ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ 作:カイテン・マテナカータ
ミタキハラ・アブナイ市に巨大なスーパーセルが到達すると予測されています。
本日、ミタキハラ市全域に避難警報が発令されています。人的被害を避けるため、ミタキハラ市にご住まいの方は、安全を確保できる場所に移動してください。
周辺の住民は、お近くの避難所にお集まりください。
近場の体育館の中で、まどかはラジオからそんな放送を聴いていた。
ピピッと携帯から音がした。
直後、けたたましい騒音がまどかの耳を劈いた。
グリーフシード、潤沢。
魔力、全快。
不確定要素、
負ける要素は何もない。だからこそ、一切油断できない。
インキュベーター。
嘘をつかないが、必要なことも言わず我々を騙す生命体。
人は愚かだ。だから、私はこの生命を許すことはない。騙す気がないと言うのなら、質問に答える時にはぐらかすのは何故だ?愚か者は愚か者らしく、賢しいものにはけちをつけるとしよう。
愚かゆえに、夢をみる。願いをもつ。感情を持って、絶望する。
それが人間の性。
あれにはできないから、私たちを頼ったのだ。奇跡を起こせる力を持ちながら、その使い方さえわからない。
私たちと正反対で、同じくらいに滑稽だ。
あれらは策を講じてきたものの、暁美ほむらという存在はイレギュラーだと言った。
インキュベーターは、あの姿のまどかのことを知らない。
素晴らしいことだ。美醜の判断もつかない馬鹿な狐もどき風情に、あのまどかを見られたくはない。
……そういえば、あの狭間の世界にいたキュゥべえは知っているんだったか。
やはり始末しておくべきだったかもしれない。
まぁ、ワルプルギスの夜を倒せばあの場所はなくなるはずだ。二度と会わないと言った相手のことを気に病んでも仕方ない。
暁美ほむらは、ワルプルギスの夜を待った。
既に、空は暗く澱んでいる。
三人の魔法少女が、そこにいた。
美樹さやか。
佐倉杏子。
巴マミ。
そして、私。
とっくの前に、準備は終わっていた。
来ない。
じわじわと、不安が少女たちを襲った。
「なに……なんで、来ないの」
さやかの言葉は、その場にいる全員の声を代弁した。
「今日、ミタキハラの上空にスーパーセル……ワルプルギスの夜が来る。そのはずよね、暁美さん」
「……ええ。時間に関しても、ばらつきはあれど必ず現れる」
「…………一応、今のうちに言っとく。これで騙してたんなら、アタシはあんたをぶっ殺す。ムカつくからね」
「違う……この雲が何よりの証拠でしょう!!」
マミは不安そうに、杏子は隠れていた闘志を剥き出しにしてほむらを見た。
ほむらは、感じたことのない恐怖と焦げ付くような焦りを覚えた。前回は、この時既にワルプルギスの夜が飛来していた。
さやかは虚な目でほむら、そして空を見上げた。口を開く。
「──────来る」
ローファーの音がした。
「ほむらちゃぁん!!」
まどかは、息も絶え絶えに四人のところに足を運んだ。
はぁ、はぁと膝に左手をついている。右手には、ラジオを持っていた。
「ワルプルギスの夜が、カザミノに行ったって!!!」
ザザ、とノイズが走る。
緊急速報です。
ミタキハラ・アブナイ市に到達予定だったスーパーセルは、突如進路を変更。
カザミノ・オトナリ市へ進行しています。
繰り返します。
カザミノ市にお住まいの方は、速やかに安全を確保してください。
繰り返します。
カザミノ市にお住まいの方は、速やかに安全を確保してください。
ラジオから聞こえる音が五人の耳を打つ。
「……………………へぇ」
杏子は、ぽろりと意識せぬまま言葉を零した。
杏子にとっては、大切だった故郷を蹂躙されることになる。だというのに、心の中に生まれたのは焦りよりも感嘆があった。
だからこそ、ほむら・A・マドカスキーはここでやらなければならない。賛美を宿したからこそ、決着を付けたくなった。
杏子は、芯の炎が白く染まるのを感じた。
嵐の音だけがごうごうと鳴る。
「稀代の詐欺師だね。あれのついでに殺ってやる」
「嘘……どうして、騙したの……?」
マミは不安定に眼を右往左往させる。
杏子は言葉を重ね、ほむらに槍を差し向けた。
「ちょっと、杏子!マミさんも、落ち着いて!まずは、話を……」
ほむらは前髪を引っ掴み、顔を埋める。
耐えきれなくなったマミが吼える。
「どういうこと、ワルプルギスの夜がカザミノに……?ミタキハラに、来るんじゃないの!?暁美さんッ!!」
「………………知らない、わよ。こんなの……知らない!!一度だって、風見野になんて行かなかった!!だから私はッ、ワルプルギスの夜を倒さ、倒すために、戦ってっ、倒さないといけなかったの!!なんで!?なんでこんな……ふざけないで……どうして、ぇっ」
マミは、震える腕で銃口をほむらに向けた。
ぎょろりとほむらの目が蠢き、マミにアサルトライフルを向けた。
引き金がひかれる。
車椅子を蹴り、跳んださやかはサーベルを投擲した。
