ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ 作:カイテン・マテナカータ
扉を開くと、そこには黒い少女が佇んでいた。
「……あら。奇遇ね、暁美さん」
ほむらは腕を組み、マミを睨んでいる。
マミが何かいう前に、スタスタと歩き始めた。マミが構えるが、それを無視してさやかに近づいた。
っあ、とさやかが焦ったような声を上げた。
「出なさい。美樹さやか」
「っ、嫌、だよ」
「なぜ?どこも悪くないのなら、今すぐワルプルギスの夜を倒すために行動すべきよ」
「ちょ、ちょっと、暁美さん!彼女は昨日倒れたのよ!?無理に動かすなんて────」
マミがほむらを止めにかかる。
ほむらの明確な怒気を持った目が、さやかからマミに移った。
マミの胸元のリボンをほむらの手が乱暴に掴んだ。
「あなたたちは……どうしてそう愚かなの?死んだのに隠し事をして、何の意味があるのかしら」
マミは息を詰め、黙り込んだ。
さやかも同じように、ばつが悪そうな顔で斜め下を向いている。
「どちらから先に言うのかしら。言わないのなら、私が代わりに言うわ。まず美樹さやか────」
「ま、待ってぇー……ぁ」
さやかは布団を剥ぎ取られ、かなり雑に床へと転がされた。
マミは怒りが頭を刺したのを感じた。
しかしほむらは止まらない。
「ベッドまで戻りたければそうすればいい。それとも、できないの?」
「……っさい!これくらい、は……!」
上半身を起こし、膝を曲げた状態で腕に力を入れる。
ふるふると震えたまま、さやかはそこから移動することができなかった。
愕然とした表情で、マミは二の句を継げないでいた。
さやかの顔は下を向き、表情は見えない。
「……あはは。ごめんね、マミさん……実は、起きてからずっと足が動かなくて」
「そんな……それは、もう……」
「うん、多分……一生、車椅子生活かな。なんとなくわかる。でも、えーと……落ち着いて!魔力を使ったら、ちょっとの時間なら元通り歩いたり走ったりジャンプもできるから!」
指輪がソウルジェムに変わり、淡い光を放った。
するとさやかは、腕だけで踏ん張っていたのが嘘かのようにすっくと立ち上がる。嫌な役をやらせちゃったね、とベッドに座り直してからほむらへ深々と頭を下げた。
ほむらは気にしていない様子で、今度はマミを掴んだ手を離した。
すると、マミはへなへなとくずおれた。
扉に向かって歩き、ほむらは閉めた扉に背を預けた。
「言っておくけれど、蘇生という博打の中では大当たりもいいところなの。成功しなければ、私たち全員共倒れだった」
「いやっ、そんなの任されてたの!?できたからいいけどさ、あんたまでやばかったって……」
「……正確には、あなたたち二人を私が始末しなければいけなくなる。その話は、巴マミの隠し事を聞いた後にする」
マミに、純粋な視線と怒気が籠った視線が向いた。
マミは俯いて、胸元のリボンを握った。呼吸が乱れた。不安の炸薬が、破裂しかけた。
「マミさん」
さやかの声が届く。
純粋な視線は、朗らかな好意の色に染まっていた。
「大丈夫。何があってもあたしは、マミさんを見捨てない。裏切らない。幻滅しない」
「────……分かったわ」
「隠し事しようとしてたあたしが言えたことじゃないけど、約束する」
マミは、弱々しく深呼吸した。
自嘲するように、小さく笑った。
「願い事、忘れちゃった」
巴マミは、からっぽになった目でさやかを見た。
ほむらを見た。
「思い出したいの?」
「それはね。自分が命を掛けたいと思った願いなのだから、忘れてしまうのは……」
ほむらは、ふっとため息をついてベッドに座り直したさやかに目を向けた。
さやかは「あなたはどうするの」と問われている気がした。
自然と口が動いた。
「あたしは、マミさんが知りたいって気持ちを尊重するよ」
マミの顔が明るくなった。
