いてあることは本当で、絶対に実現する。

 そう把握するのに時間はかからなかった。

 

 何も言わないまま、病室を出る。目を瞑った次の瞬間には、私は鹿目まどかの目の前にいた。

 彼女は立ち止まった私を、不思議そうに見つめる。

 やめて。

 そんな目で私を見ないで。

 私は……何をやっているんだろう。

 

 暁美ほむらは力なく笑う。

 

「ねえ、まどか。私を助けてくれないかしら」

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