ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第二十六話 記録:■■回目

「私を、助けてくれないかしら」

 

 まどかは驚いた顔をして、その少しあとに花が咲いた。

 可憐だ。

 

「うん!私にできることなら、なんでも言って!」

 

 キュゥべえを狙ったところで、まどかとその他全般の関係が悪化する。

 であれば、もうあれに自分から干渉する気は起きない。代わりに、まどかにだけ全て話せばいい。 

 

 まどかと仲良くなって、真っ先に話したのは魔法少女のこと。

 絶対になってはいけないとか、なった後の危険みたいなのも全部洗いざらい話した。キュゥべえについても。

 最初は怪訝そうだったけれど、目の前で変身するところや戦う姿、グリーフシードを見せながら話せばまどかは真剣に言った事を信じてくれていた。

 本当に、この日々の中で誰よりも純粋で優しい子だ。だからこそ、救わなければならない救えない。

 

 巴マミのことは諦めていた。彼女に対して何か感情を抱くこともない。

 そんな風に思っていれば、自ずと関係は悪くなっていく。今回では、キュゥべえのことを指摘した時点で、彼女を普通に生かしておけるなんて考えは消えていた。

 まぁ、これまでとそう変わらない……巴Sマミは死んだ。

 呪い名(ネタバレ)の通りに。

 

 ただ、私が「首を食べられて死ぬ」と言ったせいか、巴マミの首だけが残った。

 まどかにこんなものを見せる訳にはいかないから、私は隠したい一心で左腕に抱えた。盾があったから、盾に入れた。人だと思ってもいないから、無機物だから格納できたんだろう。瞳がずっとこっちを向いていた。

 

 そして、まどかとまた会った。

 私はいつも通りだったけれど、まどかはそうは行かない。それとまた、美樹さやかが邪魔になった。確かこの時は、Kのイニシャルが入っていた。他の時のことは、あんまり覚えていない。

 まどかは私に色々な事を聞いてきたし、美樹さやかは隣で黙ってこちらを観察していた。

 

 夕焼けの下。

 

「マミさんを、生き返らせることはできないのかな」

 

 最初は言っている意味が分からなかった。

 けれど、確かにそれができるのならば……名前にかかった呪いも、解くことはできずとも……無視できるんじゃないだろうか。

 

 鹿目まどかがそれを思い付けたのは、マミに掛け合ってソウルジェムを預けてもらっていたからだと。

 魔女の結界に入って、まどかはそれを受け取った。死んだ理由にそれのせいで力が出なかった可能性もあるが、生き返らせれば全て元通りだ。

 

 しかし、そこで誰が実行役をするかひどく醜い言い争いをすることになった。

 私はまどかを絶対に魔法少女にしない。させない未来を掴む。私は時を操作する以外の力がないから、美樹さやかを魔法少女にするしかない。他者に回復を向けている姿はあまり見たことがないけれど、同時に蘇生なんてことをやれるのはさやかだけだと思った。

 私はやれるだけの干渉をして、美樹さやかを説得した。

 最終的には、ぐずぐずになりながら懇願した。

 

「ひどいね。あんた」

 

 その言葉は、私のこれまでを嘲った。

 否定されたところで私は止まらない。止まれない。

 どれだけ愚かであっても。

 

 ついに、さやかは魔法少女になった。自分の願いを叶えて。

 話を終えた時のさやかの顔には、呆れや嫌悪があった。魔女になることや、ソウルジェムが魂であることを伝えた。

 私はともかく、普通の魔法少女が絶望するのはそれらが原因なのだ。であればそれを伝えてから魔法少女になった者は魔女にならない。

 さやかとの談合は、まどかには伝えなかった。反対されることは分かり切っていたから。

 まどかの願いを叶えるために、まどかの想いを踏みにじった。これまでだってそんなことはあった。でも……正面から鹿目まどかを否定する行為は、初めてだった。

 どうかしている。

 

「いえ、違う……魔女にはならない。あなたが魔女になったら、私が責任を持って殺すから」

 

