ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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日常回です


第三十九話 ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット

「ごめんなさい、佐倉さん!!」

 

 杏子は身を引いた。

 こんな街中のゲーセンで、大声で、あわや土下座しかねない様子の巴Sマミが現れたから。

 心当たりを探りながら、杏子はつぶやいた。

 

「……何が?」

 

 事が始まったのは、アタシが起きてゲーセンに足を運んで少し経った頃。

 マミに会って、とりあえず挨拶はした。

 そしたらこれだ。

 意味がわからん。

 周囲でざわざわとしている人だかりを睨みつつ、マミの腕を掴んで裏手に逃げた。

 マミのきょとんとした顔に、一発拳を当ててやりたい所だった。

 

 出禁になるからやらねーけど。

 

「……そうよね。謝意なんて関係ないもの。あなたが気が済むまで、私に怒りをぶつけてほしい」

「やんねーよ!!なんなんだ急に!アタシはあんたに恨みなんてねえぞ!?」

 

 心でも読んでるのかと思う噛み合い具合だが、今日は気分じゃない。

 あと、と杏子は思う。

 流石に記憶喪失の人間をいじめるほどカスじゃねえよ……あ。

 そこまで考えて気づいた。

 

「もしかして、あれのことか?」

「ええ。その……佐倉さんに会う機会があれば、ずっと謝りたかったの。あなたにも、あなたの信念があったのよね。私は、そんなことも考え付かなくて……本当に」

 

 記憶喪失、本人の証言ではアタシと離れた直後ぐらいまでしか覚えてない。

 杏子の勘が、納得はせずとも理解はした。

 ある時の苦い記憶。家族を失った直後のアタシは、段々マミと反りが合わなくなった。

 溜まった不満が爆発して、交戦の末ミタキハラを離れたのだ。

 

 杏子の口から、別にという言葉が飛び出した。

 ただそれは最近手に入れた結論で、言うには少し躊躇われた。

 杏子が逡巡していたところで、マミは続きを促した。

 

「別に……?」

 

 観念して、杏子は目を閉じる。言う。

 

「あんたもアタシも、譲れないもんがあっただろ。そのためになら冷徹になるのが、魔法少女のあるべき姿だと思うし。だからまぁ……うがー!あんまり気にすんな!謝ってほしいとか思ってねぇよ!」

 

 ほむらを見て、自然と思った。

 けど、思うのと言うのじゃ勝手が違う。途中で小っ恥ずかしくなって、さっきの謝罪に負けないくらいの大声を出してしまった。

 ほとんど人は居ないため、注目を浴びたりするわけではなかったが……マミには筒抜けだ。

 優しげな微笑みが、撥ね退ける気にもならない自分にむかっ腹が立った。

 

「ありがとう。……それと、用事はもう一つあるの。ワルプルギスの夜についてよ」

「ふん、謝るだけのつもりだったならぶっ飛ばしてたよ。で、集合場所は?」

 

 暁美さんの家よ、と言ってマミは杏子を案内し始めた。背中を見ていると、杏子の目には長い髪が飛び込んできた。

 よく見れば、服装は前とはだいぶ違う。ベージュ袖に黒っぽいジャンバーと、ウェーブだけかかった髪はいつもみたいに巻いてないのが大きく目を引いた。

 

「髪留めは?」

「この前壊しちゃって……買いに行ける暇ができるまではこのままよ」

「ふーん。いいんじゃねーの」

「そ、そう?……ふふっ」

 

 マミが微笑んだ。杏子は笑う理由がわからず困惑した。

 

「何で笑ってんの?」

「いや、こうして私服のまま会うタイミングなんてなかったから……ずっと、学校の行き帰りか戦う時しか会っていなかったでしょう?」

「そうだったかね。アタシはさっぱり覚えてねー……あ、嘘嘘。少なくともそんな服着てるとこは見たことねーわ」

 

 杏子が言うと、マミは気づいてもらった事が嬉しいのか袖を掴んだままくるりと回った。

 

「そう。これ、昨日買ったのよ。なんというか、ビビッと来たの。クローゼットにあった服は、あんまり手が伸びなくて……」

「ほーお。趣味まで変わったってこと?面白いじゃん」

「佐倉さんの服、いつも寒そうだと思ってたけど……格好良さを遂に理解したわ」

「寒そうだと思ってたのかよ。……ま、今のあんたのファッションに免じて許してやろうかな」

「わぁ〜い、やったー」

 

