ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第三話 美樹さやかの大喧嘩

 授業中、暁美・マドカスキー・ほむらは何度かホワイトボードに答えを書き記した。

 数学では式を立てて書いていくべき問題を、用紙も見ずにスラスラと答えを書いていく。そのどれもが正しい答えだった。

 何か書いた上でならともかく、紙も持たずにホワイトボードを埋めていくさまは圧巻だった。

 

 それは体育の授業でも同じだった。

 走り、加速し、踏み切る。

 棒高跳び。暁美Mほむらは途轍もなく綺麗なフォームで飛び込んだ。簡単そうにこなす彼女の動きは、どこか少しだけ遅く見えた。まあ、運動競技ではよくあることだ。上手くやっている者の方が簡単そうに見えて、その実凄まじい技量が必要だったりする。

 マットが沈み、勢いのままにでんぐり返りする彼女をみて教師が呟いた。

 黄色い歓声が上がっていた。

 

「…………け、県内記録じゃないの?これ……」

 

 跳び終わったほむらにクラスメイト達が駆け寄る。

 それを意に介さないようにして、ほむらは別の場所に目を向けた。

 それと目が合ったまどかは、視線を切るようにおびえて友人のさやかに隠れるのだった。

 

 そうしている陰で、観葉植物に乗った小さな生き物の目が瞬いた。

 

 大きなデパートのファストフード席。

 昼ということもあって人の多いそこで、仁美、さやか、まどかの三人は食事を摂っていた。

 さやかのちょっとしたお菓子に伸びていた手が止まっている。驚きや理解が追い付いていないといった様子だ。

 それも仕方がないとまどかは思った。

 保健室に行くまでで、同じ気持ちを味わったのだから。追加で、不満な気持ちをちょっぴり。

 

「文武両道で才色兼備かと思いきや、実はサイコな電波さん……!」

「くーっ!どこまでキャラ立てすれば気が済むんだぁーあの転校生は!?萌えかー!?そこが萌えなのか、ぐっ」

 

 さやかは言うだけ言って机に突っ伏した。外から見ればオーバーリアクションに映るのかもしれない。が、いつものことである。

 仁美は落ち着いて話を聞こうとしていた。

 

「まどかさん、本当に暁美さんとは初対面ですの?」

「うーん」

 

 まどかの顔は浮かない。

 状況を説明している間に、顔面をべたっと机についていたさやかが元に戻った。

 

「常識的にはそうなんだけど」

「やっぱりあなたのことは頼らない、なーんて言うからには因縁があるんだよね!……んで、非常識なとこの心当たりって?」

 

 気になることにはよく食いつくのだ。

 まどかは自信なさげに言い始める。

 

「あのね。ゆうべあの子と夢の中で逢った、ような……」

 

 ズーッとジュースをストローで吸って、二人は笑う。

 さやかは笑顔でイジるが、そこに悪意はないと友人二人は理解していた。

 

「すげー、まどかまでキャラが立ち始めたよぉ」

「ひ、ひどいよ、わたし真面目に悩んでるのにぃ!」

「あー、もう決まりだ、それ前世の因果だわ。あんた達、時空を超えて巡り合った運命の仲間なんだわっ!」

 

 もう。さやかちゃんはすぐ調子のいいことを言います。困ったものです。

 そんな風にまどかも考えていると、仁美から質問が飛んでくる。

 

「夢って、どんな夢でしたの?」

「それが、なんだかよく思い出せないんだけど。とにかく変な夢だったってだけで」

「もしかしたら、本当は暁美さんと会ったことがあるのかもしれませんわ」

 

 仁美はそれをどこで仕入れたのか、興味を惹かれる話を始めた。

 

「まどかさん自身は覚えていないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません」

「でも直接いろいろ宣言するってさ、仲良くなかったんじゃない?喧嘩別れとか」

「うふふ、それはそうね……」

 

 思い出そうとしても、あの夢で思い出せるのはほむらちゃんと会ったことだけ。

 なんとなく仁美やさやかの言葉が合っているような、違うような……そんな感覚に、まどかは眉根を寄せた。

 あの言葉をかけられた時、確かに少しだけむっとしたけど。まさかほむらちゃんは悩みを知ってるのかなとも思った。頼られたら、忙しくても大変なお願いでもなんでも断れないことがわたしの悩み。すごく直したいところだったから。

