ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第四十六話 魔法少女コンビ

 人であれば肉塊になるほどの一撃を喰らい、すぐに立て直して杏子は戦線に復帰した。

 反転して起き上がったワルプルギスの夜は、目新しい攻撃をしてきたわけではなかった。

 ただそれまでよりも速く、大きく、強くそこに存在していた。

 首が再生しつつあるのも厄介なポイントだった。回復はダメだろ。……魔女なんて大概理不尽なもんだし仕方ないか。

 

 足止めすんのも一苦労、と頬の血を拭いながら杏子は思う。

 本体のみならず、黒い使い魔も強くなっていた。

 状況は悪い。

 少しずつだが、ワルプルギスの夜は前進していた。

 

 とりわけ、マミの動きは精彩を欠いていた。

 ちぃっとイラつきを隠すことなく舌を打ち、杏子はマミに向け大声を出す。今のままじゃ、戦力として頼るにも心許ない。

 

「おいマミ!」

 

 その声に、マミはハッと視線を杏子に向けた。

 

「魔力が足りねーはずだ。さやかんとこ行ってきな!」

「で、でも。佐倉さんは……」

「アタシは手持ちがあるし、消費もそんなに多くねぇよ!」

 

 杖を持った使い魔を杖ごと叩き折る。

 ソウルジェムの濁りを、グリーフシードに集めた。

 

「それとも……アタシがこんな雑魚に負けるとでも思ってんのか!?」

 

 黒い使い魔からこぼれる呪詛を全て受け止めながら、杏子はまっすぐワルプルギスの夜を見つめる。

 マミはその背中を見ながら、胸元で拳を握る。

 

「……ありがとう。すぐ戻るから」

「ふん!……礼言ってる場合じゃないよ、早く!」

 

 浮いた瓦礫に線を結び、振り子の要領で跳ぶ。マミはさやかのいるリボンのビルに着いた。

 車椅子に座って、さやかが出迎える。

 マミの顔色を見るや否や、むむっと眉間に皺を寄せた。

 

「美樹さん、魔力の回復をお願いしたいの…………美樹さん?」

「……マミさん。顔色悪いですよ。無理してません?」

 

 マミは視線をきょろきょろと彷徨わせ、頬に手を触れた。

 だって、これは総力戦だ。何があっても、全力を出して悪い魔女をやっつけないと。

 私が頑張らなければ、その分佐倉さんに皺寄せがいく。

 声を震わせて、マミは言った。

 

「……私は、大丈夫よ。心配させてしまってごめんなさい……」

 

 さやかはマミの手を掴み、思いきり引き寄せる。

 水色の髪が、顔にちくりと当たった。それ以上に、どうしようもなく暖かかった。

 偽物だなんて、まだ信じられていない。

 さやかはマミの背をさすり、目を瞑った。

 

「大丈夫なんて言う人が、本当に大丈夫なわけない。全部吐き出してください。いいんです、あたしが受け止めます」

 

 さやかの心音が聞こえる。

 マミは決壊したようにぼろぼろと涙をこぼす。嗚咽し、肩に顔を埋める。

 まどかの金色の目が脳裏をよぎった。

 建物の陰に隠れてしまって、彼女達が魔女、魔法少女になった瞬間は見えなかった。

 あったのは、光と闇だけだ。

 

 喉と肺が震える。

 

「あけみさん、魔女になっちゃった。今の鹿目さんが別人に見える。記憶も戻ってない、願いもわからない、そんな私に……別人かどうかなんて分かるわけないのに……っ!どうすればいいの……誰を信じればいいの……!?」

「……待ってあげられなくて、申し訳ないです」

「っ、ワルプルギスの夜は本当に倒せるの?私は足手纏いだとしか思えない。暁美さんに手を伸ばせば、たすけられた?私のせいで、暁美さんが魔女に……いや、いやよ……そんなの……」

 

 ソウルジェムが濁っていく。

 さやかは懐から取り出したグリーフシードをかざし、汚れを取り出した。

 水色の魔力がマミに下りる。さやかは、少しだけ痛そうな顔をした。

 そして、マミの顔が少し穏やかになる。

 

