ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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第五話 早乙女和子は別れる

 爽やかな日差しが通学路に降り注ぐ。

 今日もさわやかさやかちゃん。

 わを抜けばあたし、入れればなんともいい感じの朝。そんな感じでしょうもないギャグを仁美に言ったら無言の微笑で流された。ながすなー。

 さやかと仁美が歩いていると、後ろから声がかかった。

 

「おはよー!」

「おはようございます」

「おはよ……うえ!?」

 

「おはよう!さやか」

 

 まどかの肩に乗ったキュゥべえが言う。

 さやかはなんと言えばいいのか分からず、わたわたと手を動かすだけだ。そんなさやかを仁美が不思議そうに見つめた。

 

「あ、あが……」

「どうかしましたか、さやかさん」

 

 そわそわとさやかはまどかとキュゥべえに話しかける。

 

「やっぱそいつ、あたしたちにしか見えないんだ……」

「……そう、だね。えへへ」

 

「あのー……」

 

 仁美が怪訝そうな顔をする。慌ててさやかが誤魔化しに入り、二人は歩き始めた。

 後ろからまどかが見つめる。

 

(頭で考えるだけで、会話とかできるみたいだよ)

 

 さやかがびくっと肩を震わせ、期待と困惑が入り混じる表情をまどかに向ける。

 

(あたしたち、もう既にそんなマジカルな力が!?)

(いやいや、今はまだボクが間で中継しているだけ。でも、内緒話には便利でしょ?)

(……なんか、変な感じ)

 

「お二人とも、さっきからどうしたんです?しきりに目くばせしてますけど……」

 

 その言葉にまどかが慌てる。

 

「えっ!いや、これは……あの、その」

 

 仁美が学生鞄を取り落とした。

 

「まさか二人とも、既に目と目で分かり合う間柄ですの……!?まぁ!たった一日でそこまで急接近だなんて、昨日はあの後一体何が……!?」

「いや、そりゃねーわ流石に……」

「確かに色々、あったんだけどさ……」

 

 あんな体験は普通の女子中学生には少々ハードだった。

 まどかは苦笑いしている。

 そして、仁美の勘違いは止まらない。

 

「でも、いけませんわお二方!女の子同士で、それは禁断の、恋の形ですのよ~!」

 

 二人の隣を飛び出していく仁美。止める間もなく道の先に消えていった。

 さやかが「バッグ忘れてるよー!」と仁美の鞄を振る。しかし聞こえていなさそうなのでさやかの持ち物は二つの鞄となった。

 

「今日の仁美ちゃん、なんだかさやかちゃんみたいだよ……」

「どういう意味だよそれはー!」

 

 

 がやがやとした喧騒が響く。

 二人は教室に入り、先に座っていた仁美にぺこりと謝る。仁美は拗ねているようだ。

 悪いことしちゃったな、と思いながらまどかは自分の席についた。

 さやかがキュゥべえを呼ぶ。

 

(つーかさ、あんたのこのこ学校にまでついてきちゃって良かったの?)

(どうして?)

(言ったでしょ。昨日のアイツ、このクラスの転校生だって。アンタ命狙われてるんじゃないの?)

(むしろ学校の方が安全だと思うな。マミもいるし)

(マミさんは三年生だから、クラスちょっと遠いよ?)

 

(ご心配なく。話はちゃんと聞こえているわ)

 

 ぅわ、とさやかが小さく声を上げた。

 頭の中に新たな人の声が聞こえ、まどかとさやかは狼狽える。しかしマミの声だと分かり、それもすぐに落ち着いた。

 

(この程度の距離なら、テレパシーの圏内だよ!)

(えっ、と……おはようございます!)