 

 仁美が携帯を確認し、「あら、もうこんな時間」と言う。

 携帯電話を片付け、帰る支度を始めた。

 

「ごめんなさい、お先に失礼しますわ」

「今日はピアノ?日本舞踊?」

「お茶のお稽古ですの。もうすぐ受験だっていうのに……いつまで続けさせられるのか」

「うわぁ~、小市民に生まれてよかったわぁ」

 

 仁美がトレーを片付けるのに合わせ、さやかとまどかも動き出す。

 そこで、さやかがそっと近づいてまどかに耳打ちした。

 

「まどか、帰りにCD屋に寄ってもいい?」

「いいよ。上条君の?」

 

 まどかが少しいたずらっぽく尋ねると、さやかは照れたように笑った。

 

「えへへ、まぁね~」

 

 エスカレーターに乗って、仁美が別ルートへと行く。

 さやかとまどかは笑顔で手を振った。もちろん仁美も同じようにして、姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 

 

 暗い路地を、一匹の生物が駆け抜ける。白と淡いピンクからできたその体は、既存の生物とはまるで違う造形をしていた。強いて似た生き物を挙げるならば猫だ。それでも、耳や尻尾を見れば猫でないことはすぐ分かった。

 紫色の光がそれを撃ち抜く。

 いや、白い生物はギリギリで避けている。しかし掠ってはいるらしく、無数の擦り傷がその肉体に刻まれている。

 紫色の光は数を増やし、明確な敵意を以って生物を狙った。

 一発がまともに当たり、猫もどきはずざぁっと地面を転がる。

 だがそれはすぐに立ち上がり、また暗がりへと消えていった。

 

 ふわりと、少女が舞い降りる。ちょうど白生物が無様に転がった場所だ。その腕には丸く小さな盾が装着されている。まどかの夢に出ていた存在だ。

 それは服装が全く違うものの、見間違いようなく暁美Mほむらだった。

 ほむらも消えると、そこには物々しい雰囲気だけが残った。

 

 

 ヘッドホンを装着し、さやかは音楽の流れに身を任せる。

 それと同じように、まどかもヘッドホンより流れる旋律に耳を澄ませていた。

 

「助けて……!」

 

 その声が聞こえるまでは。

 まどかはヘッドホンを外す。しかし、誰もこちらを見ている者はいなかった。不思議に思い、首を傾げる。

 また声が聞こえた。幻聴ではなかった。

 

「助けて、まどか……!」

 

 驚き、周囲を見回す。その声は知っている声ではない……はずだ。なのに、向こうはまどかの名前を知っている。耳に手を当てていると、更にこちらへ呼びかける声が届いた。

 とりあえず、声が聞こえる方に向かう。その様子を、さやかは不思議そうに見ていた。

 

 デパートの裏手、薄暗い区画。

 まどかはそこにいた。いや、なおも奥へと進み続ける。声の主を助けるために。

 店内改装のお知らせが立てられている。声はその先の扉から聞こえていた。

 

「誰?誰なの?」

「助けて……!」

 

 まどかは扉を開けた。

 

「どこにいるの?あなた、誰……?」

 

 暗い。改装の張り紙の通り、工事中のようだった。板材や鉄柱など、色々なものが散乱している。

 工事が終わっていないのもあり、剥き出しのパイプや三角コーンが目についた。

 ゴツッと音がし、天板が剥がれ落ちる。助けて、と繰り返しながら何かが落ちてきた。

 驚いてまどかはぺたりと座り込んだ。

 

 白いぼろぼろの生き物が、苦しそうに全身を上下させ呼吸する。しっぽ、背、耳や額など、全身が傷だらけで赤かった。

 血相を変え、まどかは生き物に近寄った。獣を持ち上げる。

 

「あなたなの!?」

「助け、て……」

 

 天板が剥がれた場所から、じゃらりと鎖が落ちてくる。

 それを伝ったように、黒髪の少女がまどかの目の前に現れたのだった。

 

「ほむら、ちゃん……?」

 

「────そいつから離れて」

 

 有無を言わさない態度で、ほむらはまどかに要求する。

 しかし、まどかは従わなかった。

 

「だって、この子……怪我してる」

 

 生き物をかばいながら、まどかは伝えた。

 

