ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第三十五話 MOAR MOAR

 ほむらの口から腕が落ちる。

 取り出した手榴弾を腕の近くに転がした。

 

 閃光が満ちる。

 

 

「やらせるか、っての。バカ転校生」

 

 

 涼やかな声が降りた。少女は手榴弾を蹴飛ばし、斬り裂いて爆風を耐えた。

 ほむらの落ちた左腕を拾って、さやかは魔女の卵(グリーフシード)をかざす。

 浄化されていくそれを見ながら、ほむらは呆然としていた。

 サーベルを担ぎ、少女は少しビビりながらもほむらの左腕をくっつけた。

 

 円形の五線譜が現れ、ありえない速度でほむらの裂傷が回復する。

 貫かれた心臓が修復されたあの時のように。

 

「この魔法少女さやかちゃんが目の前で友達が死ぬのを待つ?ないない、あたしは夢と希望の味方なのよ!?はっはっはー」

「……邪魔よ。怪我は、その……ありがとう。でも退いて」

「ツンデレツン!?オセロじゃただのツンツンツンになるんだけど!はぁ……遺言までまどかまどかて、マジでちゃんとキモいねあんた。何より、マミさんの厚意を無駄にすんじゃないわよ」

 

 ほむらは顔を下げ、ただ前進した。

 さやかが肩に手をかける。

 

「待ちなって。聞こえない?頑固すぎて」

「……いいえ。佐倉杏子を排除しなければ」

「なんで?」

「まどかを守るために」

「望んでないよ。まどかは」

「あなたにそれは分からないでしょう。心を読みたいとでも願う?」

 

 ふん、とさやかは肯定とも鼻で笑ったとも分からない相槌を打つ。

 思ったことないねぇ、と言いながらさやかは肩をすくめた。

 

「考えてることと言うことが違うなんてよくあることでしょ。まずは本人から話を聞けよ」

「魔法少女になったら、まどかは……大きく変質してしまう」

「だから、なってないって言ってんの」

 

 ほむらは目を丸くした。

 半分ほど虚ろになった目が、ほむらを射抜く。

 

「落ち着くんだよ。あいつを殺すことに執着してもしょうがないでしょ。まどかを忘れんな」

 

 気圧されたようにほむらは顔を俯ける。

 元のあたしだったら怒ってる時にこんな冷静には喋れなかった。まぁまぁいい方向に作用するのは許してやろう。

 脳内でおちゃらけていると、ローファーの音が聞こえた。

 

「ほむら、ちゃん」

 

 しばらくして。

 

 近くまで持ってきていた車椅子を運んで、どかっとさやかはそれに座る。

 超疲れた。精神的にも、肉体的に……はおかしいか。魔力的にも。吐き出される二酸化炭素は亡霊にでもなっているかと錯覚する澱だった。新鮮な空気を取り込んで、魔法少女の姿を解く。元の制服に戻った。

 

 マミさんはニコニコしながら紅茶を飲んでいる。

 普段からご機嫌な人だけど、今日は輪をかけて機嫌がいい。さっきまでとの落差もあるけど。

 羨ましいなと思っていると、分けてもらった。

 なんか卑しいかな……ま、気にせずいただこう。

 

 杏子はちょっと不機嫌そうだったが、マミさんのスペシャルケーキを食べたら一瞬で機嫌が治っていた。ちょろ。そんならもっと早く戦うのをやめときゃいいのに。……長引かせてくれたおかげで間に合ったから、責めきれないんですけどね。ストレスは吐き出せば出すだけ軽くなるとこあるから。ソースはあたし。

 

 ほむらはといえば……まどかに抱きしめられて、動かない。

 初めの方は、なんか危ないかとも思ったけど……そういうわけでもなくただ単に疲れてるっぽい。魔法を向けても、悪くなってるところは見つからなかった。

 

 まどかが呼びかければ、ぽつぽつと答える。

 いつもみたいにぶっきらぼうだけど、抵抗はしないし嫌がってもない。

 まぁ、危険な状態は脱したと考えて良さそうだった。

 

 車椅子で暇を潰しながら、さやかはまどかに尋ねる。

 

