ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ 作:カイテン・マテナカータ
ロッカーから鞄を取り出す。
志筑N仁美は帰る準備をしていた。そこに、さやかからの声が届いた。
「ごめん、仁美、今日はあたしら野暮用があって」
「あら、ナイショ事ですの?」
そういうと、まどかがえっとと言葉に詰まる。
仁美は少し大袈裟なくらい嘆いた。
「羨ましいですわ……。もうお二人の間に割り込む余地なんて、ないんですのね~!!」
通学路の時よろしく、仁美は走ってどこかへ行ってしまった。また稽古事だろうか。
あはは、とまどかが苦笑する。いや、だから違うってそれ……というさやかの言葉が虚しく廊下に響いていた。
「暁美さん!」
鞄を持ったほむらに、気さくに話しかける二人組。
彼女のクラスメイト達だった。
「今日こそ帰りに喫茶店寄ってこ!」
ほむらは得意ではなさそうな愛想笑いで答える。
「今日もちょっと、急ぐ用事があって。ごめんなさい」
そう言われては無理に誘う訳にもいかない。二人が顔を合わせる横で、ほむらは歩いてどこかに消えた。
蓋つきの紙コップをトレーに置き、マミが話し出す。
デパートまで三人で来たのだった。
「さて、それじゃあ魔法少女体験コース第一弾。張り切って行ってみましょうか。準備はいい?」
「準備になってるかどうか分からないけど────」
がこ、と鈍い音がする。覆いをとれば、さやかは野球少女だ。
バットを武器にするらしい。
「持ってきました!何もないよりはマシかと思って……」
「まぁ、そういう覚悟でいてくれるのは助かるわ……」
「まどかは何か持ってきた~?」
あまり考えていなかったまどかは、そういえば一つだけ持ってきたものがあった事を思い出した。
「え、えっと、わたしは……」
授業中にも書いていたノートを見せる。
そこにはほむらとマミの魔法少女姿と、まどかが変身したものと思われる少女の姿があった。
「とりあえず、衣装だけでも考えておこうと思って……」
二人は揃って笑い出す。
まどかはあわあわとその二人を交互に見つめたが、やがて顔を赤らめて下を向いた。
「そうね、意気込みとしては十分ね……」
「こりゃ参った、あんたには負けるわ」
揶揄われてしまいました。恥ずかしい。
まだ改装中の区画に足を踏み入れ、マミは二人にソウルジェムを見せる。
決して壊せないといっていたそれは、ちかちかと光っている。
「これが昨日の魔女が残していった魔力の痕跡。基本的に、魔女探しは足頼みよ。こうしてソウルジェムが捕える魔女の気配を辿ってゆくわけ」
「意外と地味ですね……」
外は夕焼けに染まっている。
歩道を歩きながら、魔女を探した。
「光、全然変わらないすね……」
「取り逃がしてから、一晩経っちゃったからね……足跡も薄くなっているわ」
「あの時、すぐ追いかけていたら……」
「仕留められたかもしれないけど、あなた達を放っておいてまで優先することじゃなかったわ」
まどかはアスファルトを見つめながら、少しだけ黙った。
「ごめんなさいっ」
「ふふ、いいのよ」
「うーっ!やっぱマミさんは正義の味方だぁ!それに引き換え、あの転校生、ほんとにむかつくなぁ!」
まどかはほむらが振り返った時の事を思い出す。
屋上で、陽光に照らされた彼女の顔からは何も読み取ることはできなくて。
でも、どこか悲しそうだった。
「本当に、悪い子なのかな……」
ふらふら、廃屋に入り込む女の姿があった。
それとは別の場所で、さやかがマミに尋ねる。
「ねぇマミさん。魔女のいそうな場所、せめて目星くらいはつけられないの?」
「魔女の影響でわりと多いのは、交通事故や傷害事件よね。だから大きな道路や喧嘩が起きそうな歓楽街は優先的にチェックしないと。あとは……自殺に向いてそうな人気のない場所」
金属の階段を昇り、女は上へと向かっていく。導かれるように。
「それから、病院とかに取りつかれると最悪よ。ただでさえ弱っている人たちから生命力を吸い上げられるから、目も当てられないことになるわ」
光が俄かに強くなる。
女は柵に乗り上げようとしていた。
同じ建物に三人がやってくる。
光は更にチカチカと点滅速度が上がっている。
「ここよ」
「あっ、マミさんあれ!」
上を見れば、人影があった。
それは躊躇いなくこちらへと向かってきた。
まどかが悲鳴を上げる中、マミはリボンをほどきながら駆け出す。変身までは一瞬だった。
気迫に満ちた掛け声とともに、魔力のリボンが張り巡らされる。ほどなくして、それに受け止められた女がゆっくりと地面に降りてきた。