「ダメだよ……ひどいことしないで!」

「あなたには関係ない」

 

 ほむらは静かに近づいてくる。

 制服とは明らかに違った、奇特な服装が目に入る。全体的に暗色でまとまっており、暗がりと同化しそうな黒さを感じた。

 鎖が揺れる。

 

「だってこの子、私を呼んでた!聞こえたんだもん!助けてって!」

「そう」

 

 鎖が揺れる。

 冷たい目がまどかを見下ろした。

 鎖が揺れる。

 心音がうるさくなる。まどかにはそれが自分のものか、この小さな生物のものか分からなかった。

 鋭い視線は変わらない。

 鎖が揺れる。

 まどかとほむらは視線を交わした。

 

 そこで白い煙に視界を遮られる。がしかし、それはほむらを狙ったものだ。声の方を向けば、まどかの友人がそこにいた。

 

「まどか、こっち!」

「さやかちゃん!」

 

 さやかが消火器を噴射し、中身が無くなった後はそれを投げ捨てる。

 二人は一緒になって逃走した。

 

 噴射が止まり、ほむらの視界がある程度確保される。

 ほむらは右手を上げた。

 次の瞬間、突風で白煙が全て払われる。しかしそこにいるのはもう暁美Mほむらだけだった。

 ぐにゃ、と視界に異常が起こる。ほむらはハッとすると、油断なく周囲を見回した。

 それは名状しがたいもの。蝶の群れが、羽ばたきも無しに回転しているなどという光景は、正気で見るとは思えないいびつさを抱えている。

 画用紙が破かれるように、風景が異景に変わる。切って貼って破ったような裏側の世界がそこにあった。

 

「……こんな時に」

 

 

 さやかとまどかは走る。

 隠しきれない怒気を孕んだ声で、さやかは言葉を吐いた。

 

「何よあいつ!今度はコスプレで通り魔かよ!」

 

 まどかの方を振り向いて言う。

 

「──つかナニソレ、ぬいぐるみじゃないよね。生き物!?」

「分かんない、分かんないけどこの子、助けなきゃ!」

 

 あ、そうだ。

 また断れなかったや。

 

 そう考えている間に、こちらもほむらと時を同じくして不明の風景に取り込まれる。

 そこは最早、安全だなどとは口が裂けても言えない場所だった。

 さやかが焦ったように言う。

 

「あれ、非常口は?どこよここ!」

 

 まどかが怯えたように言った。

 

「変だよ、ここ。どんどん道が変わっていく……!」

「────あぁ、もうっ!どうなってんのさ!」

 

 変な気配を感じ、まどかは振り向く。

「やだ、何かいる!」その言葉の通り、おかしなものがいた。わたにひげが生え、足がある何かだ。

 それも、数えきれないほどにたくさん。こちらを認識すると、嬉しそうに体を戦慄かせた。

 二人は肩を寄せ合って震える。

 意味不明な祝詞を唱え、それらはただ待っていた。

 じゃきじゃきと鋏で斬る音が響く。

 さやかが叫ぶ。

 

「冗談だよね……あたし、悪い夢でも見てるんだよねっ?ねぇ、まどかぁ!!」

 

 黒く渦巻く目が、綿毛を醜く変える。切られて出来た紙のような唇も髭も、不規則に其の綿毛の上を蠢きまわる。

 鎖が千切れる音がした。

 じゃらじゃらじゃらじゃら、と長い鎖が円を描くように地面に落ちてくる。

 まどかもさやかも、怯えていた。

 

 それを吹き飛ばすように光が満ちる。温かい。しかし、綿毛は全て消えていた。

 ほけっとした顔で、二人は少しの安堵が生まれるのを抑えられなかった。

 

「あっ、あれ……!」

「これは……?」

 

「危なかったわね。でももう大丈夫」

 

 二人が振り返ると、そこには金髪の少女がいた。

 手に黄色か金色の、宝石?のようなものを持っている。そして何より、服装が彼女達にとって一番意識を惹いた。同じ見滝原中学の制服だ。

 お淑やかな雰囲気の少女は、まどかの持つ生き物に目線をやった。

 

「あら、キュゥべえを助けてくれたのね。ありがとう、その子は私の大切な友達なの」

「わたし、呼ばれたんです。頭の中に、直接この子の声が」

 