「まどかー。もうそろ日が暮れるけど、どう。まだやっとくか」

「うん……もう少し、こうしてたいから。……ほむらちゃん」

「……なにかしら」

「わたしのために色々してくれるのは、嬉しい。本当だよ。本当に嬉しいの。だけど、ほむらちゃんには……もっと、自分を大切にして欲しい。わたしを助けるために、ほむらちゃんが杏子ちゃんを……したり、魔女になったら……いやだ」

 

 最初ははきはきとしていた声は、どんどんとか細く消えかける。

 しかし、最後の”いやだ”という言葉だけは消えないよう、はっきりと言い切った。

 ほむらは恐る恐るまどかに触れた。

 この細い体に、膨大な因果が背負わされている。

 ほ、とほむらは弱々しく息をついた。

 

「私、自身を……大切にする」

「うん、ほむらちゃんは……ずっと、頑張ってるんだよね。なのに、わたしを優先する必要ないよ。なんとなくだけど……ほむらちゃんは、わたしより大事なものを忘れてる気がする」

「忘れてる……?」

「……ほむらちゃん自身の、気持ちかな」

 

 た、多分だけどね!多分気のせいだよ!とまどかはほむらから手を離して両手をワタワタと動かす。

 ほむらがぽそりと何か呟いて、まどかを抱えたまま立ち上がった。滑らかにお姫様抱っこに移行した彼女に、まどかは仰天する。

 マミはあら、と口に手を当てている。さやかは怒ったような困惑したような声を上げた。

 

「おぁー!なにやってんの!?」

「ほ、ほむらちゃん!!?」

「えっ、なん……なにかしら。立つから持ち上げたのだけど、不味かった?」

 

 そう言って、すぐにほむらはまどかをおろした。

 まどかははわはわと顔を赤くして、さやかは面白くて仕方ないと言うように苦笑した。

 

「騎士にでもなるかと……違うっぽいね。ははは、乙女なまどかお嬢様には刺激が強かったかも。顔を真っ赤にしてどうしたのかな??」

「も、もう!からかわないでよさやかちゃん……!おんなじ反応だったくせに!」

「あの恭介ってやつにしてもらいたいのかい?」

 

 杏子の追撃でさやかは口に含んでいた紅茶をぶちまける。

 ほむらがまどかを連れて即座に避けたため、被害者はさやか本人だけとなった。

 びっしゃびしゃになった上着を見やり、次に杏子に恨めしげな視線を向けた。

 

 杏子は杏子で、特に何も思っていないようだ。

 さやかはがっくりと机に突っ伏した。

 

「別に、そんなことないし。もう吹っ切れたんですぅー!仁美のためを思えば諦めもつくし!未練とか……な、ない……」

「美樹さん!?」

「あーっ、悪かったって!謝るからさ。このとーり」

「……ま、実は本当に無いんだけどね。でも謝罪は受け取ろう」

 

 なんだてめー、そっちが先でしょと額をぶつける。

「どっちもどっちでしょう」と肩をすくめるマミに、まどかがくすくすと笑う。

 それを見ながら、ほむらは確認した。

 

「わたしの気持ち」

 

 その声は、小さく誰にも届かない。

 まどかに言ってもらえた言葉は、全て覚えておきたい。それが不可能だとしたら、少なくとも彼女の言葉を尊重できる自分になりたい。

 わたしの気持ちを尊重する。

 そうすれば、まどかのことを正しく受け止められる。拝することができる。

 じゃあそうしよう。

 

 盾が回転する。

 さやかはそれに反応し、もう一度姿を変えた。

 

 三発分の風切り音が重なる。

 一つはマスケットの銃身を貫く。一つは槍の穂先に当たり跳ね飛んだ。一つはサーベルと相打った。

 

 全てが、まどかに向けられた銃弾だった。

 驚いてへたり込んだまどかを庇いながら、さやかが問いかける。

 ほむらのことを知っていたはずだった。助けてもらって、優しいところもあるとわかった気になっていた。

 目を背けた部分を、まざまざと見せつけられている気分だった。

 

 ほむらは言う。

 

「わたしのきもち。まどか……あなたが、好き」

 

 それだけは他の何もかもが嘘になっても本当なの、と。

 ほむらは、壮絶で穏やかな笑みを浮かべた。

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