 ほむらは顔を覆いながら言う。

 さやかは困ったように、笑っているとは到底言えない態度で笑った。

 

「はは……イカレてるよ。まどかさえ生きてたら、他の何もいらないの?」

「そうよ。いや、違うわ。私、わたしは……何が……ぁああ、おぁ……っ」

「もー、なんでもかんでも抱え込みすぎでしょ。それも何、巻き戻しで色々見ちゃったからなわけ?……マミさんが死ぬとことか、さ」

 

 さやかは立ち上がり、芝生の上で伸びをする。

 風力発電機が回った。

 こんな場所だったか。分からない。そんなことどうでもよくて、ただ私は……まどかのために、彼女の親友を手にかけた。

 まどかが魔女に襲われていたから、助けようと思った。

 しかし、それはさやかに止められた。

 

「下がってて。今のあんたじゃ安心できない」

 

 端的な言葉に、言い返そうとすればすでにそこにはいなかった。

 私の身体能力は、魔法少女となった今でも最低に近い。全力を解放した魔法少女の脚力には、とても追いつけやしなかった。

 時を止めるのも、乱発はできない。

 

 さやかに助けられて、まどかは泣いていた。

 私はまどかに謝った。謝って済むことではなかった。初めて、まどかの怒った顔を見たと思う。まただとしても、それまでは忘れられていたのだから、今も忘れたいくらい嫌な記憶だ。

 美樹さやかに仲裁されて、なんとか関係は元に戻った。

 思い返せば、まやかしに過ぎなかった。

 

 佐倉杏子が現れて、さやかに接触した。

 あまり険悪な様子がない。事前に杏子への接触は行ったが、戦闘にもならず他愛のない会話でその場はお開きになっていた。

 ただ、それは単に内側まで踏み込まなかっただけで。いつの間にか戦っていた。

 

「最近暑いわよね~。この格好のが楽だなんて、ちょっと犯罪者っぽいから言いたくないけど……ねっ!」

「ゾンビ化してるのに熱いも寒いもあるかよ。甘い攻撃だねー、あくびしちまうよ」

「んだとぉ!」

「アハハー!」

 

 何故か彼女達は楽しそうに戦っていた。

 それを見て、まどかは心配そうにしていた。珍しく、少し似たような感情を持った。

 二人は知らない所で親睦を深めたのか、肩を組んで下品なくらいに大笑いしていた。

 私は、改めて美樹さやかに謝ってからまどかに話をつけに行った。何かされる訳ではないが、だからこそ怖い。怒っているところなんて見たことないから、対処もできない。かと言ってやったからには最後までやり通さなければならない。

 そうして覚悟を持ってまどかと話したものの、彼女は既に気持ちは整理していたらしい。

 苦笑しながら、まどかは胸に手を当てた。

 

「その、ね。ほむらちゃんの気持ちも、やろうとしてることも正しいと思う。だから……わたしは反対しない。ううん、できないかな……えへへ、さやかちゃんには助けられちゃったから……あの時死んでたはずの、わたしが口を出せることじゃないよ」

「そんなことは……ない。だって、私はあなたの友人を……石に、変えたのだから」

「そう、だね」

 

 結局のところ、私はまどかに罰を下してほしかったのかもしれない。

 けれど彼女は絶対に、私を断罪しようとはしなかった。ただ隈の濃い眼で笑って、苦しげに手を握りこむだけだ。

 

「わたしが、言い出したんだから……マミさんを、生き返らせようって。なのに、魔法少女でもないわたしが口を出すのは違うとおもう」

 

 まどかを苦しめている、私こそ何様なんだ。

 それでも、蘇生という奇跡にだけ縋って生きた。

 魔法は成功した。

 

 マミは生き返った。

 

 杏子とさやかは、生き返りを行うかどうかで戦っていたらしい。しかし決着はついた。

 杏子の敗北だった。具体的な事は、何も知らない。

 

 美樹さやかは死んだ。

 正確には、蘇生するために必要な要素にさやかの魂が丸ごとあった。

 さやかの魂は、マミの中にあった。

 

