ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第四十話 それでも前に進むのは

「いいかしら。攻撃の主体になるのは、あなたよ。巴マミ」

「……そうなるわね。けれど、その自爆を耐え切るには私だけじゃ難しいと思うわ」

「その認識は正しい。だから、まずは私が────」

 

 と、何やら立ち上がった杏子がまどかの耳を塞いだ。

 まどかは困惑して杏子を見上げる。

 ほむらはそっちを向き、短くテレパシーをしたのちまた解説を始めた。

 杏子からのテレパシーが届く。

 

(こういうのはどんなもんか知らないで見るのが一番楽しいのさ。実際にゃ見れないかもしれないが、この前みたいな感じでやったら見れるかもしれないだろ?)

(えっ、でもあれほむらちゃんから二度としたらダメって……結局何なのかもよくわからないし……)

(だいじょぶだって。この前のでコツは掴んだからさ、変なことにはならないって約束するよ。今だって────んあ?)

 

 まどかは、杏子に頼んでおかしなところがないか調べてもらっていた。

 さやか、マミにも調べてもらったものの、異常なところは見つからなかった。だがしかし、幻聴と雑音は相変わらず続いている。最後に頼ったのが杏子で、その時にあの謎の光が出現したのだ。

 ほむらの言ではまどかが魔法少女になった時に見える光、杏子が感じたそれとしては魔力の奔流。

 しかしぶつけられて痛みを感じるわけでもなく、ただ流れていくだけの魔力だったと、杏子は言っていた。

 

 ぎくりとまどかが硬直し、杏子はまどかから手を離す。

 そういえば、やけに静かだった。作戦を全て話し終えたようだった。

 あ、あー……!と情けない声をまどかが漏らすが、杏子は残念ながら止まらない。

 

「おい、こいつまだ何か隠してるぞ。さやかに診てもらえ」

 

 ほむらの首が斜め四十五度で傾き、その視線がまどかを射抜いた。

 まどかはパクパクと弁明するために口を開くが何もうまい言い訳が思いつかない。がっくりと肩を落として怒れる黒き神の裁きを待った。

 さやかがまどかに手を向けて、まどかの足元に陣が浮かぶ。

 旋律が回り、すぐに消えた。

 

 さやかは端的に告げた。

 

「目に異常がありま〜す。ほむ、GO」

「どうして……何も言わなかったの……?」

「ちち、違うんだよほむらちゃん!言おうとは思ってたんだけど、言い出すタイミングを逃してただけだから!ちゃんと言うつもりだったから……」

「ならいいわ」

 

 ほむらの瞳から険が消える。

 まどかは胸をほっと撫で下ろした。

 

「甘っ」

「甘すぎる」

「甘いわね……」

 

 三人から白い目を向けられているが、ほむらが気にした様子はまるでなかった。

 まどかが疲弊したようにため息をこぼす。

 

「ほむらちゃんにも言った、あの声……最近は大人しくて。代わりに……みたいな感じなのかな。視界がすっごく黄色くて」

「黄色?じゃああたし達はどんな?」

 

 まどかは全員を見直して、まず、と始めた。

 

「マミさんはいつも通りです」

「そうなのね……よかった。……鹿目さんの状態を思うと、複雑だけど」

「さやかちゃんは髪の毛と目が緑に見える。杏子ちゃんもちょっとオレンジっぽい……」

「混ざってんの!?」

「へぇ、おもしれー。けど、ずっと目開けてたら疲れるぞ。休めるうちに休んどけ」

 

 うん、とまどかは頷く。

 

「マシにはなるんだけど、目を閉じても黄色に見えるんだよね。あはは……ふぅ」

「きっ……つ。マジでキツいやつじゃん。休んでていいよ、いいんだけど……一応ほむらのも聞いていい?」

「ほむらちゃんは……いつも通り、だね。黒だよ」

 

 黒か……とさやかが呟く。

 自然と四人の視線が集まった。ほむらは気圧されたように後ずさる。

 