「でも、あたしは結局マミさんから教えてもらってなくてさ。だから、ほむら次第。ほむらが教えないんなら、あたしにはどうしようもない……戦って口を割らせるにも、相手も魔法少女じゃ効果薄いでしょ」
ほむらは相変わらず仏頂面だ。
口を開いて、息を吸った。
「まずは、言わなければならないことがあるわ。あなたにとって、願いと同じか……それよりも重要なことが。魔法少女の、一つの真実」
「……教えてくれる?」
「そ、それっ!……いいの、ほむら!?」
さやかが動揺しているのを横目に、ほむらはマミに言う。
紫色のソウルジェムを目の前に差し出した。
「ソウルジェムが何なのか、あなたは知らない。それはあなたの魂が込められた宝石なの。魔法少女になる時、私たちはこんな石に変えられる」
「そして、ソウルジェムに穢れが溜まりきった時……私たちは災厄に成り果てる。魔女という末路へと」
魔力がざわめき、金色の光が散る。
それと同時に紫色が溢れた。
マスケット銃を構え、マミは引き金に手をかける。
しかしほむらは左手で銃身を掴み、マミを壁に押し付けた。ヒビは入らないものの、衝撃が部屋を抜ける。
ここは病院だ。
発砲なんてすれば、すぐに誰かが駆けつけてくる。それを二人とも理解していた。
「もう一度聞く。願いを思い出したいのかしら」
「分からない……あなたのことも、私の願いもっ、いきなり言われたって信じられない!!」
「……であれば、これだけは明言しておくわ」
紫暗色のナイフがマミを射抜いた。
「あなたは、私と美樹さやかに生き返らされた。つまり、所有物なの。今のあなたは、もはや自分の人生を生きることはできない。当然よね。願いを忘れて、身に覚えのない恩だけが手元にある。不安でも、私たちが言ったことを信じるしかない。どんなに出鱈目なことを言っていたって、聞かずにはいられない」
ほむらの手が離れ、マミはずるずると地べたに座り込む。
さやかが吠えた。
「あんた、マミさんを魔女にしたいの!?」
顔を覆って、マミは震えている。
そこには、先輩としての強がりも立ち上がれるだけの理由もない。
魔女になる?そんな訳……ない。それじゃまるで、キュゥべえが……私たちは、何のために戦っていたの?
さやかがベッドの縁に手をかけてほむらに向かう。
けれど、力が足らず途中で地面に転がった。
必死に這いずって、ほむらの足を掴む。青い炎が瞳に揺れた。
薄暗いアメジストはさやかを冷酷に見つめる。
「────魔女になるほど、今の巴マミは弱くないわ」
「じゃあなんで!」
「魔女になる前に、自殺するから」
さやかは呆けた顔でマミを見る。
マミは透明な表情でほむらを見上げた。ほむらは盾から銃を取り出した。
マミに突きつける。マミは抵抗しなかった。
「あなたが死ねば、ここにいる美樹さやかはずっとこのままベッドに寝たきり。それどころか、近いうちに魔女になって私の邪魔をするでしょうね」
「……脅しかしら?」
「事実を言っているだけ。あなたは美樹さやかのそばを離れてはならない。美樹さやかを人質にすれば、あなたは命令に従わざるを得ない」
「ごめん、マミさん……また、足を引っ張って……」
「いいのよ、仕方ないわ……」
マミの額に、銃口が押し付けられた。
さやかは血相を変えて、ほむらの足を掴む指の力を強めた。
「敗者を気取るのはやめて。不愉快よ」
「それなら、一言命じればいいでしょう?『倒せるだけの魔女を倒してから死ね』って」
「……それも悪くはないかもね」
「あんた────ッ!!」
かちゃり、と撃鉄の音がした。
さやかは怒りよりも、マミがまたいなくなる恐怖で絶叫した。
「巴マミ。あなたに自死を禁ずるわ。それと、私はあなたに命令する権利を放棄する」
別にいらないもの、と言ってほむらは銃を盾にしまった。
マミもさやかも、ぽかんとほむらを見つめている。ほむらは不愉快そうに眉を上げた。
「……なにかしら」
「いや、えっと……うん。放棄するって、要はもう、手を出したりしないってこと?」
「自殺を試みたりしない限りは。まぁ、どうせできないでしょう。自分がいなくなれば、命の恩人が貶められると言っているのだから」
