ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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誰にとっての?


第三十話 佐倉杏子は 味方

「……ばかだよね」

 

 まどかを小脇に抱えて、杏子・S・ミカータは屋上を飛び移る。

 あの瞬間をほむらに見られてたら不味かった。後から気づいた。まぁずっとこいつらを監視してたし、さっさと帰った時点で見つかる心配はほとんどしてなかったけど。

 飛び出したさやかを追って、杏子は街に出ていた。

 さやかの足が思ったより早く、こっちの素人にもたついてる間に見失ってしまった。

 行き先を考えながら、独りごちる。

 

「魂を捧げて、か……けっ、大層なこった。……実際、マミが動いてるのをこの目で見ちまったからな。本当にできたんだろうさ」

 

 だからこそ、代償も大きい。

 魂を失うということが、体の自由を失うだけではなく……願いの理由やら感情やらまで持っていかれるなんて。代償というものは、失くすべきじゃないものを差し出すから代わりの償いなんだろう。

 どんな希望も、絶望との差し引き0であることからは逃れられない。

 あのアホは、自分がやる事の重大さを知らずに突っ走ったわけだ。

 

「全く、何やってるんだか」

 

 親友を捨ててまで逃げた女に向けた。

 しかし、今の自分も同じくらい何をやっているのかわからない。

 杏子は迷っていた。アタシが追いかける必要なんぞない。それでも身体が先に動いた。

 

 追いかけなければ、さやかに何か良くないことが起こる気がしたから。

 ああもおかしくなっても親友を傷つけようとしない高潔さが、杏子という魔法少女には眩しすぎた。

 心の内に渦巻く熱を誤魔化そう、否定しようと杏子はさやかを探した。

 

 一つ、市と言っても魔法少女の足なら端から端まで移動するのに時間はかからない。

 二つ、美樹Oさやかの魔力は上限が削られている。

 

 これらによって、さやかが見つかるのは時間の問題だった。

 河川敷の近く、橋の下でさやかは座り込んでいた。前の壁を見つめながら、これからを考える。

 まどかや他の魔法少女には会わない。今のあたしじゃ、誰に会っても八つ当たりしちゃいそうでそんな自分がいやになってしまうから。

 学校は……まぁ、行かなくていいや。もっと大事なことがあるというか、人助けの方がよっぽど食指が伸びる。

 

 まず、魔女退治。これは外せない。

 こうしている間にも、犠牲になっている人がいるかもしれない。そう考えれば力は簡単に湧く。……そうなってれば、よかったんだけど。

 勿論人助けはしたいし、今も魔女や使い魔を見かけたらすぐに倒しにかかるつもりだ。

 けれど、それが正しいと思えない。キュゥべえはどこなの。ほむらは。マミさんは……。

 はぁ、駄目だ。ずっとあの二人に頼りきりだったんだから。今日こそは二人がいなくとも、自分だけで魔女を倒してやれるって証明しなきゃ。

 

 そう思っていたら、いつの間にか周囲の様子がおかしくなっていた。

 好都合だ。ソウルジェムがかなり濁っている。これが真っ黒になるのがリミットだとすれば、いち早く魔女を倒すに越したことは無かった。

 さやかは油断なく周囲を見回す。

 すると、猛スピードで突進してくるものがあった。

 

 恐らく魔女だ。

 流線形のフォルムが、立って周りを警戒していたさやかの横っ腹を穿つ。

 その場に踏みとどまり、さやかは反撃するが……いつの間にか逃げていた魔女には当たらず、攻撃は空ぶった。

 それはシルエットだけなら魚によく似ている。大きめの……カツオかマグロによく似ている。だが、よく見ればどこもでこぼこで、何より普通の魚のような光沢がない。どうやら、大量の木片や木箱で作られた魚らしい。瞳は鍵穴だ。

 

 直線的な移動、二発目は目視して弾いた。

 

「……こんなもん?ぜんっぜん効かないよ」

 

 確かにスピードは脅威だし、今のも実はちょっと危なかった。

 だが、魔女には挑発が結構効く。こんな見た目だが単純なのだ。だからこそ、余裕な態度を崩す必要はない。

 魚型の魔女は口をパクパクと開閉する。

 すると、周囲から傘が浮かんできた。見た目だけは普通の傘だ。強いて言えば、それに目とヒレがあるだけの。

 さやかは無勢であることを感じながら、笑った。

 

「ふふふ……こんな時こそ、英雄気取りで行くよー。だってあたし、正義の味方だから!」

 