(ちゃんと見守っているから安心して。それにあの子だって、人前で襲ってくるような真似はしない筈よ)

(ならいいんだけど……げっ)

 

 二人の視線の先には、暁美Mほむらの姿があった。

 昨日まではただの無表情に見えていたその顔も、あんな姿を見た後では恐ろしく思えた。何食わぬ顔でいるじゃん、とさやかは眉を顰める。

 

(噂をすれば影)

 

 昨日マミさんにした質問の内容は覚えている。まだ忘れられるほどの時間も経ってない。

 

「あの転校生も、えっとその……魔法少女なの?マミさんと同じ……」

「そうね、間違いないわ。かなり強い力を持ってるみたい」

「でもそれなら、魔女をやっつける正義の味方なんだよね?それがなんで、急にまどかを襲ったりした訳?」

 

 キュゥべえがその身を起こす。

 

「彼女が狙っていたのはボクだよ。新しい魔法少女が生まれることを、阻止しようとしてたんだろうね」

 

 記憶の中のマミさんの表情に影が落ちる。

 さやかが尋ねた。

 

「なんで、同じ敵と戦っているなら仲間は多い方がいいんじゃないの?」

「それがそうでもないの。むしろ競争になることの方が多いのよね」

「そんな……どうして」

 

「魔女を倒せば、それなりの見返りがあるの。だから、時と場合によっては手柄の取り合いになって、ぶつかることもあるのよね」

「つまりあいつは、キュゥべえがまどかに声かけるって最初から目星をつけてて、それで朝からあんなに絡んできたってわけ」

「多分、そういうことでしょうね……」

 

 マミさんの自室で聞いた話、整理した上ではほむらという人物を警戒すべきだと結論付けられた。さやかの中でも、他の二人も異論はない。

 ほむらは首をかしげて、まどかを見つめている。

 警戒心に従って、さやかはまどかに思念を飛ばす。

 

(気にすんなまどか!あいつがなんかちょっかい出してきたら、あたしがぶっ飛ばしてやるからさ!マミさんだってついてるんだし~)

(そうよ。美樹さんはともかくとして、私が付いているんだから安心して)

(ともかくってゆーな!)

 

 

 早乙女和子・ワカレール先生。少し前までは口癖のように「彼とは絶対に別れません!一生一緒にいるんですよ!おほほほ……」と言って幸せそうにしていたのですが、今は愚痴がトレンドのようです。その話をしていた日のわたしは、お母さんの睨んだ通りになっちゃったなんて益体もないことを考えてました。

 今日の授業は途中で変なことを言い出すわけでもなく進行しています。早乙女先生は教え方が丁寧で、時々変な例えをする以外は分かりやすくて助かっています。

 さやかちゃんはぐっすり寝ています。キュゥべえも目を閉じて寝息を立てていて、わたしはくすりと笑ってしまいました。

 

 まどかが何か書き込もうとしている。

 ノートには英単語ではなく、スケッチのようなものが描かれていた。小物は可愛らしいものばかりで、少女たちが描かれている。

 特徴的なリボンはまどかのものだ。もう一方のページには、マミの魔法少女すがたが詳細に描写されていた。ほむらもいる。マミと同じように、まどかの服装はふわふわとしたコスチューム……魔法少女の姿をしていた。

 それを眺めて、まどかはこっそり微笑んだ。

 

 碧い空を白い鳥が飛んでいく。

雲も、鳥も、建物も白ばかりだ。校舎の屋上にまどかとさやかはいた。

 お弁当の卵焼きをキュゥべえにあげる。

 

「ねぇまどか、願い事、なんか考えた?」

「んーん。さやかちゃんは?」

「あたしも全然。なんだかなぁ、いっくらでも思いつくと思ったんだけどなぁ……欲しいものもやりたいことも、いっぱいあるけどさ。命がけってところでやっぱ引っかかっちゃうよね。そうまでするほどのもんじゃねーよなーって」

「うん」

 

 さやかは立ち上がり、交差された鉄網に手をかける。

 

「意外だなぁ、大抵の子は二つ返事なんだけど」

 

 さやかの髪が風に揺れる。苦笑した顔でこちらを向いた。

 まぁきっと、と前置きしてさやかは呟く。

 

