ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ 作:カイテン・マテナカータ
「なるほどね。君がこの件の首謀者だったってわけか。鹿目まどか」
「っ、てめえ!どのツラ下げて……!」
ピンク耳のキュゥべえがぴょこんと飛び出す。
まどかはこくりと頷き、目を瞑った。
「ほむらちゃんを自由にしたって意味では、そう。あなたは来るよね。わたしを無視すれば、大変なことになるだろうから」
「異常個体の言葉に耳を貸したくはないけれど、事実だった時のリスクが大きすぎた。それにしても、ワルプルギスの夜の進路さえ変わるとは思っていなかったけど」
キュゥべえ・ケンジャノッチも驚いていたよ。と、キュゥべえ
そして、とキュゥべえは言葉を重ねる。
「暁美ほむらが魔女になり……君の手によって戻された。一体何をしたんだい?ボクらには理解できないよ。君のやったことは魔法少女に許される次元を超えている。人の身でこんな真似をすれば、
「うん。……だから、わたしは魔法少女になる」
どんな願いを叶えるんだい、とキュゥべえは言う。
ぽろぽろと体が崩れゆくのを見て、まどかは目を瞑った。
「鹿目さんっ!!あなたまで……あなたまで失うわけにはいかないの!お願い……お願い……!」
マミは身を引きずりながら、必死にまどかに回復の魔法をかけた。
それでも、金色の亀裂からはきらきらとした欠片が溢れ続ける。右目が点滅するように桃色と金色を行き来する。
まどかは苦しげな顔をし、柔らかく笑った。
リボンをほどき、赤いそれをマミの手に乗せた。
「私の願いは────────────」
「全ての魔法少女が救われること」
ソウルジェム・コワセナイーノが生まれる。
黒い雲が晴れ、青い青い空が露わになった。
さらさらと鎧と刀が崩れていく。魔法陣がそっと演奏をやめた。
もう一つのリボンが、まどかの手の中にあった。光の柱に包まれながら、まどかは急いでほむらにリボンを結ぶ。
少々不恰好ではあるものの、結べたことに満足したまどかは立ち直した。
「具体性のない願いだね。契約を履行するのに異論はないけど、その願いは叶えられない────」
「いや、できるよ。わたしはずっと、魔法少女だったんだから」
鹿目・コトワレーヌ・まどかはソウルジェムを掴み、変身する。
存在そのものが変質していく。
変質に負けないように、まどかは声高らかに宣誓する。
「私はもう、魔法少女を絶望させない。もう、断れない私じゃない。わたしは─────────鹿目・コトワラーヌ・まどかだから!」
さやか・M・オーゲンは沈黙した。
ほむら・A・マドカスキーは目を閉じていた。
マミ・T・スグシヌワはただ茫然とその姿を見つめていた。
杏子・S・ミカータは気分悪そうに舌打ちした。
髪が伸び、真っ白なドレスに身を包んだまどかが微笑と共に魔法少女たちを視界に認めた。
車窓を拭くワイパーのように、まどかの手が流れた。
全てが、廻った。
時も空もない場所で、ほむらが眠っている。
インキュベーターがどこかを歩き、何かに消える。
ほむらのそばにまどかが立っている。
「起こさないの」
青髪の少女が尋ねる。
金眼が閉じ、ふるりふるりと頭を横に振った。
車椅子に座ったまま、魔法少女は腕を肩の上で組んだ。
「あんだけ苦労したんだから、ちょっとぐらい悪戯しない?全部忘れるんだから、今なら何やったっていいんだよ」
さやかの目は笑っているが、奥の方には光がない。
まどかはジト目を向けた。悪びれる様子もなく少女は肩をすくめる。
「冗談冗談。半分は本気だけど。……ねえ、まどか。あんたのことを覚えてられるやつは殆どいないの。あたしはそりゃ覚えてるけど、あんたの一部として覚えてても一人なのは変わんないじゃん。これから、ずーっと一人なんだよ」
まどかは少しだけ眉を八の字にして、もう一度ほむらを見た。
「誰も覚えてないなんて、そんなのは嫌でしょ。少しでもいいから、何か残してあげな」