「……意味が分からない。何を企んでいるというの?」
「ふんっ」
ほむらはマミの疑問をノータイムで鼻で笑った。
さやかの背を掴み、クレーンの要領でベッドに戻す。壁のクローゼットに体重をかけて、ほむらはいう。
「そういうところ、あなたたちはよく似ているわ。意地になって人の好意を受け取らないところが」
「……え?なに、あたし?いや、助けてもらった覚えがあんまりないんだけど。むしろあたしが助けたんでしょ!?」
「どうせあれがなければ、あなたは自分の正義で潰されていたわ」
落ち着き直したマミが目を閉じ、ため息をついた。
「……ふぅ。あなたの態度にも問題があると思うわ、暁美さん」
「ほんとだよ!分かりにくいって!さっきとかもう、こんなとこなのに戦うんだと思ってたからね!!?」
「…………言ったところで、あなたたちは裏があるって勘繰るでしょう。どんな態度なら良いというの?」
「せめてもうちょい、愛想ってか親しみやすい感じをさ……」
変身を解き、元の服装になって三人は話を続ける。
そうしながら、さやかは考える。
じわりじわりと、ほむらが言ったことを咀嚼できた。
約束を守るのか、とか考えてしまうと複雑に思えるが……実際は簡単なことだ。
暁美Mほむらは敵意を持たない。それを過激な手段ではあれど伝えられただけ。死んだら殺すとか、往年のツンデレ系ヒロインか。ツンデレ────さやかの脳内で何か重要なピースがハマった感じがする。まぁ、半分はノリで考えてるだけだ。ただ、ほむらの人間性に触れた気がしたことは本当だった。
元々、まどかとマミさんを助けようって言っていたのを信じるべきだったか、とさやかは反省する。
いやでも、生き返らせて物扱い、って言われたらきついって。
というか、とほむらが元の声色で言う。
「魔力を使えば足が動く、とか言っていたわね。逆に言えば、接近戦は絶望的よ。戦闘の間ずっと魔力を消耗し続けるの?」
「う……分かってるって。足を使えないのに剣を振り回す、とかしないしない……たぶん」
「美樹さん……?その体でまだ戦うつもり……?」
「死にに行くのならまどかに影響が出ないようにしてもらえるかしら。あの子を納得させるだけの理由を用意して、ね」
マミとさやかは目を合わせる。
「ほんっとに、ほむらはまどかが好きなんだねぇ」
「……………………好きというか、助けたいだけ。まどかは……優しい、から」
「あっ、そうか。だから魔法少女にさせたくないのね。あぁ……鹿目さん、仲間になってくれればとても心強かったのだけど……辞めておきましょう」
「ええ、そうしてもらえると助かるわ。彼女が魔女になってしまったら、そうね……日本は吹き飛ぶ。魔女にならない手段があると言っても、魔法少女にはさせられない」
ソウルジェムKが壊れれば、魔女にならない。代わりに死ぬ。
そうなるのも防ぎたいからとほむらが言って、マミとさやかは頷いた。
扉の方から足音が聞こえる。人が来たようだ。ほむらは最後に一つ言った。
「巴マミ。……いいえ、巴さん。あなたの願いは、あなた自身が見つけて欲しい」
「え?」
「私じゃなくて、自分自身で……見つけられるまで生きて欲しい、です。魔女になってしまったら、私が責任を持ちますから」
「────。分か、ったわ」
ほむらは、そう言って弱々しく微笑んだ。
さやかはちょっと魔が差して、ちょっかいをかけると一瞬でそれは元の仏頂面に戻る。ちょっと勿体ないことしたな。
二人は次の人がいる気配を感じ、部屋を出ていく。二人が出るタイミングで、入れ替わりに入ってくる。まどかならほむらが教えてくれただろう。別口だ。
さやかはそれを見て、笑いとも苦笑とも言えない複雑な笑みを浮かべた。
「おはよ……昨日ぶり、仁美」
「さやか、さん……そう、ですね。お加減は、どうでしょうか」
仁美は、肩を上下させている。
前髪が汗で額にくっついていた。顔色がわからないほどではなかった。