 そういうあんたは暑そうだけど。と杏子に言われ驚くマミ。

 いつもショーパンにパーカー、内側には下着しか着ない杏子には、暑くても長袖を着る類の人間のことは理解できなかった。

 

「ま、暑さがどうだとかただの嘘だけどな!アッハッハ!」

「佐倉さん…………もう少し浸らせてくれてもいいじゃない……」

 

 杏子の言葉でマミはしなびる。

 暑いも寒いも本当に感じてるか怪しい、というのは暗黙ながら二人とも知っていた。

 きゃーきゃー騒ぎながら、二人はほむらの家までやってきた。中からは何も聞こえない。

 マミは携帯を取り出して連絡を始めるが、杏子は迷わずインターホンを押した。

 あ!とマミが先手を打たれたことに怒り始める。ぷんすかしているマミを杏子が適当に流していると、ガチャリと扉が開いた。

 

 暗紫色の瞳が二人を覗き込む。

 

「よ。遊びに来たぜ」

「もう、佐倉さん。遊びじゃないのよ?ごめんなさいね、暁美さん」

「いえ。それじゃあ、全員揃いましたね」

 

 そう言って、ほむらは二人を招き入れる。

 変な家だな、と杏子は思う。

 

「独特なお家ね。暁美さん、あれは何?」

「ギロチン時計です」

 

 独特で済まねーだろ。なんだよギロチン時計って。

 リビングらしき変な部屋には、さやかと鹿目まどかがいる。まどかはぴしっと椅子に座っているが、さやかは寝転がっていた。

 ジトっとした目で杏子はさやかを見、まどかを見る。保護者は何やってんだ、と書いた。顔に。

 まどかは困った顔で苦笑した。

 

「蹴るわよ。そこに直りなさい」

「えぇ〜?あたし、怪我人なんだけどなー!もうちょい労わってくれてもいいじゃーん」

「忠告はしたわ」

 

 ばばっと座り直したさやかにほむらの半眼が突き刺さる。

 口笛をふいているものの、全く音が聞こえる様子はない。カスカスの息が出るだけだ。

 はぁ、と瞑目してほむらはタブレット端末を取り出した。

 

「只今より、ワルプルギスの夜対策合議を始めます。質問がある場合は挙手をお願いします」

「はいはい!」

 

 ほむらは絶対零度の視線を向ける。

 

「まだ何も言ってないのだけど。何かしら、美樹さやか」

「ワルプルギスの夜ってそもそもなんなの?魔女のかたまり?」

 

 ほむらは眉を顰める。

「私の知るところではないわ。推測することもできるけれど……」とほむらは言う。

 そして、拳銃を一発撃った。白くて高さが分かりづらい天井に向けて。

 ぱた、と白い獣が落ちてくる。

 

「こいつに聞いた方が早いわ」

「……死んだけど」

「一回死んだ程度で、こいつは死なないわ。観念して」

「困るよ、ボクらだって忙しいんだ。たくさんいるからって、いちいち無駄にされては敵わない」

 

 キュゥべえが現れた。

 ぱくぱくと死骸を食べていくそれを見て、初見の四人は大いに引いている。

 キュップぃ、とげっぷして、久しぶりにキュゥべえはほむらの目の前に現れた。

 ずっと姿が見えなかったのが気がかりだったが、こうして五人集まれば流石に現れた。首根っこを掴んで問いかける。

 

「ワルプルギスの夜はいつ、如何なる理由で魔女になったの。あれだけ強い理由は?」

「前者は分からない。いつから存在したかを調べることができないんだ。ボクらキュゥべえKは、何者かの願いが関係していることのみ観測できている。後者は……その性質によるね」

 

 中身を言えよ、という杏子の言葉にため息をついてキュゥべえは言い始める。

 

「元はと言えば、普通の魔法少女だったらしい。願いの内容は知らないけど……彼女は呪いを吸って貯める事ができた。それは魔女になっても同じ。それ以外は何もしない、凶暴性の薄い魔女だ。けれど、貯め込む呪いには際限がない」

 

