ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第四十二話 物悉く明きに非ず

 ミタキハラ・アブナイ市に巨大なスーパーセルが到達すると予測されています。

 本日、ミタキハラ市全域に避難警報が発令されています。人的被害を避けるため、ミタキハラ市にご住まいの方は、安全を確保できる場所に移動してください。

 周辺の住民は、お近くの避難所にお集まりください。

 

 近場の体育館の中で、まどかはラジオからそんな放送を聴いていた。

 ピピッと携帯から音がした。

 直後、けたたましい騒音がまどかの耳を劈いた。

 

 

 グリーフシード、潤沢。

 魔力、全快。

 不確定要素、QB・クロマーク(インキュベーター)を除き無し。

 負ける要素は何もない。だからこそ、一切油断できない。

 

 インキュベーター。

 嘘をつかないが、必要なことも言わず我々を騙す生命体。

 人は愚かだ。だから、私はこの生命を許すことはない。騙す気がないと言うのなら、質問に答える時にはぐらかすのは何故だ?愚か者は愚か者らしく、賢しいものにはけちをつけるとしよう。

 愚かゆえに、夢をみる。願いをもつ。感情を持って、絶望する。

 それが人間の性。

 

 あれにはできないから、私たちを頼ったのだ。奇跡を起こせる力を持ちながら、その使い方さえわからない。

 私たちと正反対で、同じくらいに滑稽だ。

 

 あれらは策を講じてきたものの、暁美ほむらという存在はイレギュラーだと言った。

 

 インキュベーターは、あの姿のまどかのことを知らない。

 素晴らしいことだ。美醜の判断もつかない馬鹿な狐もどき風情に、あのまどかを見られたくはない。

 ……そういえば、あの狭間の世界にいたキュゥべえは知っているんだったか。

 やはり始末しておくべきだったかもしれない。

 まぁ、ワルプルギスの夜を倒せばあの場所はなくなるはずだ。二度と会わないと言った相手のことを気に病んでも仕方ない。

 

 暁美ほむらは、ワルプルギスの夜を待った。

 既に、空は暗く澱んでいる。

 

 三人の魔法少女が、そこにいた。

 美樹さやか。

 佐倉杏子。

 巴マミ。

 

 そして、私。

 とっくの前に、準備は終わっていた。

 

 

 来ない。

 じわじわと、不安が少女たちを襲った。

 

「なに……なんで、来ないの」

 

 さやかの言葉は、その場にいる全員の声を代弁した。

 

「今日、ミタキハラの上空にスーパーセル……ワルプルギスの夜が来る。そのはずよね、暁美さん」

「……ええ。時間に関しても、ばらつきはあれど必ず現れる」

「…………一応、今のうちに言っとく。これで騙してたんなら、アタシはあんたをぶっ殺す。ムカつくからね」

「違う……この雲が何よりの証拠でしょう!!」

 

 マミは不安そうに、杏子は隠れていた闘志を剥き出しにしてほむらを見た。

 ほむらは、感じたことのない恐怖と焦げ付くような焦りを覚えた。前回は、この時既にワルプルギスの夜が飛来していた。

 さやかは虚な目でほむら、そして空を見上げた。口を開く。

 

「──────来る」

 

 ローファーの音がした。

 

「ほむらちゃぁん!!」

 

 まどかは、息も絶え絶えに四人のところに足を運んだ。

 はぁ、はぁと膝に左手をついている。右手には、ラジオを持っていた。

 

「ワルプルギスの夜が、カザミノに行ったって!!!」

 

 ザザ、とノイズが走る。

 

 緊急速報です。

 ミタキハラ・アブナイ市に到達予定だったスーパーセルは、突如進路を変更。

 カザミノ・オトナリ市へ進行しています。

 繰り返します。

 カザミノ市にお住まいの方は、速やかに安全を確保してください。

 繰り返します。

 カザミノ市にお住まいの方は、速やかに安全を確保してください。

 

 ラジオから聞こえる音が五人の耳を打つ。

 

「……………………へぇ」

 

 杏子は、ぽろりと意識せぬまま言葉を零した。

 杏子にとっては、大切だった故郷を蹂躙されることになる。だというのに、心の中に生まれたのは焦りよりも感嘆があった。

 だからこそ、ほむら・A・マドカスキーはここでやらなければならない。賛美を宿したからこそ、決着を付けたくなった。

 杏子は、芯の炎が白く染まるのを感じた。

 

 嵐の音だけがごうごうと鳴る。

 

「稀代の詐欺師だね。あれのついでに殺ってやる」

「嘘……どうして、騙したの……?」

 

 マミは不安定に眼を右往左往させる。

 杏子は言葉を重ね、ほむらに槍を差し向けた。

 

「ちょっと、杏子!マミさんも、落ち着いて!まずは、話を……」

 

 ほむらは前髪を引っ掴み、顔を埋める。

 耐えきれなくなったマミが吼える。

 

「どういうこと、ワルプルギスの夜がカザミノに……?ミタキハラに、来るんじゃないの!?暁美さんッ!!」

「………………知らない、わよ。こんなの……知らない!!一度だって、風見野になんて行かなかった!!だから私はッ、ワルプルギスの夜を倒さ、倒すために、戦ってっ、倒さないといけなかったの!!なんで!?なんでこんな……ふざけないで……どうして、ぇっ」

 

 マミは、震える腕で銃口をほむらに向けた。

 ぎょろりとほむらの目が蠢き、マミにアサルトライフルを向けた。

 引き金がひかれる。

 