地面にそっと置かれた彼女をマミが観察する。その首には、マークのようなものが入っていた。
「……魔女の口付け。やっぱりね」
「この人は……?」
「大丈夫、気を失っているだけ。行くわよ」
屋内に入る。
階段の先に異形への門が開いた。
「今日こそ逃がさないわよ」
そう言って、マミはさやかのバットを握る。うねうねと形が変化したかと思うと、バットは銀色の装飾付きバットになった。
さやかは言葉にならない声を上げ、まどかは感嘆する。
「気休めだけど……これで身を守る程度の役には立つわ。絶対に私のそばを離れないでね」
「「はい!」」
さやかとマミはすぐ入り、まどかは一拍遅れて入る。
彼女達の様子を、暗紫色の瞳が見ていた。
薔薇の花を、髭面の綿毛が運んでいる。綿毛の数は数えるのもばからしくなるほど膨大で、長い道が続いていた。
三人が道を行くと、多眼の怪蝶が飛んでいる。
マミは銃を取り出し、それらを撃ち抜いた。しかし一匹では到底収まらない。それらは彼女達を追いかける。
銃をおもむろに捨て、マミは走り出した。二人はついて行くしかない。
「うーくんな、くんなぁっ!」
さやかが銀色になったバットをふりまわす。バリアのようなものが展開され、ひげ蝶の攻撃は通らなかった。
「どう。怖い?二人とも」
「ぅ、なんてこと、ねーって!」
蝶の数が増える。群れとでも呼べるほどになってきた。
マミは二人を制止した。
銃を取り出して、構え即射撃。小さなやつは銃身で殴りつけていた。
飛び散った蝶の破片が集まり、さやかとまどかを狙う────が。
動き出す直前にマミが蹴り抜いてそれらは四散した。
綿毛に厳しい表情は、こちらを向いた時には柔和で優しげな顔つきに戻る。
マミは踊っているようだった。
まどかは思った。
「怖いけど、でも……」
かっこいい。
何度見ても、その美しさに目を離せなくなるまどかだった。
見惚れすぎてぼけっとしてたら襲われ、あわや死にかけた。二人共から怒られ、深く深く反省した。
三人は走る。
まどかが抱っこしたキュゥべえが告げる。
「頑張って!もうすぐ結界の最深部だ」
じゃきじゃきと髭付き綿毛が鋏を鳴らす。
赤いヒールの靴が幾つも投げられて飛んでいた。
マミは跳び、両手を広げる。眼前に銃が展開される。
マミは綿毛ら一体一体を、銃弾一発で仕留めていった。大きな蝶が何匹も舞い上がった先には、一枚の扉があった。
間抜けな効果音と共に扉が開く。開く。開く。開く。
開いた先に、それはいた。
大きな身体は赤か橙色のようなもの。黒い足が何本も蠢き、背中には蝶の羽が羽ばたく。顔と思わしき緑色のゲルじみた何かには、薔薇の花が乗っていた。
「見て。あれが魔女よ」
「うわっ、グロい……」
「あんなのと、戦うんですか……?」
「大丈夫。負けるもんですか」
マミは銃を掲げ、地面に突き刺す。
それが光ると、結界のようなものが展開された。
「下がってて」
地面にマミは降り立つ。
地面には薔薇があった。ヒゲ蝶の幼生のようなものが何匹もいる。そのうちの一つを踏みつぶした。
薔薇と蝶の魔女が反応する。マミを見つけたようだ。
マミはスカートから銃を取り出す。
魔女は座っていた巨大な椅子を投げつける。倒れかかってくるそれを、マミは銃撃で阻害した。
ドーム状の天井を魔女が這いまわる。異形が高速で動くさまを見ると、どうしても嫌悪感が生まれた。
そんな嫌悪感さえ撃ち消すようにマミは動き出す。
頭に付けたトーク帽を外し、その中から銃を生み出す。何本も。銃やそこらでは足りない数の銃を、マミは地面に刺して置いていた。
彼女の銃は単発銃。故に、銃をたくさん用意して撃つのが最適解だった。
撃って、投げ捨てた。撃って投げる。撃って投げる、撃って、撃って撃って撃って撃って穿つ。
魔女はすばしっこく、銃撃は未だ当たらない。
足元に違和感がある。
足を見れば、先程の幼生が群れて足から登ってくるところだった。
それらは束ねられ、一本の黒い縄となる。
縄は魔女に繋がっており、魔女が動かしているようだ。
マミは苦し紛れに両手に持った銃を撃つ。
しかし、身体の制御が利かない場では狙いがブレる。地面を穿つだけだった。魔女は縄を鞭のように壁へと叩きつけた。
動けないマミを見て、さやかとまどかの表情が不安、絶望へ変わる。
鞭を持ち上げ、魔女はマミを逆さづりにする。
「あ、ぁ……」
「マミさぁーーーんっ!!」
宙ぶらりんのまま、マミは目を開ける。
「大丈夫」
地面を撃った穴から、幾筋もの糸が伸びる。
「未来の後輩に、あんまり格好悪い所見せられないものね!」