 世界から呪いを吸い取り、どんどんと強くなっていく。

 漂うだけで、強く、昏く、穢れていく。周囲から取り込む量も、脅威度も最初とは比較にならない。

 ただそこにいるだけ、それだけで被害を及ぼすほどに。

 

「それがワルプルギスの夜、もとい舞台装置の魔女の強さの理由だ」

 

 長い間そうして、ただ無差別に災害を振り撒いてきた。

 彼女の認識は進行方向に虫がいれば払う、くらいだろうねと。

 ほむらの指はキュゥべえを締め上げていたが、その言葉を聞き終えたのち地面に叩きつけ捨てた。

 キュゥべえはギュ、と鳴いた。しかし、すぐに起き上がって五人を見つめた。

 

 ほむらは眺める。

 ここまで来たら、聞かれたところで困ることはない。

 これらは言葉巧みに騙してくる点が脅威なのだ。暴力に訴えたり、法外な手段を取ることはない。何より消したところで気が滅入るまで湧いてくる。

 駆除に時間を割くくらいなら、無視して続けた方が良い。その提案は、特に何の抵抗もなく全会一致した。

 以前まとめた攻撃方法をタブレットに表示する。

 四人がそれを覗き込む。

 

 結論は。

 

「近づかないまま火力を叩き込んで消滅させる……しか、ないわね」

 

 マミが言った。

 さやかは不満があるようだ。

 

「あたし何にもできなーい!……ま、今はするつもりもないですけど。あんたは?」

「やるしかないでしょ。そもそもアタシ、近距離専門じゃないし。近〜中が得意ってだけ」

 

 そういや鎖があったね、羨ましー……おいおいと泣き真似するさやかをまどかが宥める。

 そう。元々完全に前衛だったさやかだが、ワルプルギスの夜が相手では分が悪いがために前線に出ることは難しい……と言い出したのだ。本人が。

 まだ数日の付き合いであるマミと変化に乏しいほむら以外の二人は、意外な態度に反応した。

 

「前のあんたなら張り合ってきたんじゃない?その身体じゃやんないわけ。適切な判断もできんだね」

「佐倉さん!」

「いいですよ。事実です。所詮味方も煽ってないと不安な子供ってことがね。はいあたしの方が大人〜」

「さやかちゃん……」

 

 喧嘩かこら、望むところよと二人はばちばち視線を交わす。

 ほむらが愚痴をこぼす。

 

「喧嘩腰でしか話せないのかしら。これだから困るわね、話し下手は」

「「あんた(お前)に言われたく」」「ないから」「ねーよ」

 

 脱線しつつも話は進み、迎撃時の作戦を決めた。

 ほむらは、感慨深く四人を見つめた。美樹さやか。巴マミ。佐倉杏子。鹿目まどか。

 全員が揃って共にいるのを、どれだけ待ち望んだか。

 だからこそ、油断は全く出来ない。

 

 前回のループは、ほぼ全てが上手くいった。

 内側にどんな危険があったとしても、爆発はしなかった。だから、と言えばそうなのだ。心の底から信用できなければ、疑念は膨らむ以外にない。

 誰かの苦しみを残したままで、まどかを救うことはできない。

 わがままだと、綺麗事だと言われてもいい。同じチャンスを作り出せた。挑まなければならない。

 全部助けたいから。

 

 改めて決意し直して、ほむらはワルプルギスの夜との戦いを共有した。

 ワルプルギスの夜との戦いでは、全員で戦ってもなお勝てなかった。死力を尽くしても、あの極大な魔女は倒れなかった。というより、倒す前に全滅したが正しい。

 四人で追い詰め瀕死にさせたワルプルギスの夜は、自爆した。倒しきったと油断していた。

 あまりに速く、莫大な魔力の暴発。その規模は、概算でも見滝原一つ破壊し尽くす。

 守るために、まどかが魔法少女になった。

 

 単純な強さだけが理由、とほむらは考えなかった。

 舞台装置の名に違わず、あの力は忌避すべき終末装置(デウス・エクス・マキナ)だ。全てを台無しにする怨嗟だ。まどか以外のものに消滅させられないよう、何らかの悪意が流し込まれているのではないかと勘繰りたくなる。

 強さが足りずに負けるとしたら……それはあまりに虚しく、辛い結末だ。

 

 間違いなく、あれは隠し玉。

 防ぐためには、全員の力が必要だ。




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