ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第白話 終わって

 ほむらはついに私も頭がおかしくなったかしら、と思った。頭にデコピンするが、その程度では怪我もダメージもない。そうか。雪が降る季節なんていつ振りかと思ったら、ここは私の頭の中か。幻覚か、夢なのだろう。

 何にせよ、どうりで何もない。

 

「ここで死ぬのが、私の結末ということかしら。無様で似合いね」

「申し訳ないけれど、ここはれっきとした一つの世界だ。間違っても君の中にある場所なんかじゃない。そしてここで止まることもできない。時間が来れば次が始まるよ」

「………………」

 

 しんしんと雪が降り積もる。

 ほむらの身体に落ちた雪は、解ける様子もなくほむらを覆っていく。顔にかかった雪すら振り落とせずに、キュゥべえの言葉を待った。

 それを知ってか、キュゥべえ・ケンジャノッチは伸びをしながら続ける。

 

「ここは、緩衝地帯とでも称すべきかな。君の力と鹿目まどかの力がぶつかっている場所だ。本来であれば存在しないし、このボクがそんなことを知っているのも有り得ないことだ」

「私と、まどかが?」

「世界を変質させるほどの力は、確かに恐ろしい。だけど、ボクの見立てでは制御は可能だ。それだけではなく、対抗することもまた不可能ではないのさ」

 

 指向性、あるいは相性とでも言うべきかなとキュゥべえは続ける。

 

 鹿目まどか、便宜上世界を作り変えられるほどの彼女のあの姿。

 アルティメットまどかと呼称しよう、とインキュベーターが言い始めた。

 あれより強い力は、この宇宙が耐えられない。だから彼女はあれ以上強くなることはないし、以上が必要な事態もまた起こり得ない。

 

 けれど、その性質には穴がある。時間操作、それも巻き戻しに特化した君を上回る時間への干渉力がないのさ。優先順位の問題だ。アルティメットまどかの力は万能だけど、こと時間遡行においては暁美ほむらが彼女を凌ぐんだ。完全な体になる直前に巻き戻した幸運もあるけどね、と。

 

 そんな力がぶつかっているせいで、世界そのものが悲鳴を上げてる。

 そのダメージを和らげるのがこの場所。

 

 空白地帯。

 あるとも知れず、ないとも知れぬ。魔女の結界に近い場所。

 

 は、とほむらは嘲笑する。

 大層なお話を聞かせてもらったが、結局何故私がここにいるか答えていない。それに、私がまどかよりも上だと?それこそ有り得ない。馬鹿なことを言っている暇があったらまどかを助けるために──────あ?

 ほむらは頭を両腕で抑えつける。

 キュゥべえはその様子を観察しながら、淡々と言った。

 

「キュ。君は大きな欠陥を抱えている。強いかどうかなんて関係なくて、重要なのはその矛盾さ」

 

 煩い。

 それは心臓の鼓動で。インキュベーターの声だ。

 

「鹿目まどかを守れるものになる。それは君が彼女より強ければ達成されるだろうね。だが、彼女より強いものになれば君は世界を破壊する。鹿目まどかを救えば、それ以外は救えない。それどころか鹿目まどかの願いすらも反故にする。暁美ほむらという存在そのものが、アルティメットまどかと反発しているんだ」

「……だから、私はここに来たの?」

「君は次の世界線に移動する。だが、行ったところで次も同じ結果を辿る。そうなるように鹿目まどかが願ったからね」

 

 それでも。

 頭を抱えていた腕を、脱力して戻す。キュゥべえは呆れたように嘆息した。

 

「やり直せると言ったって、確定した未来に抗うすべはないよ。これは絶対の理だ。だってそうだろう。たかが一本の糸が、全ての糸を束ねた綱に勝てるわけがない。至極当たり前のことだよ。ねぇ、暁美ほむら。君はどうして、その盾を動かした?」

「……決まっているわ。あの姿のまどかから、逃げるためよ」

 

 雪が降っている。

 口が勝手に動いた。言った後に、言葉の内容を認識した。

 そうなのかな。確かになんとなくそんな気持ちがある。そう、だ。繰り返しの中でも私は逃げた。鹿目まどか以外のことを疎かにして、まどかさえ助ければいいと行動した。だから、そう、あの姿のまどかはもはや助けられない。だから魔法少女にさせてはいけない。多分、そのはず。

 キュゥべえは少し意外そうにしながら、言葉を連ねた。

 

「そうなのかい?君のこれまでの軌跡とは逆のことだと思うけど……あ、そうか。そういえば出会いをやり直したいと願っていたね。守れるほどに、というのは二つ目。ボクは叶えてないね。だというのに、守れる人間になった上でなければやり直せたとは言わないみたいだね。傲慢なことだ」

「過去のことを忘れていたのに、よく賢者なんて名乗れるわね」

「? 賢者なんて大層なものでは無いけど……まあ、他のキュゥべえよりも知っている事が多いだけだからね。おかげで別個体と判別されてこんな所に飛ばされちゃったし、散々だよ」

 

 よく見ると、ピンク色だとばかり思っていた耳?は赤とオレンジを混ぜたような色だ。

 目の色も青だ。別個体と認識された、というか……別個体なんじゃないの?