一つは、躊躇っていたマミの銃身を貫く。視線が赤い魔法少女に向けられるが、彼女は動く様子を見せない。意識には残しつつも、錯乱した二者に目を向ける。
もう一本の剣は手の中にあった。
「今が一番、仲間割れしちゃ駄目でしょうがッ!!」
ほむらのアサルトライフルを、上から串刺しにした。
数発発射された弾丸は、様子見している中で避けられないほどのものではなかった。
吐き捨てるほどの剣幕でさやかは叫ぶ。
「落ち着けって言ってんでしょ!あんたら先輩だろ!後輩の言うこと聞けねぇのか、えぇ!?」
「み、美樹さん……」
「……ごめんなさい。つい、反射で」
つい反射で人を殺すんじゃねえ!!とさやかはブチギレながらも、刀を両手の真下に突き刺す。
杏子はほむらに向けていた槍を肩に担ぎ直す。さやかの視線に鼻を鳴らした。
杏子を恨めし気に見つめながら、さやかは剣の片方から手を離してまどかを回復した。
全力疾走から息が上がりっぱなしだったまどかは、それでようやく喋ることができるようになった。すこし痛む頭を抑えながら、まどかは言った。
「ごめん、けほっ……!わたしのせいで」
「あなたのせいではないわ。風見野に来ることを…………全く予想していなかった、私の落ち度よ」
「はぁ……いっそのこと、あんたが首謀者なら楽に話がつけられるってのに。……ここに来て、最後の最後にキュゥべえの妨害かね」
あいつ今どこにいんだよ、と杏子が言う。
確かにキュゥべえは現れていない。その時、遠くの空から轟音が響いた。
五人の意識がそれに向く。
さやかが言う。
「それで、どうするの。あたしは……カザミノの人たちを助けに行くよ。このままじゃ、いっぱい人が死ぬ。少しでも助けて、いっそ倒しちゃうのはヒーローの役目だから」
「……私も、準備が無駄になってしまったのは惜しいけれど……行くべきだと思う」
マミとさやかは真っ直ぐに意見を述べた。
杏子は肩をすくめる。
「アタシはどっちでも良いけど。行くの?あんた」
その言葉には、暗にこちらの気持ちを見透かしているニュアンスがあった。
ほむらは、行きたくなかった。
見滝原にワルプルギスの夜が来なければ、まどかが魔法少女になる理由は無くなる。
このまま行けば、まどかを救えるはずなんだ。リスクを冒す方が、
縋るような気持ちで、まどかを見つめた。
「まどか。あなたを助けるために、ワルプルギスの夜と戦ってた」
「────うん。わたし、夢で見たよ」
「戦わなくちゃいけないって……まどかを止める為にはそれしかないと思ってた。もう、止まるべきかな。もし、あなたが同じ立場だったら……違った答えを見つけられたかしら」
ほむらの言葉を噛み、まどかは目を瞑った。
やがて、胸に手を当てて言う。
「ほむらちゃん。わたしね、誰かの役に立てる人になりたい。ほむらちゃんやさやかちゃん、お母さんやマミさん、杏子ちゃんに仁美ちゃん……家族みたいに大切に思ってる」
「だから、わたしもほむらちゃんと同じように、助けたい相手のために繰り返すよ。それが、わたしにしかできないなら」
ほむらは嘆く。
顔を手で覆って、髪が揺れた。
「でもそれは、誘導されてるっ!あなたは……定められた未来に進むしかない!鹿目・コトワレーヌ・まどか、あなたは他者からの願いを断れない……!」
まどかは思い当たる節があった。
顔を伏せ、家族の顔を思い浮かべた。次に、あの白い獣を。
閉じた目を開く。
ほむらは、まどかの目にこもった決意に気圧された。
「だとしても、私はそうしたい。私の気持ちは、皆を助けたいって言ってるから。なんでもやる、って思われちゃうのはちょっと嫌だけどね。てへへ……」
そう言って、まどかは苦笑した。
暗紫色が震える。
逸らそうとして止まった瞳を、まどかは近寄って覗き込んだ。
赤いリボンがふわりと揺れた。
「ほむらちゃんは、自分のやりたいようにするべきだよ。私たちは、似たもの同士だから」
ほむらは、短くも永い空白に落ちた。
我に返り、ふっと目を閉じて……ほわと笑った。
「ふふ。そうね。私は……」
両手を広げて、手のひらを見つめた。
「この手の届く範囲を、守りたい」
ほむらは、視線を鋭くする。
その目には、確かな光が宿っていた。
まどかは目尻を下げる。
「ほむらちゃんなら……できるよ。絶対、奇跡を願わなくても叶えられる」
二人は静かになった。
ちょわっとさやかが二人の間に割り込んだ。
いつの間にか車椅子に戻っているが、姿は魔法少女のままだ。
「良い雰囲気になってる場合か!どうするか決めたなら、まぁプラマイプラスだと思うけど!でどうするの、行く!?」
「私も行く。グリーフシードの節約は考慮しつつ、道中は時間を停止させて行きましょう。急ぐわよ」
「うふふ……頼もしいわね」
「あんたを待ってたんだけど」
ほむらは振り返り、まどかの肩に触れた。
まどかは不思議そうにほむらを見つめた。短い沈黙の後、ほむらは頭を振って手を離した。
「待っていて」
ほむらの不安を払えるように、まどかは頷く。
「うん。帰ってきてね」