ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第三十一話 魔女狩りには報酬を

 ぬるりと現れた影に、頭の中の警鐘がこれ以上ないくらいに反応する。

 咄嗟にマグロを引き抜いて、ぷかりと宙に浮いたそれを思いっきり蹴り飛ばした。

 影はマグロを食った。黒と白のヒレが見える。

 見た目的にはシャチなんだろうか。

 

 冷や汗を垂らしていると、食い散らかされる木片に混じってグリーフシードが転がってきた。さやかは迷わずそれを取った。

 拾いつつ、前斜め上を見上げる。

 

 とりあえず、目先の目的であるグリーフシードは手に入った。

 けども、魔力も穢れも正直やばい。かといってここでグリーフシードを使っていいものか?さっき手に入れて、これがなければ普通に歩く事さえできないと言うのに。魔力を最大まで貯められないのに。

 何より……こいつは、さっきのやつを遥かに超える強さを持ってる。

 直感だけど合ってると思う。

 だから逃げるか?

 それこそ有り得ない。

 

「……連戦も、歓迎するよ。あんたらが消えれば、それだけ犠牲になる人が減るからね!!」

 

 そう言って、また強がってさやかは跳ぼうとかがんだ。

 

「その必要はないわ」

 

 その声は、2番目か3番目に聞きたくなかった声だった。

 1番はまどかだ。

 肩をぴくんと震わせて、さやかは目の前に現れた黒髪を見つめた。

 

「……あれはあたしの獲物なんだけど。あたしが先に見つけたんだから、勝手に横取りしないで」

「それだけ濁らせてよくそんな啖呵が切れるわね。グリーフシードをそうまでして集めたいかしら?美樹さやか」

 

 そりゃね、とさやかは言う。

 自分ながら結構冷たい態度を取ってしまって、少々後悔気味だった。

 ソウルジェムが濁ってるから、精神的にも余裕がなかった。ただ、それに甘えるわけにもいかない。こっから軌道修正を図リタイ。

 

「そっちがFグリーフシードがいっぱいいるって言い出したんじゃん。それなのにあんたが邪魔するわけ?」

 

 あ、全然無理かも。

 

 ほむらはこちらをちらりと見つめた。

 その目は普段通り極寒の眼差し。けど割増しで冷たい気がする。

 ヤバい。

 すいませんほむらさん。ほんとはちょっとキツい。たすけて。

 けれど、とほむらが言う。

 

「あれに印をしたのは、今日よりも前だから。爆発に巻き込まれても良いから、どうしても死にに行くと言うのなら止めないけれど?」

「ごめんなさい無理ですもう限界!内心ガクブルでした、助けて先輩!」

「…………はぁ。調子がいいのか悪いのか」

 

 ほむらの言葉が極楽への蜘蛛の糸にも思えた。すぐさま飛びついた。

 いくらなんでもこれはキツい。大先輩が助けてくれるのなら、それに越したことはなかった。

 それに、来た時に声を掛けられた瞬間……正直に言えばちょっと泣きそうだった。心細かったから。

 この無愛想さがむしろいい。味方だと分かってるだけで、こんなにも心強く思えるとはこれっぽっちだって想像してなかったさやかだった。

 ほむらは盾から何やら装置を取り出す。

 

「あの魔女は、変な力を持っている訳じゃない。単に強いだけ……一度殺せば死ぬ」

 

 ぽちり、と赤いボタンを押した。

 すると白黒魔女の背に乗っていた爆弾が一斉に爆破される。

 さやかはいつの間に、と思ったがこれが「先に見つけた」ということなのだろう。

 連鎖的に爆発が起こり、魔女が蹂躙されていく。

 しかし、魔女は雄叫びを上げてこちらへと突っ込んできた。

 

「止まりなさい」

「はへっ!?」

 

 すっと手を握られ、棒立ちになったほむらにさやかは仰天する。

 いやいやまだ当たるでしょ!何やってんの!?やばいやばいやばい────

 と、世界が灰色になってさやかは呆気にとられた。

 ほむらは淡々と言い始める。

 

「私の魔法は時間を止める。よほどのことが無ければ魔女の攻撃はこれで無効化できる。けれど、触れていなければあなたはまた止まるわ。この隙にやることがある」

「おお……!遂に信用を勝ち取ったのか、あたしは……!」

 

 感無量だ。

 じーんとしていると、ほむらが胡乱気な目を向けてくる。

 そりゃそうでしょ。ずっと何考えてるか分からない人が自分の話してくれたらあたしは嬉しいよ。

 それを分かってか分からずか、ほむらは呟く。

 

「……嘘をつく気は無いから言うけれど、微妙な所ね。もう教えたところで何も変わらないから、別にというだけ」

「地味に傷つくライン!別にて!……ま、そうは言ってもあんたは自分のことよく分かってなさそうだし。実際はあたしを悪からず思ってんでしょ?このこの~」

「ないわね。潰すわよ」

「なにで!?」

「ゴルフクラブ」

 

「ゴルフクラブ」!?

 肉体派すぎる。打撃系、しかも元々武器とかじゃないのに……銃よりましかな?