ほむらだって嫌なわけないし、と言って少女は車椅子を反対方向に向けた。
まどかはひどく考え込み、宇宙が再編されるほどの時間が経った。
或いはその時間は1秒にも満たないのかもしれないが、まどかとさやかにとっては途方もない時間だったことは間違いなかった。
まどかの純白が少しずつ金色の粒子へ変わっていく。
あ、とさやかが声をあげる。
「全然動けないと思ったらそうじゃん。ここじゃまどか以外動けないんだった。そんじゃ、お邪魔虫は退散しましょ〜っと」
さやかは粒になってまどかの胸元、連なるソウルジェムに吸い込まれていった。
まどかの身体が金色の火の欠片にほどけていく。感覚の消失に抗うように、まどかの髪がふわりと広がった。
まどかは誰もいない虚空のなかなのに、やや頬を染めて周囲をきょろきょろと見渡した。
本当に誰もいないことを確認して、まどかは唇をほむらに近づけた。
眠るほむらのおでこにまどかの唇が触れた。
短い間ののち、まどかはすぐに離れる。その顔は、別れを惜しむ寂寥に沈んでいた。
白布がほろほろと焼き消えていく。そしてゆっくりと、まどかの服はいつかの魔法少女としての装いへ戻っていた。はくはくと口を開き、声が出ないことに少し驚く。
宇宙空間でもあり声というもの自体がないのでは、言葉を発するのは簡単ではなかった。
分身であるさやかにさえ、状況を理解することはできない。
まどかだけが、自分自身がどうなるかを正しく理解していた。
は、と小さく息を吐いた。
少し声が震える。
ほむらの寝顔を見ながら、まどかは微笑んだ。
「ほむらちゃん、大好きだよ」
ポンっと間抜けな音がして、マミは我に帰る。
戦っている途中だったはずだが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。死ななかっただけ幸運だ。
周囲を見ると、魔法少女が二人倒れていた。
そばには一人立っている。
「佐倉さん!二人は!?」
「……無事なんじゃねーの。あんたが寝てるからちったぁ心配したけど、単に眠ってるだけっぽいし」
「そう、なのね……ありがとう」
恐らく敵を倒してくれたのも杏子だろう、という気持ちを込めてもう一度感謝する。
びくっとして青髪の少女が飛び起きる。
「卵かけご飯には醤油しかない、げほっ!ん、あ!?」
「どんな夢見てんだよ」
「朝食じゃないかしら」
「あぁ……あたしの卵かけご飯鍋……」
「じゃあ夜だな」
「何を食べてるの?」
そう言いつつ、車椅子に乗ったままさやかはへへへと頭をかく。
「危ない危ない。なんとかなってよかったわー」
「後方支援が前線に出るなっての。何回言っても聞かねーなてめぇ」
「遠すぎると届かないんでー。怪我しないようになってから言ってもらえる?」
額がぶつかって硬い音がする。
マミが仲裁しようとしたところで、黒髪の少女が目を覚ました。
「ん……ぁれ……ぉはようございぁす……っ、え!?」
「寝ぼけた野郎しかいないね」
「野郎がまずいないけど」
「はいはい。全員無事で何よりよ……暁美さんも、怪我はない?」
暁美ほむらは立ち上がって、自分の体を確認する。
シックな魔法少女服には目立った傷、汚れはなく、手に握っていた弓も細工をされているような感触はない。赤縁の眼鏡も無傷でそこにある。
やがて、ほむらは顔を上げた。
「はい、大丈夫です。問題ないです!」
ぱさ、とおでこに柔らかい感触があった。
「あれ?」
「そんなのつけてたっけ?」
「いえ、そんな覚えは……これ、リボン?」
少しよれているものの、可愛らしい赤のリボンがそこにあった。
解いて手に乗せた。
見覚えがあるような、妙な感覚を覚える。どうしてか手放す気にはなれなかった。
ほむらは河原に座っていた。
すると、元気な声が近づいてきた。
「まろか!まろかー!」
「わっ……ま、まろか……人の名前……?」
「まどか、って言ってるのさ」
小さい子のじゃれつきを受け止めていると、凛とした声がほむらの耳に届いた。
父親と子供が遊んでいるのを見ながら、ほむらと詢子は草に座る。
