ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第三十四話 耳無し

 ほむらの円筒型とは違う、完全なる球体が彼女らを狙う。

 ほむらも杏子も避けるものの、避けた後にそれが威嚇射撃であることを認識した。

 がちゃりと銃を突きつけて、微笑みながらに巴マミは言った。

 

「────どうして、仲間同士で戦っているの」

「……佐倉杏子を始末する。邪魔をするのかしら」

「はいそうですか、って始末されるわけにもいかないんでね。やられる前にやるだけさ」

「あなたたち……」

 

 マミが呆れたような声を出す。

 ほむらは左肩を押さえ、一瞬だけ消えたかと思うと左腕を持った。

 足についていた杏子の拘束は無くなっている。裏路地に、ピリピリとした空気が流れた。

 重ねてどうして、と聞くつもりだった。しかし、聞いてもらえるかは怪しい。

 マミが悩んでいると、杏子は肩をすくめる。

 

「話して止まるタイミングは、もうとっくに過ぎちまってんだよ」

「っ、そんなことない。暁美さんが怒っているということは、佐倉さんが……鹿目さんを?」

「んー、直接怪我をさせたりはしてないからね。アタシは、あいつのお願いを手助けしてやっただけさ。でも……アタシにとってもほむらにとっても、想定外の結果だったみたいだけどね」

 

 マミの問いに対して、杏子は否定と疑問を返す。

 ほむらは黙ってそれを聞いている。ただし、最初の一言が何より今の状況には相応しいと感じた。

 マミの顔はずっと曇っていた。しかし、解決の糸口を見つけたらしく顔色を明るくした。

 徐にリボンを二つ取り出して、杏子とほむらに渡した。何をするのかは分からないが、さほど緊急のことではないだろう。

 ほむらは手が塞がっているので、ふわふわと落ちてきたそれを腕にかけた。

 杏子は片手で受け取った。

 

 腕が千切れるショッキングな絵面でも、ベテラン魔法少女三人はそれほど恐怖や忌避感はなかった。身に覚えがあるし、四肢を失うことも珍しいながら確実にあったからだ。回復できるからといって全ての危険から身を守れるわけではない。

 またそれより優先すべき事柄があった、というのもあるだろう。

 

 マミは笑顔のまま、両手を合わせた。

 

「じゃあ、やっぱり勘違いしてただけなのね!よかったわ……それじゃあ、二人とも。ちゃんと仲直りして。ゆびきりげんまんしましょう!」

 

 満面の笑みのマミを前にして、二人はしばし沈黙する。

 やがて、どちらともなく近づいた。

 ほむらと杏子、そして間にいたマミの距離が縮まっていく。杏子が無言で手を差し出した。少しだけ不思議そうにして、直後にマミはハッとした。

 これは、私も一緒に仲直りということ……!?……嬉しいわ、そんな風に思ってくれてるなんて……!

 

 マミは感動し、手を出した。

 そして、ほむらにも同じようにした方がいいことに思い至ってすぐに手を出した。三人で手を繋げば、また元通り。

 しかし、その手には軽い感触が残るだけだった。

 ほむらは少し申し訳なさそうに、杏子は躊躇いなくマミの手にリボンを返した。

 杏子が叫ぶ。

 

「アタシは止める気ない!闘らなきゃ収まらねーわ!アッハッハ!!」

「────ごめんなさい。彼女は、危険因子だから」

 

 ただし罪悪感からか、二人は路地を抜けてどこかに消えていった。

 マミは放心状態でほむらと杏子が消えた先を見つめている。

 

 マミの背がぷるぷると震える。

 

「……ふふふ。分かったわ。二人とも同じ気持ちなら……」

「お仕置きよ。ふふっ、うふふふ……」

 

 リボンを取り出し、人目につかないようかつ凄まじい速度でマミは行軍を開始した。

 

 極めて強烈な悪寒を覚えながら、ほむらは杏子を追っていた。

 爆発や銃撃音により、あの路地には人が寄ってきていた。それを思えば場所を変えるべきなのは間違いない。しかし、あの場を離れたのはそれが理由ではない。

 背後から迫ってくるプレッシャーに恐れを抱きつつも、ほむらはそれを見えないように覆った。

 

 よし、ここならいいかと杏子はほむらの方に向き直った。

 そして、そのまま顔を引き攣らせる。

 

「……ヤバそうだ。一応、なんだ。その……気をつけなよ」

「忠告どうもありがとう。どうせあなたさえいなくなれば、後はどうなっても……」

「あ・け・み・さぁ〜〜ん?」

 

 ダダダダ、とリボンの弾丸がほむらに向けて着弾する。

 全て避け切ったことで弾はコンクリートを抉るだけになったが、これが当たれば生半可な傷では済まない。ほむらはじわりと冷や汗をかき、マミを目視できる位置に陣取った。

 三人が睨み合う。工場以外何もなく、車の通りさえない川のほとりで。

 マミは完全にキレている。顔は笑顔であるものの、目元に影がかかっている。

 杏子さえ、と考えているほむらにとっては完全な邪魔者だった。

 

「さぁ、二人は喧嘩を続けて。私が力づくで止めるから」

「いや、だからさ、これは喧嘩じゃ……」

「なんでもいいわ!私にとっては喧嘩なの!もう仲間割れなんて懲り懲りよ!」

 