 そしてわずかな口論の後。

 ほむらはまどかの膝に座っていた。小さな子供の上に乗るぬいぐるみのようだが、実情は人の上に人が乗っている。なんともシュールな絵面だった。

 ほむらが両手で顔を覆っている。

 

「こんなこと……こんなことは……」

 

 多大なダメージを受けている。

 顔を真っ赤に茹だらせる様子をみて、杏子が爆笑している。

 さやかはめちゃくちゃ真剣な顔をしているが、頬がピクピク痙攣している。

 マミは静かに顔を背けて震えている。

 まどかは視界のほとんどが黒になって、リラックスしている。ほむらは逃げ出そうとしたが、杏子の指示を受けたまどかに薄い腹をホールドされていた。

 

「落ち着いてよ。ぐっ……ふ、ほむらがそうしてくれればさ。まどかの目にかかる負担は減るでしょ」

「そ、そうよ暁美さん。くっ、あなたしか適任がいないの。鹿目さんを助けると思って……お願い、よ」

「私が悪意に鈍感だとでも思っているの……?あまり侮らないでくれるかしら……!!」

「ほ、ほむらちゃん……やっぱり、止めた方がいいかな……」

「嫌とは、言ってない……!」

 

 腹を抱えて笑い転げる杏子に、さやかはマミからコースターを受け取って投げつける。

 顔面にびたっと張り付いた。杏子はようやく落ち着いた。肩で息をしている。

 顔どころか耳、首まで赤くしているほむらと違って、まどかは本当にリラックスした様子だった。目を閉じてなお色が見えるとしたら、人間は著しく脳を疲弊させられる。たとえ一日そうして過ごすだけでも多大なストレスを引き起こすだろう。

 

 本当に笑ってしまったことだけ申し訳ない。さやかは心の底からほむらに感謝していた。

 杏子はともかく、こっちが本気だとわかってくれていたからこそほむらもOKしてくれたのだろう。

 いつの間にか目を閉じ、小さく胸を上下させるをまどかを見ながら、さやかは言う。

 

「本意じゃないかも知んないけど、これもまどかを助けるってことだからさ。ありがとう」

「…………当然のことをしただけ。さっきの通り、嫌なんて言ってないし思ってない。まどかを助けるためにならなんでもするわ。願いを諦めることも、諦めた願いを取り戻すことも……私が必ずやるべきであったこと」

「あたしはもう分かんないけど、悪くはないんじゃない?好きな人のために、できることを探すって……苦しいし、逃げたくなるけど。あの時も、幸せだったと思うから」

 

 杏子がマミに食ってかかって、お茶菓子ですぐに懐柔される。

 むしろ正面からお茶菓子をねだるのは恥ずかしいから、と言う理由でじゃれついているのかもしれない。

 

 平和だね、とさやかはつぶやいた。

 ほむらは何も言わない。けれど、今までのように内心を隠すための沈黙とは少し違った。

 静かに、さやかの言葉を肯定した。

 

「────」

 

 まどかが身動ぎする。

 ただ、短い平穏に祈りを捧げながら……魔法少女達は手を繋いだ。

 

 

 

(ならなきゃ)

 

 不思議な空間に、まどかは漂っている。

 ふわふわと自分の肉体が不安定なことを確認しながら、まどかは桃色と白が交差した空間を泳いだ。

 雑音は消え、どこからか声が聞こえているだけになった。

 声の向きは分からない。足元にあるような気もするし、ずっと遠くから呼び止められている気もする。

 まどかは夢に揺蕩いながら、何かを目指して泳いだ。

 

(魔法少女に)

 

「……あなたは、誰?」

 

(私は……鹿目・M・まどか。魔法少女だよ)

 

「そう、なんだ。わたしは……鹿目・K・まどかっていうの。同じだね」

 

