ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第四十一話 L'ultima cena per te

「初めまして。わたしは、鹿目・マホウショウジョニナル・まどか。過去のあなただよ、今のわたし」

「わ、すごいね……わたし、こんなに可愛い姿になるんだ」

 

 そうかな?と魔法少女になったまどかはくるりと回った。

 白いドレスがふわりと持ち上がり、内側には深い藍色に色とりどりの雪が降った宇宙が見える。神々しささえあるその身姿だったが、二人は可愛くて綺麗としか思わなかった。

 あ、と魔法少女のまどかが口に手を当てる。

 

「私もあなたもまどかだと、呼ぶ時に混乱しちゃう」

「確かに。それじゃあ……どうしよう」

 

 まどかたちは真剣に考えた。

 やがて、おずおずと白いドレスのまどかが言い出した。悩んでいる様子で、眉が八の字になっている。

 

「私は今のあなたと別のまどか。だから、うぅんと……私はαまどかとか、どうかな。安直すぎるかな?」

「良いと思う!けど、それならわたしは……ビーまどか?」

「……なんか違うね」

「うん、なんか……しっくりこないや」

 

 最終的に、今のまどかは普通の「まどか」、魔法少女のまどかは「αまどか」になった。

 まどかはさっきまでのことを思い出す。どうして忘れていたのか、と思うくらいに鮮明で、けれど夢が終わったら多分覚えていられないだろう儚い記憶。

 一つ思い出した瞬間に、どんどんと今までの記憶が溢れてくる。

 

 これが、ほむらちゃんの言っていた時間遡行でわたしが通った道……軌跡の断片。

 その殆どが楽しい記憶と、悲しい記憶とで埋まっていた。

 多分、ほむらちゃんにはずっと迷惑をかけてた。欠片しかわからなくても、痛いくらい簡単だった。

 

「助けたいね」

「そうだね。私も、同じ気持ち」

 

 わたしの言葉に、αまどかは同意した。

 αまどかはそっと近づいて、まどかの額にキスをした。

 

「おまじないだよ。前を向くための」

「……ありがとう」

 

 αまどかは、柔らかく微笑んだ。

 

 そんな時だった。

 徐々に視界が白く染まっていく。目覚めの時なのだろう。

 わたしはそれに抗ったりはしなかったけど、慌てたのはαまどかの方だった。

 

「待って!まだ伝えたいことが……!」

「え、あ、早く!わたしも止められないよー!」

 

 αまどかは、キッと視線を鋭くした。

 

「キュゥべえに気をつけて!あと、魔法少女には……なった方がいいの!でないと────」

 

 シャボンが割れる。

 忘れてはならない。

 彼女との邂逅を、彼女の在り方を。

 そうしなければ……誰の記憶にも、残ることはないから。

 

 

 ぱち、と目をひらく。

 

「夢オチぃ…………」

 

 ぬいぐるみを抱きしめ、うへぇとため息一つ。

 なんだかふわふわする。変な夢を見た。内容を覚えてないから、変な夢ってことしかわからない。

 でないと……なんだろう。何か、夢の中で教えてもらった。そもそも、「でないと」って、その前に何か言ってるはず。なのに……だめ。思い出せない。

 覚えているのは……暁美・マドカスキー・ほむらを、助けたいこと。

 他のことは、あんまり。「キュゥべえ」「まどか」「戦う」とか、単語だけは浮かんでくるけど。

 

「キュゥべえ……」

「なんだい?」

「きゃっ」

 

 ビビったまどかは、ぬいぐるみを置いた台の方を振り向いた。

 しかし、そこには何もいない。

 

「あ、こっちだよ」

 

 声の出所を探ると、キュゥべえKは外にいたらしい。

 影は動く様子がない。

 

「夢を、見たの。あなたは……わたしの敵?」

「いいや。誤解がないようにいうけど、ボク達は宇宙の味方だ。道中に君たちを見つけて、奇跡と発展をもたらした……対価は体の変質と、絶望の具現。……まぁ、君たちが騙されたと言うのは分かるよ」

「……優しいんだね。今は」

「皮肉かい?だとすればもっと心の底から言わなきゃ。それと最近、君たちがどう考えているかをパターン化して推測を立ててみてるんだ。当たっている確率はだいたい四割くらい。今はどう思ってる?」

「話したくない」

「うん、今ので五割は超えたね。ありがとう」

 

 そう言って、影はすっと消えていった。

 相変わらずよく分からない。皆にも相談しよう。

 そういえば。

 

「目、治ってる」

 

 これも皆に伝えよう。そう思いながら、まどかは学校に行く準備を進めた。

 食パンをかじり、元気に行ってきますを伝えた。

 

「いってらっしゃい!」

「いってらっさーい」

 

 タツヤと父の声を聞きながら、まどかは走った。

 

 通学路、仁美とさやかとまどかは一緒に登校していた。

 気まずそうな仁美に、さやかは強引に話しかけた。

 

「そんな感じで、ゆうかはボロ負けしたわけだけど……どう思う?勝者の方は」

「さやかちゃん?」

「でも、戦ったのでしょう。であれば……尊重されるべきと、わたくしはそう思います。さやかさんも同じですわ」

「……そっかー。ま、あたしは悔いもないからね。変なこと言ってごめん、愚痴とかあったら全然言ってね!あいつほんとにバイオリン狂いだから」

 

