ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第四十四話 続かない

 5本のレーザーが、ワルプルギスの夜へ向かいながら収束する。

 螺旋を描きながら、極光がワルプルギスの夜を貫いた。

 

 煙が立ち込め、ワルプルギスの夜の姿が隠れる。

 そんなことはどうでもいいというように、ほむらの視線はただ一つに注がれていた。

 声が聞こえた。

 

「ソウルジェム、グリーフシード。これらにはそれぞれ、K・Fという前置きが入る。それはいいかな」

 

 かちり。

 針が進むような、歯車が回る音がする。

 ほむらは涙を流すこともできず、ただ瞳孔を開き切った瞳は乾かないまま視界に映ったものを映し続ける。

 

「でも、それで本当に正しいのか。一つの面では正しいさ。ソウルジェムは壊すべきじゃないし、グリーフシードは増えている。魔女の呪いは成長し、魔法少女にとって利になるグリーフシードは生まれやすくなっているから。キュゥべえはそれを踏まえ、名前を変えた。けれど」

 

 かちり。

 ほむらはよろよろと歩き、やがて走り始めた。

 誰かがほむらを呼ぶ声が聞こえた。耳に入っても、少しも意識を向けようとは思わなかった。

 

「君にとっては別の真実のように映るだろうね。暁美ほむら」

 

 かちり。

 足がもつれ、ほむらは地面に転がった。痛くない。

 必死で顔を上げて、目の前のものを見た。

 

「君はね。また、ボク達に騙されたんだよ」

 

「──────インキュ、ベーター」

 

 かちかちかちかちかち、かちり。

 舞台は廻天する。

 インキュベーターじゃない、と橙色の耳が揺れる。

 

「ボクは黒幕(クロマーク)じゃない。ボクの名前は、キュゥべえ・ケンジャノッチさ」

 

 桃髪、桃色の瞳の少女に手を伸ばす。

 まどかを取り戻す。

 

 届かない。

 少女は、きょとんとした顔で上を見上げている。

()()()をしたキュゥべえは、まどかに頭をぶつけた。

 地面に巨大な魔法陣が現れ、魔力の圧がほむらを吹き飛ばす。ほむらには、それが拒絶に思えた。

 まどかは桃色の光、光の柱に包まれる。

 

「まどか」

 

 ほむらは、少女の名を呼んだ。

 返事はなかった。影を見た。まどかの影だ。窮極のまどか、私だけのまどか。

 彼女が、やってくる。

 

「……………………ぁ…………」

 

 救えない。本当は誰のことも救っていない。

 

 ソウルジェムを見るまでもない。

 ほむらは汚れて、狂って潰れて壊れて叩かれて終わって逃げて消えて死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んでいく。彼女を祝福するように、時計の砂が落ち切った。

 心のどこかで安堵した自分がいた。ここで終わればいいと笑う自分を殺す。

 

 それでも、思ったことは変わらない。

 自分じゃない誰かのお陰で全部上手くいって、運よく皆を助けられて。

 それで終わり?

 

 じゃあ、私がやってきたことは何だったんだって、思ってしまう。

 そうなるくらいなら、いっそ救われないで終わりたい。

 

 魔法少女の姿が融けて、制服のまま少女は立ち尽くす。

 半開きの唇の端から、ぼとっとよだれが落ちる。

 

 吐き溜めに落ちた屑、誰の役にも立たない愚者。

 ずっとそうだった。わたしはすくわれるべきじゃない。

 こんなにも醜い物が生きていていいはずがない。

 

 彼女は言っていただろう。

 魔法少女にならなければいけない。そう神が言ったのだから、もう終わっていたことだ。彼女に因果の糸を束ねきった時点で、まどかの運命は決まっている。どれだけ足掻いた所で無駄なのだ。

 狂いもがく心とは違い、身体はただ立ち尽くしていた。

 桃色と白い光を、ただ見つめ続ける。円環の魔法陣の上、まどかは手に弓を握っていた。

 

 轟音と静寂、正反対の場面がそこに同時に存在する。

 

 ほむらは手に持っていた銃を頭に押し付ける。

 短く息を吸った。

 

「ごめ、ん」

 

 パンッ。

 

 身体は傾き、とさりと倒れる。

 二度と動くことはなかった。

 

 

 ソウルジェムが割れ、グリーフシードが肥大化する。

 魔女が顕現する。

 この醜い世界に怨嗟をぶつけるように。

 光の柱が勢いを失い、やがて掻き消える。それに反比例するように、漆黒の魔力が天まで昇った。

 

 魔女が姿を現す。

 最悪の運命に唾を吐き、全てを破壊するために。

 つばがレコードとなったとんがり帽子を被り、顔をマスクと長い髪が覆っている。地面スレスレに浮かんだその体は、丸い塊に人型が乗っているような。ただ、砂時計に似た球体の下は、細く尖っている。

 塊が建物に触れ、ゆっくりとその身を倒れさせていく。

 

 羽と、背から伸びた腕のような布が建物を撫ぜ、風化させていく。

 

 どこからか発生したピンク色のキュゥべえが言う。

 

「ほむら・A・マドカスキー……彼女の絶望が生む熱量は、凡百の魔女を凌駕した。ワルプルギスの夜にも匹敵する莫大なエネルギー。ここで魔女同士がぶつかれば、その余波は地球規模で影響を及ぼすはずだ」

 