 ふふ、と声が微笑する。

 まどかは、気がついたらいつもの通学路に立っていた。

 足元からは人懐っこい声が聞こえる。

 

「あ……かわいい」

 

 黒猫がいた。

 猫は喉をゴロゴロと鳴らしながら、足に頭を擦り付ける。

 くすぐったいよ、と笑いながらまどかは黒猫を持ち上げた。

 

「この子、エイミー」

 

(そう。あなたが魔法少女になって、初めて助けた子だよ)

 

「え?」

 

 わたしは魔法少女じゃない。そうはなってない。

 けれど、とても大切なことを教えられている気がした。わたしは、エイミーのことを知っている。

 これは夢だ。だから、せめて何かを覚えておきたかった。

 やがて、まどかはまた別の場所にきた。

 女の子が住むには少し無骨な扉が開き、黒髪のおさげが飛び出した。

 

「──さん!来てくれて嬉しい、ですっ。あ、その子……!」

「うん。さっき会って、連れてきた方がいいかなって思ったの」

「そうですね!ありがとう、ございます……あ、あのっ!良かったら、中へどうぞ!」

「うん……ありがと、ほむらちゃん」

 

 赤縁のめがねをかけた黒髪の少女は、まどかを嬉しそうに家の中へと招き入れた。

 まどかはそこに、見覚えがあった。おさげが揺れて、少女がこちらを振り向く。彼女の口が動いた。

 眼鏡の奥には、のっぺりとした平面だけがあった。

 

 何か言っているのは聞こえる。

 内容も理解している。けれど、それは他愛もないこと。

 いつか忘れた、消えてしまった記憶。その残滓。

 

「──さんは、本当に凄いですよね!あんな弓を軽々と扱って、魔女も一瞬で倒しちゃうなんて……巴さんも、──さんと一緒ならどんな強い魔女でも勝てるって言ってました!」

「え、えぇ〜……?そんなことないよ……いつもマミさんが助けてくれてるんだよ。わたしも、同じように助けてあげたいなって……思いはするけど」

 

 なんとなく、その時に言っていたことが分かる。過去のわたし、魔法少女になったわたし。

 ただ、わたしはわたしだ。魔法少女じゃない。だから、正直に言う。今でも、魔法少女になってと言われれば、それを断るつもりでいる。けれど、ずっと助けてもらうばかりは苦しいのも本当だ。無力なままでいなければならないのは、胸がギュッとなる。

 ほむらちゃん……過去のほむらちゃんは、不思議そうに首を傾げた。

 

「思ってる、ですか?でも、──さんはいつもわたし達のために戦ってくれてます」

「──────。わたしは、怖いよ。戦うことが」

 

 目の無いほむらちゃんは、分からないというように唇を引き結ぶ。

 そうしてほむらちゃんが考えている間に、わたしは目を瞑った。

 

「でも、私の大切なものが壊されないためになら……戦う。マミさんや、さやかちゃん。杏子ちゃんもかな」

「杏子、ちゃん……ですか?──さんのお友達……?」

「ううん、マミさんの。わたしは──────」

 

 まどかは走って、ほむらに抱き付いた。

 ぇ、とほむらは体を硬直させた。所在なさげに彼女の両手がわたわたとあわてる。

 

「私の世界が壊れるなら、ほむらちゃんのために、大切な人たちのために戦いたい。……終わることを誰かのせいにするくらいなら、自分にその力があるのなら、私は家族と友達を救いたい」

 

 まどかは、目から一筋の涙を流した。

 ほむらが何か言おうと、口を開閉する気配があった。

 しかし、それが形になる前に、黒い少女は消えた。気付かぬ間に黒猫も気えた。

 元と同じ、桃色から白にかけての色がとりどりになっている空間で、まどかはまどかと向き合う。

 髪が長い。

 目が金色。

 リボンは白になっている。

 

「初めまして。わたしは、鹿目・マホウショウジョニナル・まどか。過去のあなただよ、今のわたし」

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