魔女は宙吊りのマミへ攻撃しようとする直前、その糸に気付いた。
糸が地面から伸びたことで、薔薇の花の花びらが、崩れていく。一枚一枚の花弁へと形を変えていく。それを見て、魔女は慌てた。攻撃を中断し、薔薇に駆け寄る。しかし、綿毛も同じように薔薇が崩れぬよう動くが、そのための動き方を持たないようだった。
音もなく魔女のゲルがはじける。驚いた、のかもしれなかった。大量に伸びた糸は魔女に巻き付き、一瞬で縛り付けたのだ。
魔女は心なしかしぼんだ。薔薇が力の源だったのだろうか。
「惜しかったわね」
マミがそう言って、胸元の黄色いリボンをほどく。
ひゅぱ、と彼女を拘束していた鞭を切り裂いた。
そのリボンは渦を巻き、元の質量を超えたように見えた瞬間巨大な銃へと変わる。銃口は魔女、狙いは全く外れない。
魔女がもがく。マミは片目をつぶった。
「ティロ・フィナーレ!」
莫大な魔力弾がほとばしり、魔女を撃ち抜く。
薔薇園の魔女が死んだ。
蝶の群れが飛んでいく。
マミは紅茶を手に持って、まどかとさやかへ微笑んだ。
「勝ったの?」
「すごい……!」
元に戻った廃屋で、落ちている何かをマミは拾う。
「これがフエル・グリーフシード。魔女の卵よ」
「タ、タマゴ……」
「運が良ければ、時々魔女が持ち歩いていることがあるの」
「大丈夫!その状態では安全だよ。むしろ役に立つ貴重なものだ」
手にソウルジェムを置き、マミは説明する。
「私のソウルジェム、ゆうべよりちょっと色が濁っているでしょう?」
「そういえば……」
「でも、グリーフシードを使えば……」
そうしてソウルジェムとグリーフシードを近づけると、ソウルジェムから黒い何かが飛び出してグリーフシードへと入っていく。
ソウルジェムは輝き、それまでよりも明るくなった。
「あっ、綺麗になった……」
「ね?これで消耗した私の魔力も元通り。前に話した魔女退治の見返りっていうのが、これ」
そういうと、突然マミはグリーフシードを暗い部屋へと投げ込んだ。
え、と二人が驚く最中、それをキャッチする音が聞こえた。
ほむらだった。
「あと一度くらいは使える筈よ。貴方に上げるわ。暁美Mほむらさん」
「それとも、人と分け合うんじゃ不服かしら?」
「……あなたの獲物よ。あなただけの物にすればいい。ただ、一つ質問してもいいかしら」
そして、ほむらはグリーフシードを投げ返した。
マミはそれを受け取った。表情には険が滲んでいる。
マミが突き放すように答える。そして、ほむらは静かに言った。
「……そう。それがあなたの答えね。いいわ、最後だもの。今後あなたに協力することはないわ」
すっと頷き、ほむらは問う。
「グリーフシードに自己増殖のような力はない。間違いないかしら?」
「……?ないわ。そんなこと、私に聞かなくともキュゥべえに聞けばいいでしょう」
「いいえ。有り得ないわ」
切って捨てる言葉にさやかはむっとする。
しかし、マミは顔色一つ変えずに言葉を続けた。
「代わりにあなたの情報を貰えるかしら。キュゥべえを狙うなんて不可解なことをする魔法少女は、私の知る限りあなたが初めてよ」
ほむらは沈黙する。やがてぽつりと一言こぼした。
「巴マミ。……あなたは強い。でもそれは魔法少女としての力だけ。私から言えるのは、それだけ」
「…………心外ね。どうしてそんな風に思ったの?」
マミは少しだけ声を震わせながら言う。
しかしほむらは何も言わず、ただまた暗がりへと去って行った。
「くぅーっ!やっぱり感じ悪い奴!」
「仲良くできればいいのに……」
「お互いにそう思えれば、ね」
外に戻り、自死しようとしていた女性を起こす。
どうやら少しずつ意識がはっきりしてくると同時に、その顔は恐怖に染まった。
「ここは、あれ……?わたしは?」
「い、やだ、わたし、なんで、そんな……どうして、あんな、ことを……!?」
「大丈夫。もう大丈夫です、ちょっと……悪い夢を見てただけですよ」
「一件落着、って感じかな」
「……うん」
まどかはその眩しい光景を見つめた。
帰ってきて、日記を書きながら思う。
叶えたい願い事とか、わたしには難しすぎてすぐには決められません。死ぬかもしれなくても、命がけでも、って叶えたいことはまだわたしには見つけられません。
でも、人助けのために頑張るマミさんの姿はとても素敵で。
ほむらちゃんはマミさんを強いだけって言っていたけれど、わたしは違うと思います。魔法少女としてだけじゃなくて、マミさんはちゃんと、心も強いです。
こんな私でもあんな風に誰かの役に立てて、強い心を持てるなら……それはとっても嬉しいなって。思ってしまうのでした。