「あいつはマミさんに止められたところで、無理矢理行ってました。マミさんのせいでも、誰のせいでもありません。……ただ、間違えただけですよ」

「もう、取り返しがつかない」

「いいや、まだどうにかできる。まどかもいますし」

 

 マミさん、とさやかは再度呼びかけた。

 腕をマミの肩に置き、正面から見つめる。

 泣き腫らした赤い目で、マミはさやかの顔を見返した。

 

「マミさんはまだ弱いんです!今ならあたしが勝ちますよ!……だから、一人で頑張ろうとしないでほしいんです」

「怖かったら怖いって言って。辛かったら辛いって教えてほしいです。記憶を戻してあげられるわけじゃないけど……過ごした時間は、あたし達が覚えてます。思い出すまで、生きてればいい。その手伝いくらいさせてほしいです。仲間じゃないですか、あたし達」

 

 マミは目を伏せた。

 

「……それじゃ、足手纏いになるわ」

「まだ言うかっ。ならあれ、見てください」

 

 さやかが腕をあげる。

 マミは振り向いて、ワルプルギスの夜をみた。

 炎槍が舞っている。魔を切り裂き、高らかに笑いを響かせる。

 

「一人の方が動きやすいから、とか思ってますか」

 

 図星だ。

 あいつはそれもありそうだけど、と言ってさやかは続ける。

 

「マミさんのせい、じゃない。マミさんのおかげで、あれだけ戦えるんですよ」

「──────」

「守るべき物がいるって、それだけで力が湧いてくるので」

 

 にしても暴れてんなぁ!と、さやかは熱を遮るように手で庇を作る。

 その頬は、誤魔化しきれない程度には赤くなっている。格好つけた後に冷静になって、羞恥心がじわじわと湧き出てきた。

 強引にそれを無視できるのに感謝した後、冷静になるのも欠落のせいであることに気づいてさやかは渋い顔をした。

 百面相しているさやかを見て、マミは涙を溜めたまま笑った。

 目が細まって、一筋の涙が流れ落ちる。

 

「ありがとう。美樹さんはすごいわね……あっという間に元気になっちゃった」

「本当に?本当の100%絶対にもう吐き出してないことないですか?戻っても戦えずに泣き出したりしません?」

「も、もう。記憶がないと言っても、先輩なのは変わらないのよ。からかわないでちょうだい」

 

 へへっ、とさやかが笑う。

 

「さっきまでのマミさんなら、勝てましたけど……今は難しそうです。病人に負ける人は戦場には出せませんからね〜…………本当に、立ち直ってくれてよかった」

「弱っていても、私は見滝原一の魔法少女よ。そう簡単に負ける気はないわ。あなたにも、魔女にも」

 

 マミはきりりと目を鋭くして、拳を握った。

 そうですねぇ、とさやかは目を細めて笑った。手に残っていたグリーフシードを、マミに託す。

 

「マミさん。あたし達の目的は、ワルプルギスの夜を倒して……ほむらを元に戻すことです。じゃなきゃ、本当に勝ったなんて言えません。それだけは、絶対に変えられない。変えたくない」

「──────えぇ。ここまで、来たもの。誰一人、失いたくない」

 

 さやかは安堵したようにため息をつく。

 マミの胸元に手をかざし、魔力を補った。

 

「マミさんがいれば、きっと勝てます。……振り返らないで、最後まで、強がって笑ってください!」

 

 あたし達は魔法少女ですから。

 一人じゃ心細くても、五人いれば強くなれる。

 弱音を吐いて、強がりを灯して、前を向いて歩いてゆける。

 さやかの言葉を背に受けて、マミはリボンを飛ばす。

 

 飛んでくるビルの壁面を駆け、マミは飛ぶ。

 両手から飛び出すリボンが瓦礫に巻きつき、刺さっては役目を終えてひらひらと手元に戻っていく。

 六つの魔力弾が包囲するようにマミに伸びる。腕では可動域が足りない。

 マミが空中で蹴りの姿勢を取り、ブーツの先端からリボンが伸びた。瓦礫に絡まった直後、それが一気に縮む。長い髪にちりちりとした感触を残し、マミは弾幕の間を抜けた。

 使い魔が放つ遠距離攻撃を出始めで潰し、二発目で撃破する。

 あっという間に、マミは杏子のいるワルプルギスの夜付近にまで到達した。

 

