ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第三十六話 暁美ほむらは鹿目まどかを

「あんた、心中とかするんだ」

 

 杏子が冷たく言い放つ。

 ほむらにその言葉が効いた様子はなく、薄気味悪い笑みを浮かべた。

 

「最善を選んだだけ」

「……今のあなたは、自棄を起こしたようにしか見えないけれど」

 

 くるくると回り、服の裾をちょこんと掴んでほむらはお辞儀する。

 人が変わったような態度のほむらを警戒し、杏子とマミは黙って武器を向けた。

 さやかはサーベルを下げ、地面に突き刺した。車椅子に座ったままほむらに問いかける。

 

「目的は心中?いいや、だとしたらもっと本気でやるでしょ。あんたの狙いはそこじゃない」

「ふふ……どうかしら。最も、考えたところで意味なんてないけれど」

 

 ほむらのソウルジェムが恐ろしいスピードで半分まで濁る。

 しかし、それ以降はほとんど動かない。まるで、希望と絶望を半分ずつ抱えているというように。

 

 マミはじりじりと焼けるような空気を感じつつ、顔に出さないまま焦っていた。

 先の一つ、そしてここのところ魔女を狩れなかったためにグリーフシードは減る一方だった。ただでさえ魔女が減っているところに、この争いはキツい。

 ワルプルギスの夜に取っておきたいのに。

 一部をほむらに預けているのも焦りを助長した。

 どれだけ使われたか、そしてここからどれだけ使ってくるか。

 マミは半ば祈るような気持ちだった。

 

 盾に手を入れ、ほむらはあらと声をあげる。

 

「もう残ってないわ」

「わざわざ報告ありがとさん!」

 

 杏子がほむらに肉薄する。

 ほむらは時間を止めると、足元にあった銃を取る。中身は空だ。

 思い切り振りかぶって杏子の頭にぶつける。

 鈍い音がして、杏子が一瞬だけ時間停止から解放されまたすぐに戻った。

 盾からものを取り出しながら、ぼそっとほむらは呟いた。

 

「嘘よ」

 

 盾を回す。時間が動き始める。

 ピンが抜かれ、光が溢れた。

 マミは咄嗟にリボンでまどかの視界を覆った。ゴッ、とにぶい音がした。

 顎を打ち抜かれて杏子は失神していた。下手人と思しきほむらの手には、ゴルフクラブが握られている。魔法少女も脳震盪を避けることは出来ない。

 さやかは笑った。

 

「こわ。骨ぐらい余裕で折れてるっしょそれ」

「前衛がいないまま、一般人を守り続けるのは難しい。そうは思わないかしら?巴マミ」

「……答える必要がある?」

「マミさん、わ……わたし、どうすれば」

「とりあえず、距離を取ろう。いざとなったらあたしがやるから」

 

 さやかの言葉を受けて、まどかは心配そうな顔でほむらに背を向けた。

 転びそうになりながらさやかと一緒に逃げていくまどかに、ほむらは銃口を向けた。

 

「逃がす気は無いわ」

 

 引き金が引かれ、二発の弾丸が飛ぶ。

 そして、ガキンと弾かれる音がしてライフル弾の軌道が逸れた。

 巴マミは手元のマスケット銃を捨て、新しいものを準備する。

 

「……何故なの、暁美さん。あなたは、何を考えているの。どうして鹿目さんを狙うの?」

「ふふふっ、はは……教えなければ、力づくで聞き出すしかなくなるわね」

「言っておくけれど。私は、あなたよりも強いわよ」

「ええ。巴マミは、見滝原で誰よりも強い魔法少女。なんの手段もなくあなたを倒せるわけがない」

 

 だから。とほむらは袖を振った。

 細い服のどこに入っていたのかと問うべき武装がごろごろがちゃがちゃと路面の上に転がった。

 統一など一切されていないそれらは、ほむらの執念そのものだ。

 マミは異様な光景に、たった一瞬怖気った。

 

 瞬きする間もなく、少女の周りには弾丸と爆発のフルコースが置かれていた。

 しかし、それらを避ける術が何処にも無い訳ではない。

 ほむらの声が聞こえた。

 

「準備してきました。ワルプルギスの夜を倒すため、それだけのために。……でも、必要なかった。必要なことは、ここで終わるから」

「要領を得ない、わねっ!」

 

 マミは地面と顎が触れるほどにしゃがみこむ。

 ほとんど横倒しといった様子で、狙いをつけた手榴弾にマスケット銃を発射する。狙いと言っても、直前まで目視したのを除けば勘でしか捉えていない。

 それでも彼女の球弾は、狙い通りに手榴弾に刺さった。

 それはマミに届くよりも早くに爆発し、他の爆弾も刺激で誘爆する。

 恐怖を縛り付け、守るべきものを見定める。

 

 頭?腹?違う。守るべき箇所は一つだけ。

 髪飾りを捕って、マミはうつ伏せのままうずくまった。

 爆発に巻き込まれ、マミの背は傷だらけになる。マミを狙った弾丸は、交差し地面に刺さる。その中には、運悪くマミを穿つものもある。普通であれば、致命傷となる傷だった。

 それでも、縮こまってはいられない。

 マミが立ち上がる。

 髪留めが砕け、カールした髪がふわりとしたロングに変じた。

 

 やや面倒そうに髪を払って、マミはほむらに問いかける。

 

「それで……暁美さんは、こんな自棄に走る人だったの。全員と交わしたあの約束は、適用してしまっていいのかしら?ソウルジェムを狙う以外の全てを使って、あなたを止めるわよ」