「あたしがいなきゃ、丸く収まる。ね?」

 

 さやかは何らかの手段でマミの中から消え、残された彼女は錯乱した。

 やがて彼女は、長くは持たず骸になった。ソウルジェムには元々の、マミの魂が眠っていた。それを起こすために、身体の構築をするためさやかの魂が生贄になった。

 

 ほむらの腕の中で、マミが眠っている。

 永遠に目を覚ますことはない。

 顔を伏せたほむらの前に、杏子が降りた。

 

「なんでだ」

 

 ただ静かに杏子は問うた。

 はは、と乾いた笑いを転がす。

 

「妙な聞き方をしちまったね。聞きたいことは多かった。多かったよ、ほむら」

「…………まだ、疑問はあるかしら」

「ねえな」

 

 杏子はただ、地面を蹴り付けて、槍でほむらを打った。

 どれも掠って、当たらない。

 

「なんで……なんで奇跡なんてもんを信じちまったんだ」

 

 怨嗟が巻き散らされ始める。

 

「人を生き返らせるなんて無理なんだよ。生きてそいつを覚えておいてやるとか、できる範囲のことをやるまでさ。なのになんで足掻いた?手を出した?禁忌だろ。ふざけんな……ふざけんなよッ!!」

「………………ごめん、なさい」

 

 雫がアスファルトに落ちた。

 ほむらのものではない。ほむらの涙は、いつかで流れきってしまった。

 

「なんで、期待しちまったんだよ……。アタシは、そんなに弱えのか。生き返れば……それで……クソ!!!」

 

 生き返りさえすれば、それで。

 許してしまった。ただそれをできず失敗したから、生き残った相手に八つ当たりする。

 そんな自分を許せなくて、杏子は咆哮した。

 

 杏子は乱暴に、マミの身体を持ち上げる。

 後ろを向いて、杏子は体を投げた。そこに、槍を降らせた。

 身体が燃えて、何も残らない。杏子のほほに残った水分も同時に消えていく。

 杏子は振り返り、ほむらを見て笑う。

 

「────構えな。無抵抗のやつを殴る趣味はねえ」

 

 ほむらは、のろのろと盾を構えた。

 杏子は胸元のソウルジェムが急速に黒ずんでいくのを理解した。

 アタシはさ、と言った。

 

「ずっと失敗ばっかでさ……それでも、魔法少女としてやっていくのは悪くねえかなって思ったんだ。結局、そんな安い満足感さえ守れやしなかったな」

「…………そう」

「同じだろ?あんたも。何も守れねえからここにいる。他のやつはあんたを守るか、優しい言葉をかける」

「なら、あなたは?」

「殺すよ。あんたを。結果を出せねえやつは同情を買う。アタシはああいうの、クソムカつくからね」

「……優しいのね」

 

 杏子は、皮肉げに笑った。

 

「正義の味方の受け売りさ」

 

 その後は、ただ静かだった。

 銃声が響いて、ソウルジェム・コワセナイーノは壊れた。

 壊せない。不可能ではなく、不可逆のアイテム。壊してはならない。人を殺すことであるから。

 

 雨が、降っている。

 光の柱が立った。それを見ないようにほむらはまた、盾を廻した。

 

 

 暁美ほむらは目を覚ました。

 

 最悪の目覚めだ。一、二を争うくらいに嫌な夢だった。この失敗は、幾度目のだったっけ。

 身体を動かす気が起きない。ただ、毛布の中に深く潜り込んだ。きつく目を瞑った。

 緊張と恐怖。

 成功しそうという期待と嘆きが、どうしようもなくほむらを苛んでくる。

 

 それでも、数万回繰り返した日々よりは……希望があった。何より、諦め混じりの行動ではほとんど、という但し書きはつくものの、魔力を無駄に使わずに済む。ソウルジェムの濁りは、怒りでは増えない。グリーフシードには余裕を持つことが出来た。

 大丈夫。

 きっとうまくいく。

 絶望しながら、ほむらは根拠のない希望だけを見つめ続けた。

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