 車椅子を蹴り、跳んださやかはサーベルを投擲した。

 一つは、躊躇っていたマミの銃身を貫く。視線が赤い魔法少女に向けられるが、彼女は動く様子を見せない。意識には残しつつも、錯乱した二者に目を向ける。

 もう一本の剣は手の中にあった。

 

「今が一番、仲間割れしちゃ駄目でしょうがッ!!」

 

 ほむらのアサルトライフルを、上から串刺しにした。

 数発発射された弾丸は、様子見している中で避けられないほどのものではなかった。

 吐き捨てるほどの剣幕でさやかは叫ぶ。

 

「落ち着けって言ってんでしょ!あんたら先輩だろ!後輩の言うこと聞けねぇのか、えぇ!?」

「み、美樹さん……」

「……ごめんなさい。つい、反射で」

 

 つい反射で人を殺すんじゃねえ!!とさやかはブチギレながらも、刀を両手の真下に突き刺す。

 杏子はほむらに向けていた槍を肩に担ぎ直す。さやかの視線に鼻を鳴らした。

 

 杏子を恨めし気に見つめながら、さやかは剣の片方から手を離してまどかを回復した。

 全力疾走から息が上がりっぱなしだったまどかは、それでようやく喋ることができるようになった。すこし痛む頭を抑えながら、まどかは言った。

 

「ごめん、けほっ……!わたしのせいで」

「あなたのせいではないわ。風見野に来ることを…………全く予想していなかった、私の落ち度よ」

「はぁ……いっそのこと、あんたが首謀者なら楽に話がつけられるってのに。……ここに来て、最後の最後にキュゥべえの妨害かね」

 

 あいつ今どこにいんだよ、と杏子が言う。

 確かにキュゥべえは現れていない。その時、遠くの空から轟音が響いた。

 五人の意識がそれに向く。

 さやかが言う。

 

「それで、どうするの。あたしは……カザミノの人たちを助けに行くよ。このままじゃ、いっぱい人が死ぬ。少しでも助けて、いっそ倒しちゃうのはヒーローの役目だから」

「……私も、準備が無駄になってしまったのは惜しいけれど……行くべきだと思う」

 

 マミとさやかは真っ直ぐに意見を述べた。

 杏子は肩をすくめる。

 

「アタシはどっちでも良いけど。行くの?あんた」

 

 その言葉には、暗にこちらの気持ちを見透かしているニュアンスがあった。

 ほむらは、行きたくなかった。

 見滝原にワルプルギスの夜が来なければ、まどかが魔法少女になる理由は無くなる。

 このまま行けば、まどかを救えるはずなんだ。リスクを冒す方が、

 縋るような気持ちで、まどかを見つめた。

 

「まどか。あなたを助けるために、ワルプルギスの夜と戦ってた」

「────うん。わたし、夢で見たよ」

「戦わなくちゃいけないって……まどかを止める為にはそれしかないと思ってた。もう、止まるべきかな。もし、あなたが同じ立場だったら……違った答えを見つけられたかしら」

 

 ほむらの言葉を噛み、まどかは目を瞑った。

 やがて、胸に手を当てて言う。

 

「ほむらちゃん。わたしね、誰かの役に立てる人になりたい。ほむらちゃんやさやかちゃん、お母さんやマミさん、杏子ちゃんに仁美ちゃん……家族みたいに大切に思ってる」

「だから、わたしもほむらちゃんと同じように、助けたい相手のために繰り返すよ。それが、わたしにしかできないなら」

 

 ほむらは嘆く。

 顔を手で覆って、髪が揺れた。

 

「でもそれは、誘導されてるっ!あなたは……定められた未来に進むしかない!鹿目・コトワレーヌ・まどか、あなたは他者からの願いを断れない……!」

 

 まどかは思い当たる節があった。

 顔を伏せ、家族の顔を思い浮かべた。次に、あの白い獣を。

 閉じた目を開く。

 ほむらは、まどかの目にこもった決意に気圧された。

 

「だとしても、私はそうしたい。私の気持ちは、皆を助けたいって言ってるから。なんでもやる、って思われちゃうのはちょっと嫌だけどね。てへへ……」

 

 そう言って、まどかは苦笑した。

 暗紫色が震える。

 逸らそうとして止まった瞳を、まどかは近寄って覗き込んだ。

 赤いリボンがふわりと揺れた。

 

「ほむらちゃんは、自分のやりたいようにするべきだよ。私たちは、似たもの同士だから」

 

 ほむらは、短くも永い空白に落ちた。

 我に返り、ふっと目を閉じて……ほわと笑った。

 

「ふふ。そうね。私は……」

 

 両手を広げて、手のひらを見つめた。

 

「この手の届く範囲を、守りたい」

 

 ほむらは、視線を鋭くする。

 その目には、確かな光が宿っていた。

 まどかは目尻を下げる。

 

「ほむらちゃんなら……できるよ。絶対、奇跡を願わなくても叶えられる」

 

 二人は静かになった。

 ちょわっとさやかが二人の間に割り込んだ。

 いつの間にか車椅子に戻っているが、姿は魔法少女のままだ。

 

「良い雰囲気になってる場合か!どうするか決めたなら、まぁプラマイプラスだと思うけど!でどうするの、行く!?」

「私も行く。グリーフシードの節約は考慮しつつ、道中は時間を停止させて行きましょう。急ぐわよ」

「うふふ……頼もしいわね」

「あんたを待ってたんだけど」

 

 ほむらは振り返り、まどかの肩に触れた。

 まどかは不思議そうにほむらを見つめた。短い沈黙の後、ほむらは頭を振って手を離した。

 

「待っていて」

 

 ほむらの不安を払えるように、まどかは頷く。

 

「うん。帰ってきてね」

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