ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第壱話 ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ

 暁美ほむらは、限界だった。

 それなのにまた時間を巻き戻す。やり直してしまった。けれど、一瞬だけ見えたまどかの……アルティメットまどかの姿は、筆舌に尽くせないくらい美しかった。瞼の裏にだけ、その姿があった。

 夢かと思うような白を過ぎた後、また同じ地獄を繰り返すことになる。

 何もしない。そう言っても、身体は勝手にまどかを助けるために動き出す。

 逃げる為に、前に進むという矛盾。

 

 分かっていても、止める術はなかった。

 自分の身体だというのに、ルーティンのように同じ言葉を私は吐いている。前回と同じように巴マミが死んだ。美樹さやかと佐倉杏子が消えた。

 まどかは、前回の記憶があるみたいだった。

 彼女と話して、それまでとは違う絶望を味わった。

 

「ごめんね、ほむらちゃん……私は魔法少女にならなきゃいけないの」

 

 鹿目・(マホウショウジョニナル)・まどか。魔法少女になって、全てを救うと。

 彼女は私の話をまともに聞いてくれた。初めてのこと……ではなかった、と思う。彼女はずっと、私にも味方してくれていた。けれど、魔法少女になる前にそうしてくれたのは久しぶりだった。

 全部知っていた。彼女は、まどかではなくて……窮極に身を窶した記憶が、そっくりそのままあった。そうなったまどかを、救うことは難しかった。

 結果も分かった上で、私に委ねてくれた。

 本当にどうしようもなくなったら、私がやるから。そう言って。

 

「記憶が途切れちゃうんだ。次はほむらちゃんのことも、魔女や魔法少女のことも忘れちゃうの」

 

 私がまどかに接触すると、真っ先にまどかはそう言った。

 これまでのことを全部覚えてくれていた。私が無様に縋れば、まどかは優しく受け入れてくれた。

 僅かな希望を胸に、他の魔法少女にもできるだけのことをした。

 希望としたものが何よりも代えがたい最悪の未来だと理解できたのは、終わる瞬間だった。

 彼女はもう、ただの魔法少女として介在できない。

 契約すれば、その時点でアルティメットまどかとして顕現するのだ。

 

 失敗した。今までと同じか、それよりも悪い結果だった。

 まどかはぐずぐずになった私を、慈しむように抱き留めた。その後に、まどかは言う。魔法少女にならなければ、と。

 駄目だ。鹿目まどかを魔法少女にしてはいけない。それではまどかを救えない。守れない。

 下半身の感覚がない。痛覚を切った訳じゃないから、身体の腰から下が無いのだろう。

 私のソウルジェムが侵食されていくのを見て、まどかは慌てることなくグリーフシードをかざした。

 

「……もし次に行くなら、できるだけ覚悟してね。ほむらちゃんを覚えていられないことは……すごく嫌なんだけど」

「まど、か……」

「……本当に、ほむらちゃんは頑張ったよ。だから、もう大丈夫……私はあなたに、こんなに好かれてる……言葉じゃ言い表せないくらい、嬉しいの。後は……任せてほしいな。えへっ」

 

 自然体のまま、ワルプルギスの夜と対峙するまどか。

 ほむらは、ほぼ開かない瞳でまどかが光に包まれる姿を見た。

 そして、目を瞑った。続ける。

 まどかの方も、薄々私がこうすると分かっているみたいだった。

 困ったように笑う顔が私の方を向いていて、それが何よりも苦しかった。

 

「まどか……」

 

 病室で目を覚ます。

 一人でここにいる。また、同じ所まで戻ってきた。

 目をゆっくりと閉じながら、つぶやいた。

 

「私が、あなたを救うわ」

 

 言葉だけをなぞった。中身が伴っている気がしなかった。

 

 忘れられている辛さなど、それまでに何千回も味わった。

 なのに、起こったことをノートに箇条書きしていくだけのことに何度も打ちのめされた。

 多分、あのまどかを見た衝撃で……色んな感覚が戻ってきてしまったんだと思う。

 たった数十回のやり直しで、私は壊れ始めていた。

 ノートを開く。

 

 二回目のことは、あまり思い出したくない。

 三回目は、ある時の繰り返しだった。巴マミや美樹さやかに魔女の真実を打ち明けて、仲間割れを起こして。ただ、今回はまどかがいなくても私だけで処理した。同じシチュエーションが二度と通用しない自分が、段々と化け物に近づいている気がした。

 四回目は死んだ。皆がばらばらになって死んだ。

 五回目は何も出来なかった。まどかの光だけが見えて、時間遡行できなくなる前に盾を廻した。

 六七八回目は何も無い。

 九回目は、これまでの中では上手く行った。理由はよく分からない。巴マミが殺されないままさやかを倒せた。ワルプルギスの夜に向かう前に、マミは自殺した。

 

 11回目、巴マミと美樹さやか、キュゥべえ、まどかの名前をメモに取り始めた。それまでは、気になりつつもあまり聞き出せなかったためだ。関係を良くすると、聞かずとも名前を教えてくる。毎回何らかの意味がこもっているため、それらの総称をネタバレとした。巴・スグシヌ・マミ。美樹・ギセイシャ・さやか。キュゥべえ・クロマーク。鹿目・キュウセイシュ・まどか。

 25回目、巴マミは必ず死ぬことが分かったので、蘇生した。これも、あまり思い出したくない。魔女も倒せず、ただ死体だけが残った。まどかの最後の顔を見れなかった。

 47回目、美樹さやかの命名の(ネタバレ)法則が分かった。巴マミはほぼ固定、まどかは内面、または末路。美樹さやかはミスリード。犠牲者であっても加害者の可能性があるし、他と比べて相対的に弱いとしても回復は脅威だ。巴マミの名前が変わらないことが忌々しくて仕方ない。一度たりとも死なないループがない。これは、呪いか。