 本当のほんとに気にしてないからさ、と言ってさやかは仁美と肩を組もうとした。

 仁美は屈んで、腕をさやかの肩に回した。

 あまりにも前と変わらない様子に、仁美とまどかは心にじんわりとしたものが広がるのを感じた。足が動かないことなんてどうとでもなるわ、と開口一番に言った彼女は、あまりにも強かった。

 

「……そのバイオリンに心奪われた同士、仲良しこよしではいられませんわ。釣り合ってないと思ったら、強引に奪ってもらっても結構です」

「仁美ちゃん……!?」

「あはは、確かにね。仁美は良いコすぎるから、恭介にゃ勿体無いもん」

「そんなことは。うふふ……」

 

「えぇ……」

 

 和気藹々と話しているけれど、まどかは二人がちょっと怖かった。

 席につき、つつがなく授業が始まる。あっという間に昼休みになった。

 

 自然と四人で屋上に集まった。

 ふと、ガキッと何かが引っ掛かるような音がする。

 視線がそこに集まれば、赤い少女が魔法少女の姿で現れた。

 

「何してんの。不法侵入でしょ」

「アタシは魔法少女だよ?法律なんて知ったこっちゃないね」

 

 さやかは杏子にガンを飛ばす。

 杏子もニヤッとした顔で挑発した。

 ひらり、とリボンが舞う。

 

「まぁまぁ、二人とも。こんな場所で争う必要はないわ。あんまりひどいと両成敗だから」

「……はいはい」

「なんか強かになりましたね、マミさん」

「そ、そう?」

 

 マミは自分の体を見るが、特段これといった変化は見られない。

 たまに見れるロングヘアも普段とは違う感じでGOOD!とさやかが茶化している間に、ほむらは弁当を開いた。

 右隣にまどかが座り、反対にはマミが座った。

 マミの隣に二人座って、昼食の時間になった。

 

 なんであたしが端なの、あんたでしょ!とか、卵焼きあげるね、といった他愛のない会話が始まる。

 

 白一色にぽつんと赤が乗ったほむらの弁当に、花の女子中学生三人はドン引き。杏子はほむらの味方側についていたが、これは単に施す側と施される側に分かれただけである。

 ご飯を食べたスペースに三人から次々と食材が充填されていく。卵焼き、アスパラの肉巻き、ブロッコリーのチーズ和え。

 全体的にバランスの良い食事を送りつけられ、ほむらは特に否やもせず食べた。感想を求められれば悩みながら答え、作った本人であるマミとまどかは喜んだ。

 

 杏子はさやかの唐揚げを強奪。

 勢いのままマミの分まで取ろうとしたが、既にピックと一緒に差し出されており憮然とした表情で受け取った。

 隙をついてさやかが杏子に飛びかかり、ぎゃあぎゃあと戦い始める。

 腕相撲、勝者はさやか。病院を抜け出(たいいん)してから毎日続けている腕力トレーニングは、確かに彼女の力となっているようだった。

 

 勝ち誇ったさやかを杏子は悔しげに見つめる。

 仲裁に入るマミを見送ったほむらは、隣を見た。

 まどかはこちらを見ていた。彼女は、視線を外して前を見た。ほむらがそれに倣うと、安穏とした日々がそこに見えた。安堵か、緊張からか吐き出された息。自然と顔が下を向く。

 止まっている指にまどかが触れた。

 ぴくりと驚き、ほむらはまどかを見た。

 

 彼女は微笑んでいる。

 優しげに、安心させるように。

 彼女の顔が、目が、可愛らしいリボンが、ふわふわとした桃髪が好き。

 彼女の心のありようが、自分がどうなろうと他人を助けたいと願う心が好き。間違えてしまうところも好き。

 彼女の全てが好きだ。良いところも、悪いところも全てひっくるめた「鹿目まどか」が好き。

 

 けれど、それを言葉にしようとすれば、喉は張り付き、口の中は急速に乾いていく。

 今の自分じゃ、彼女に見合わない気がして。

 好きだと口で言ったところで、受け取ってもらえない可能性の方が高い。今の私では、欠点を好きだと言っても……守るために、離れなければならない。そのままで受け入れてあげられない。

 色んな不安が、ほむらの瞳の中で渦巻いた。

 

「ほむらちゃん」

 

 まどかの声が、意識を浮上させた。

 彼女は、優しげな表情はそのままに……ぐっと眉間に力を込めた。

 

「大丈夫だよ」

 

 ほむらは、まどかの目をまっすぐに見つめた。

 まどかは表情を崩し、その顔には大輪の花が咲いた。

 

 綺麗だった。

 

「まどか。ワルプルギスの夜は、私が倒す」

「うん」

「私は……あなたに相応しい人間に、なれるかしら」

「なれるよ!というか、もうなってるよ」

「魔法少女なのに?」

「関係ないよ。ほむらちゃんは、わたしのかけがえない友達だから」

 

 暗紫色の瞳には、うつくしい桃色だけが映っていた。

 

「大好き、まどか」

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