 そんなことより、とほむらは若干怒った様子で切り出した。

 

「あれを倒すのに最後やらなきゃいけないことがあるわ。あなたは壁に身体を預けていていいから、右腕を上げておいて」

「へい、分かったよ」

 

 投擲するわ、と言ってほむらはサーベルを拾って渡してきた。

 さやかは了解して、サーベルを地面に突き立て背を壁に押し付けた。だが、これで手は塞がっている。

 ほむらの手が、さやかの顔を掴んだ。

 

「ほい。なにしゅんだ」

「ふっ。滑稽ね」

 

 うざっ。ウザすぎて邪魔してやろうかなと思っちゃった。やんないけど。

 まあそれはともかく開けた手を上に掲げ、手のひらを開いた。

 とても不満であるという目線を送るが、ほむらはどこ吹く風だ。「3秒経ったら時間を戻す。手に物が乗った瞬間に打ち出して」というので、渋々頷いた。

 しかもこいつ、3秒のカウントをしない。

 恐らく3秒間あたしのほおを蹂躙した後、ほむらは時間を動かした。

 目の前からほむらが消え、手のひらに何かが乗った感覚。硬い。そして……おも、軽い?うーん?

 いいや、行けー!

 

「おりゃああああ!!」

 

 打ち出されたのはほむら・A・マドカスキーだった。

 ひゅうと飛んだほむらは目の前で口を開けていた魔女にぱくりと食われた。

 

「ぎゃあああああああ!!!」

 

 さやかは叫ぶ。

 魔女は自分から口の中に入ってきた食い物に目を白黒させたが、元々白黒なのであまり意味がない。

 雑に飲み込んだ音が聞こえて、さやかは腕を震わせた。

 あ、あたしはなにを……いや、あいつが提案したんだ。あたし悪くないよ!!あああ、でも自分で友達を……そんな。

 

 すると。

 シャチの腹が爆発的に膨らんだ。そして、それが何度か連鎖して魔女は地面にでろりと潰れた。

 腹の中から、グリーフシードが液体に乗って現れる。

 

 それを拾って、体液でべちゃくちゃになったほむらが現れた。

 

「助かったわ。これで……」

「ほむらァーーーーー!!!!」

 

 怒りと安堵がないまぜになって、さやかは叫んだ。

 本気で説教したが、ちゃんと理解されたかは怪しい。

 あと無茶しているのはあたしも同じだろう、と言われた。ごもっともです。

 

「はぁ……ほんとに。後輩の手を汚させないでよね」

「だから私が虎口に入ったのだけれど」

「シャチだけにってね。ははっ、ナイスジョーク。やかましいわ」

 

 寿命が縮んだ。

 戻って来なかったら本当に寿命が縮んでいたことだろう。精神が寿命に直結するというのは、メンタル乱高下のあたしには不利か。今更ながら思った。

 今度こそ結界も消えて、あたしとほむらは橋の下を出て河川敷に歩を進めた。

 あー、別の意味で肝が冷えたわ。死ぬのも嫌だけど人殺しになるのはもっと嫌だよ。

 

「……ねぇ、魔女は元々魔法少女なんだよね」

「そうよ」

「……そっかぁ。やっぱ業からは逃げらんないかぁ」

 

 とほほ、と茶化してみる。

 だがまぁ、もう行ったことは変わらない。それが人間じゃなくなったとしても、同類を殺し続けなければいけないのはかなり嫌だ。けれど、それでも友達や被害者を見殺しにするよりはマシだった。

 聞いてみただけだったしね。

 

「そうそう、さっきの魔法さぁ。びっくりしたわ。もうちょい事前に教えてくれたりとかないの?」

「私の魔法は種が割れると致命的なの。さっき言ったように身体が触れていれば無力同然。魔法を使っている間、身体能力はからきし」

「え?じゃあ授業のあれは?」

「盾に割かなくていいのであれば、可能というだけ。……あれも危険はあるわ。心臓への負担が大きいと、その場で倒れてしまうから」

 

 さやかはまたも仰天する。

 心臓病を患っていた、とはどこで聞いたか。誰かの噂でも又聞きしたのかもしれない。

 治ったとばかり思っていたそれが、再発するのか。

 

 問うてみれば、ほむらはぽつぽつと語り始めた。

 見滝原中に来る前はずっと入院していた。病弱で目も悪かった、と。

 普段は魔力で治している、と言われてさやかは絶句してしまった。

 強いと思っていた少女は、元々は誰よりも弱かったのだと。ほむらは自嘲気味に言ったし、顔には皮肉げで哀しい笑みが浮かんでいた。

 

 危険だったら無理矢理治療するけれど、と言ってほむらはその話を終えた。

 少しの間、沈黙が降りる。

 やがてふと思って、さやかはまた訊いた。

 病に晒されても、動くだけの理由がある。鹿目Kまどかがいるから。あたしもその強さに、少し憧れていたところがあった気がする。

 

「ね、ほむら。グリーフシードってあとどれくらい持ってる?」

「……あげても構わないくらい、と答えておこうかしら。けれど、無駄遣いは許可しない。特に私とあなたは消費が激しいだろうから」

「分かってるよ。それで、グリーフシードを────」

 

 槍がコンクリートをなぞり、ぎゃりんと耳障りな音を奏でる。

 

「見つけたぜ。意外とすぐだったな」

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