 

「そう。ところで、その名前。ふざけているのかしら」

「何がだい?」

「分かるでしょう。あなたの名前もだけど私はま、まど……マドカスキーなんて名前では、ないわ」

 

 ほむらはキュゥべえ・ケンジャノッチを睨む。

 適当な冗談としか思えない、くだらない言葉遊びだ。誤魔化しているように見えないのも腹立たしい。

 騙すだけならこの種族は一級品なのだから。

 

 キュゥべえはしっぽを立て驚いた様子を見せた。

 どうせ嘘だ。

 ほむらが疑っている中、キュゥべえは無機質な瞳を動かさずじっとしている。

 カラーリングが違うだけで少しだけ嫌悪感が薄れるのだから、人間の脳は単純ね。それでもこいつは、どうせ始末するけれど。

 やがて、キュゥべえがゆっくりとこっちを見る。

 

「ボクはキュゥべえ・ケンジャノッチさ。だけど……どうして気付かなかったんだろう。他のキュゥべえも同じKを持つけれど、ケから始まる者はいないんだ。それにマドカスキー……暁美ほむらという名前とミドルネームの差が開きすぎだ。これは……異常だね。歪みと言ってもいい」

「あなたはもしかして馬鹿なのかしら」

「そうだね。賢者の血を引いてるなんて思っていないけど、こんなこともわからないなんてね。これじゃ愚かだと烙印を押されても仕方ない。君とお揃いだ」

 

 雪が降る。膝が見えない。肩に白が乗っている。

 暁美ほむらはキュゥべえを憎んではいない。

 私の目的をことごとく邪魔してくる姿は殺意を覚えるが、あれらの言い分を理解できないと言うには時間が経ちすぎた。ただ、邪魔だから消すだけだ。

 ならば、目の前にいるこれは邪魔にはならない。時間まで話す分には構わない。

 最後には何にせよ始末するが、利用できる間はするべきだ。

 

「つまりあなたの意志や独断ではないということね。私にさえ適用されていることも、この異常を解く要素になるかしら」

「ふむ……時間移動の影響なのは間違いなさそうだね。この現象が、というより全てが恐らくそこに起因する。バグみたいなものだ」

 

 推理したのか、キュゥべえケンジャノッチはあっさりと原因を言う。

 あけすけに答えを言われ、逆に疑わしくなった。いくらなんでも察しが良すぎではないの?

 

「何故そう思ったの」

「さっき言った通り、ボクは知っている事が多い。知らないこともあるけど、他のキュゥべえとは絶対的に違っているからね。その内にはボクがここにいる未来図も含まれていた」

「私を知っているのも、その知識が元なのかしら」

「大体はそうだね。なんでボクのようなイレギュラーが生まれたのかと思ったら、お誂え向きに君がやらかしているこの現状がある。正直、仕込みを考えるくらいに分かりやすい。君以外に考え付かないからね。限界が近づいているんだとボクは考えるよ。鹿目まどかに集まった因果に、宇宙が」

「まどかの名前は普通なのね」

「ボクの知識では、だけど」

 

 雪が降っている。ほむらは、ほとんど埋もれた。

 正直、難しいことなんてまるでわからない。

 分かったのは、こうしているせいでどんどんと状況が悪くなるということ。巻き戻すのをやめろ、という半ば本能じみた叫びだけ。巻き戻し続ければ、世界を壊すことになると。

 宇宙を壊してまで誰かを救いたいと?

 

「ボク、そしてボクらは宇宙のために最善を尽くすさ。暁美Mほむら、君はどうする?」

「そうね」

 

 そんなこと、知らない。

 宇宙のため、知らない人のため、未来のため、誰かのため。

 最高の友達を救うため。

 煩い。

 もういい。ずっと走って、疲れた。

 

「あなたたちにとっての最悪を願うわ」

 

 端的に言えば、キュゥべえは首をかしげる。その姿が段々と薄れる。

 

「ボクたちにとっての、か……全部が上手く行った世界は最悪かなと思うけど……。でも────」

「不可能、でしょう?」

「分かっているんだね。どうするのかな?」

 

 ほむらは困ったような笑みを浮かべる。

 それは、まどかがいつも浮かべているものと近かった。

 立ち上がり、盾に手を突っ込む。

 ほむらが銃を取り出しキュゥべえに向ける。時間が来たなら始末しよう。避けられたならそれもまぁ、構わない。どうせもう二度と会わないんだ。

 

「知らない。私はもう……疲れたの。何もしないわ。ただ願って、縋るだけ…………さようなら」

 

 銃声は、しなかった。

 雪が落ちる。

 ほむらがいた場所には、彼女に積もっていた分雪のかさが増している。

 青眼のキュゥべえは、首をかしげたまま言った。

 

「わけがわからないよ」

 

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