「あたしたちがバカなんだよ」

「えー、そうかな……?」

「そ。幸せバカ……別に珍しくなんかないはずだよ、命と引き換えにしてでも叶えたい望みって。そういうの抱えている人は、世の中に大勢いるんじゃないのかな」

 

 がしゃ、と鉄網を掴んだ。力を入れた指が、鉄網に食い込む。

 

「だから、それが見つからないあたしたちって、その程度の不幸しか知らないってことじゃん」

 

 病室のベッドの上、細い人間がいる。さやかは目を閉じれば思い出せた。

 

「恵まれすぎて、バカになっちゃってるんだよ」

 

「なんで、あたしたちなのかな……」

 

 さやかは振り返って、キュゥべえを視界に収める。

 

「不公平だと思わない?こういうチャンス、本当に欲しいと思ってる人は他にいる筈なのにね」

「さやかちゃん……」

 

 ぶわっと黒髪が風にあおられる。

 屋上と階下の出入り口に、彼女が立っていた。ゆっくりとしかし確実に、まどかの方へと歩いていた。

 さやかが守るように立つ。

 

(大丈夫)

 

 声がした方を見れば、塔の中でほむらを牽制するマミの姿があった。彼女は強い。制服姿のままでいても、すぐにほむらを取り押さえられるだろう。

 ソウルジェムKの光がまどかたちまで届いた。

 

 マミの方を見ながら、ほむらは二人の前に立つ。

 

「……昨日の続きかよ」

「いいえ。そのつもりはないわ」

 

 キュゥべえを見やり、視線と同じ冷たい声色で続ける。

 

「そいつが鹿目まどかと接触する前にケリをつけたかったけれど、今更それも手遅れだし」

 

 視線はまどかを向いた。

 まどかはキュゥべえを抱え、心細そうな顔をしている。

 

「で、どうするの。魔法少女になるつもり?」

「わ、わたしは……」

「あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ!」

 

 さやかが噛みつくが、ほむらは意に介さない。

 

「昨日の話、覚えてる?」

「う、うん……」

「ならいいわ。忠告が無駄にならないよう、祈ってる」

 

 それだけ言って、ほむらは立ち去る。

 まどかはそれを呼び止めた。

 

「ほむらちゃん!あ、あの……」

 

 ほむらは歩き続ける。

 

「あなたは、どんな願い事をして魔法少女になったの!?」

 

 足を止め、まどかを見た。

 しかし、ほむらは何も言わずに去っていった。

 

 教室に戻るまでの短い間、三人で塊になって喋る。

 やはりというか、話題の中心はほむらちゃん。さやかちゃんはほおを膨らませて二人にいろいろと言い募った。

 

「やっぱいけ好かねーやつですよ。どうせ願いも自己中極まりないよあんなの、気にするだけ損損!」

「あはは……でも、優しいよ?ほむらちゃんは」

「どーこーがー!?はー、これだからあんたは……いい!?悪い奴に引っかかる前に、そのぽわぽわしたところは捨てるんだ!じゃないと、とんでもないものを引き寄せてしまう……!」

 

 そう言って、さやかはまどかを脅した。

 ひええ、とまどかは怖がりつつも楽しげだ。マミはそれを微笑ましげに見つめる。

「でも、それが鹿目さんの良いところよね。変わってもらうんじゃなく、私たちで守るべきじゃない?美樹さん」

「それは、そうなんですよ。ほんとに。まどかが悪い虫引っ付けるくらいならあたしが貰います」

「あら、それはずるいわ。仲良く分け合いましょう?」

「ちょ、ちょっと二人とも……!?」

 

 さやかは出任せ三割、本気七割で言っている。

 真剣すぎる顔を見て、まどかは困惑で顔の様子をくるくる変えた。

 まぁ冗談だけどね、と言ってマミが言う。

 

「暁美さんには悪いけれど、私も気になるわ。彼女の願いは」

「実はまどかと会ってて、まどかとまた会いたいとか願ってたり!?」

「えぇ……?違うでしょ……たぶん」

 

 そんなこんなで、廊下で別れるまで三人は歓談に花を咲かせた。

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