 言い終わってすぐ、その背にサーベルが突き立てられる。

 

「……それを言って、あたし達にどうして欲しいわけ?あぁそうだ、諦めて欲しいんだ。あたし達も魔女になれば、お前は嬉しいから」

「嬉しいというわけではないよ。でも、ボク達の望みであるのは間違いない。あの危険分子が、まさかこちらと同じ目的を持ってるなんて──」

 

 邪魔、とさやかは突き立てたサーベルを引き抜いて振る。

 二体目は首をとさっと落とした。

 

 コツ、ザッと二つ分の足音がする。

 さやかはその二人を振り返りながら、言った。

 視線の先にあるのは、赤と黄色と紺色。

 

 ワルプルギスの夜は、首を失っている。

 そして、身体をゆっくりと起こした。首を失ってなお当たり前に動く姿に辟易しながら、さやかは考える。

 第二形態だ。ラスボスのテンプレとはいえ、仲間を一人失ったタイミングなのこっちは。切実にやめて欲しい。言っても仕方ないけどさ。

 槍をいじりながら、杏子がため息をつく。

 

「こりゃ難易度EX(エクストラ)じゃ足りねえな。さながら悪夢だよ」

「…………どうして二人とも、そんなに冷静でいられるの?」

 

 表情を前髪に隠し、マミは腕を押さえる。

 そうしなければ、震えて身体が動かないから。周囲をくまなく観察していたマミは、ほむらと同様にまどかを見つけたのだ。

 しかしマミは、それを幻覚か敵の攻撃だと断じた。結果は、最悪。

 呼ぶ声も聞かずにほむらは飛んでいって、以前見た光柱とともに魔女が現れた。

 おそらく、あれは……()()なんだ。ソウルジェムから生まれたのを、初めて見てしまった、魔女。

 あれは、私が生んだ魔女じゃないの?

 そんな幻の声から、耳を塞いだ。

 

 ワルプルギスの夜すら倒せていない。

 それでも、杏子もさやかも逃げる素振りさえない。

 後輩のさやかさえこうも堂々としている前では、マミは怖くても背を向けられなかった。否、怖いから背を向けられなかった。弱いと、切り捨てられるのが怖かった。

 さやかは首を抑え、困り顔だ。

 

「あー……あたしはあれです。ハートレスなので。たぶん、マミさんの反応が普通ですよ。あたしも、内心ばたばたなのに表し方が分からなくて」

「アタシは元々ほむらから嫌われてたし。敵が二体に増えた所であんまり変わんないからね。そっちはどうなのさ……むしろ、あいつの相手は任せられてもいいぐらいだけど?」

「…………分かった。ありがとう、美樹さん、佐倉さん……っ!?」

 

 避けて!と鋭くマミが令を下す。

 それぞれ別方向に避けた瞬間、屋上を落ちてきたビルが潰す。

 そして二発目が連続する。空中で迎撃しようと杏子、さやかは構えをとる。

 しかし二人の腕に結ばれ実体化したリボンが大きくしなる。二人は体勢を崩し、勢いよく縮んでいくリボンに巻き取られた。

 激突したためにビルに埋まったビルの上に、三人は着地する。

 ビルは軌道を曲げ、新手の魔女を狙った。

 

(ホーミングかよ……!!厄介な進化すんじゃねぇ!)

 

 杏子は、心の中で自分が使う技を棚に上げて悪態をつく。

 敵の理不尽さに怒っても生産性がない。故に、自分にできるかを考えた。

 杏子が槍を浮かせて攻撃できるのは、単に見えなくした鎖を槍の柄に繋げているだけだ。結論を言えば、難しかった。

 

(考えろ……あいつを倒すならどうすんのが一番だ……!?)

 

 それでも何か拾えないかと、杏子は魔女を凝視した。

 

 黒い魔女は、背に生えた翼をはためかせた。暗紫色の羽は、蝶のように鱗粉を蒔いた。

 黒い風が建造物を止める。

 そして、ビルはあっという間に風化し……砂となって地面に落ちた。

 砂の中から、歯が現れる。使い魔のようだ。

 歯型の使い魔が、魔女の帽子のつばからもこぼれ落ちる。それらは地上の、ワルプルギスの夜の使い魔と交戦し始めた。

 

「戦ってる……?」

 

 マミの口から声が漏れた。

 恐怖に足を竦ませている暇も、魔女達は与えてくれない。

 規模が大きく、下手な横槍は自殺行為そのもの。ワルプルギスの夜が向けるビルは、勢いと精度を増している。帽子を被った魔女は、緩やかに紫色の布を振りかぶった。それに触れた瞬間、建築物は軒並みビタリと動きを止める。そして、崩壊していく。

 

 考えているだけでは巻き込まれて死ぬ。

 魔女と魔女の間、ちょうど中間地点のような場所。それが、今いるビルの立地だ。

 いつ挟み撃ちにされるか分からない。

 

 舞台上の独擅か、此岸への手招きか。

 

 どちらを選べば助かるのか、三人は決めかねていた。

 迂闊に地上に降りれば、大量の使い魔に呑まれてしまいかねない。

 さやかがきゅっと眉を寄せ、二人に指示を飛ばそうとした。

 その時。

 

「二人とも、ここは────」

「みんなぁっ!!!」




(ティロ・フィナーレとは別物になっちゃった……新しい名前を考えても良かったわね────ぇっ……鹿目、さん?)
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