「遅れてごめんなさい!」

「へっ、早かったじゃん…………メンタルも、なんとか回復したみてーだな。よし、いっちょ反転攻勢と洒落込むかッ!!」

 

 杏子はマミをちらりと確認し、不敵に笑う。

 魔力の集中を感じたらしく、使い魔が次々に現れる。しかし、粗雑に作られたものはボロが出る。数に比例して、個々の強さはさほど。

 巴マミと佐倉杏子は、対魔法少女の実戦さえ行ったベテランなのだ。

 使い魔を葬り、二人はワルプルギスの夜に漸進した。

 その時だ。

 

 杏子を飛び越え、マミに接敵する使い魔。マミは咄嗟に生成したマスケット銃を撃ち込むが、拳に弾かれ銃を落とされた。

 浮島に飛び乗り、マミと敵が組み合う。

 低い姿勢から向けられるアッパーを反って回避し、放たれたジャブを絡め取る。

 アッパーが引き戻され、掴んでいたマミの腕に衝撃を与えた。捕縛した手を逃がされる。

 

 しかし距離が離れればマミに分がある。

 それを分かっているらしく、使い魔は距離を離そうとしない。

 

 マミは屈んで銃を撃つ。

 しかし銃口が近すぎるために、消えるような速度で使い魔は避ける。そのまま、フックで銃を飛ばした。

 体勢を崩し、地面に手をついたマミにストレートブローが襲いくる。

 頭、それも髪飾りを狙っている。

 

「分かってるわっ!!」

 

 両手と片足で軸を作り、使い魔を蹴り飛ばす。

 体勢を崩したのはわざとだ。本物の格闘家ならば警戒し、後退しただろう。

 しかし、黒いものはただの使い魔でしかない。流麗な踵回し蹴りを喰らい、使い魔は吹っ飛んだ。

 追撃を避けきれず、ボクサーのような使い魔は魔力に還る。

 

 ワルプルギスの夜は笑い声を響かせる。

 ボクサーと同じか、それより強いと思しき使い魔が数体。マミに接近した。背後を取って襲い来る。

 マミはそれらを迎撃しつつ、ワルプルギスの夜に近づくように後退した。

 その背に、赤い服が触れた。

 背中合わせのまま、口元を綻ばせる。

 

「単純な手ね。だからこそ有効ではあるけど」

「アタシらが対処できないって?そりゃあ見くびりすぎってもんだ」

 

 マミの左手と杏子の右手がぐわっと組む。

 二人を囲んだ使い魔群が、一斉に襲いかかる。

 杏子には遠距離攻撃、マミには速度を伴った近距離攻撃。

 

 使い魔の猛攻に対し、魔法少女達はぐるんと半回転した。

 

 矢も毒も魔法も、リボンから出来た球状の弾丸に撃ち落とされる。

 刃も槌も拳さえ、紅く伸びる槍の速度を超えられない。一突で一殺する。

 

 策が単純であれば、返す手もまたシンプルだ。戦う相手を交代すればいい。

 敵を処理し、杏子はほむらが変異した魔女を確認する。

 横腹に衝撃が当たる。使い魔の気配はしなかった。それは、マミによるものだった。

 マミはワルプルギスの夜を見ていたはずだ。彼女は切羽詰まった声音で叫ぶ。

 

「佐倉さんっ、避けて!!」

 

 不味い、という言葉が脳裏に浮かぶ頃には、巨大な藍色が二人を押しつぶさんとしているところだった。

 突き飛ばされ、杏子はごろごろと地面を転がり飛び起きた。

 大きさに見合わぬ速度で、ワルプルギスの夜は彼女達を叩き潰した。

 杏子は退けられていく袖の下敷きとなったマミを見つけた。

 

「──────ッ!お前っ……マミ!!」

 

 マミの額から赤い血が流れていく。

 杏子は倒れるように前に飛び込み、ワルプルギスの夜の二撃目を回避した。

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