ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ 作:カイテン・マテナカータ
第零話 始まりのちてん
黄色の勇姿が、頭の中にずっと残っている。
桃色の優しさが、心を掴んで離れない。離れられない。
「───ちゃんも、かっこよくなっちゃえばいいんだよ!」
自分も誰かを助けられる人間に、なりたかった。
魔法少女という存在が、輝いて見えた。
それがたとえ誘蛾灯だったとしても、光に惹かれる性質を持った虫は逃れられない。そして、虫と違って人は光がない時にこそ光を求める。一度見た輝きを忘れられない。
同じもの、光を生み出す側に回った。
罠だとも気づけなくて、代償はやってきた。
病室で、眼鏡を持つ手が震える。伝えなければならなかった。
「まさかあんた、本当はあの──とかいうやつとグルなんじゃないでしょうね?」
仲間なのか、敵なのかすら分からない。
最終的に全てが暗くなって、救いなんてないとしたら……どうして前に進むのか。光が闇に変わるのならば。
言っても信じてもらえない。未来なんて誰も思い浮かばない。
なら、殺し合いが正常か。そんなわけがない。
誰も死なない未来が────。
多分、そうして先の見えないトンネルをずっと走り続けた。
盾が廻った。繰り返した。
何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。
あたまが痛い。けれど、止まれるだけの理由じゃない。
たった数日を何度繰り返したかわからない。止まる理由にはならない。
磨り潰されて、削れていく。長すぎて、何がなくなっているのかも判らない。
それでも、止まらない。
願いは一つになった。
綺麗事を掲げるには、嫌なことが多すぎた。
唯一の友達……───だけを助けられれば、他に何もいらない。
幾多の魔法少女の死を見届けた。
魔法少女にならなかった時もあった。なる前に死んだから。
邪魔ばかりをしてきた青色と、一定の信頼を置けた赤色。
誰も欠けずにワルプルギスの夜を迎えうつ、なんて理想は一度たりとも成就しなかった。
やがて、膝を屈することが増えた。
誰も見ていない場所で、糸が切れたようにその場に座り込んだ。
立ち上がるたびに、身体の反応は鈍っていった。
これでは駄目だ。───を助けられない。
そう思っても、体が動いてくれない。
私は、どうしようもない人間だ。
それを、───は……まどかは、助けた。
膨大な因果をその身に宿して、窮極の魔法少女となって。
守ることもできず、ただ地に伏した。
まどか。
ごめんなさい。
かしゃん、と音がする。
最悪の未来に辿り着いた。
全部が一箇所にまとまっていって、繋がってゆく。全ての願いを救うために。鹿目まどかはそうできるだけの力と、優しさを持っていた。ずっと待ち望んでいた、救いの手。私たちを救う人。
誰もそれを止められない。私が、止めなければならない。
その光景は目に焼き付けておかなければならない。
それが暁美ほむらに出来る唯一の贖罪だった。最善を求めるのなら、最適解はまどかに頼ることだった。全てを救うなど、土台無理な話だ。
救われる者は救う者がいる。だから、救う者のことは誰も救ってやれない。助けられる人になる可能性は、ずっと前に見失っていた気がする。
糸巻き機で巻き取っていくように、絡まった運命は一つになった。
最悪だった。
だから、上塗りをした。
私は愚かだ。
どれだけ惨めで、無様で、誰かを貶める行為だったとしても……愚行と知って止められないくらいに、私は賢くなかった。
或いは賢い自分なら、もっとマシな答えに辿り着けたかもしれないと言うのに。
私の最高の友達。大切な先輩。かけがえのない……仲間。
報いれなかった。裏切った。
私は、すべてを諦めたんだ。
「あぁ」
暁美ほむらは目を閉じる。小さな盾に、右腕が添えられる。
思えば遠くまで来た。ずっと歩いて、走って、止まることなんて出来なかった。最初と最近のことは覚えているけれど、間の記憶はずいぶんと抜け落ちた。そうして次を考えられる間は楽だった。
薄情なものだ。覚えることも出来ずに取りこぼして、見向きもしない。
違う。怖くて見るのも叶わない。
それを失ったと認識してしまえばもう、一歩も足を動かせないから。
諦めたのなら、足を止めるべきかもしれない。
彼女の姿は誰よりも尊いものだった。
綺麗な輝きに目を奪われて、そのまま思考を辞めるべきなのかもしれない。
だってそう。鹿目まどかの犠牲さえ許せば全部が上手く行く。どうしようもない現実は、変わらないこともあるけれど。最高の結果ではないか。
だから。
「……ごめんなさい」
その言葉は誰に向けられたものか。
一つだけ思うことは、誰かの犠牲を基に成り立った成功が死んでも欲しくないということだけ。けれど、もう何をすればいいのかもわからなかった。
盾が廻り、暁美ほむらは何処かへ消えていく。
その姿を鹿目まどかが見つめていた。
互いの目は交錯しない。慈愛に満ちぐずる子をあやすような表情で、まどかはほむらを見つめていた。
白い場所にいる。
暁美ほむらは雪に埋もれていた。
雪なんて、どれくらいの間見ていなかったかしら。それもまあ、どうでもいいけれど。
「やぁ!ボクはキュゥべえK!よく来たね」
降り頻る雪を払いながら、獣が言った。
ほむらが億劫そうに瞳を動かすと、座り込んだ体のそばに忌々しい白い獣がいた。
ここはどこだ。お前はなぜここにいる。私は何のために盾を動かした。質問が浮かんだ。どれもかれも、どうでもいいことだ。
私はそう、失敗した。
私が黙っている間も、キュゥべえは喋り続ける。
「キュゥべえ・ケンジャノッチと呼んでくれ。君は知っているようだから前置きさせてもらうよ。勘違いしてほしくないが、ボクは黒幕なんかじゃない。ほむら・A・マドカスキー」
…………。
はあ?
本日もう一話更新あります