 そう言い切るマミの瞳に浮かんだものを見て、杏子は口をつぐんだ。

 形勢は絶望的、と感じながら、ほむらはここからどうやったら杏子に手が届くか考えた。巴マミは強い。彼女自身がこちらにダメージが入ることを許容するのなら、拘束までは秒読みである。

 今もまだ自由に動けるのは、彼女の優しさありき。それがなければ……。

 弾丸を避け、受け流す。

 

 地面を穿った幾つかの弾丸が、細い糸となってゆらめき立ち昇る。

 貫通ならばまだマシで、もし体内に残りでもしたら最悪だ。内側からリボンの生成、そして拘束では抵抗のしようがない。

 

 それに、私は片腕が飛ばされたままだ。

 くっつけようとしても、回復のため魔力を動かすことはない。できない。私の魔法は巻き戻すことはできても、何かを治すのは難しい。盾の中に入れれば、おそらく私は動けなくなるだろう。ソウルジェムが埋まっている、というのは厄介なものだ。

 考えている間に、杏子が仕掛けてきた。

 この位置はまずい。挟まれる。抜け出さないと。

 

「邪魔すんな、マミ。こいつはアタシの獲物だぞ!横取りは……許さねぇ!」

 

 そう言っている間も、杏子は笑っている。楽しそうに、嬉しそうに。

 杏子は弾丸と空に浮かんだ銃を一列に吹き飛ばし、その勢いでこちらに攻撃する。

 浮遊していると思っていた槍は、まどかを拘束していた陣と同じ鎖で杏子の手の中にある槍と繋がっている。あの槍が浮いていると勘違いしていたが、杏子が手元の槍で操っているらしい。器用なものだ。

 マミは悲しそうに声を上げる。

 

「どうして!?私たちは……あなたたちは仲間なんでしょう!?理由もなく戦うなんて、おかしいわっ!!」

 

 マミの攻撃が激しさを増す。掠り傷を増やしながらも、杏子はその全てを流しきっている。

 ほむらは、左腕の服を噛んで口元にぶら下げた。片手で制圧射撃の隙間を縫うように狙撃し、爆弾を上から投下し、近づいてくる槍を盾で退かして弾丸を飛ばした。

 しかし、彼女は倒れない。

 杏子は、わざわざほむらとマミの間に入り込み……二種類の銃撃を受けてなお、その目は赤く燃えていた。

 心からの叫びを聞き、杏子は嘲るように笑った。

 

「分かってもらおうなんて思っちゃいねぇよ。あんたは正しい、アタシたちが間違ってる。間違ってる同士、もう止まれやしない。理屈が通ってねえか?まともに考えちゃいないんだ、アタシもこいつも。そうだろ、ほむら」

「……一緒にしないで。私はあなたとは違う。考えだって……」

 

 自嘲を多分に含み、その一部をほむらに向ける。杏子は匂いを感じていた。

 戦う理由も、走る理由さえ無くして戦い続けるもの。暁美Mほむらはそうでなきゃ死ぬ。

 退廃的な、希死の匂いがしている。

 ほむらが何か言うのを、杏子はじっと待った。冷静な目が、ほむらの神経を逆撫でした。

 

 ぽろっと左腕が地面に転がり、盾をストッパーにして止まる。

 紫の眼が激情に濁った。

 

「あなたが。私を、まどかを壊したのよ!誰のせいだと……誰のせいだと思っているの!?」

「……ああ、アタシがやったんだ。謝って済みゃしねえ、罰は受ける」

「罰しても、まどかは帰ってこないッ!!」

 

 ほむらは震える手で拳銃を握っている。

 マミは攻撃を止め、二人の言い合いを見守っている。どちらかが動き出しても、すぐに対応できるように。

 まどかは帰ってこない。危害は加えていない。そして、あの桃色の光柱。

 巴Sマミは聡明だ。非常事態下でも、彼女の洞察力は変わらない。

 

「鹿目さんは、魔法少女になったの?」

「っ…………。ひぐ、ぅえっ……」

「……さあな。あれは、間違いなくあいつ自身の魔力だった。ソウルジェムを持ってるようには、見えなかったんだがね」

 

 涙を拭う腕はない。

 戦うための腕と、荷物になった腕だけ。

 拳銃を放り捨て、盾に手を入れる。

 

 邪魔な腕を蹴り上げ、口で袖を噛んだ。

 手榴弾のピンを右手だけで抜いて、無造作に転がした。転がってくる間に杏子は跳んで避ける。

 紫色のソウルジェムが、じりじりと黒に染まっていく。

 侵蝕は、もう7割近くまで進んでいる。

 

 引き金は引いた。盾を回した。であれば、止まることは許されない。

 マミがハッとする。

 ほむらは呪詛を吐いた。

 

「ぃんで、よ」

「……無理だね。あんたをそのままにすれば、マミやさやかをアタシと同じ目に遭わせるだろ」

「暁美さん!ソウルジェムが……!!」

 

 マミが投げたグリーフシードは、ころころと地面を転がった。

 ない。ない。腕がない。施しを受け取るためには腕がない力がない意味がない仕方がないから。

 魔女になんて、なりたくないけど……盾を回す気が起きない。とても、とっても疲れた。

 

「………………まどか」

 

 ほむらは目を閉じた。

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