 62回目。まどかが記憶を持っていた。私を狙っていた。魔法少女になっていた?分からない。ただ、追い詰められて盾を奪われかけて、初めてまどかに傷を負わせた。

 84回目。なにもしなかった。まどかを傷つけた私に価値はない。どこにも行かずに光が見えたら盾を廻し続けた。

 93回目。ルーティンを整理した。キュゥべえを消そう。もう何もない。一万は超えたのだから、同じ動きで、同じやり方で、同じ出会い方ができるはず。名前の意味なんて知らない。どうして、こんなことをしているんだろう。

 94回目、少しうまくいった。まどかは救えない。

 95回目、美樹さやかが魔女にならなかった。何故?

 96回目、まどかが救えない。どうやっても、まどかだけが。

 97回目。

 98回目。

 9────

 

 残りのページをちぎり、ぐしゃぐしゃにして捨てた。

 数えなくなった。何千回繰り返したかもしれないし、何万回ぐらいしかやり直してないかもしれない。

 アルティメットまどかが現れるようになってから、何回だろうか。

 望みが絶えていた中で、希望を見せられて、また落とされる。それだけで人は簡単に崩れる。狂う。覚悟なんて出来ずに。

 うまくいかない。全部、何もうまくいかない。

 巴マミは生きていて。美樹さやかは魔女にならず。佐倉杏子は元気なまま。まどかだけだ。まどかだけを助けようと、他のことは疎かにしていても上手くいく。

 惰性で動いているのに、これまでよりもずっといい結果だ。

 

 ふざけるな。

 どうして。

 どうしてまどかだけ……。

 

「まどかが、そう願ったから……」

 

 ほむらは自分の家で、ソファに寝そべっていた。

 明るい。腕で光を遮った。目から涙が零れている気がするが、気のせいだと思う。

 ギロチンのような振り子が動いている。

 

「ぁ……ぅ……」

 

 分かっている。

 全部どうでもいいって、諦めた。なのにここまで来た。来たんだから、わざわざ悪い方向に行くような真似はしない。

 それ相応に愚かな姿を晒すつもりだった。でももう、うんざり。

 マミを戻した。さやかを鎮めた。杏子には……不安が残る。だが、死んでない。それだけでもう……何もいらない。

 杏子に問題ができたとしても、こちらの戦力は最大値だ。これを逃して次はない。

 

 ワルプルギスの夜を、消滅させる。

 ここで、この見滝原で……最後の戦いを始める。

 

 元より無理をして、壊れかけの世界に無理をさせて続けたことだ。

 これ以上を望めやしない。これまで失敗しても続いてきたことさえ、ただの運でしかない。次は、全部駄目になるかもしれない。

 私のせいで世界が壊れたら、まどかは悲しむだろうか。それとも、怒るだろうか。

 本当にどうしようもなかったら、まどかに掛かる負担が0になるように死ぬことにする。

 死ぬのは少し怖いけれど、仕方ない。

 私の命なんて、一番にどうでもいいから。

 

 最善は私とワルプルギスの夜が共倒れする未来。

 誰も救えずに死体を積み上げた私には、雪の中に沈むよりよほどお似合いの結末だ。

 でも見える場所ではダメ。巴マミと違って私は生き返れないのだから、絶対に戻ってこないと思わせないといけない。

 

 それも重要だけど、まずはワルプルギスの夜を倒すための方法からだ。

 単純な力押しで勝てる相手ではない。

 前回はグリーフシードが枯渇してしまったため、時間切れとなってまどかが降臨した。

 しかし耐久できるだけの時間を稼ぎ、行動パターンを確認できた。

 

 ワルプルギスの夜の性質は、大きく分けて二つ。

 

 一つは魔力によるホーミング攻撃。また、魔力で浮かせたビルの投擲攻撃が可能。

 もう一つが、強力な使い魔が周囲に出現すること。大量に出現したものはさほど脅威にはならないが、魔法少女を象った何かは非常に厄介だ。容姿そのまま、普通の魔法少女と同じくらいに強いもの。

 

 遠隔攻撃の一つ一つは、あまり脅威を感じない。だが、その規模を考えれば、一つとてクリーンヒットする訳にはいかない。遠距離攻撃なのにこれだけの威力を持って、さらに連射までしてくる。ふざけるなと言いたいものの、言ったところで状況は変わらない。

 使い魔に関してはこちらを狙ってくる。上手く躱しつつワルプルギスの夜を攻撃する、というだけなら難しくはない。

 

 何よりの問題は、あの時のワルプルギスの夜は未だに余力を残しているように見えた。

 勘違いであればいいが、まだこちらに使ってきていない技がある可能性は絶対に捨てられない。

 擦り切れそうになるまで繰り返して、一度だって私たちの力では届かなかった。

 どうして都合のいい想像ができようか。

 

 懸念すべきことは……やはり、あの質量が重力に従って落ちてくることだろう。

 そうでなくとも、あの巨体にぶつかられればいくら魔法少女でも危険。その中でも危険なのが落下と押しつぶされるような攻撃だ。

 仮にそんな知性があればだが、ビルを操り、ビルと魔女の間に挟まれれば……ソウルジェムなどひとたまりもない。

 

 念には念を入れなければ。

 見滝原の、全戦力を持って戦う。もう二度と、まどかを魔法少女にはさせない。

 徹夜したことは覚えている。しかし、これが何度目の昼であり夜なのかは分からない。

 ミサイルやRPGの配置を行うため、少女は夜の底に降りていった。

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