 そう言って、白い生き物……キュゥべえというのだろうか、に目を向ける。

 金髪縦ロールの少女はふーん、と声を漏らした。

 

「その制服、貴方たちも見滝原の生徒みたいね。二年生?」

「あ、あなたは……」

 

 異常な状況もあり、動揺しているさやかが金髪の少女に問うた。

 少女はそれを受け入れた。自分の質問より先にそっちを優先した方がいい、と。

 

「そうそう。自己紹介しないとね」

 

「でも、その前に!」

 

 じゃきんじゃきんと鋏が鳴った。

 少女のハイヒールが円を描き、描いた場所から光が差していく。装飾付きの宝石を軽く放り投げて、ステップを踏んだ。そのかかとから花が見えたのは錯覚か。しかしこの場所では錯覚ではないとすら思えるくらいに、可憐で幻想的だった。

 体の前で両手を重ね、宝石をかざす。

 

「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら!」

 

 そこからリボンがあふれ出した。

 光が少女に纏われゆく。ファンシーな効果音と共に、少女の服は可愛いながらもどこか異世界のような、ファンタジー感ある服装へと変わっていった。ブーツが、胸元の黄色いリボンが、頭のトーク帽と輝く髪飾りがその美しさを、素晴らしさを示すように似合っていた。

 黄色のスカートから上半身に上がっていくにつれ黒、そして白。

 混沌とした風景とは反対の、明らかに清廉なデザインだ。

 

 飛び上がり、少女は手を広げる。

 

 そこには、銃があった。

 視界を埋め尽くさんばかりの、マスケット銃が浮いていた。意匠を見ても、動きを見ても彼女が出した以外に考えられないだろう。けれどあんな一瞬で、とかどうやって、という疑問は掻き消えていく。

 琥珀色の撃鉄が落とされたからだ。琥珀よりも濃い炎が吹いた。

 雨のような弾丸が、橙色を纏って飛ぶ。目標は前方、綿毛の群体。

 爆発した。一匹も綿毛は残っていない。

 ひらと蝶が舞い上がり、少女は華麗に着地する。

 

 縦ロールの少女が警戒していると、異様な光景は嘘のように消えていった。

 それとほぼ同時に、三人の前に人間が現れた。シートに覆われた資材の上に。

 黒色だ。ブーツも髪もその目の色も。

 少しだけ、紫に近い。

 

「魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい。今回は貴方に譲ってあげる」

「私が用があるのは────」

 

 ほむらの視線が動く。

 それを金髪の少女は逃がさない。ほむらに劣らずのポーカーフェイスで告げた。

 その声色は直前の何倍も冷たかった。

 

「飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの。」

 

 ほむらは何も言わない。

 誰も何も言わない。少し経って、金髪少女が話しだす。

 声色は元に戻っていた。

 

「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

 

 まどかとさやかは、固唾を呑んで顛末を見守っている。

 自然と、ほむらはその姿を見下ろしていた。

 じり、と足を後ろに向ける。

 ほむらは目を閉じ、後ろを向いて資材の奥へと消えていった。

 思わず一般人の二人はため息をつく。

 

 ブルーシートを敷き、少女はキュゥべえに光を当てる。それは綿毛から守ってくれた時と同じく、暖かい色をしていた。少女は未だ、綺麗ながらほむらと似た特異な服装のままだった。

 白い生き物は目を覚ます。

 

「ありがとうマミ!助かったよ!」

「お礼はこの子達に。私は、通りかかっただけだから……」

「どうもありがとう!ボクの名前はキュゥべえK!」

「あなたが、わたしを呼んだの?」

 

「そうだよ、鹿目コトワレーヌまどか。それと、美樹オーゲンさやか!」

「んな、なんであたし達の名前を?あとオーゲンじゃなくてオーゲン・カー・さやかだから」

「そうなのかい?」

 

 まどかは考える。

 現実味のないままそれを聞いていると、キュゥべえはわたしたちにお願いがあるといいます。

 お願いと言われて、わたしは少し身構えました。

 

「お、お願い……?」

 

 そしてキュゥべえは……瞳を閉じて、笑いながらこう言った。

 

「ボクと契約して、魔法少女になってほしいんだ!」

 

 さらに。

 魔法少女になれば、どんな願いも一つ叶えてあげる!と。




10話まで毎日投稿です。その後は未定です。
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