「望むところ」

 

 暁美ほむらは知っている。

 巴マミという人間のなんたるかを。

 高潔、あるいは潔癖。魔法少女が魔女になることを伝えても死なないループはほぼなかったが、蘇生を通過した後は安定する。生きたいという願いは、彼女には不要。

 最期に人を呪うくらいなら、咎を背負って共に死のうとする。彼女には、私たちを撃つ覚悟がある。

 銃は、どんな武器よりも容易で刹那の死をもたらす。

 

 マミは手に銃を取り、ほむらの胸元に向ける。

 同じように、ほむらは拳銃をマミに向けた。

 

「よく狙って。私はここから動かないから」

「言われ、なくても!」

 

 撃つ。ががっと銃声が二つこだました。

 引き金を引き、ほむらは銃を捨てる。マミはそれに倣うように捨てたが、一発だけ撃って捨てる理由が思いつかず困惑した。

 胸部を損傷し、血を吐くほむら。

 彼女の撃った弾は、マミの髪をなびかせて飛んでいった。

 

 距離を取ろうとするマミだが、時間を止めるほむらには意味がないことに思い至る。

 目の前に紫紺色が飛び込んできた。

 横っ面を殴りつけられ、マミは凝然と敵を見つめた。

 

「────これで、一発。三発で終わり」

 

 ほむらはマミのほおから拳を退け、大量の射線をコマ送りに通り抜けた。

 魔力が動いていた。ほむらの攻撃は、マミのほおをじくじくと痛ませ始めた。ほむらは笑う。

 マミの見立てでは、状況は五分。

 盾が回る。

 

「なら、私もそうしましょう。三発で終わらせるわ。一発目は」

 

 時間が止まった。

 マミは瞬きした。

 

「そこに」

 

 止まった時の中で、マミは口を開いた。

 視線を向けるのは、ほむらのうで。

 ほむらは、右腕に絡められた黄色いリボンに気付く。盾から出していた銃で躊躇なく撃つが、ふっと消えて実体化する。ほむらの銃でちぎるのは難しいらしい。

 躊躇う間もない。牙を剥く弾丸を躱し、盾から魔力を放出する。

 

 千日手になることを予見し、マミは問いかける。

 その間にもマスケット銃の展開は忘れない。ほむらの方は、それに対処するように手榴弾のピンを抜いた。

 爆音と銃撃音は、生まれる前に止まる。

 

「ねぇ、暁美さん。このまま戦ったところで、私たちだけでは決着が付かないわ。グリーフシードだけを無駄に消費していくのはあなたも望むところでは無いんじゃない?」

「……グリーフシード。巴さん……あなたは、あれの正式な名前は知っているの?」

 

 マミは首を傾げた。

 

「どういうこと?名前なんて、グリーフシードしかないでしょう?」

 

 ほむらはぴたりと動きを止めた。

 やがて、頭に手を当ててため息をついた。

 

「おかしい、とは思っていたの。グリーフシードが増えるなんてあり得ない。勝手に増えるなんて力はない」

「……そう、よ」

 

 マミはそんな当たり前のことを肯定しながら、頭に何かが引っ掛かった気がした。

 この言葉を、聞いた気がする。それはここ最近のことだった気がするし、ずっと未来のことである気もする。

 グリーフシードに増殖なんて能力はない。

 そんな力があったとしたら、悲劇の数は単純計算で倍だ。

 けど、それがもし本当なら……一度だけ戦えば、増殖し続けるグリーフシードを管理できれば、もう二度と戦う必要がなくなるかもしれない。

 

 そんな淡い希望は、さっきほむらが粉々に叩き潰したが。

 

「巴マミ。佐倉杏子辺りに聞くといいわ。グリーフシードは別の呼び方を持っているの」

「それは、先輩としての優しい言葉のつもりかしら?だったら呼び方くらいあなたに教えて貰いたいわね」

「……アホらしいから嫌」

 

 呆れたような草臥れた顔をしながら、ほむらは肩を落とす。

 そもそも先輩ではないし。と言いつつ、盾の中から手榴弾を取り出した。それまでの丸やカット済みマンゴーのような手榴弾とは少し形が違う。

 マミは答えてくれないだろうと思いつつも、ほむらに訊いた。

 

「それは何発目?」

「殺傷力は無いから、二発目には満たないわね」

「律儀に回答ありがとう」

「礼には及ばないわ」

 

 そう言って、ほむらは盾を駆動させ手榴弾を投擲した。

 マミから正面、少し離れたくらいの位置にその細長い爆弾がある。咄嗟にマミは自身の周囲にリボンを集め、即席の防護ドームとした。

 キイィィィィィィイン!!と爆音が響く。

 

 マミの脳裏に、スタングレネードという文字が浮かぶ。

 閃光はなんとか防いだ、視界は使える。ただ、耳は使い物にならない。

 治療すれば違うのだろうが、鼓膜を攻撃されたのはこれが初めてだ。治すにはそれに集中しなければいけないだろう。

 視界を潰しに来た、それは分かる。防いでしまった、なら次の位置はどこになる?

 

 ドームからリボンが飛び、背後からの攻撃を防ぐ黄色い盾を作った。

 防御が解かれる。不意打ちするならここ、一番来てほしくないところ────それは上!

 

 ほむらが跳び上がっただろう位置に、出現させた銃口を向ける。

 そしてマミは見た。

 

 片腕でバズーカを持ち、笑うほむらを。

 正面だ。

 

「な、あ!?」

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