「たつやが小さい頃からの友達でね。イマジナリーフレンド、っていうのかな……よく描いて見せてくれるんだ」
「そうなんですね……」
「アニメのキャラクターとかでもなかったと思うし、心当たりはないんだけど。時々、すっごく懐かしい響きに思える」
「どこかで、会ったのかも?」
ほむらがそう言うと、少し目を見張って詢子は考えた。
しかし程なくして、だぁっと思い切り草に寝転んだ。
「かもしれないね。物覚えは良い筈なんだけどな……」
ま、分かんないからしょうがないけどねと詢子は空を見上げて呟いた。
ほむらは詢子をじっと見て、懐からリボンを取り出した。目ざとく確認した詢子は顔を寄せた。
「可愛いねそれ。付けてみる?あ、でもその黒いのも似合ってるし……外さなくてもいっか」
ほむらは少し考えて、つけていた黒いカチューシャを外した。
「いえ、いやじゃなければ……お願いします」
「おっ、任せときな〜。つっても、すぐ終わるだろうけど……とか言ってる間に、ほら」
手慣れた様子で詢子の手が黒髪を回った。
あっという間に赤いリボンが結ばれる。
一つのリボンであったため、結ぶのはいくらか難易度が高かったが……詢子はつまずくこともなくするすると結うた。
小さな蝶々結びの先がほむらの横髪に触れた。
髪をかき上げ、ほむらは詢子に尋ねる。
「どうですか?」
「うん、バッチリ。ファンクラブが作られちまうくらいだ」
「え、そんな……ないですよ、私なんかに」
ほむらはそう言って謙遜したものの、詢子が譲ることはなかった。
「いーや、あるね。君みたいな子こそ、陰で噂されてるよ。イメチェンすればなお増える。ま、こんなこと言ったとこ困らせるだけかね」
好きにしなよ、と言って鹿目M詢子はほむらの背に手を置く。
軽く、ぽすぽすと背中をはたかれた。
よろけつつ、ほむらは下の方でこちらに手を振っている二人を見た。遠慮がちに手を振り返し、ほむらはそこを離れた。
橋の上を髪先が二股に分かれた少女が走る。
少女はほむらを見つけ、駆け寄って抱きついた。
「暁美さんっ!!」
「わっ、と、巴さん!?どうしたんですか……?」
「鹿目さんが、鹿目さんがいないの……あれで彼女の願いは叶ったの?もう戻ってこられないの!?」
なんで忘れていたのか分からない、と言い混乱している様子のマミ。
それと同じだけの疑問を抱えていたが、ほむらはともかく話をするためにマミの体をぐっと押した。
肩を掴んだまま、ほむらは喉を震わせる。
その答えに、マミの瞳孔がきゅうと収縮した。
「…………すみません、誰のことですか?」
まともに開かなくなった目を擦る。
ぼろ外套を被ったそれは、頭布からツインテールを覗かせていた。
空にざわめきが走り、異形が姿を現す。
周囲に顕れた魔獣を、長銃が消しとばす。その拍子に、外套のフードが取れた。
螺旋を描いて巻いたツインテールを作っていた髪飾りが落ち、ふわりと解放されたロングを黄色い花飾りが留める。
前を見上げ、中空の光を掴み取る。
マミの合わせた掌には、桃色の紡糸が置かれていた。
「やっと」
マミは呟く。
大量の魔獣がマミを囲んでいるのがわかった。
それさえ、今の彼女にとっては些事に過ぎなかった。
一斉にマスケット銃を咲かせ、糸を高く放って両手を鳴らした。轟音と共に弾丸が魔獣を駆逐していく中、マミはもう一度桃色の糸を手に取った。
一瞬、マミは眩暈に襲われた。
ふらつきながらも、掃射はずっと続いている。
手元に一本銃を出し、杖として使う。
「見つけた」
ただ一人で、自分さえ信じないままここにきた。体は限界だった。
それでも、己の目的だけは漸く成就する。
「みんなで、帰るの……」
が、しかし。
頭に身体が追い付かないまま、マミは一歩踏み出して地面にくずれた。
淡く光る紡糸が器の近くに転がった。
魔法少女の救いは、未だ訪れていない。
次回更新日は未定です。
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