 自分でそれを信じられなくても。

 誰もそれを保証してくれなくても、たとえ一人になったとしても……さやかは不敵に笑みを浮かべ、サーベルを構えた。強がってなきゃやってられないのだ。一人だし。

 

 気持ちを切り替え、魔力を解放する。

 展開したサーベルを地面に突き刺し、片手でそれを支えにしながらもう片手で使い魔を退ける。

 まだガス欠になるほどの魔力は使ってない。ただ立つだけのことには、正直ほとんど魔力を消費しない。

 ただ戦いになった瞬間、或いは跳んだり走ったりしたらヤバい。踏ん張るのさえ一苦労だ。

 

 さてさて、こいつが弱けりゃあたしが生きる。こいつが強けりゃあたしは死ぬ。

 あたしの明日はありますかっ、と!

 

 胸。脇腹。右足。左肩。臍。側頭部。心臓。顔面。胴体のどこか。

 弾く、弾く、弾く、弾く、弾く、弾く、弾く、弾く、弾き飛ばす。

 

 最近わかったのは、剣を振るにも色んな振り方があることだ。

 当てるだけなら、よっぽど小さいものじゃない限り簡単。力任せに振り抜けば攻撃、撫でれば受け流し、両手で持ってやれば、たかが腕力とは侮れないくらいには耐えきれる。

 魔女と使い魔が間断なく突貫しては弾かれる。

 

 止まる暇もないために、手を動かしながらさやかは考える。

 危険なのは体の中心、ど真ん中の腹。何故ならそこにソウルジェムがあるから。

 サーベルを握る手でリズムを取りながら、さやかは魔女に狙いを定めた。

 

「ヒットアンドアウェイ上等だよ、卑怯者!!」

 

 さやかはかさかさと、本人は形容されるのを嫌がるだろうが凄まじい速度で地を這う。

 跳ぶだけでも魔力を結構使う。やろうと思えば空中に足場を作ったりもできるが、そんな見せ場を作る必要はない。だから地面を蹴って、出来る限り近づいて、斬る。

 魔女も負けじと傘を降らせる。が、所詮は使い魔。本物の魔法少女が動くスピードに勝るはずもない。

 そも、泳ぐものと走るもので泳ぐ方が勝つなど笑止千万。

 

 さやかはひとたび高く飛び上がり、袈裟切りの要領で振りかぶる。

 

 すい、と木マグロが動いて逃げた。さやかの攻撃が空ぶった。

 げ、と声を上げる間もなく少女は傘の群れに囲まれる。

 くるくると回り落ちながら、やってくる魚を斬って捨てる。しかし、全部は出来ない。

 どこなら無視できる。腕は駄目。腹も守れ。頭はなんか嫌だ。

 じゃあ、もう。

 

「足しかない、でしょ!」

 

 他を弾いて避ける中、一本がまともに刺さる。

 それは足に刺さった一本の傘であり、先の尖った槍をそのままにしてさやかは空を跳ぶ。二度目の跳躍、魔力は少々危険域。そうじゃなければ倒せないんだから、逃がすなんてもってのほかだ。

 あー、痛い。でも、あんまりだな。痛覚まで鈍っちゃうのか。

 それもまた、こと戦いにおいては。

 

「好都合ッ!」

 

 二発目はしっかり魔女に当たった。

 木片が飛び散り、マグロっぽい魔女はヒレをばたつかせた。

 さやかが着地する頃には、あたふたとしながら後退した。またか。逃げんなよ。

 

「魚でしょ、前にだけ進めよ!後ろばっかでどうすんの腰抜け!」

 

 さやかが煽れば、ピクリと魔女は後退を辞めた。

 そして、今までにも増す速度で突っ込んできた。やれる。突貫の位置は……心臓らへん!

 さやかは足から傘を引き抜いて、両手持ちに構えた。

 来なよ、先輩。情けないとこ見せる前にあたしが倒してあげる。

 

「ぐぅっ!!」

 

 引き付けてから間に合わないタイミングで左に避ける。

 心臓の位置じゃなく、右胸に尖った口が刺さった。さやかは叫ぶ。

 

「活け締めしたる、わぁ!!」

 

 そう言って、さやかは魚で言うエラに傘とサーベルをブッ刺した。

 この世の物とは思えない悲鳴を上げ、魔女はだらんと身体を脱力させた。胸から外れないのが鬱陶しい。

 けど、割となんとかなった。

 へへっ、これなら案外行けそう。そんなふうにさやかは調子に乗った。

 

 突然、空気が変わる。

 傘のような使い魔が急いで逃げ始める。

 

 柱と柱の間から、悠々と次の魔女が現れた。

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